1、開業または就業のきっかけ、理由 私は元々チェーンの飲食店のホール社員でした。飲食店の社員になったのは、接客が 好きで、幸せそうに飲み食いするお客さんの表情を見ると、自分のことのようにうれ しく思えることが主な理由です。 そして、私自身飲み歩くことが大好きで、ちょっと大げさに言わせていただくと、そ れこそひと財産食いつぶすほど飲み歩きに費やしました。ただ、そうやって飲み歩き をし続ければし続けるほど、満足のいく店にめぐり会わなくなってきました。そこで、 だったら自分が客として行きたくなるような店を自分で作ればいいと思うようになっ てきました。また、その当時勤めていた大手チェーンの飲食店の勤務実態や、飲食未 経験の会社の上の人達の現場に対する考え方に疑問を感じ始めていたこともあり、独 立、開業を決意しました。今から四年前のことです。 店を東京の新橋に構えたのは、私が新橋という街を少しばかり知っていたこと(新橋 の飲食店での勤務経験も少なからずあります)、独立を決意した当時、新橋に空き物件 がかなり出てきているという情報を掴んでいたことが理由です。実際、不動産屋さん を廻り始めて二件目で今の店舗の物件を見つけたので、物件探しにはまったくと言っ ていいほど苦労はしませんでした。 2、素材の仕入れでのこだわりは何ですか? 私が営んでいる店は、高級店でもおしゃれな店でもないごく普通の居酒屋なので、と びきり高価な食材を仕入れることはほとんどしません。仕入れも業者さんに配達して もらっているものがほとんどです。それでも、なるべく自分の目で品質や鮮度を確か められるものを仕入れるようにしています。必要であれば河岸まで出向きますし、ま た、普段からいい食材を置いてある販売店には、足しげく通っています。仕入れるも のは、旬のもの、家庭ではちょっと食べられないものを多くしています。 3、調理の際のこだわりは何ですか? 私はプロの料理人ではありません。調理は腕のいい調理長に任せていて、私自身が調 理をすることはまずありません。もちろん、お客様にお出しするものは試作と試食を 繰り返し、こらなら!という味に仕上げてもらいます。私と料理長二人で実際に食べ てみて「美味い、これだ」と納得できてはじめてメニュー化します。そうやってでき あがったメニューは、どれもお客様からご好評をいただいています。 調理に際しては、加えられる手間は加えるということにもこだわります。決して端折 らず丁寧にこしらえるという姿勢はどんなときでも貫き通します。 4、お店をやっていて、苦労したことは何ですか? 初めて自分の店を持った方ならどなたも同じでしょうけど、やはり集客です。味や接 客にいくら自身があっても、それだけですぐには繫盛店にはならないことはわかって はいたつもりですけど、自分の店を始めてからあらためてそれを実感させられました。 それから、店のコンセプトをはっきりとさせないうちに独立を急いだため、開店して しばらくはちょっと営業面でしっくりいかないことが多かったです。やる気さえあれ ばそんなものは乗り越えられると思っていた私が甘かったということです。また、当 時いてくれていたスタッフも、私が期待した通りの人材ではなかったため、人間関係 にもとても苦労させられました。さらに、新規に開店して知名度がほぼゼロの個人店 は、星の数ほどある飲食店に埋もれてしまい、思うように売上を伸ばすこともできま せんでした。そのため、開店してから半年ほどの間は、何をやってもうまくいかない ように思えてきて、私自身も言ってみれば「やさぐれ」ていたかもしれません。本当 に閉店を考えたほどです。今ではすべて昔のことと割り切れるようになっていますけ ど。 5、お店をやっていて、良かった、嬉しかったと思えた出来事 多くのお客様のお食事中の「美味しい顔」を見ると、この仕事を選んでよかったと思 います。自分が営んでいる店に来てくださったお客様が、ここで飲み食いすることでさ さやかながらも幸せを感じていらっしゃる。こんな私でも人のために役に立っているの かと思うとやはり嬉しいです。 それから、店を始めて、特に学生時代の友人の多くに再会できたことが本当に嬉しい です。大学を卒業して約30年たちますが、それだけ時間がすぎると、昔仲良しだった 友人ともどうしても疎遠になってきて、いつしか連絡もしなくなってしまい、それっき りなんてことも多々ありました。でも、私が新橋で店を始めたということが徐々にそう いった友人達に広まっていき、何人も店に来てくれるようになりました。また、そうい った奴らが、学生時代には面識のなかった同学年の友人を連れてきて私に紹介してくれ て、そういう人達ともたくさん知り合うこともできました。そうやって人間関係の幅が どんどん拡がっていくことも、新橋で店を始めたからこそなので、それも本当に嬉しく 思います。 6、店舗の看板メニューはなんですか? 私が営んでいる店は、料理だけでも百種類以上の品揃えがあります。これは、毎日来 ても色々な美味しいものを食べてもらいたいという思いからです。したがって、看板 メニューはたくさんあります。ここでそのすべてをご紹介することはできませんが、 どうしても食べていただきたいものを挙げるとするなら、「海老しんじょ」、「いかゴロ 焼き」、「牛すじ煮込み」、「山芋ステーキ」、「じゃこポテト」、「だし巻き玉子」です。 どれもメニュー自体、もしくは調理法が当店オリジナルのものです。 特に「海老しんじょ」は、当店で一番人気です。海老しんじょ自体はそう珍しくはな いと思いますが、当店の海老しんじょのあのプリプリでホワホワの食感は、他では味 わえないものと自負しています。海老しんじょのネタを椎茸の傘の部分に詰めた「ど んこしんじょ」、同じくネタを蓮根ではさんだ「蓮根はさみしんじょ」も大人気です。 7、看板メニューの美味しさの秘密はなんですか?(素材や調理方法、提供方法など) 手間を惜しまずにする丁寧な仕込み、食材の品質を損なわない保存法、そしてお客様 に美味しいものを食べていただきたいという思いです。 当店一番人気の「海老しんじょ」を例に挙げれば、たたいた海老と生身(白身魚をす りつぶしたもの)を玉素(卵黄にサラダ油を加えて攪拌したもの)でつないでいくの が仕込みの段階での作業です。海老はたたく前に背ワタをしっかり取り除きます。こ れをしないとできあがった海老しんじょがにがくなります。玉素も海老の量にあわせ て適量をこしらえます。一連のこの作業だけでもかなりの時間と労力を費やします。 開店時までに他のメニューの仕込みもこなさないといけないので、かなり重労働です が、お客様に美味しく食べていただくためには手抜きは許されません。 そしてできあがった海老しんじょのネタは、絶対に冷凍保存はしません。冷凍すると ネタが長持ちするので、一度にたくさん仕込めます。でも、冷凍させたネタで作った 海老しんじょはパサついて美味しくないのです。冷凍させないとネタは二日ほどしか もちません。そのため、仕込みも頻繁にやらないといけませんが、その分最高に美味 しい海老しんじょをお客様にお届けすることができます。 8、これから先の抱負 店を始めて四年近くたちましたが、まだまだ店も私自身も発展途上にあると思ってい ます。より美味しいものをより多くの皆様に食べていただいて、「美味しい顔」を見せ ていただきたいです。そのために必要な努力を今後も積み重ねていこうと思っていま す。そしてその先に、更なる売上や店舗展開が見えてくればいいなとも思っています。 それから、最初にも述べた通り、今の店は、私が客として飲みに行きたい店として作 り上げました。今でも一番行ってみたい飲み屋です。ですから、 「美味いもん処 手八」 にはいつか本当にお客としてゆっくり飲みに行きたいです。
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