炭酸カルシウム析出と地盤不飽和化の複合地盤改良技術の提案

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №309
炭酸カルシウム析出と地盤不飽和化の複合地盤改良技術の提案
和歌山工業高等専門学校 上舍
和寛
1.はじめに
炭酸カルシウムは,地盤の透水性,静的および動的力学特
従来の方法
(飽和状態析出による分布)
新しい方法
(不飽和状態析出による分布)
炭酸カルシウムが砂表面全体に析出
炭酸カルシウムが土粒子接点に集中.
土粒子の固結に対し,炭酸カルシウ
ムが無駄なく使われる.
性を効果的に改善できる物質であることが分かっている例えば
1), 2)
.さらに,炭酸カルシウムは自然界に多く見られる毒性が
極めて小さい物質であることから,固化後の環境負荷が小さ
い地盤改良工法として着目され,研究が進められている.
一方,地盤中での炭酸カルシウム析出に要する注入薬液の
成分は,現状で極めて高価であること,および注入薬液がア
ルカリ性であることより現地盤の pH は変化し,さらに反応
副産物としてアンモニウムイオンが生じるため,薬液注入時
図 1 養生中の土粒子の様子
に地盤の化学的,生物学的環境を変化させる可能性を有して
いるという問題点を有している.そのため,極力少量の薬液
表1
注入で従来の研究と同程度以上の強度改良を実現できる技
術の開発が本工法の現場適用には不可欠である.
従来の方法では,土粒子表面全体に炭酸カルシウムが析出
し (図 1 左),地盤の強度発現に利用されない土粒子接点以外
の無駄な析出があった.それらを土粒子接点に集中させるこ
とができれば(図 1 右),同じ析出量でもより高い改良効果,
実験ケース
ケース
養生時の
飽和度
(%)
析出率
(%)
溶液量
(ml)
尿素・塩カル
溶液濃度
(ml/L)
ウレアーゼ
溶液濃度
(g/L)
Case1
20
0
17.31
0.00
0.00
Case2
20
0.3
17.31
0.50
2.00
Case3
20
0.6
17.31
1.00
20.00
Case4
100
0.6
86.54
0.20
2.00
あるいは少ない析出量でも同等の改良効果が得られると考
えられる.Liang ら 3)は,薬液注入後に不飽和状態を地盤中に
与え,薬液を土粒子接点に集中させた状態で炭酸カルシウム
応力比
0.22,0.18
0.17,0.16
0.21,0.2
0.18,0.16
0.48,0.47
0.26,0.24
0.23
0.27,0.24
0.21,0.18
0.17
を析出させ改良した砂供試体に対し一軸圧縮試験を実施し,
炭酸カルシウム析出時の飽和度が低いほど,改良強度が高ま
対密度 Dr=50%)に対し非排水繰返し試験を行い,飽和度によ
ることを示した.このことは,同様な方法で炭酸カルシウム
る液状化抵抗特性の違いを調べる.試験条件をまとめて表 1
を析出させた砂の液状化強度も改善されることを示唆して
に示す.養生時の飽和度は 20%と 100%,析出率すなわち乾
いる.しかし,これについてはこれまで明らかにされていな
燥砂質量に対する炭酸カルシウム析出質量の比率は 0,0.3%
い.そこで本研究では,薬液を注入し炭酸カルシウムを析出
および 0.6%の 3 種類とし,各ケースにおいて必要な炭酸カル
させる養生時における供試体内部の飽和度の違いが改良供
シウム析出が実現可能となる溶液濃度を間隙体積と飽和度
試体の液状化強度に及ぼす影響を調べた.
から求めた.
以下に不飽和状態で養生を行う供試体作成手順を示す.あ
2.研究の方法
らかじめ所定濃度に配合しておいた必要量の薬液と供試体 1
本研究では,尿素,塩化カルシウムおよびウレアーゼを利
本分の乾燥砂をポリエチレン袋内で均質に混合し,その混合
用し炭酸カルシウムを析出させる.式(1)~(4)にその化学反応
試料を内径 φ50mm×高さ h100mm のモールドに相対密度
式を示す.尿素の加水分解反応で生じた二酸化炭素(式(1))の
Dr=50%となるように 5 層に分けウェットタンピング法で詰
一部は水溶液中で炭酸イオンに変化する(式(2)).また,同じ
め,48 時間養生する.養生中は,モールド開端面(上面)から
水溶液中に含まれる塩化カルシウムはカルシウムイオンと
σv’=50kPa で K0 状態で圧密する.Sr=100%で養生する供試体
塩化物イオンに分解される(式(3)).これらの反応で生じたカ
は薬液と乾燥豊浦砂を同様のモールドに水中落下法にて相
ルシウムイオンと炭酸イオンが結合してできた炭酸カルシ
対密度 Dr=50%となるように 3 層に分けて詰め,以降は不飽
ウム結晶が土粒子表面に沈殿し,これが土粒子の固結物質と
和供試体と同様に養生した.養生を終え脱型した供試体を三
なる.
