オンライン紫外線照射 Py-GC/MS 法とメタルハライドウェザーメーター法 を用いる外壁用塗膜の光・熱・酸化劣化評価の相関性の検討 フロンティア・ラボ 1)、名大 2)、旭化成ホームズ 3)、旭化成 4) ゆざわ てつろう わたなべ ちゅういち つ げ し ん しまね のりあき いまい ひであき ○湯沢 哲朗1)、渡辺 忠一1)、柘植 新2)、島根 則明3)、今井 秀秋4) [緒言] 住宅の外壁に使用される塗膜試料の性能は、住宅の寿命に影響するため、数十年という長期の耐 候性が求められる。しかし塗膜試料は、時間経過に伴い太陽光、熱、水分などの様々な外的要因により、 色調の変化や物性の低下などの劣化が起こり、その劣化度合いを評価することは重要である。その劣化 評価法として、従来は屋外曝露試験法やウェザーメーター法などを用いて、色差や光沢などの物性変化 を評価してきたが、その測定には通常数週間から数ヶ月を要する。また、その劣化過程において生成し、 系外へ放出される揮発性成分については、情報を得ることが困難であった。そこで演者らは、従来の劣 化試験を補完する方法として、キセノン(Xe)ランプを光源とするオンライン紫外線照射(UV)Py -GC/MS 測定システム(本法)を開発した 1)。このシステムを用いた劣化評価方法として、試料を連続 的にプログラム昇温させ、刻々発生する揮発性ガスを質量分析計(MS)を用いて検出する発生ガス分 析(EGA)-MS 法があり、得られたサーモグラムから劣化評価を行うことが可能である。そこで本報で は、外壁用塗膜試料について、本法と、メタルハライドウェザーメーター法(従来法)で UV 照射した 試料のサーモグラムを測定し、両者の試験法による結果の相関性について検討した。 [実験] 塗膜試料として、フィルム状にしたアクリルシリコーン系の試料を分析に用いた。その構成モノ マーは、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル の 4 元系からなり、造膜助剤として数%のテキサノールを含んでいる。本法では、試料を厚さ 100~200 μm のフィルム状にし、直径 0.75mm のハリス・マイクロパンチャー(F-Lab 製)でくり抜き、通気用 横穴の開いた試料カップ(内径 4mm、高さ 8mm)に採取後、光ファイバーの先端に取り付けて、60℃ に設定したダブルショット・パイロライザー(PY-2020iD;同社製)の加熱炉に導入した。UV 照射に は、Xe ランプを光源とする UV 照射装置(UV-1047Xe、照射波長:280-450 nm、光量:700 mW/cm2; フロンティア・ラボ社製)を使用した。UV 照射時間は 1 から 20 時間とし、UV 照射中の雰囲気ガスに は空気を用いた。また、UV 照射後の劣化試料は、不活性化金属キャピラリー管(UADTM-2.5N;長さ 2.5 m、内径 0.15 mm;同社製)を用いた EGA-MS 法によりサーモグラムを測定し、その熱特性の解 析を行った。また参照のために、従来法で、1000 時間の促進劣化を行った塗膜試料についても、EGA-MS 法により評価し比較した。 [結果と考察] 図 1 には、本法を用いて(a)UV 照射前、(b)1 時間、(c)10 時間UV照射した試料と(d)従来 法で促進劣化試験した試料についての EGA サーモグラムを示す。10 時間 UV 照射した試料では、UV 照射前試料と比較して、200℃付近のテキサノール由来のピーク強度と 400℃付近の主ピークの強度は、 照射時間の増加に伴い減少していることから、UV 照射による試料の光・熱・酸化劣化の進行を示して いる。また 400℃付近の主ピークは、10 時間 UV 照射した試料ではピーク頂温度が 8℃程度低温側にシ フトするとともに半値幅の温度が 35℃から 70℃へと増加し、UV照射によるピーク形状の大きな変化 Tetsuro YUZAWA, Chuichi WATANABE, Shin TSUGE, Hideaki IMAI, Noriaki SHIMANE が観測された。また、参照のためにメタルハラ 2x10 6 8°C (a) UV照射前 イドランプを用いて促進劣化試験した試料の 35°C サーモグラム (d)では、UV照射前のピーク形 状に比べてピーク頂が低温側へシフトし、さら 0 2x10 6 にピーク半値幅が増加している。この形状変化 (b) 1時間 は、本法により劣化させた試料のサーモグラム 46°C 0 の(b)1 時間照射の形状変化と、ほぼ同等である ことから、これらの試験方法の結果に良い相関 2x10 6 (c) 10時間 性があることが分かった。また、これらの主ピ 70°C ークの平均マススペクトルを比較すると、UV 照射による劣化前後で大きな違いは観測され 0 2x10 6 (d) メタルハライド なかったことから、試料成分には劣化による大 きな組成変化はないと考えられ、既報の 55°C 0 100 Py-GC/MS 法による解析と一致している 2)。 図 2 に本法を用いて 400℃付近の主ピーク の半値幅と UV 照射時間の関係を図示した。照 200 300 400 Temperatue (°C) 500 図 1:サーモグラム (a) UV 照射前, (b) UV 1 時間照射, (c) UV10 時間照射, (d) メタルハライド 射時間の増加とともに半値幅が増加していることから、劣 で促進劣化した試料のピーク半値幅温度(■印)は 55℃で あり、これは本法を用いた 2~3 時間の UV 照射の劣化度 半値幅温度(℃) 化度合いをこの半値幅で評価できることがわかる。従来法 70 合いに相当していることが推測され、本法により劣化評価 65 本法 60 55 50 メタルハライド 45 40 35 時間が大幅に短縮できることが示唆された。 0 5 10 15 20 照射時間 (hr) 図 3 に本法を用いて 400℃付近の主ピーク頂の強度と 図 2:EGA サーモグラムの主ピークの 半値幅温度とUV照射時間の関係 UV 照射時間の関係を図示した。照射時間の増加とともに 減少していることから、このピーク強度でも劣化評価でき ることがわかる。UV 照射前の強度に対する UV 照射後の 2.0 x106 強度は 34%まで減少した。 ザーメーター法による劣化試験で得られた試料のサーモ ピーク強度 以上の結果から、本法と、従来法のメタルハライドウェ (b) 1.5 66% 1.0 0.5 34% グラムには良い相関性が認められ、本法を用いることによ 0.0 り劣化評価時間が大幅に短縮できることがわかった。 0 5 10 15 20 照射時間 (hr) 図 3:EGA サーモグラムの主ピーク強度 とUV照射時間の関係 1)C. Watanabe, S. Tsuge, H. Ohtani; Polymer Degradation and Stability, 94 (2009), 1467-1472, “Development of New Pyrolysis-GC/MS System Incorporated with On-line Micro-Ultraviolet Irradiation for Rapid Evaluation of Photo, Thermal, and Oxidative Degradation of Polymers” 2)マテリアルライフ学会 第 19 回研究発表会 4、池田、大槻、松村、今井、島根、大森、2008
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