平成25年度 鹿児島県水産技術開発センター事業報告書 かごしまの水産物付加価値創出研究事業-Ⅳ (魚肉不快臭の特定及び低減化試験) 加治屋 【目 大・保 聖子・稲盛 重弘 的】 魚肉は,一般的に畜肉に比べ身質の劣化が速やかとされ,劣化が進行すると肉質の軟化や変色,あ るいは不快臭の発生といった現象がおこる。このうち,臭気の発生には,鮮度低下に起因するものの 他,魚が元来有する成分によるものや,魚肉の加工処理課程で圧搾,内臓等との接触,あるいは室温 での一定時間の経過などに起因するものもある。後者にあっては,喫食可能な鮮度のものであっても 飲食時に不快臭を生じるケースがあり,加工原料として除外されることがあることから,当該端肉の 利用価値を高めることを目的として,不快臭成分の特定とそれらの除去を目的とした試験を行った。 【材料及び方法】 カンパチの生食可能な精肉,当該魚種に加工処理を施した後に発生した加工端肉及び前述の加工端 肉を4倍量の真水で5回洗浄処理したものをサンプルとし,三者に含まれる臭気成分の組成を比較した。 細切したサンプル及びサンプルと等量の蒸留水をガスクロマトグラフ専用バイアルに計り取り,密 栓の上,ウォーターバスにより90℃で30分間加温処理を施し,バイアル内に生じた気体部分を臭気成 分分析に供した。 臭気成分の分析にはパーキンエルマー社製ガスクロマトグラフ質量分析計Clarus500を用い,物質 の定性は,質量分析計から得られたマススペクトロメーターを,専用ソフトに登録されたデータと照 合することにより解析した。 【結果及び考察】 図1に生食可能な精肉の,また,図2に加工端肉のクロマトグラムを示した。生食可能な精肉にはア ルデヒドの一種であるヘキサナール及び複数種の鎖式炭化水素化合物が確認された。一方,加工端肉 には確認できただけで10種類のアルデヒド類が検出された。これらは魚肉に含まれる油分の酸化によ り生じたものと推察され,魚肉の不快臭の一因となっているものと考えられた。 図3に洗浄した加工端肉のクロマトグラムを示した。未洗浄のものに比べ,アルデヒド類はほとん ど検出されないか,クロマトグラムの波長が小さく,また,生食可能な精肉と同様のアルデヒド類及 び鎖式炭化水素化合物が検出された。なお,除去しきれなかったアルデヒドは,生食可能な精肉にも 含まれていたヘキサナールであった。 アルデヒド類は,その多くが特有の臭気を持つとされるが,魚肉の洗浄処理はこれらアルデヒド類 の除去に有効であると考えられた。一方で洗浄処理には多量の水を必要とし,排水処理等の課題が新 たに生じることから,今後,省コスト,かつより簡易に臭気成分を取り除く手法を確立する必要があ る。また,ヘキサナールのような比較的鮮度の高い魚肉にも含まれ,かつ洗浄処理でも除去できない 臭気成分については,マスキング等により手法の確立が必要であると考えられた。 - 227 - 平成25年度 鹿児島県水産技術開発センター事業報告書 図1 生食可能な精肉のクロマトグラム 図2 加工端肉のクロマトグラム 図3 洗浄加工端肉のクロマトグラム 注記 ※横軸は保持時間(分),縦軸は強度(%)を示す。 ※図中の●印はアルデヒド類,▲印はヘキサナール,○印は鎖式炭化水素,×印は定性でき なかった物質のピークを示す。 - 228 -
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