基調講演「農業法人経営におけるICTの活用と効果」

2014農業機械化フォーラム「「情報通信技術(ICT)を農業経営に活かす!」
基調講演「農業法人経営におけるICTの活用と効果」 九州大学大学院農学研究院教授 南石晃明氏
本日は、農業経営法人におけるICT活用と効果についてお話しいたします。
内容は主に2つありまして、1つは農林水産省の革新的技術緊急展開事業で進めている研究「農業
生産法人が実証するスマート水田農業モデル―IT 農機・圃場センサー・営農可視化・技能継承システ
ムを融合した革新的大規模稲作営農技術体系の開発実証―」についてです。これは今年から来年にか
けての2年間のプロジェクトになっており、九州大学を中心に「農匠ナビ 1000」というコンソーシア
ムを組織して進めておりまして、次に講演される横田農場さんも参画しております。
それから2つ目は、私の研究室で行っている全国の農業法人を対象としたアンケート調査結果につ
いてご紹介します。これは3年前のデータで、アンケートでは 1600 社を対象に様々なことを聞いてお
りますが、今日はICTに関係したところだけ抜粋してお話しします。
基調講演する南石晃明教授
1 農業法人自身が実証するスマート農業 まず、プロジェクトについてですが、プロジェクト名は「農業生産法人が実証するスマート水田農
業モデル」で、副題が“ICT農機・圃場センサー・営農可視化・技能継承システムを融合した革新
的大規模稲作営農技術体系の開発実証”となっています。このポイントは農業生産法人自身が実証す
るというところです。
これまで進めてきた農林水産省や研究所の研究は、基本的には農家にご協力いただくというスタン
スであったと思います。このプロジェクトはそうではなくて、農業生産法人4者が共同研究機関とし
て正式に加わっており、むしろ研究を引っ張っていただく。我々研究機関や県、農機メーカーなども
参加しておりますが、どちらかというと、我々はサポートする気持ちで進めております。これは、こ
れからの農業研究開発の方向性を提示しているという心意気でやっているものです。
2 多様化していく農業主体 地球温暖化を含め、天候不順などの気候変動はこれからますます大きくなるのではないかと予見さ
れております。それから、TPPなどの市場開放、市場の変動も予想されており、そういうものに農
業経営は直面しているわけですが、そういう中にあって生産費を4割削減するという大胆な政策目標
が設定されています。
これについては様々の議論もありますが、個人的にはこれからビジネスとして農業をやっていく主
体と、農的生活が好きなので、または家業として農地は保有していくというふうに主体が多様化して
いくと思っております。そういう意味ではこのプロジェクトはビジネスとして、中小企業として稲作
経営をやっていかれるような主体をイメージして考えました。
今日は農業法人に限定しておりますが、それが農事組合法人だろうと、集落営農だろうと、戦略性
をもって、意思決定の主体がはっきりしている組織であれば、適用できるようなものを作っていこう
ということです。
3 大農場の管理技術をパッケージ化 具体的には、栽培・経営管理技術のパッケージ化、これが一番のメーンです。全く新しい稲作技術
を作るということではなく、すでに横田農場などで 100ha 規模の技術が確立しつつあるので、それを
パッケージにするということを最重点においたプロジェクトです。そして、パッケージ化する道具と
してICTが必要不可欠だという理解です。
具体的なプロジェクトの目標としては、玄米生産費1kg 当たり 150 円を目指す低コスト化(全国平
均の 44%減)②収益率2~2.5 を目指す高収量・高品質・高付加価値化③30~200ha 超の次世代稲作
経営を実現しうる栽培技術・生産管理技術・経営管理技術のパッケージ化と導入ノウハウの体系化、
これらに基づく地域別の営農モデルの確立―としており、こうした明確な研究目標の設定は珍しいの
ではないかと思います。
ただ、低コスト化戦略は私自身の考えでは日本の稲作の採るべき道ではないと思っておりますので、
コストは下げるけれども、収益率を重視して、付加価値をどうやってつけていくのかというのが日本
稲作の国際的なポジショニングからみて決定的に重要だろうと考え、目標に設定しております。
4 玄米生産費1kg150 円を目指す それから、想定する規模ですが、これにも議論がありまして、農林水産省の統計でも 15ha 以上はあ
まり区分されておりませんが、いろいろなことを考えると 30ha、100ha が1つのポイントの規模にな
りますので、その程度を想定しております。
玄米生産費は通常、10a当たり、60kg 当たりで表示されることが多いのですが、我々は1kg 当た
