自己組織化マップによる多重解像度マップのクラスタ関係の解析 OrgImg

日本神経回路学会 2003 年 9 月
自己組織化マップによる多重解像度マップのクラスタ関係の解析
Analyzing of the cluster relation between the Multi-Resolution Maps
by using the Self-Organization Map
秋元 信二(PY)†,関根 優年‡
Shinji Akimoto (PY),Masatoshi Sekine
†東京農工大学大学院 工学研究科 電気電子工学専攻
‡東京農工大学 工学部 電気電子工学科
[email protected]
Abstract ― A face image is described by the
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多重解像度表現
multi-resolution of Wavelet Transform. The Self–
画像 Harr-Wavelet 変換は座標方向の輝度におけ
Organization-Maps of resolution and coefficient of
る二組の正規直交関数列によって変換される.一つ
Wavelet Transform constitute the Multi -Resolution-
は低周波成分を出す Scaling 関数ψ,もう一方は高
Maps. We report the cluster relation between each of
周波成分を出す Wavelet 関数φである.
the maps.
Keywords―Wavelet Transform, receptive field ,
Self-Organizing-Map, Multi-Resolution
一回の変換を行うと,横方向縦方向と二関数の組
み合わせで,計4枚の画像が出力される.つまり,
濃淡画像一枚(LL :横縦ψ)
,テクスチャ画像画像
3枚(HL:横φ,縦ψ,LH:横ψ,縦φ,HH:横縦
1
研究の概要
φ)に画像は分解される.
画像処理は膨大な情報操作を伴うが,効率的な処
一回の変換を圧縮レベル1とする.繰り返し濃淡
理をするために圧縮して並列に操作することが必要
画像に変換を行っていくことで,階層的な各解像度
である.
の分解画像の和として,原画像を表現できる(図 1)
.
これは,生物が行う情報処理でも同じことが言え
るはずである.実際に,視覚神経での単純細胞の受
また,分解画像から原画像を再構成することが可能
である.
容野がガボールフィルタの基底関数による分解を行
OrgImg
っていると考えられている.
圧縮したデータを用いて情報処理を行うには,圧
縮前と圧縮後での位相関係が保存されている必要が
ある.
LL1
HL1
LH1
HH1
LL2
HL2
LH2
HH2
LL3 ・
・
・
HL3
LH3
HH3
そこで本研究では,階層的な圧縮過程における基
底関数への分解表現が原信号のクラスタ分布をどの
図1:Wavelet 変換による多重解像度表現
ように圧縮クラスタへ写像するのか,自己組織化マ
ップ[1](以後 SOM)を用いて検証した.
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自己組織化マップによるクラスタ解析
自己組織化マップの学習機能を,入力データ分布
2
検証方法
に合わせて,各受容野の情報量を均一になるように
圧縮手法として Haar-Wavelet 変換による多重解
位相マップを学習すると考える.つまり,入力空間
像度表現を用いる.視覚刺激との平均相互情報量を
の情報密度の極大領域を,受容野素子の重みベクト
最大にするように応答する神経細胞の受容野形状が
ル Mij から判定することで,クラスタ中心を推定す
2次ガボールフィルタを形成することが示されてい
ることが可能である.極大領域は次式( 1)の密度
る[2]ことから,Wavelet 変換は生物の視覚系にも潜
マップ d(i,j)により求める.D(i,j)は一次近傍領域で
んでいる情報処理と考えることができる.
ある.
Wavelet 変換過程における,それぞれの解像度と
係数画像ごとに SOM を生成し,それを多重解像度
マップとして各層のクラスタ解析[3]を行う.
d (i , j ) =
1
∑|| M i, j − M i−µ , j−υ || (1)
| D(i, j ) | (µ ,υ )∈D(i, j)
5
計算機実験
部分特徴マップを提供すると考えられる.
5 . 1 実験設定
生物の高度な情報処理を解明するには,このよう
老若男女 300 人の顔画像(256×256 ピクセル)
な部分と全体を含む多重分散表現によるパターン化,
を入力データ群として,Wavelet 変換を用いて解像
さらにはパターンからシンボル化する研究が必要と
度レベル 1 から 6 までの濃淡とテクスチャ画像につ
思われる.
いて SOM 解析を行った.全て SOM の受容野素子
数は 7×7 個とし,25000 回の学習を行った.
7
濃淡画像はそのまま画像次元ベクトルとして入力
する.テクスチャ画像は,テクスチャ特徴を比較す
るために,以下の方法でベクトル化を行う.HL 画
像の横方向に絶対値平均をとり,横テクスチャベク
トル Tw を作る(2)
.また,LH 画像の縦方向に絶
対値平均をとり,縦テクスチャベクトル Th をつく
る(3)
.この二つのベクトルの組を入力とした.
Width
∑ | HLij |
Tw j =
(Tw ∈ R Height ) ( 2)
参考文献
[1]T.Kohonen 著
徳高ら訳
“自己組織化マップ”
シュプリンガー・フェアラーク東京
1997
[2]田中 雅博,古河 靖之, 谷野 哲三, “自己組織化マ
ップを用いたクラスタリング”信学論
Vol.J79-D-Ⅱ
D -Ⅱ
No.2 pp.301−304,1996 年
[3]前川 聡,喜多 一,西川 ? ,澤井 秀文,“受容野の自
己組織的形成”信学論D-Ⅱ
Vol.J81-D-Ⅱ
No.9
pp.2181−2190,1998 年
i
Thi =
Height
∑ | LHij |
(Th ∈ R Width )
(3)
j
5 . 2 実験結果
用紙の関係上,濃淡画像のレベル4,6とテクス
チャ画像のレベル4について* 記載する(図 2 と図 4
は原画像,図 3 は入力画像で表示した)
.これらの
図は、一つの受容野に配置された入力画像を横方向
に並べてある.解析によりクラスタの中心となった
受容野について表示した.つまり,濃淡画像空間は
7 つ,テクスチャ画像空間は 8 つのクラスタに分類
図 2 濃淡画像
レベル 4 クラスタ結果
図 3 濃淡画像
レベル 6 クラスタ結果
されたことを示している.
濃淡画像は,レベル 4(図 2)とレベル 6(図 3)
の異層間で,一対一で対応する同一の集合を形成し
た.テクスチャ画像は解像度の異層間で相関のない
クラスタが形成された.実験結果のうち,特徴的な
受容野がレベル4の SOM の中に生成されたので示
す(図 4)
.3段目の受容野内の画像は全てメガネを
かけている.
濃淡画像について,各解像度のマップはクラスタ
構造に類似性があり,位相情報が保存された.対し
てテクスチャ画像については,位相情報は保存され
なかったが,それぞれのマップでは画像の部分的な
差異を捉える位相マップが形成された.
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まとめ
今回の多重解像度マップは,正規直交関数列によ
る多重に分散表現することで,直交する成分を生成
する.その成分は,全体的特徴のクラスタマップと
*
本論文に使用した顔画像データは,財団法人ソフ
トピアジャパン研究開発部地域結集型共同研究推進
室から使用承諾を受けたものです.
図 4 テクスチャ画像
レベル 4 クラスタ結果