富士山科学講座’15 を開催しました。 今年の 6 月で富士山は「世界文化遺産」登録から丸 2 年を迎える。登山者数は年間 30 万人前後にまで増加し た。昨年こそ、天候不順による登山ルートの開通遅延や、 環境保全を鑑みた富士スバルラインのマイカー規制期 間延長などの影響もあり 2 割程度減少したものの、富士 山の人気は健在である。観光業隆盛の裏に根深く横たわ る環境問題は今なお大きな課題となっている。ゴミの不 法投棄、登山者急増に伴う宿泊施設やトイレ数の不足に よるオーバーユース、富士五湖周辺の煩雑な景観などの 改善についての、ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会 (開会の挨拶をする藤井所長) 議)からの「保全状況報告書」提出期限は来年 2 月 1 日に迫っている。 平成 27 年 5 月 23 日(土)に開催された今回の講座では、世界文化遺産の富士山の価値や保全して いく重要性などについて、『世界遺産としての富士山の保全を考える』と題して、筑波大学大学院 吉田正人教授と岩手大学山本清龍准教授、富士山科学研究所小石川浩主幹が講演した。 吉田正人教授は、『世界遺産としての富士山の自然的 価値と文化的価値』をテーマに講演を行った。「富士山は、 世界文化遺産に登録されたことで、信仰の山・芸術の源泉 という文化的価値が強調されることは仕方がないが、そ れはかつて噴火を繰り返し、人々に畏怖を感じさせる火 山であったからこそであること。すなわち、自然的価値 の上に文化的価値が成立したことを忘れてはならない。」 と述べ、富士山の自然を背景に信仰などの文化的価値が 生まれたと説明された。また、「富士山が、世界遺産とし て評価されたのは文化遺産の登録基準であっても、本来 (講演する吉田教授) 持っていた価値には、自然的価値と文化的価値の両方が あり、それらは影響し合っているものである。だから、世界遺産としての管理も、文化的価値のみ に偏らず、自然的価値をいかに守るかが重要である。」と述べられ、今後の世界遺産管理についての 視点を示された。 山本清龍准教授は『富士山の適正利用に向けて』をテ ーマに講演を行った。富士山で生じている課題について、 登山者数の増加によるゴミやし尿、生態系破壊や、混雑、 マナーの低下といった利用体験への影響について述べ られた。これらについて、富士登山者への調査結果を基 にエコツーリズムの普及や富士山保全協力金による価 値の保全、世界遺産登録後の山梨、静岡両県が登山者管 理戦略を策定していく取組など、富士山の適正利用が進 む現状を解説された。 (講演する山本准教授) 小石川浩主幹は『学校教育との連携~次世代への継承を目指して~』をテーマに講演を行った。 地元小中学校を対象としたアンケート結果から、富士山の自然や文化に対する学習意欲が高い反面、 環境配慮行動については意識が弱いことを示した。このことから、これからの富士山の環境保全に 向けて、学校教育をとおして富士山の自然や文化に対して触れたり学んだりすることが、地域を愛 する心の育成につながり、また、継続的、段階的な学習を行うことで保全に対する意識が高まる、 と述べた。また、富士山科学研究所で行っている環境教育プログラム策定の指針について説明し、 さまざまな気づきをきっかけに知識理解を深め、環境に対する評価を行い、環境保全に対しての行 動化につながる環境教育プログラムを提供することの重要性について発表した。 富士山の環境保全活動に関わる多くの方々の参加を得、 長時間にわたる講演だったが、講演後の質疑の場におい ても活発な討論が行われた。「世界遺産の保全について 外国ではどのような取組がなされているのか」 「富士登山 鉄道の話が出ているが、保全にどう影響するのか」「富士 山と似たような世界遺産は外国にはあるのか」など、身 近な問題として多くの参加者が問題意識を共有できた講 座だった。世界文化遺産「富士山」の環境保全に向けて、 本公開講座の話題が少しでも活かされれば幸いである。 (フロアーからの質問に答える藤井所長)
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