国際シンポジウム 「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会図書館サーチ」 オープンデータの潮流と Europeana 2015年1月22日 生貝直人 東京大学大学院情報学環 特任講師 This slide is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License. 1 Europeana • 欧州委員会の主導により2008年開設。欧州35ヶ 国、3,000以上の図書館・美術館・博物館・文書 館等が参加、3,600万以上の文化資源デジタル アーカイブが一括で検索・利用可能なポータル 2 各国における デジタルアーカイブ・ポータルの拡大 • 米国デジタル公共図書館(DPLA) – 2013年開設。1,300以上の文化施設が参加、700万 件以上のデジタル文化資源が閲覧可能 • オーストラリア国立図書館Trove – オーストラリア国内の文化・学術資源4億件以上のメ タデータを一括で検索可能 3 「日本版」Europeanaに向けて • 分野ごとのデジタルアーカイブ構築は積極的に進められてお り、国立国会図書館サーチにより各種文化資源のメタデータ (約1億件)を一括で検索可能、文化庁文化遺産オンラインに は10万件以上の文化資源データが登録 • 登録データ数の拡大、再利用条件のオープン化、そして利活 用モデルの創出をいかに進めていくか 4 デジタルアーカイブ・ポータルの必要性 • デジタル世代に文化資源の価値を伝えるために – インターネット上のデジタル空間に人々の文化的生活 の中心が移る中、いかにして文化資源や文化施設を 公的に維持することの価値と必要性を伝えるか • 文化資源の利活用と価値創出の統合的基盤 – 分散的なアーカイブの発見・利用可能性の向上、再利 用ルールの明確化・平準化 • 世界に向けた文化資源の発信 – 2020年東京オリンピック・パラリンピックを機に、日本 に来訪する数千万人はもとより、広く世界数十億人に 向けた文化資源の全国的発信基盤 5 ネットワーク構造としてのEuropeana 欧州全域の文化施設デジタルアーカイブ 地域アグリゲータ (大規模文化施設等) 分野アグリゲータ (専門家団体・学協会等) 統合プラットフォーム (狭義のEuropeana) 再利用・創造的利用 閲覧・発信 6 各レイヤーの役割 • 全国の文化施設・企業アーカイブ – デジタル化・公開、メタデータ付与、実物保存 • アグリゲータ(地域・分野毎) – デジタル化・公開支援、メタデータ整備、コミュニティ形成 • 統合プラットフォーム(狭義のEuropeana) – 統合的公開基盤、メタデータ基準策定、再利用に関わる共通ルール 策定、多言語化対応 • 再利用・創造的利用 – 利活用モデルの構築(メディアや教育、営利化) 7 Europeanaの対象データ • Europeana:MLA(美術館・博物館・図書館・文書館)を基本 的な対象としてきたが(NDLサーチと異なり、学術情報は主 な連携対象としていない)、近年では商業コンテンツや利 用者投稿コンテンツとの連携を進める • Europeana FashionやEuropeana Newspapers等の現代文 化やメディア情報を対象に含める取り組みを進める他、第 一次世界大戦を対象としたEuropeana1914-1918では、利 用者からのコンテンツやストーリーの提供基盤を整備 8 閲覧用「ポータル」から データ利活用の「プラットフォーム」へ • 欧州デジタル文化資源のオープン化を進め、 Europeanaから一括で利活用可能とすることに基づ く、データ利活用基盤としての役割に重点 Europeana Business Plan 2014 Europeana Labs 9 文化資源デジタルアーカイブと オープンデータ政策 • IT戦略本部「電子行政オープンデータ戦略(2012/7)」 – 「公共データは国民共有の財産であるという認識の下、 公共データの活用を促進するための取組」 – 原則①政府自ら積極的に公共データを公開する – 原則②機械判読可能な形式で公開する – 原則③営利目的、非営利目的を問わず活用を促進する – 原則④取組可能な公共データから速やかに公開等の具 体的な取組に着手し、 成果を確実に蓄積していく • オープンデータポータルdata.go.jpの開設や、自由利 用ライセンス付与の拡大等が進む中、公的な文化施 設のデータをいかに取り扱うか 10 EUにおけるデジタルアーカイブと オープンデータ政策 • 欧州委員会「EUオープンデータ戦略(2013)」 – オープン化の対象となるべき公共データ(public data)の定 義:「EU内の公的機関によって作成され、収集され、あるい は対価を支払った全ての情報を指し、これには地理データ や統計、気象、公的資金提供を受けた研究プロジェクト、図 書館において電子化された書籍等が含まれる」 • 欧州委員会「The New Renaissance(2011)」 – 「加盟国は、公的資金でデジタル化された全ての資料が、 Europeanaを通じてアクセス可能となるようにすべきである」 – 