りで考えています。これは、消費者がスーパーで買う時に1kg 単位で買うためでして、最終消費段階
での米の価値との比較でコストを考えやすいということですね。
もちろん、デメリットもあり、同じ面積で栽培していても、収量が変動すると年によって全算入生
産費が変動します。そういう点では 10a当たりのほうが分かりやすいということは承知しているので
すが、実は 10a当たりの生産費を下げるのは簡単なんですね。インプットだけでアウトプットのこと
を考えていないので、低投入にすればいくらでも生産費は下がります。例えば自然農法であれば、生
産費は下がる。しかし、それは農業経営的にみると議論してもあまり意味がないので、アウトプット
に対してどれくらいコストがかかっているのか、インプットとアウトプットの比率でないと経営的に
意味がないので、ここではそういう理由もあって1kg 当たりを採用しているということです。
5 100ha 規模の稲作経営の技術を確認 そこで、コストを下げる一番簡単な方法は、規模を拡大することです。現在の稲作農家の平均面積
は 1.5~1.6ha 当たりでしょうか、これを 30 や 50ha くらいまで規模を拡大すると何もしなくてもコス
トが下がります。1つの経営体がやるのか、集落営農がやるのかはいろいろと議論があると思います。
なので、プロジェクトの1つの目的は、30ha 規模と、100ha、200ha 規模といった日本のトップク
ラスの稲作経営において、どういう技術が確立され、実践され、どういうコストが支払われているの
かということを確認することにあります。
ただ、この話は参加いただいている農業法人にとってかなりシビアな話で、生産原価を全てオープ
ンにするということは通常あり得ませんので、どういう形でコストを出していくのかということは考
えていかなければなりません。
想定では、目標に掲げた稲全算入生産費(全国平均1kg266.7 円)を 150 円に低下させる開発実証
は実現できると考えますので、それを実現させるための経営技術等をどういう形でパッケージ化した
らよいのかと、それを無料で提供するかどうかも含めて検討中です。
価値のある情報は無料ではありませんので、それをどのように移転していくのか。場合によっては
移転できないものもあるかもしれません。
戦後、食料需要が増えたときは均一な技術で食料増産するというのがそのときの政策的な需要であ
りましたが、今はそういう状況ではありません。食品ロス等を考えても飽食の時代ですので、戦後の
食料増産の時代とは違った技術開発の必要性も感じています。
6 コスト削減におけるICTの有効性 もう1つですけれども、農林水産省の資料によると、カリフォルニアでは生産コストが低く、約
300ha で1kg あたり 50 円程度となっています。
このままいっても日本の生産コストがカリフォルニア水準に追いつくことはないのですが、ICT
やロボット技術、革新的な稲作技術などの活用によって、もう少しコストを下げられる可能性もある
のではないか。どのへんまで削減可能なのかをシミュレーション分析も含めて検討することがこのプ
ロジェクトの目的にもなっています。こうした枠組みの中でICTがどれくらい有効性を持ち、必要
不可欠であるのかを、今やっているところです。
6月くらいから始めてまだ半年ほどですが、メンバーには、全国から4農場、ぶった農産、横田農
場、フクハラファーム、AGLに参画いただいています。西日本、関東以西をいれて、各農場の戦略
なりパッケージ技術なりが相対化できるという考え方で進めております。メンバーには各大学や農機
メーカー、試験場にも入っていただいています。
7 革新的な生産及び管理技術を開発 柱は大きく分けて3つにわかれていまして、先進大規模稲作経営における①実用稲作技術パッケー
ジの実証確立②革新的生産技術の開発実証および実用化普及③革新的生産管理・経営管理の開発実証
および実用化普及―となっています。
①は先に挙げた農業法人4者に担当していただいている課題です。もちろん我々がサポートしてい
るわけですけれども、日々の営農活動でやっていただくことに注目して、農作業時間はもちろん、場
合によっては農機にレコーダーを設置して作業中の動画を撮り、農作業の記録をしています。
組織に新人が入ってきたとき、能率をできるだけ早くあげていただくための、人材育成のツールに
もなるのではないかと考えています。
これが出来上がってくると、日本でトップレベルの農業経営が世界に比べてどれくらいの実力を持
っているかがはっきりしてくるのではないか。実際の海外の現場をみても、日本の稲作技術はかなり
優れていますので、それについては楽観的にみております。コスト戦略にいかなければ、ですね。
②はヤンマーさんに取りまとめていただいています。収量コンバインなど現場に投入できるものが
