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マイクログリッドにおける電力貯蔵装置の運用制御
電気電子情報工学専攻
まつばら まさよし
(修士課程)
松原 正芳
105102-8
電力機器工学研究
指導教員
渋谷 義一
utility grid
1.はじめに
近年,電力の自由化により電力会社以外でも電気事業
を行うことが可能となり,様々な企業がこれに取り組ん
でいる。また,環境保護の観点から地球温暖化の原因と
control center
gas-turbine
なる CO2や NOX などの削減が求められており,京都議
定書においても各国の削減目標が決定された。その対策
として,日本では自然エネルギーや廃棄物などを利用し
た電源の普及目標が掲げられている。しかし,これらの
load
battery units
wind generators
図1
本稿で想定するマイクログリッド
導入目標は電力会社の設備投資のみで達成できるもの
ではなく,需要地側にも多く導入されなければならない。
自然エネルギーを用いた電源は当然出力 が天候に左右
3.検討
され不安定であり,その発電状況により商用系統に多大
な負担をかけることが予想され,これらを需要地側に普
<3.1> 蓄電池導入形態に関する比較検討
及するためにはその変動を吸収する出力制御可能な設
蓄電池の導入形態に関して,ガスタービンと同様に連
系線潮流フィードバックにより出力を決定する場合
備と組み合わせる必要がある。その組み合わせ形態の一
つとしてマイクログリッド(Micro Grid)がある。マイ
(case2),風力発電機と並列に接続して風力出力変動を
クログリッドは複数の分散型電源を組み合わせて構築
吸収した場合(case3),フィルタリングを行い,潮流の
周波数成分によりガスタービン,蓄電池の出力分担を行
された小規模電力系統であり,その発電電力を用いて契
約している需要家や事業に電力供給を行うシステムで
う場合(case4)の 3 パターンを想定し,蓄電池非導入
ある。その実用試験例としては,愛知万博で行われた新
の場合(case1)も含め比較評価を行う。検討負荷とし
ては,最大負荷が 4000 秒間持続した場合を想定する。
エネルギー等地域集中実証研究,八戸市「水の流れを電
気で返すプロジェクト」,京都エコエネルギープロジェ
検討時間が1時間程度の比較的短い時間であるため,評
クト(KEEP)などがある。マイクログリッドには他の
価指標として標準偏差,4000 秒間での蓄電池の積算容
量最大値を計算して用いる。ここで求める蓄電池容量は
系統との連系時に影響を及ぼさないネットワークの構
築が求められる。また,単独運転の達成も目標として掲
初期充電量からの充放電量最大変動値である。
げられており,中国ウイグル自治区において離島等を想
<3.2> 一般日負荷曲線を用いた 1 日間での運用評価
商用系統と連系したマイクログリッドでは発電量が
定した自律制御の研究も行われている。
本稿では,マイクログリッド簡易モデルを行列計算ツ
超過した場合に商用系統へ流れる逆潮流が発生するこ
ール MATLAB/Simulink を用いて構築し,3 パターン
とがある。これを軽減するため,蓄電池が導入されるこ
とが多いが,現段階で蓄電池は高価なものであるため,
の蓄電池導入形態を提案し,マイクログリッドにおける
運用改善効果について比較検討を行う。
導入容量が制限される。そこで,マイクログリッドに蓄
2.検討モデル[1]
なければならない。本検討では,<3.1>で示したそれ
図 1 が本稿で想定するマイクログリッドの概念図で
ある。分散型電源としてガスタービン,風力発電機を用
い契約負荷に対して電力供給を行い,さらなる需給安定
化を図るために蓄電池を導入するものを想定している。
マイクログリッド内負荷の最大値を 100kW,ガスター
ビンの定格出力を 100kW としている。また,商用系統
電池を導入する場合には,逆潮流を抑制し,かつ導入容
量もできるだけ抑えられるように 制御形態等を選定し
ぞれの運用形態に関して 1 日間での運用を想定し,それ
ぞれにおいて適切運用状態において,比較評価を行う。
評価指標として 30 分間毎平均値の最大値,蓄電池の必
要容量計算して用いる。ここで,この場合の蓄電池容量
も<3.1>と同様に求められる。
との連系点において連系線潮流を測定し,その値により
4.検討結果
ガスタービン,蓄電池への出力指令値を決定している。
