凝縮DNAの非線形力学応答と内部摩擦 村山能宏† (東大理), 和田浩史(ミュンヘン工科大) 佐野雅己(東大理) DNAは生体内で高度に折り畳まれており、必要に応じてときほぐされその情報が読み取られ る。遺伝子発現や複製時など構造変化をともなう反応では、DNAの荷電高分子鎖としての性質 が重要な意味を持つ。DNAは水溶液中で負に帯電しており、1価陽イオン存在下ではランダム コイル状態にあるが、多価陽イオン存在下で高度に凝縮することが知られている。DNA凝縮転 移は30年以上前から多くの実験的、理論的研究がなされてきたが、実験の多くは平衡状態にお ける多分子系での測定であり、一本の鎖のダイナミクスに関する知見は乏しい。我々は光ピンセッ トを用いて凝縮転移下における一分子DNAの力学応答を測定し、凝縮DNAが特異な非線形力 学応答を示すことを明らかにした [1]。 図 1 に異なる凝縮剤濃度 (spermidine3+ , SPD) における力学応答を示す。転移濃度以下ではD NAは wormlike 鎖の応答を示すが、転移濃度を超えた付近(0.5 mM SPD)で凝縮、非凝縮相の 共存を示すプラトー領域が現れる。さらに高い濃度(10 mM SPD)では力が周期的な増減を繰り 返す stick-release 応答が出現し、その周期は典型的な凝縮体(直径約 100 nm のトロイド構造)の 一巻分にほぼ一致する。さらに濃度を上げると(200 mM SPD)再び wormlike 鎖に戻ることか ら、一分子レベルでリエントラント転移が生じていることが分かる。 上述の結果は伸張(緩和)速度 v < 0.2 μm/sec の測定であるが、最近我々は凝縮DNAの伸 張–緩和サイクルで速度に依存した履歴が力学応答に現れることを見出した。凝縮剤濃度を固定し (0.4 mM SPD) v = 0.1∼2 μm/sec の範囲で測定した結果、以下の2つの要因から履歴が生じる という結論を得た: (1)緩和過程における凝縮の核生成、(2)伸張過程における速度に依存し た散逸。(2)について散逸 Wdiss が伸張速度に比例することから(図 2)、凝縮DNA伸張時に 実効的摩擦力 Δf (= f − feq ) = Γv が存在することが分かる(feq :プラトー領域における平衡状 態での力)。測定から得られた摩擦係数 Γ ≈ 10−7 kg/sec はDNA鎖が溶媒から受ける粘性抵抗よ り 10 倍以上大きいことから、散逸は凝縮相内部で生じていると考えられる。本講演では測定結果 を基に散逸が生じるメカニズムについて議論する。 図 1: DNAの力学応答 •: 0 mM SPD, : 0.5 mM SPD, : 10 mM SPD. 図 2: Wdiss の速度依存性 (Inset: 凝縮DN A伸張時の散逸 Wdiss ) [1] Y. Murayama, Y. Sakamaki, and M. Sano, Phys. Rev. Lett. 90, 018102 (2003). † [email protected] Copyright(c) 2006-2010 ソフトマター物理 All Rights Reserved
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