かごしまの水産物付加価値創出研究事業-Ⅱ

平成25年度
鹿児島県水産技術開発センター事業報告書
かごしまの水産物付加価値創出研究事業-Ⅱ
(緑茶抽出液による水産加工品のヒスタミン生成抑制試験)
保
【目
聖子・加治屋
大・稲盛
重弘
的】
ヒスタミン(以下Hmという)は,魚肉中の遊離アミノ酸であるヒスチジン(以下Hisという)
が,ヒスタミン生成菌のヒスチジン脱炭酸酵素(以下HDCという)の作用を受けてHmに変換され
たものである。昨年度までに,His含有量が高くHmの生成が懸念されるイワシ丸干品については,
内臓を含んだ原料形態での現状の加工工程では,Hm生成リスクを完全に回避することは困難との知
見を得た。一方,昨年度までの当該研究事業において,ボンタン果実の外皮抽出物にHDC活性阻害
作用があることが明らかとなった。ただし,ボンタン外皮抽出液は脂溶性であったことから,水産加
工における浸漬時に使用するには,やや難があった。
そこで水溶性の性質を持ち,かつヒトのアレルギー作用抑制効果に優れる緑茶に着目し,HDC活
性阻害作用の有無についての確認試験を実施し,Hm生成リスクを回避する新たな加工技術を開発す
ることを目的とする。
試験1.緑茶抽出液 のHDC活性阻害試験
【材料及び方法】
・緑茶抽出液
市販の煎茶及びべにふうき茶を用い,茶20gを200mlの水で煮熟抽出した溶液を冷却し試験に供
した。
・菌粗酵素液の調整
Hm生成菌は,(独)水産総合研究センター中央水産研究所より菌株分与されたMorganella mor-
ganii を用い,0.5%のL-Hisを加えたトリプチケースソイブロス(以下TSBという)培地で37℃・24時
間の培養を行った。培養した菌液を遠心分離し(8,000rpm,20分,4℃),得られた沈殿物を滅菌リン
酸緩衝液(以下PBSという)で3回洗浄したものを洗浄菌体とした。次に,洗浄菌体をPBSに懸濁し,
超音波粉砕機(UD-21P トミー精工製)で冷却しながら,10分間の間欠粉砕を行った。その後,遠
心分離(14,000rpm,30分,4℃)して得られた上清を粗酵素液とした。
・HDC活性阻害の測定法
予め200mM 酢酸緩衝液にL-Hisを25mM になるよう添加し基質とした。また,HDC活性阻害剤と
して基質に緑茶抽出液及び緑茶抽出液に代えて滅菌水を加えたものを添加した。その後,基質に
0.5mg/mlに濃度調整した粗酵素液を加え,37℃で30分間の酵素反応を行った(表1)。酵素反応後,
16%トリクロロ酢酸を加えて反応を停止させ,基質中に生成したHm濃度をEIA Histamarine kit
(Beckman Coulter製)を用いて測定した。なお,測定は,マイクロプレートリーダー(MPR 東ソ
ー製)で400nmにおける吸光度を求めた後,Hm標準品の吸光度と濃度の検量線からHm濃度を求
めた。
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平成25年度
表1
鹿児島県水産技術開発センター事業報告書
HDC活性阻害試験の条件
粗酵素液の種類
基質
阻害剤等
阻害剤等の添加量(μl) 反応条件
M.morganii 粗酵素 25mM L-His,200mM酢酸バッファー 緑茶(べにふうき茶)
500
37℃・30分間
M.morganii 粗酵素 25mM L-His,200mM酢酸バッファー 緑茶(一般的な煎茶)
500
M.morganii 粗酵素 25mM L-His,200mM酢酸バッファー
滅菌水
500
【結果及び考察】
結果を図1に示す。 M.morganii
600
のHDC活性については,阻害剤
として滅菌水を使用した区のHm
500
が498.95ppmであったのに対し,緑
煎茶区では,それぞれ44.54ppm及
び24.92ppmと極めて低い値であっ
た。滅菌水使用時Hm濃度を100%と
した場合における抑制率(Hm生
成抑制率)はべにふうき茶で91%,
Hm(ppm)
茶抽出液であるべにふうき茶区と
400
300
200
100
煎茶で95%と共に,90%以上の割合