コントロールセンターでの潮流計測から指令までにか
<4.1> 蓄電池導入形態に関する比較検討
かる時間は 4 秒間としている。
図 2 は風力増加に伴う潮流変化,図 3 は風力増加に伴
う蓄電池の容量変化である。蓄電池を導入した場合,い
電力が小さくなるため,case2 より case4 の方が安定度
は低くなっているが,ガスタービンの出力が平滑化され
るため,ガスタービンへの負担が小さくなる。また,
case4 では高周波成分が非常に小さく,容量も小さくな
power flow [kW]
ずれの case においても改善効果があることがわかる。
フィルタリングによりガスタービン,蓄電池の分担発電
るため,さらなる改善効果を得るために充放電に出力補
正をかけることができる。
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
case1
case2
case3
case4
0
10
20
30
WG capacity [kW]
case3 では風力出力変動を蓄電池で大部分を吸収して
いるため,潮流が風力導入量に関わらず抑えられている
が,他の case に比べ容量が大きくなっている。
図 4 は風力増加に伴う逆潮流最大値の変化,図 5 は風
力増加に伴う蓄電池の必要容量変化である。いずれの
case においても,風力増加に伴い逆潮流は減少している。
これは風況により風力出力が基準出力より大きく減少
する場合が多く,大容量化により出力減少量も大きくな
BT capacity [kWh]
<4.2> 一般日負荷曲線を用いた 1 日間での運用評価
図2
り,結果的に逆潮流が打ち消されるためである。case2
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
0
10
20
30
WG capacity [kW]
図3
い方がいいため,case3 の方が有効であると考えられる。
図 6 は,フィルタリング時の逆潮流を 3kW,2.8kW,
2.5kWに抑制するように出力補正をかけたときに 必要
reverse power flow
[kW]
小さいが,風力導入量が 10kW以上で逆潮流は 3%以内
荷効率特性を考慮すると,風力導入量はあまり大きくな
case1
際自然エネルギーを導入したマイクログリッド 運用で
は出力補正は制御プログラムや潮流予測 を用いて決定
2
てほしいと思う。
参考文献
[1] 進士誉夫,関根剛史,秋澤淳,柏木孝夫,藤田吾郎,
松原正芳,
「分散型電源によるマイクログリッド内の
電力変動抑制に関する考察」,電気学会論文誌電力・
エネルギー部門誌,vol.126,No.1,pp.14-20 (2006)
10
15
20
WG capacity [kW]
25
逆潮流抑制効果比較
case2
case3
0
5
図5
10
15
20
WG capacity [kW]
25
蓄電池必要容量比較
40
BT capacity [kWh]
究活動においてより実用化レベル に向けた研究を行っ
5
30
25
20
15
10
5
0
果より需給安定化,蓄電池容量低減に関してよい結果が
望めると思われる。
ル構築が可能となったが,実用レベルに向けた検討には
制御プログラム,事故時解析など課題が多い。今後の研
case3
2.5
図4
する場合も多く,最適制御を行うことにより,本稿の結
本研究により,簡易モデルを用いて評価を行えるモデ
case2
3
0
BT capacity [kWh]
回は蓄電池への出力補正は一定値を入力しているが,実
蓄電池容量比較
3.5
容量は case3 とほぼ同等量であることがわかる。
本稿では,蓄電池導入形態を提案し,マイクログリッ
ドにおける運用改善効果について比較検討を行った。今
40
4
な蓄電池容量である。風力導入量 10kW 時で比べると,
逆潮流の許容範囲 3%以内に抑えるために必要な蓄電池
5.まとめ
潮流変化比較
case2
case3
case4
が一番安定しているが,蓄電池容量は 20kWh以上必要
である。一方,case3 では case2 より逆潮流抑制効果が
に抑制され,蓄電池の必要容量も風力導入量が多すぎな
ければ case2 より小さくて済む。ガスタービンの部分負
40
3 kW
35
2.8 kW
2.5 kW
30
25
20
15
10
0
図6
5
10
15
WG capacity [kW]
20
case4 における蓄電池の必要容量
25