軸試験機に設置し,二重負圧法で飽和した後 300kPa の背圧
2NH4++2OH-+CO2
(1)
を与え,B 値が 0.95 以上であることを確認後,初期有効拘束
CO2+H2O ⇆ 2H++CO32-
(2)
圧σ0’=50kPa で非排水繰返し三軸試験を行う.載荷は応力制
CaCl2 →Ca2++2Cl-
(3)
御方式とし 0.1Hz で一定振幅の正弦波を与える.
2+
(4)
NH2CONH2+3H2O →
Ca
+CO32-→CaCO3↓
本研究では、砂試料として豊浦砂(Gs=2.640g/cm3,ρdmax=1.645
3.試験結果
g/cm3,ρdmax=1.335 g/cm3,D50=0.170mm)を利用し,炭酸カル
図 2 に Case1 と Case2 で行った試験のうち,概ね 20 回の繰
シウム析出率と養生時の飽和度が異なる 4 種類の砂試料(相
返し載荷で液状化(軸ひずみ両振幅が DA=5%に達する)する
- 257 -
(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №309
0.5
繰返し応力比 σd/2σ0'
0
-0.5
5
0.0
-5.0
-10.0
1.0
過剰間隙水圧比 Δu/σ0'
0
軸ひずみ εa (%)
軸ひずみ εa (%)
-0.5
5.0
0
-5
-10
1
0.5
過剰間隙水圧比 Δu/σ0'
繰返し応力比 σd/2 σ0'
0.5
0.5
0.0
-0.5
0
100
時間 (sec)
200 0
100
時間 (sec)
Case1
200
0
-0.5
0
100
Case2
図 2 時刻歴波形(Case1, Case2)
析出率0.6%(Sr20%)
析出率0%(Sr20%)
析出率0.3%(Sr20%)
析出率1%(Sr100%)
析出率0%(Sr100%)
析出率0.6%(Sr100%)
0.4
0.3
100
200
時間 (sec)
Case3
Case4
0.5
0.2
0.1
0
1
300 0
300
図 3 時刻歴波形(Case3, Case4)
液状化強度RL20
せん断応力比 σd/2σ0'
0.5
200
時間 (sec)
0.6%析出
1%析出
0.4
0.3
0.2
0.1
5
10
50
0
0
100
20
繰返し回数 N(回)
図 4 繰返し載荷回数とせん断応力比の関係
40
60
飽和度Sr (%)
80
100
図 5 養生時の飽和度と液状化強度の関係
ケースの時刻歴波形を示す.炭酸カルシウム無析出の Case1
スの方が液状化強度は高いことより,養生時の飽和度が低い
において,繰り返し載荷に伴う軸ひずみの成長は Case2 と比
ほど液状化強度が高くなると言える.
べ著しいことから,液状化後の軸ひずみの成長に対し炭酸カ
図 5 に,養生時の飽和度と液状化強度の関係を示す.図よ
ルシウムがそれを抑制していると言える.しかし,DA=5%ま
り,析出量が同一であるなら飽和度が低いほど液状化強度は
での繰返し回数は両ケースでほぼ等しく,0.3%程度の低い析
高いことが分かる.また,析出率 0.6%,飽和度 20%のケース
出率では液状化抵抗特の改善はあまり見込めないと言える.
の方が,それより析出率が高い 1%のケースと比べ液状化強
図 3 に Case1 と Case2 で行った試験のうち,同様に概ね 20
度が高いことより,たとえ析出率が低くても養生時の飽和度
回の繰返し載荷で液状化するケースの時刻歴波形を示す.図
を下げることで,高い析出率を有する供試体と同等以上の改
より,養生時の飽和度が低い Case3 に与えた繰り返し応力比
良効果が得られると言える.
は,飽和度 100%で養生した Case4 より大きいにも拘らず,
両者でほぼ等しい繰り返し回数で液状化していることが分
参考文献
かる.また, DA=10%に到達するまでの軸ひずみの増加は
1)
林ら:炭酸カルシウム結晶析出による砂の液状化強度特
Case3 の方が緩やかであることより,大ひずみ領域において
性の改善効果,地盤工学ジャーナル,Vol.5,No.2,
炭酸カルシウムがその成長を抑制していると言える.
pp.391-400,2010.
図 4 に DA=5%となる時の繰返し回数とせん断応力比の関
2) 川崎ら:微生物の代謝活動により固化する新しいグラウ
係を示す.図より,養生中の飽和度によらず炭酸カルシウム
トに関する基礎的研究,応用地質,第 47 巻,第 1 号,
析出が 0%であれば液状化強度にほぼ相違がないことが分か
pp.2-12,2006.
る.また,析出 0.3%の供試体の液状化強度は,析出 0%のそ
3)
Liang et. al. :Cementation of sand soil by microbially induced
れらと比べ大きいもののその差はわずかである.また,析出
calcite precipitation at various degrees of saturation, Can.
率が 0.6%のケースでは,養生時の飽和度が 20%および 100%
Geotech. J. No.50, pp.81-90, 2013.
のいずれも液状化強度は増加しているが,飽和度 20%のケー
- 258 -