EPA とその酸化物のアポリポタンパク質 A

EPA とその酸化物のアポリポタンパク質 A-Ⅰ分泌促進作用
古元 秀洋
海洋生物生産利用学分野
【目的】
高密度リポタンパク質 (HDL)やその主要な構成成分であるアポリポタンパク質 A-Ⅰ (アポ AⅠ)はコレステロール逆輸送系において中心的な役割を果たしており、これらの血中濃度の上昇は
動脈硬化症の予防や改善に有効である。日本人の虚血性心疾患による死亡率は欧米と比べて著し
く低く、その理由の一つとして海産物を中心とした伝統的な食生活が挙げられている。海産物に
豊富に含まれているω3 系高度不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸 (EPA)は抗炎症作用や
中性脂質低下作用を有し、動脈硬化症予防に有効な食品成分の一つである。これまでの研究で EPA
が肝細胞のアポ A-Ⅰ分泌を促進することが示されており、EPA はコレステロール逆輸送系にも関
与していることが推測される。EPA は酸化反応を受けやすく、体内でも多様な酸化物を生成する
ため、EPA のアポ A-Ⅰ分泌促進に酸化生成物や酸化反応が関わっている可能性が充分に考えられ
る。本研究では、EPA および EPA 酸化物のアポ A-Ⅰ分泌に与える影響を検証し、その作用機序を
解明することを目的とした。
【方法】
ヒト肝臓ガン由来 HepG2 細胞を肝細胞のモデルとして用いた。HepG2 細胞を細胞培養用プレー
トに播種し、EPA によるアポ A-Ⅰ分泌に与える影響を調べた。EPA 添加培地で 24 時間培養後に培
地を回収し、ELISA 法でアポ A-Ⅰ分泌量を測定した。また細胞から総 RNA を抽出し、リアルタイ
ム RT-PCR 法でアポ A-ⅠmRNA 発現量を評価した。このとき培養中の酸化や酵素による代謝の影響
を調べるため、抗酸化剤であるα-トコフェロールや COX-2 阻害剤であるアセチルサリチル酸を
EPA と同時に添加し、アポ A-Ⅰ分泌の変化を検証した。
EPA を 40℃で 0-72 時間酸化させ、遊離脂肪酸やヒドロペルオキシド量の変化を測定し、さらに
LC-MS を用いて酸化物の解析を試みた。調製した EPA 酸化物を添加した試験培地で細胞を培養し
た後、アポ A-Ⅰ分泌量を ELISA 法で測定した。EPA 以外の長鎖不飽和脂肪酸がアポ A-Ⅰ分泌に与
える影響についても検証した。
【結果と考察】
HepG2 細胞のアポ A-Ⅰ分泌量は EPA の添加濃度に依存して有意に増加した。このときアセチル
サリチル酸を同時に添加してもアポ A-Ⅰ分泌促進効果に変化は認められなかったが、α-トコフ
ェロール添加により促進効果が抑制された。このことからアポ A-Ⅰ分泌には培養中の酸化反応が
関わっている可能性が示唆された。そこで EPA 酸化物のアポ A-Ⅰ分泌に与える影響を検証したと
ころ、72 時間酸化させた EPA は未酸化 EPA と同程度にアポ A-Ⅰ分泌を促進し、α-トコフェロー
ル同時添加によりその作用は抑制された。EPA を酸化させたとき、遊離脂肪酸は酸化時間に依存
して減少し、24 時間以上でほぼ消失した。一方、ヒドロペルオキシド量は酸化 8 時間までは増加
したが、その後減少した。LC-MS 分析において EPA に酸素原子が複数付加した酸化物に由来する
イオンがいくつか検出された。いずれのイオンも 8-24 時間でピークとなり、その後減少した。以
上の結果から、72 時間酸化させた EPA には高いアポ A-Ⅰ分泌促進活性を有する酸化物が含まれて
いることが示唆された。