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陶磁器産業の振興化に向けた粘土の可塑性評価について
Evaluation of the clay plasticity for promotion of ceramic industry
近藤文義 1・三島香織 1・森山新也 1・八谷英佑 2
1 佐賀大学農学部・2 佐賀大学大学院農学研究科
要旨(Abstract)
本研究は、
「匠の技」への依存度が高い陶磁器産業の振興化に向けて、粘土の可塑性評価をアッ
ターベルク限界によって評価したものである。陶土 3 種類とカオリン粘土 2 種類について、たた
ら作りの技法に適した可塑性や含水比を評価した結果、液性限界や粒度組成等の物理的性質だけ
でなく、強熱減量や陽イオン交換容量等の化学的性質も関与しているものと予想された。
キーワード:粘土の物理・化学性、アッターベルク限界、陶磁器産業
Key words: physical and chemical properties of clay, Atterberg limits, ceramic industry
1.はじめに
2016 年、有田焼は創業 400 周年を迎える。
黒木節、工作用(黄))と、カオリン粘土 2 種
類(AA、BI)を使用した。ここで、AA カオ
しかし、現在では有田焼の売上高は最盛期であ
リンはインドネシア産、BI カオリンはアメリ
る 1990 年頃に比べて約 1/8 程度にまで下がっ
カ・インドネシア産の混合物である。
てきており、今後の需要拡大とその第 6 次産業
物理・化学性については通常の土質実験(地
化への展開が期待されている。また、この種の
盤工学会編,2000)および土壌肥料学実験(青
伝統産業、特に轆轤成形においては陶芸職人の
峰・原田,1968)の方法に準じ、粒度組成、
経験と勘、いわゆる「匠の技」への依存度が高
土粒子密度(PD)、液性限界(フォールコーン
く、近年の後継者不足と相まって技術の伝承に
法による wL)、塑性限界(JIS 法による wp)、
支障を来している問題もある。
陽イオン交換容量(CEC)、強熱減量(IG)、
その一方で、粘土に関係する土壌学や地盤工
pH (H2O)、電気伝導度(EC)の測定を行った。
学等の応用を主体とした分野においては、作物
Table 1 は試料土の物理・化学的性質を、Fig. 1
生産に適した土壌の維持管理や土木工学上の
はそれらの粒径加積曲線をそれぞれ示したも
軟弱地盤対策等として、粘土の物理・化学性に
のである。
関する研究や可塑性評価に関する多数の研究
たたら作りにおいては、粘土の両側に厚さ
成果がこれまでに蓄積されているのも事実で
5mm のたたら板を置き、のし棒で伸ばす。細
ある。本研究は、陶土 3 種類およびカオリン粘
工用カンナを使用し、皿の形にカットする。縁
土 2 種類を対象に、たたら作りの技法に適した
を内側に持ち上げ、直径 5mm の棒をその下に
可塑性や含水比についてアッターベルク限界
置き、約 24 時間風乾させ、その後 180℃の炉
(液性限界、塑性限界)を基に評価したもので
乾燥器内で 1 時間焼成する。試作した作品作成
ある。また、この結果に影響する要因である粘
時の含水比(w)を測っておき、5 種類の試料
土の物理的性質や化学的性質に関して併せて
土についてそれぞれ目視観察で仕上がりが良
検討した結果を報告する。
好であった作品の適正含水比を液性指数
(IL=(w–wp)/(wL–wp))によって評価した。す
2.試料土の性質および実験方法
試料土には市販のオーブン陶土 3 種類(紅陶、
なわち、作品の含水比と液性限界が等しい時に
液性指数は 1 となる。
Table 1 試料土の物理・化学的性質
PD
(g/cm3)
wL (%)
wp (%)
CEC
(cmol/kg)
IG (%)
pH
(H2O)
EC
(mS/cm)
あると判断できる。このカオリン AA、カオリ
陶土
(紅)
陶土
(黒)
陶土
(黄)
カオリ
ン AA
カオリ
ン BI
ン BI について、試料土が板状になる前に断裂
2.02
2.00
2.00
2.62
2.62
して成形が不可能になる限界の含水比はそれ
66
28
7.7
55
20
10.8
60
25
12.9
63
31
5.7
52
27
4.6
27
6.9
26
6.9
28
8.5
13
8.5
12
8.4
0.13
0.31
0.21
0.28
0.55
ぞれ 39%、34%であった。一方、外側にひび
割れがみられず、内側表面も滑らかに仕上げる
ことが可能であった含水比はそれぞれ 42%、
40%であった。また、含水比がこれ以上に高い
場合は作品の表面に凹凸が生じる、あるいはの
し棒に試料土が張り付き成形は不可能であっ
た。この適正含水比を液性指数で表すと、それ
ぞれ 0.35、0.50 であった。
紅陶と工作用(黄)はほぼ類似した粒度組成
であるが、両者に違いが認められるのは陽イオ
ン交換容量と電気伝導度である。また、黒木節
は他の陶土と比較して粘土分と砂分が多い。今
回行ったたたら作りにおける適正含水比に影
響する要因を決定することはできないが、液性
限界や粒度組成等の物理的性質だけでなく強
Fig. 1 試料土の粒径加積曲線
熱減量や陽イオン交換容量等の化学的性質も
関与しているものと予想される。なお、著者ら
3.試作結果および考察
陶土である紅陶、黒木節、工作用(黄)は、
が有田焼工場でのヒアリング調査を行った範
囲内ではあるが、保管中の陶土に生じる「苔」
何れも自然堆積粘土と比較して土粒子密度が
が作品成形時の「粘り気」に影響するとのこと
小さく、また強熱減量が高いのが主な特徴であ
である。この結果がコンシステンシーに影響を
る。この紅陶、黒木節、工作用(黄)について、
及ぼし、また強熱減量や陽イオン交換容量を高
試料土が板状になる前に断裂して成形が不可
めるものであることは容易に予想できる。引き
能になる限界の含水比はそれぞれ 33%、30%、
続き、今後検討していきたいと考えている。
24%であった。一方、外側にひび割れがみられ
ず、内側表面も滑らかに仕上げることが可能で
謝辞
あった含水比はそれぞれ 43%、42%、39%で
本研究は、佐賀大学プロジェクト研究所内のアドバンス
あった。また、含水比がこれ以上に高い場合は
ト・ポーセリン研究所の一環として実施したものである。研
作品の表面に凹凸が生じる、あるいはのし棒に
究の機会を頂きました研究代表者の工学系研究科先端融合工
試料土が張り付き成形は不可能であった。この
学専攻・渡
孝則教授ほか関係各位に謝意を表します。
適正含水比を液性指数で表すと、それぞれ 0.39、
0.47、0.56 であった。
代表的な陶磁器原料の鉱床粘土であるカオ
リン AA、カオリン BI は、何れも土粒子密度
や液性限界、陽イオン交換容量の測定結果から
典型的なカオリナイトを主成分とする粘土で
参考文献
青峰重範,原田登五郎(1968):土壌肥料学実験ノート,養
賢堂,9-19.
地盤工学会編(2000):土質試験の方法と解説―第一回改訂
版―,地盤工学会,54-92,159-165,186-205.