欧州中銀の量的緩和

2015 年 2 月 27 日号
Global Market Outlook
く lo
欧州中銀の量的緩和
3月より実施が予定されている欧州中銀の量的緩和について考えてみました。
1. 規模は必ずしも小さくない
1月22日に開催された金融政策決定会合で欧州中銀は量的
緩和に踏み切ることを決定しました。購入規模は従来からの資
産担保証券、カバードボンドとあわせて月間600億ユーロとな
りました。内訳は国債が450億、政府関連機関債50億、従来
20%
グラフ1:年間購入額対GDP比
15%
10%
5%
の資産100億ユーロ程度と思われます。
市場の一部では年間で7200億ユーロはGDPの8%程度で
0%
日本
あり、充分ではないという見方もあります。グラフ1のように米国
の量的緩和第3弾(QE3)の6%は上回るものの、16%にも達
する日本の「異次元緩和」に比べると見劣りはします。
米国
ユーロ
資料:日本銀行、FRB,欧州中銀等から弊社作成
グラフ2:国債購入額対発行残高比
12%
ところが発行残高に対する国債購入額の比率をみると、グラ
フ2のように日本と肩を並べる水準となります。もちろん日本の
10%
8%
6%
4%
累積財政赤字が巨額であることが背景です。
2%
またグラフ3のように年間のネットの発行(見込み)額と比較す
0%
日本
ると、その比率は日本を上回ることになります。ユーロ圏では財
米国
ユーロ
資料:日本銀行、FRB,欧州中銀等から弊社作成
政赤字に対する縛りが厳しく、ギリシャでさえ財政黒字が求めら
れている状況であり、新規発行が制限されているためです。
グラフ3:国債購入額対ネット発行額
300%
250%
200%
2. 「大規模」であることの問題点
150%
GDP比はともかくとして、国債市場の規模を考えるとかなりの
緩和効果が期待できるわけですが、その影響について懸念も
100%
50%
0%
日本
残ります。
米国
ユーロ
資料:日本銀行、FRB,欧州中銀等から弊社作成
①計画通りの実施が可能なのだろうか?
当然のことですが、欧州中銀が国債を購入しようとすると、売り手をみつける必要があります。ところがそれほ
ど簡単なことではないと思います。
・供給量の不足
日本では極端な場合、金融機関が財務省の入札に応札し、すぐに日本銀行に売却するといったことも行われて
いるようです。しかし欧州では緊縮財政を義務付けられていることから、各国とも新規国債の発行は抑制されて
おり限界があろうかと思います。また日本では偶然ながら(?)「異次元緩和」と同時期に年金基金が株式比率を
引き上げ(国内債券を引き下げ)ることになり、結果的に売却される債券を日本銀行が引き取るということにもな
っています。欧州ではこういった存在は見当たらないと思います。
-1-
・マイナス金利
昨年6月、欧州中銀はマイナス金利の導入を決定しました。本レポート
表1:中央銀行による付利
2014年6月6日号で「マイナス金利を課した上での大規模資産購入は無理
がある」と記しました。マイナス金利は本来、金融機関に対し中央銀行に対
する預け金を減らし(マイナス金利というペナルティーを課することにより)貸
日本
米国
ユーロ圏
所要準備 超過準備
0.00
0.10
0.25
0.25
0.05
-0.20
し出し増のインセンティブをつけることを意図したものです。一方量的緩和は
資料:各中央銀行
中央銀行が資産を購入することにより金融機関に大量の預け金を保有させ、その資金が溢れだし経済を刺激す
ることを意図した政策であり、両者の方向性は全く反対と言えます。金融機関の視点に立てば、中央銀行に国債
を売却するということは、保有している国債をマイナス金利の超過準備と交換するということになります。積極的
には応じたくないというのがホンネでしょう。表1は日米欧の準備預金に対する現在の付利レートですが、日本銀
行は超過準備にのみ0.1%、米国は所要、超過準備とも0.25%を付利しています。
・金融機関に対する規制
2008年秋に市場を襲った金融危機の反省から、グローバルで金融機関に対する規制は厳しさを増しています。
欧州中銀も民間金融機関に対し資産査定を行いました。欧州経済は回復基調にあるとは言え、そのペースは非
常に緩やかで健全な借り手は簡単には見つからないと思います。銀行のみならず保険会社等も含め、国債に対
する需要は今後とも非常に強いと思います。
②力ずくで行った場合の市場の歪み
・マイナス金利の拡大
売り手が少ないところを中央銀行が無理やり買おうとすると債券価格が上がり、長期金利は低下することになり
ます。現在でさえドイツ国債は5年ものまでがマイナスとなっており、さらなる低下(マイナス幅の拡大)の「副作
用」が懸念されます。また中央銀行がマイナス利回りの国債を購入し満期まで保有すると損失が発生します。
・流動性の枯渇
日本でもその兆候が見えつつありますが、流動性が低下すると市場が不安定となり価格が「ちょっとしたこと」で
予期せぬ波瀾が起きることも否定はできません。また市場機能の低下も気になるところです。
3. もし実施が難しくなった場合の対応策は?
①制限を緩和、対象を拡大
現在、購入については同一銘柄については発行残高の25%以内、同一発行体については残高の33%を上限
としています。その制限の緩和や、国債だけではなく社債をも含めた購入対象の拡大も選択肢と考えられます。
②付利金利の引き上げ
昨年決定したマイナス金利を逆戻りさせるということですが、この可能性は低いと思います。
③規模縮小
「副作用」が効果を上回ると判断した場合、規模の縮小も否定はできません。しかしこの場合でも国債が売られる
ことはないでしょう。購入が困難になったことによる規模縮小であり、かりに売られたとすれば中央銀行が買えば
よいということになります。
3月5日に予定されている金融政策決定会合後のドラギ総裁の記者会見で量的緩和の詳細が明らかになると
思います。ドラギ総裁としては「副作用」が効果を上回る前に景気回復が進行し、そもそも量的緩和の必要がなく
なることを望んでいることでしょう。
-2-
※ 2014年10月以降のレポート
10月号
2014年度第2四半期の市場動向と今後の見通し
10月30日号
米国は量的緩和を終了
11月5日号
大きく乱高下した10月の金融市場
11月6日号
米国中間選挙と金融市場
12月18日号
米国金融当局は慎重ながらも利上げに向けて一歩前進
12月25日号
2014年グローバル金融市場10大ニュース
1月5日号
2015年金融市場の「初夢」
1月号
2014年度第3四半期の市場動向と今後の見通し
1 月22日号
原油価格急落の背景、影響と今後の見通し
2月5日号
マイナス利回りの国債が急増
2月10日号
案外「素直な」為替市場
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