実際に出てきていますので、そうした将来ではなく、いま現在使える最新のものを購入した時にどう
いうことが可能になるのかということを進めております。
その中に、農研機構の九州沖縄農研にも入っていただいてまして、高温障害をどう回避するかとい
った課題について研究蓄積がありますので、そこらへんも含めてやっております。
③はICT企業のソリマチさんにまとめていただいております。栽培や経営を管理する方法につい
て、経営的な視点でどこまでICTを活用できるのか、どこまで発展できるのかを対象にしておりま
す。
8 圃場別にデータを収集して可視化する 全体としては、各農場によって抱えている問題が若干異なりますし、解決方法も違うわけですけれ
ども、全体のフレームワークとして、①圃場別の農作業・気象・土壌・作物情報の収集②圃場別ビッ
グデータの可視化・解析③気象・市場変動リスク対応型生産・作業管理を考えています。
①は、農場全体ではなく圃場別に、1枚1枚の田んぼの作業時間を含めて農作業がどうなっている
のか、水温や水位、圃場の状態、作物の生育状況などを1枚ずつ田んぼによって異なるわけです。そ
ういう情報をできるだけ集める、これは当たり前のことではあるのですが、現実の農家でこうした1
枚ずつの情報が揃っているかというと、必ずしもそうでもない。小規模であれば農家の頭の中に入っ
ているものですが、過去何年ものデータを正確に記憶しているかどうかというと、心もとない部分が
ある。
そこで、このプロジェクトでは、4農場の約 1000 枚の田んぼについて今お話ししたような情報を、
スマホやGPS、収量計測コンバインなどを活用してできる限り集めようとしています。今ある技術
でどこまで集められるのかということのチャレンジでもあります。
当然、集まったデータは可視化する。目に見えるようにするだけでわかることも多いのですね。数
字やグラフで分かるようにするだけで効果がある。当然、解析もしていきます。解析については、経
営科学や統計学、情報処理などでいろいろな手法がありますので、そうしたものを適宜使ってデータ
マイニングをしていきます。
それから、市況や市場のリスクにどう対応していくのか、ということで、経営管理についても考え
ていく。経営シミュレーションなども組み込みながら、作業ノウハウを見える化したり、ICT農機、
省力技術などによって作業能率向上や作業時間及びコストの低下などを図ることを目指しています。
9 最先端の現場の技術を棚卸 こうしたことを話していると、革新的な農業技術を作るのかと思われるようなのですが、先ほどお
話ししたように、すでに実践しているものをベースに考える。現実のフロンティアをはっきりさせて、
棚卸をしないと何を開発すべきかが見えてこないのですね。
私も長く研究に携わっていますが、こういう体制で現場とともに研究する機会はなかなかありません。
生産現場の最先端で何が行われているのかという情報はあまり整理されていない。場合によっては研
究者が知らないこともあるわけです。そういう問題意識もあって、今回のような発想で進めておりま
す。
10 日本の稲作技術は世界トップクラス 改めて4農場のデータをみると、経営面積は毎年変わっておりますが、30~160ha の稲作経営をし
ておりまして、日本全体からみるとかなり大規模です。面積をみると海外と比べて大きくはありませ
んが、売上げ規模、経済的な規模でみると、数億円かと思われますので、これは海外に比べて大規模
です。例えばアメリカの農場は 300ha 規模のものもあり、大規模だと言われますが、アメリカの稲作
経営で売上げが強くあるものは少ない。安いものを広い面積で作っているだけなのですね。日本の方
がとても高度なことをしています。もちろん作っている品種や作期、栽培様式、加工なども含めて、
世界的にみても極めて優秀な、トップクラスの稀有な経営をしていると思います。欧州でも挑戦され
ておりますが、こうした優秀な経営は少ない。
一般企業の場合、会社の規模は売上げで考えますので、敷地面積の広さなどはあまり関係なく、ア
ウトプットで考える必要があるのです。売上げ規模でみると、日本のこうした規模の稲作経営は、世
界トップクラスです。
JICAの事業に参画したコロンビアの農家では、二期作を行って延べ面積が 800ha ほど作っており
ますが、売上げは日本に比べてずっと小さい。作っているものの価値が違うのです。
11 作期分散や省力化、情報の統合化が鍵 そこで、今回参加している横田農場さんにどういうことをキーワードにしているかを聞いたところ、
作期分散と省力化技術が必要だと言われました。それによって、農機具等の費用低減をしていくこと
が重要だと。1個ずつの要素技術ではなく、経営全体として何をすべきか。日本のような四季のある
ところでは、作期をどれだけ分散できるかがコスト低減の定石です。高額な機械・設備の稼働率をど