0
を示した。このことから,これら
滅菌水
緑茶抽出液は, M.morganii のHD
C活性を阻害する効果を持つことが
べにふうき茶
煎茶
図1.緑茶抽出液のM.morganiiに対するHDC活性抑制結果
確認され,水産加工品中のHm生成を抑制に有効であることが示唆された。
試験2.魚肉でのHm生成抑制試験
【材料及び方法】
・緑茶抽出液
市販のべにふうき茶を用い,茶20gを200mlの水で煮熟抽出した溶液を冷却し試験に供した。
・供試魚
2013年6月に鹿児島県北薩海域で漁獲された新鮮なマイワシ(体重22.07±4.07g)を用いた。供試
魚は,三枚に卸し,フィレとした。冷水で洗浄し内臓等の付着物を取り除いた後,水気を拭き取り
保存袋に入れ,試験に供するまで-35℃で保管した。
・Hm生成菌の調整及び菌の接種方法
試験1同様,(独)水産総合研究センター中央水産研究所より菌株分与されたP.damselae を用い
た。菌体は,0.5%L-His及び2.5%のNaclを加えたTSB培地で培養し,30℃で107cfu/ml になるまで培
養を行った。その後,滅菌PBSで104cfu/ml に希釈し,試験用菌液とした。菌の接種方法は,供試
フィレを3分間菌液に浸漬して行う浸漬法とした。
・試験の方法
イワシ丸干加工を想定し,塩漬工程中に緑茶抽出液を添加することで,Hmの生成を抑制する手
法を検討した。10%食塩水及び10%食塩水に緑茶抽出液を10%量外添した浸漬液の2種類を準備した。
これら浸漬液に,予め菌液接種により汚染させたイワシフィレそれぞれに5枚ずつ,漬け込んだ。
また,対照区として,菌に汚染させていないフィレを10%食塩水に漬け込んだものも準備した。30
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平成25年度
鹿児島県水産技術開発センター事業報告書
分経過後にそれぞれ浸漬液から取り出し,保存袋に入れ,25℃で16時間保存した後,すべてのフィ
レについてHm濃度を測定した。
・Hm測定
サンプル約2gを正確に量り取り,8倍量のイオン交換水を加え,ポリトロンホモジナイザーでホ
モジネート(18,000rpm×1min)し,遠心分離(10,000rpm,5分,4℃)後,上清を得た。得られた
上清を試験1同様の方法で分析し,Hm濃度を求めた。
【結果及び考察】
60
結果を図2に示す。10%食塩水
が魚肉中に浸透している状態にも
50
関わらず,25℃で16時間の保存条
件であったため,洗浄フィレ区に
生成した。また,フィレ肉を予め
Hm生成菌で汚染した区では平均
Hm(ppm)
おいても平均で18.77ppmのHmが
40
30
20
40.12ppmであった。一方,予めH
m生成菌で汚染したフィレにべに
10
ふうき抽出液を添加した場合に
は,Hm生成が若干少なく,平均
0
フィレ
で33.04ppmとなったもののHm生
成低減効果に有意差は認められな
図2
汚染フィレ
汚染フィレ+べにふうき茶
イワシ魚肉での緑茶抽出液のHm生成抑制試験
かった。このことは,試験1の結
(平均値±標準誤差)
果を十分に反映しているとは言い
難い。今回の試験においては,予めHm生成菌で汚染した区における保存後のHm生成濃度が昨年ま
での数値と比べ極端に低かったことから,使用したHm生成菌の活性が弱っていた可能性が示唆され
た。また,べにふうき抽出物を添加した区においては,フィレ5枚のうち,3枚は2ppm以下であったが,
残り2枚では60ppm以上と高い値であり,同じ試験区内でのバラツキが非常に大きかった。このことは,
Hm生成菌の接種による汚染が均等に行われなかった可能性を示唆するものである。これらのことを
併せて考慮すると,今回の試験の結果からは,汚染したフィレ肉に対するべにふうき抽出液のHm生
成抑制効果を確認するには,不十分であり,生成菌汚染手法の再検討を含め再度試験を行う必要があ
ると考えられた。
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