知財と社会 デジタル時代の著作権とオープン化 野口祐子 渡辺智暁 第8回 講義 孤児著作物 2014.5.29 担当:野口 孤児著作物とは • 権利者が不明の著作物 • なぜ、権利者等が不明著作物が増えるの か? – 登録制度がない – 変名、匿名の著作物の増加 – 相続問題(権利は死後も続く) どれほど深刻な問題? • 国立国会図書館の調査では、明治期に刊行 された図書の著作者の実に71%についてそ の連絡先や没年などが不明 – したがって作品単位では71%以上の割合 • British Libraryは2011年、所蔵品の著作権 保護期間中と疑われる作品の約 43%につい て、孤児著作物であるとの推計 権利者がいない → 許諾がとれない! そこで、何らかの対策が必要 対策を取る制度のバランス • 権利者が不明ということは、どんなに努力し ても許諾が取れない=合法に使えない、とい うこと – これは、経済学でいう「市場の失敗」 – 不可能を強いるのはおかしい • 裁定制度での利用を安易に認めると、許諾を 前提としている建前がなし崩しになってしまう – そこで、ある程度の要件が必要 日本では、裁定制度 裁定制度(67条) • 公表された著作物、又は相当期間にわたり公衆に 提供され、若しくは提示されている事実が明らかで ある著作物は、 • 著作権者の不明その他の理由により相当な努力 を 払つてもその著作権者と連絡することができない場 合…は、 • 文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の 額に相当するものとして文化庁長官が定める額の 補償金を著作権者のために供託して、 • その裁定に係る利用方法により利用することができ る。 実際の裁定制度は… • 現実にはほとんど利用されていない – 「相当な努力 を払つてもその著作権者と連絡すること ができない場合」のハードルが高い • 文化庁の見解では… 単に時間や 経費を要するからとか、捜すべき著作権者の人数が 多いからというのは、捜す手間を軽減する理由にはなりません。 • この調査費がまかなえないため、そもそも申請で きない人が多数 たとえば… • 国立国会図書館の近代デジ タルライブラリー • 著作権調査対象約72,000名 • 保護期間満了約20,000名 • 許諾を得た著者は約300名 • 著作権者連絡先不明の約 38,000名の著者について、 文化庁長官の裁定 • 07年度、著作権者の調査と 電子化費用は8100万円。こ の予算では1万冊ちょっとし か公開できない 裁定制度 • 平成21年改正で多少軽減 • 現在は、以下の3つを全て行う必要あり 実績 2011年の授業スライドより:増田雅史さん作成 EU の Orphan Works Directive (25 October 2012) • 利用主体は、公共図書館、教育機関、博物館や美 術館、アーカイブ、文化保存機関、および公共放送 • 孤児著作物であるかどうかについて、各利用機関 が、必要なリソースへの問い合わせ・参照を含む誠 実な調査(diligent search)を行い、その資料を保存 し、国の所轄官庁のデータベースに、その調査結 果・利用内容・利用機関の連絡先を登録(誠実な調 査を行わなかった利用は著作権侵害を構成) EU の Orphan Works Directive (25 October 2012) • 誠実な調査の結果、権利者が見つからないものは 孤児著作物となり、EU全体で、利用可能。各利用 機関は、その公共目的に合致する範囲内で、デジタ ル化と公衆送信のコストをカバーするために対価を 取ることも許される。 • 利用に際して供託金等の提供は不要。 • 後日、データベースを見る等により権利者が申し出 た場合には、孤児著作物のステータスを終了させ、 公共目的(教育・文化の促進等の目的)や権利者に 対する損害等を考慮し、適正な対価を支払う。 参考資料 • 日本の裁定制度 http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-l/ • 裁定制度の改正案に関するパブリックコメント http://search.egov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAI L&id=185000692&Mode=0 • 欧州のOrphan Works Directive http://ec.europa.eu/internal_market/copyright/orphan_work s/index_en.htm 海外調査報告書 http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/riyou_enkatsuka_h oukoku_201303.pdf
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