れだけ上げられるかが極めて重要です。それをどうやって実践するのかが工夫の必要な部分ですね。
田植機1台コンバイン1台でどこまでいけるか。120ha くらいまではおそらくいけるのではないか
と思いますが、さらに 130、140ha までいけるのか、それとももう1セットいけるのか、そのへんを
今横田さん自身が探索されているポイントとなっていると思います。
そうした部分は経験と勘だけでは難しいので、いろんなデータや作業のリスクを緻密に分析すること
が必要不可欠になっているのではないかと思います。
ぶった農産の場合は、高密度育苗を行って苗の箱数を減らし、コストを低減しています。ここは立
地条件として1枚の面積を広げることが難しく、こうした戦略で低コスト化を図っていますが、箱数
も育苗時間も3分の1に、費用は2分の1になるということです。
そして、こちらでも従業員教育として、作業のノウハウの見える化が挙げられています。こうした農
業法人は中小企業と同じですので、中小企業が抱える問題と同じ問題に直面されているわけです。
フクハラファームも横田農場と同様で、販売計画が先にあるため、そこから逆算していつ何を植え
ればいいのかという生産計画を立てて、それをICTを用いて高度化しています。さらに、ここは近
いうちに経営継承の問題が出てきますので、作業ノウハウの伝承の問題にも触れられています。そし
て、そうした伝承には技術的な情報と経営情報の統合化が必要であると、経営者自身の問題意識とし
て挙げられています。
12 農業法人アンケートの結果から 次に、私の研究室で行った農業法人アンケート調査についてお話ししたいと思います。
これは 2011 年末に全国の農業法人経営 1600 社にアンケートを送り、2月時点で 500 社余りから返答
をいただき、回答率は約3割となりました。この種の調査にしてはかなり多い回答率になります。
平均売上は3億弱。従業員数は役員が平均 3.4 人、正社員が 12.2 人で、合計 15~16 人。パートを
入れると 30 人弱で、立派な中小企業です。
売上高はもちろん作っている作目によって違ってきますが、稲作で一番多いのは 5000 万円未満、一
方で3億円以上売り上げているところもあります。これはあくまで法人としての売り上げを聞いてお
りまして、稲作部門のみの売り上げではありません。稲作を主とした経営をしている会社の売り上げ
であり、加工なども入っています。畜産は売上げが3億円以上あるところが半数ほどありますが、そ
れがそのまま儲かっているというわけではありません。従業員についてみると、稲作は6~10 人が一
番多い。畜産は 20 人以上いるような大規模なところが多い。
13 センサーやGPS普及率は1~2割 続いてICTに関する部分をみていきます。農畜産物別情報通信機器の利用状況(法人として農業
経営のみで使われているもの)をみると、パソコン・サーバーは 95%で、未だに 100%に至っていま
せん。プリンタやファックス、携帯・スマホ、コピー機、デジカメ・ビデオカメラなどは全体の8割
以上が利用しています。
特徴的なところでみると、ネットワークカメラを畜産の4分の1以上で活用しています。横田農場
では無線Webカメラが圃場についていて、監視されていますね。
その他、バーコードリーダーやセンサー、GPSなどは1~2割台の活用になっていて、まだ普及
率が低いように思えますが、パートを除く従事者規模別にみると、従事者が 21 人以上の法人では、カ
メラやGPS等による圃場別作業情報の収集を6割で行っており、経営戦略の立案や経営計画の作成
を7割で実践しています。人数が少なくなると、複雑な管理が必要ないため、こうした実践が減って
いきます。
14 規模 20 人以上の法人はICT活用が活発 こうしたICTの活用における1つの規模の切れ目が 20 人、もしくは 10 人になるかと思います。
20 人以上の法人では全てのICT活用内容で突出しており、全項目で約半数が活用しています。
ただし、パソコンなどのICT機器があっても、それをどう使うのか。使い道が分かって、導入コ
ストを上回るメリットが出るように使いこなせる人は、もうすでに導入しているという結果になって
いると理解しています。
そして、将来使いたいかという意向について聞いたところ、例えば「パソコン等で作業工程全体の
管理表を作成し、作業全容の理解を助ける」という項目では、現在行っているのは3割弱で、将来行
いたいのは2割となっています。こうしてみていくと、経営計画や作業計画のシミュレーションや、
マニュアル作りについては、現在行っているのは 15%前後ですが、将来行いたいのは2割以上となっ
ていて、やりたい人の方が多い。「動画で作業のコツを伝える、共有する、疑似体験する」は現在実
