乳腺基質産生癌の一例

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乳腺基質産生癌の一例
胸水腫瘍細胞の検出に細胞診とセルブロック併用が有用であった一例
◎池上 陽太 1)、樋口佳代子 2)、伊丹川 裕子 1)、石橋 恵津子 1)、小倉 和幸 1)、加藤 昌希 1)、小林 帆波 1)、忠地 花代 1)
社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 1)、社会医療法人財団慈泉会相澤病院病理診断科 2)
【はじめに】乳腺の基質産生癌(matrix-producing
術後 11 ヶ月目に死亡された。
carcinoma)は乳癌取り扱い規約の特殊型に分類される腫瘍
【細胞所見】血性胸水が 1000ml 提出された。細胞所見では、
である。その発生頻度は浸潤性乳管癌の 1%未満であり、
血性背景中にリンパ球と多数の反応性中皮細胞と共に、小
極めて稀な組織型である。今回我々は基質産生癌術後、胸
型細胞よりなる結合性の強い、核重積を示す集団を少数認
膜転移が疑われ、胸水中の少量の腫瘍細胞の確認に、セル
めた。構成細胞は核形不整、核クロマチンの粗顆粒状増量
ブロックを併用し転移の診断に至った一例を経験したので
を示した。細胞数がごく少量であることより良悪性判定困
報告する。
難とし、セルブロックを作製した。
【症例】35 歳女性。既往歴:子宮筋腫にて子宮全摘後。家
【組織所見】セルブロックの組織所見では、血液成分と多
族歴:祖母の姉妹に乳癌。現病歴:右乳房腫瘤を自覚し他
数の反応性中皮細胞に混じって、小型異型細胞の小集塊が
院受診。穿刺吸引細胞診にて悪性と診断され、精査加療目
少数認められた。Alcian Blue 染色では集塊内に筋状の粘液
的の為当院紹介。エコー所見では、右 C 領域に
性間質を認めた。免疫染色では S100(+)、vimentin(+)、
44.1×31.0×36.8mm の低エコー、内部エコー不均一、不整
形の充実性腫瘤を認めた。MRI でも右 C 領域に腫瘤を認め
AE1/AE3(-)、calretinin(-)、抗中皮抗体(-)を示
た。PET 検査で同部位にリング状の SUVmax6.4 の強い集積
【まとめ】本症例のように胸水細胞診でごく僅かな異型細
を認めた。針生検にて基質産生癌と診断され右乳房部分切
胞がみられ反応性中皮細胞と鑑別に苦慮する場合、積極的
除を施行、術後 10 ヶ月目に左胸痛を自覚し救急外来受診、
にセルブロックを作製し、特殊染色や免疫染色を行うこと
胸水貯留を指摘された。胸水細胞診では良悪性判定困難、
が診断精度を向上させるとともに、再検による検査期間の
同検体のセルブロックを作製し基質産生癌の転移と診断。
延長や患者様への負担軽減に繋がると考えた。
し基質産生癌の転移と診断された。