「2016年までには、パブリックドメインにある全ての名作 (masterpiece)を、Europeanaを通じて公開するべきである」 • Europeana「パブリックドメイン憲章」 – 著作権保護期間が満了した作品データの再利用を妨げな いよう求める他、再利用時のクレジット表記等のガイドライ ンを整備 11 Europeana登録データの再利用枠組 • メタデータは、参加機関とEuropeanaの間で結ばれるデータ交換協定に 基づき「CC0」を適用、原則として完全な自由利用が可能 • 作品自体のデータに関しても権利状態の明記を求める他、クリエイティ ブ・コモンズ等の自由利用ライセンス適用を推奨、700万件以上のデータ が再利用可能 • 権利記述共通化により、再利用可能な作品データの一括検索が可能 通常のCCライセンス PDマーク:著作権保護期間満了表記 CC0:著作権等の完全放棄 12 公共セクター情報の再利用指令 (Re-use of public sector information directive、 2003年成立・2013年改正) • EU加盟国の公的機関によって提供・公表される情報は、 第三者が権利を保有している等の例外を除き、原則として 営利・非営利問わず再利用可能とすることを規定 • 従来は対象外であった公的な美術館・博物館・図書館・文 書館を対象に追加 • 加盟国は2015年7月までに国内法化義務 課金の制限 再利用の対価は、限界費用を超えてはならない(実質無償化) 機械判読可 能の確保等 公開情報は、可能な限りで機械判読可能(machine-readable)な標準的な形式 で公開されなければならない他、検索可能性を容易にするメタデータ付与等の 措置を行う必要 監督機関 指令・国内法の規定が遵守されるよう、申立を受け付ける、強制力のある命令 を行うことができる公平な(impartial)監督機関を設置しなければならない 排他的協定 の禁止 企業等との排他的協定は原則として禁止される。文化資源(cultural resources) のデジタル化に関しては当面の間禁止の対象外とされるが、定期的なレビュー を行わなければならないなどの制限 13 大規模デジタルアーカイブ構築に関わる 孤児作品(orphan works)問題への対応 • 権利者が見つからず、デジタル公開の許諾が取れない 作品への対応は、Europeanaの拡大においても焦点に – 死没年不明で保護期間満了時自体が不明な場合も多い • 孤児作品に関するEU大規模調査(2010〜2011) – 大英図書館が所蔵する著作権有書籍のうち、43%が孤児作 品と推定(サンプル調査) – 欧州の映画作品(1,064,000)のうち、およそ21%(215,000) が孤児作品、特に長編(フィーチャー)映画(30%)とノンフィ クション映画(34%)の比率が高い – 英国の美術館・博物館が保有する1700万の写真作品のう ち、著作権者が判明しているのは10%程度のみ 14 EU孤児作品指令 (Certain permitted uses of orphan works directive、2012年成立) • EU加盟国の公的な文化施設(図書館・美術館・博物館・ 文書館・研究教育機関等)は、所定の権利者探索の努 力を行い、その記録を政府機関に提出することで、事前 の供託金等の提出なしに、孤児作品のデジタル化・イン ターネット公開を行うことができる – 一度孤児作品と認められた作品は、権利者が明らかになるま でEU全域で同様に扱われる – EU全体の権利者探索・孤児作品判定を行うためのデータベー ス構築が並行して進められる ARROW(Accessible Registries of Rights Information and Orphan Works towards Europeana) http://www.arrow-net.eu 15 EUにおける文化資源デジタルアーカイブとオープンデータ政策の枠組 2003年:公共セクター情報の再利用指令 各国政府機関・自治体等の保有する公共情報の再利用促進 2013年:同指令大規模改正 図書館・美術館・博物館・文書館等への対象拡大 図書館 美術館 博物館 Europeana 欧州3,000の文化施設、デジタル アーカイブ3,600万点のネットワーク 2012年:孤児著作物指令 権利データベースの構築 文化施設を対象とした、権利者不明著作物利 用の原則無償化 著作権処理の円滑化と、 孤児著作物等の登録 文書館 16 欧州の文化施設・制度枠組の結節点としての Europeanaへの参照を通じて • ネットワーク構造としてのEuropeana – 地域・分野毎のアグリゲータを通じた緩やかなデジタル アーカイブの統合環境の構築、参加文化施設や利用者と のコミュニティ形成 – データ交換協定等を通じたデータ再利用ルールの共通化 • Europeanaを中核とした統合的デジタルアーカイブ 制度枠組の構築 – 再利用を促進するためのオープンデータ法制、孤児作品 対策をはじめとした、デジタル時代の文化政策を統合的 に設計・推進する制度的枠組の構築 17
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