践が6%、将来行いたいのは2割となっていて、伸び代がある分野です。
もう1つは、ICTで人材育成をどう活用しているかという内容についてみると、こちらも人数に
比例して、特に 20 人以上になると突出してICTによる人材育成が増えています。センサーやICT
を使っていくと経営効率も上がりますので、ますます好循環になっていく可能性があるということで
す。
15 販売額増加や人材育成等でICTに期待 さらに、どういうことに役に立ったかという効果について聞いた項目では、取引先の信頼向上や財
務体質強化、経営戦略・計画の立案、家家の見える化、経費削減、生産効率化などが比較的多く、3
割ほどの回答が得られました。
そして、今後何に力を入れたいのか、どういう効果を目指してICTを使いたいのか聞いた項目で
は、財務体質強化、経営戦略・計画の立案、経営の見える化、経費削減、生産効率化、販売額増加が
多く、6割ほどの回答が集まりました。逆にいうと、6割の経営者が今後こういった項目にICTが
効果があると思っているというように理解できます。
今後の希望と、現状の効果の差を項目ごとにみると、販売額増加やリスク管理、人材育成・能力向
上といった項目で大きな差がみられました。これらは、今はあまりまだ効果を感じていないけれど、
これから期待して力を入れていきたいという伸び代がある項目だと考えられます。今後はより高度な
経営を目指していると感じたところになります。
16 ICTの活用場面について議論が必要 ICTの導入が役に立っているかどうかについては、既に役立つものとして明らかになっておりま
すが、これからICTがどういう風にどんな場面でどう役に立つか、そうしたことの議論をするべき
だと考えます。
農家は、農林水産省の定義だと多様になってしまいますが、どういう主体だとどんな効果があるの
かといった議論は必要でしょう。小規模の農家にとっては、本日話したような、コスト削減や販売額
増加といった目的とは違った内容でICTの活用場面がある可能性があると思います。
17 日本農業が採る道は高付加価値戦略 また、低コスト化についてですが、国の政策としても米の輸出を含めて農産物の輸出強化をうちだ
していますので、世界的な視点で考えると、日本農業の方向性として単なる低コスト化のみでは難し
い。米国やコロンビアなど、海外では日本と全く違う米作りをしています。例えばコロンビアでは、
同じ面積で1年に2回米を作れるわけです。
海外で何をやっているかを理解したうえで経営戦略を考えなければなりません。国内だけで考える
と確かに規模拡大をすればコスト削減になりますが、それでも海外に比べればまだコストが高い。コ
スト競争に入ってしまうと、日本農業はやっていけません。
ただ、海外とは作っているもの自体が異なるので、海外並みにコストを下げれば何とかなると勘違
いをしてはいけない。いくら国内でコストを下げても、立地条件も気象条件も異なるので、海外で作
っている米のコストにはなりません。同じジャポニカ米であっても、日本で作っているジャポニカ米
は別の商品だというふうにしないと、国際的な競争は難しい。
つまりは、海外と戦うときにどこを武器にして戦うのかということで、当然コストは下げなければ
なりませんが、コストを下げれば海外と戦えると考えるのは戦略として間違いです。あくまで違う商
品を作っているんだという戦略でいくべきだと申し上げたいのです。
仮に物質的に化学成分や食味がまったく同じであっても、商品としては別のものになる可能性が十
分あるわけです。一言でいえばブランドですね。どれだけファンの心をつかむかということが重要に
なるので、これは経営学的にみるとコスト戦略ではありません。高付加価値戦略になります。
当然コストはできるだけ下げるわけですけれども、高付加価値をつける戦略をとっていけば、コロ
ンビアやカリフォルニアの米に対して十分対抗力を持ちうるのではないかと、個人的に思っておりま
す。
18 データ収集システムは既に実現、活用検討の段階に また、農林水産省のプロジェクト「農匠ナビ」では農作業記録のアウトプットの1つとして、IC
タグ(Suica カードなど)にご自身がお持ちのアンドロイドスマホをタッチするだけで、農作業記録が
できるシステムも開発しております。タッチするだけで何時何分に誰がどんな農作業をするか記録で
きるものです。FVSと呼んでおりますが、フクハラファームでは、育苗ハウスのサイドの上げ下げ
にこれを活用していただいております。作業機の記録については、GPS付きコンバインなどで記録
ができるものが出ています。
そうしたデータを集めるシステムはコストはかかりますが、既に実現しております。これらのデー
タを集めて本当に売上げが上がるとか、コストが下がるとか、どうメリットが出るかどうかという段
階にもう来ているのではないかと思います。