熱分解 GCMS による高分子材料分析

No.1
熱分解 GCMS による高分子材料分析
使用機器
マルチショットパイロライザー EGA/PY-3030D (フロンティア・ラボ製)
マイクロ UV 照射装置 UV-1047Xe (フロンティア・ラボ製)
ガスクロマトグラフ質量分析計 GCMS-QP2010Ultra (島津製作所製)
特長
あらゆる形態の高分子材料を小型加熱炉で熱分解後、得られた熱分解
生成物を GCMS で分析します。
高分子構造の推定、微量有機不純物の定性のほか、UV 照射装置を併
用することで、高分子材料の耐候性を迅速に評価することができます。
GCMS-QP2010Ultra
測定内容
・高分子材料の構造推定、微量有機不純物の定性分析
・複合材料の加熱時発生ガス分析(任意の複数温度範囲で分取・解析可能)
・耐候性試験の迅速スクリーニング、劣化アウトガスのオンライン分析
測定方法
シングルショット法、ダブルショット法、EGA-MS 法、EGA-GC/MS 法、UV/Py-GC/MS 法
測定事例の紹介
■高分子構造の推定例
市販のポリウレタン樹脂をシングルショット法で熱分解後、その高分子構造を推定しました(図 1)。熱分解
生成物として、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジプロピレングリコール(DPG)、トリプロピレングリコール
(TPG)が検出された結果、このポリウレタン樹脂は、ポリオールとしてポリプロピレングリコール(PPG)、2 官
能イソシアネートとして TDI を使用したポリエーテル型ポリウレタンと推定されました。
(x1,000,000)
1.0 TIC
Area
0.9
0.8
構造式(推定)
CONHC6H3(CH3)NHCO(O(CH2)3O)m
TDI
n
0.7
0.6
0.5
DPG
0.4
TPG
PG
0.3
0.2
0.1
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
6.5
7.0
図 1 ポリウレタン パイログラム
7.5
8.0
8.5
9.0
9.5
10.0
10.5
11.0
R.T.(min)
熱分解生成物の組成は、元となる高分子構造を反映しており、樹脂種の同定や構造の推定には、熱分解
GCMS による解析が効果的です。また、熱抽出温度から熱分解温度まで、複数の温度範囲を対象とした発
生ガス分析が可能です。GC の分離能力・MS の定性能力を生かした微量有機不純物の解析にも力を発揮し
ます。
(x10,000,000)
2.00
■耐候性評価例(その 1 劣化生成物分析)
Area
ポリスチレン樹脂を合成空気雰囲気下で100℃
に加熱しながら1時間 UV 照射を行い、樹脂の劣化
過程で発生する微量のアウトガスをオンライン分析
しました(図 2)。
UV 照射試料からベンズアルデヒド、アセトフェノン
を主成分として様々な劣化生成物が観測された一方、
UV 未照射試料からは観測されず、これらの劣化生
成物は光酸化分解によるものと示唆されました。高
分子材料の光・熱・酸化劣化過程で発生する微量の
アウトガスをオンライン分析することで、劣化生成物
の化学種を特定することができます。
UV 1 時間照射
1.75
UV 未照射
Acetophenone
Benzaldehyde
1.50
1.25
1.00
0.75
0.50
0.25
0.00
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
R.T.(min)
図 2 ポリスチレン UV 照射クロマトグラム
■耐候性評価例(その 2 劣化ポリマー分析)
9℃
(x1,000,000)
Area
評価例その 1 で実施した UV 照射後の残渣試料
を昇温加熱して、EGA 曲線から加熱温度あたりの
発生ガス量を観測し、基質劣化の有無を評価しまし
た(図 3)。
UV 照射試料の熱分解ピーク頂温度は、UV 未照
射と比較して 9℃低温側にシフトしており、熱分解開
始温度は 350℃から 310℃へと大幅に低下していま
した。また、熱分解ガスの発生温度範囲も広がって
おり、分子量の低下や構造の不均一化など、UV 照
射による基質劣化が推定されました。
UV 1 時間照射
3.5
UV 未照射
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
310℃
0.5
5.0
7.5
350℃
10.0
12.5
15.0
17.5
20.0
R.T.(min)
図 3 ポリスチレン UV 照射 EGA 曲線
通常、高分子材料の耐候性試験では、野外暴露やウェザーメーター試験が用いられ、高分子材料の劣化評価
には数週間から数ヶ月間を要します。UV 照射装置と熱分解 GCMS を用いた本手法は、劣化生成物分析および
劣化ポリマー分析により、耐候性の迅速スクリーニングが可能です。
2012.05