ゲーミフィケーションによる自律分散型スマートグリッドの普及支援

ゲーミフィケーションによる自律分散型スマートグリッドの普及支援
-ゲーミフィケーションに基づく電力融通ソーシャルゲームの開発-
○熊谷歩, 中村仁美, 矢野史朗, 谷口忠大 (立命館大学)
1
はじめに
1)
Vytelingum ら は,変動価格制の電力市場内にい
る需要家が蓄電池を持つことにより,需要家の支出削
減と市場価格の安定が達成されることを示した.しか
し,谷ら 2) は,この研究における蓄電池のコストが現
実的には非常に厳しい条件設定であることを指摘して
いる.これをより安価にするには,世帯相互の電力融
通が有効であると考えられる.高倉ら 3) により提案さ
れている自律分散型直流スマートグリッド構想 i-Rene
では,太陽光発電を利用して系内の電力需要を賄い,且
つ余剰電力を相互融通する.基本的な電力需要は機械
学習により自動で行われ,ユーザの追加的消費行動に
ついては追加の電力購入で賄う.この際,この行動を
行う時間帯の選択に十分な自由度がある場合,電力消
費のピーク時間を避けることで効率的でより適切な電
力融通が可能となる.よって,電力融通を適切に行わ
せるためには,ユーザの行動変更に伴うコストをなる
べく低くする必要がある.
ユーザにピークシフトをさせる手段として様々な提
案がされている.Gnauk ら 4) の提案では,ユーザから
電力利用計画を収集し,それを基に系内の需要を計算
する.この計算を基に,ユーザが提出した利用計画に立
直しの要求をしたり,電力の消費行動に対するフィー
ドバックを与えることで,系内のピークシフトを行う
システムを提案した.しかし,このシステムは実用性
に関しては高い評価を得ることができたものの,楽し
さや刺激的かという指標において,低い評価となった.
持続的な効果については触れられていないが,楽しさ
や刺激の要素はユーザの内発的動機を生み出すために
大きく関係するため,持続性にも問題があると考えら
れる.そこで長期間に渡り日常的に作業を行わせるた
めに,より一層システム内に楽しさや刺激を取り入れ
る必要がある.
以上より本研究では,ゲーミフィケーションを利用
して,ユーザの内発的動機を高め,ユーザがゲーム内
で積極的に電力融通を行うように改善する.また,本
研究が Gnauk らのシステムと比較し,ユーザに対しど
のような影響を与えるのか検証する.
2
ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーションとは,ゲームが持つプレイヤ
を活性化させるためのノウハウを,ゲーム以外の領域
に使うことである 5) .ゲーミフィケーションには,
(1)
しつこいまでの楽観性,
(2) ソーシャルな構造,
(3)
至福の生産性,
(4)叙事詩的な意味づけ,の4つの要
素が存在する.システムやサービスを築く際にこの要
素を取り入れることによって,ユーザの内発的動機を
高め,長期間作業に没頭する事が可能である.ゲーミ
フィケーションはゲームの構造や特性に内在する非遊
戯領域への応用可能性が提起されている.ゲーミフィ
ケーションを用いてユーザの消費行動を変化させる研
究は,上述した Gnauk らの他に, 以下の様な研究が存
在する.
Liu ら 6) は, 家庭内の消費電力によってユーザ自身が
設定した目標値との差異を可視化し,これを近隣住民
と共有することによってユーザの行動を省電力行動へ
と変化させた.また,Foster ら 7) は,ソーシャルな構
造をシステムに取り入れることによって,ユーザに競
争を促し,省電力行動を実現した.これらの研究では,
電力融通については考慮されておらず,我々の考える
系とは異なるが,ゲーム性に関しては Gnauk らよりも
秀でており,本研究で参考とする.
3
電力融通ソーシャルゲーム
本研究では,先述した i-Rene 普及支援の取り組みと
して,ゲーミフィケーションに基づく電力融通ソーシャ
ルゲームを facebook アプリケーション上で開発する.
電力融通ソーシャルゲームは,先述した Gnauk らの
研究を基に実装を行う.Gnauk らの研究では,ユーザ
に電力の消費計画を事前に提出させ,地区の電力消費
ピーク予想時間帯を算出している.この算出結果を基
に,ユーザ間で監視や抑圧をさせることで行動をシフ
トさせている.これに対し,本研究では,ピーク時の行
動をシフトする誘因を形成するために,幾つかのゲー
ミフィケーションの要素を用いる.Gnauk らの手法に
比べ,本手法では電力の利用計画提出や行動調整のコ
ストが低くなり,その継続性を高められると期待出来
る.本発表では以上のシステムを実装し,報告とデモ
ンストレーションを行う.
参考文献
1) P. Vytelingum, et al.: ”Agent-Based Homeostatic
Control for Green Energy in the Smart Grid”, 9th
InternationalJoint Conference on AAMA (2010)
2) 谷衛, et al.: ”分散型スマートグリッドにおける需
要家参入の損益分岐点分析”,ess18th(2012)
3) i-Rene: http://www.i-rene.org/
4) Benjamin Gnauk, et al.: ”Leveraging Gamification in Demand Dispatch Systems”,
EDBT/ICDT Workshops, 103/110 (2011)
5) Jane McGonigal: ”Reality is Broken -WhyGames
Make Us Better and how They can Change the
World”,Penguin Group (2011)
6) Yefeng Liu, et al.: ”Gamifying Intelligent Environments”, Ubi-MUI, 7/12 (2011)
7) D. Foster, et al: ”Wattsup?:motivating reductions in domestic energy consumption using social
networks.” the 6th NordiCHI, 178/187 (2010)