熱圏大気密度の全球分布 ~CHAMP 衛星 による推測~ 北海道大学 理学部 地球科学科 惑星物理学研究室 B4 近藤 奨 はじめに 中性大気とプラズマは互いに影響を与えあっている. これは 熱圏-電離圏結合とよばれている. 電子密度の分布はよく知られているが, その影響を受け ているであろう中性大気の密度分布は, 詳しい観測はさ れてないため, よくわかっていない. CHAMP 衛星に搭載された加速度計によって中性大気 の密度を推定できるようになった. 中性大気の密度分布, また, 電子密度分布との関係性を調 べるために, H.Liu の論文, Global distribution of the thermospheric total mass density derived from CHAMP を, レビューとして紹介する. 熱圏電離圏領域 km 高度約80km から上部の領域を表す. 今回は高度 400km 付近について取り上げる. 中性大気とプラズマが両方存在している. 中性大気の密度とプラズマの密度を比べると圧倒的に中性 大気のほうが大きい. 図は中性大気と, イオン・電 子の密度の鉛直密度構造で ある. [C.Y.Johnson (1969)] 102 10 3 104 10 5 10 6 107 Number 108 10 9 cm 3 1010 1011 1012 CHAMP 衛星 2000年 7 月15日に打ち上げられた,重力場の測定や大気 研究を主な目的とした衛星. 平均高度400kmで,ほぼ円形の極軌道を周回. 加速度計,磁力計,ラングミュアプローブ などの観測機器を搭載. 加速度計のデータから,熱圏大 気密度を推定する http://op.gfz-potsdam.de/champ/main_CHAMP.html 質量密度の推定方法 密度を求める式: am 2 Cd Aeff V ρ: 局所的熱圏大気質量密度 Cd: 抵抗係数 m: CHAMP 衛星の質量 Aeff: CHAMP 衛星の有効断面積 V : 衛星と大気の相対速度 a: 大気の抵抗による加速度 拡散平衡状態を仮定した高度400km での密度の式 400km he h 400 H h : 軌道の高さにおける密度 H: MSIS90 モデルから計算されたスケールハイト 14 3 1 10 kgm 得られた密度は 以上の精度を与える 中低緯度の熱圏大気密度分布 観測では 14MLT 付近で 極大をとり, 04MLT 付近 で極小になる. 10~20MLT 間で磁気緯 度25N と20S付近で密度 が極大になり,磁気赤道 付近で極小となる. 磁場の分布とは無関係な 大気が,磁場の影響を受 けたかのような密度分布 をしている!! Mass Density from CHAMP (kp=3..4) Geom. latitude Geom. latitude Mass Density from CHAMP (kp=0..2) 図は, CHAMP 衛星の 異なる磁気活動 度(kp=0..2 , kp=3..4)における熱圏大 気密度分布である.[Liu et al (2005)] 中低緯度の電子密度分布 磁気緯度 15N と 15S 周辺 で極大となり,赤道付近で 極小となる. 赤道では,04MLT と20ML T において極小となる. 分布の異常は,10MLTから 01MLTまで広がっている. Geom. latitude ElectronDensity from CHAMP (kp=0..2) 図は, kp=0..2 での CHAMP 衛星より 得られた電子密度分布である. [Liu et al (2005)] 中低緯度の熱圏大気密度,電子密度 の緯度分布 熱圏大気密度と電子 密度は似た構造をし ている. 電子密度の2 つの極 大は,熱圏大気密度 の2 つの極大よりも, 低緯度側にある. 熱圏大気密度は電子 密度と同じく磁気赤道 付近で極小を取る ElectronDensity from CHAMP (kp=0..2) Log Electron density Mass Density Mass Density from CHAMP (kp=0..2) 図は,14MLT, 15MLT における, kp=0..2 での熱圏 大気密度(CHAMP, MSIS モデル)と電子密度の緯 度分布である. [Liu et al (2005)] 極域における熱圏大気密度分布 カスプ領域で特に密度 が上昇している. ( カスプ領域:夜側の尾部に向か う開いた磁力線領域と昼間側に 向かう閉じた磁力線の境界領域) 磁場の分布と大気密度分布 は関係ないはずだが, 関係 あるかのような分布をしてい る!! 図は, CHAMP 衛星の, kp=0..2 における熱 圏大気密度分布である.左の図が北半球, 右 の図が南半球を表す. [Liu et al (2005)] 中低緯度の熱圏大気密度 分布異常のメカニズム 磁気赤道でプラズマが上昇した後,電子が磁力線に沿って移 動し沈降する.磁気緯度 20N,20S 付近の下部熱圏で電荷 交換により化学的加熱が発生し,熱圏大気温度が上昇, 熱圏大気密度が増加する. O N 2 N NO 1.12eV O O2 O O2 1.54eV このメカニズムでは, 電子密度分布が2つの極大を持つ 01MLTまで大気密度も似たような分布を持つことが期待 される. しかし今回得られた大気密度分布ではそのような 分布はしていない. 極域の熱圏大気質量密度 分布異常のメカニズム カスプ領域では沿磁力線電流によ り下部熱圏で大きなジュール加熱 が発生する. 大気の加熱により上昇 流が起こり,熱圏大気密度が上昇す る j E || E|| p ( E E ) 2 2 j: 電流密度 p : ペダーセン伝導度 || :平行伝導度 Average FAC Air density 25 Sep. 2000 : 小さいスケールでの沿磁力線電流が作る電場 図は北極付近での大気密度と沿磁力線電流の 緯度分布である.[Luhr et al (2004)] fine scale FAC E||: 磁力線に平行な電場 E : 磁力線に垂直な電場 UT MLAT MLT 06:22 06:24 06:26 06:28 06:30 06:32 06:34 06:36 58.82 66.56 73.68 79.15 79.83 74.93 67.85 60.16 08:55 09:22 10:12 12:00 15:07 17:16 18:15 18:45 06:38 52.37 19:03 まとめ CHAMP 衛星により,熱圏大気密度は熱圏-電離圏領域にお いて,電子密度と似たような,異常な分布をとることが発見さ れた. 大気密度は全球において, 磁場の影響を受けたかのような 分布をとる. 大気密度の分布異常のメカニズムは解明されてはいないが, 熱圏-電離圏結合が関わっている可能性がある. 参考文献 H.Liu et al, 2005, Global distribution of the thermospheric total mass density derived from CHAMP, J. Geophys. Res.,110, A04301, doi:10.1029/2004JA010741. H.Luhr et al, 2004, Thermospheric up-welling in the cusp region:Evidence from CHAMP observation, Geophys. Res. Lett., 31, L06805, doi:10.1029/2003GL019314 Neubett, T., and F. Christiansen, 2003, Small-scale, field-aligened currents at top-side ionosphere, Geophys. Res. Lett., 30(19), 2010, doi:10.1029/2003GL017808. Fuller-Rowell et al, 1997, Dynamics of the low-latitude thermosphere : Quiet and disturbed condition, J. Atmos. Sol. Terr. Phys., 59, 1533-1540 丸山隆, 2006, 電離圏プラズマ, プラズマ核融合学会誌, Vol82.No11(2006).762-766 CHAMP HomePage http://op.gfz-potsdam.de/champ/main_CHAMP.html Asgeir Brekke, 1996, PHYSICS OF THE UPPER POLAR ATMOSPHERE , John Wiley & Sons Inc 堀内剛二, 1972, 超高層物理, 共立出版
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