こどもたちのあそびを見ていると,「かりそめ」のあそびではなく,本物の生活に向かう 方向で進歩していくようです。春に見つけた草花で色水をつくるというあそびから布を染 めるという活動に…。もらったザリガニを見て,自分たちでも捕まえたい,そして育てた い,お家はどうする…という活動に。お茶作りが実際に火を使ったあそびに。とれた野菜 を,食べたい,調理したい。写真で見た光るどろだんごをつくりたい…。もちろん先生か らの働きかけもありますが,こどもたちとしても,より本物を目指していくことによって, 実生活に近づいていくことに興味や楽しさを感じています。 二〇世紀の終わりごろ欧米や日本の学校制度が,ある問題をかかええるようになりまし た。それは教育の効率の悪さです。どういうことかというと,学校に入っても十分な力が 身に着かない。卒業できない人が増え,卒業しても学校で学んだことだけでは十分でない ということが起こってきたのです。日本でも「おちこぼれ」の問題は記憶にある方も多い と思います。 ところが,今でも徒弟制度(親方のもとに弟子入りして仕事を覚える制度)で人材を育 てているアジア・アフリカの国々はといえば,大変効率が良かった。一旦入門すると脱落 者はほとんどゼロで,親方のもとを去るときには一人前になっています。そこで研究者た ちは,徒弟制度が学校制度よりも人を上手に育てるのはなぜだろうかということを調べ始 めました。その結果わかったことは,徒弟制度は実生活に結びついていたということです。 学校では,練習の部分が多く,実習ですら責任を持たされることはありません。それに対 して,たとえば仕立て屋で修業をする場合,最後のボタン付けから仕事が割り当てられま す。門弟は一番最後の完成を任されるのです。自分の仕上げた洋服を見て,自分の仕事に 誇りと満足を体験することからすべてがはじまります。だから意欲が増すのです。 こうした徒弟制度の良さを近代の学校制度に生かすことはできないだろうか。いま日本 の学校はこの考えを背景に変わりつつあります。旭ヶ丘幼稚園でも及ばずながら自由保育 の形の中で,こどもに本物を体験してほしいと願っています。
© Copyright 2024 ExpyDoc