第 66回 日本東洋医学会学術総会 実践漢方セミナー4 「神経・筋疾患」 -漢方治療が有用な疼痛性神経・筋疾患について – - 病態の把握と対応する漢方方剤 - 医療法人ひのき会 証クリニック 神田・吉祥寺 檜山 幸孝 Visit http://www.kampo-future.com © 2015Y.Hiyama 様式 3-A 一般社団法人日本東洋医学会 利益相反(COI)開示 檜山 幸孝 第 66回 日本東洋医学会学術総会 実践漢方セミナー4 演題発表に関連し、 開示すべき利益相反(COI)関係にある企業などはありません。 http://www.kampo-future.com © 2015 Y.Hiyama 疼痛 西洋医学的 出現機序別分類 - 侵害受容性疼痛 - 神経障害性疼痛 標準的神経治療:慢性疼痛 日本神経治療学会2010 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 日本ペインクリニック学会2011 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 疼痛 – 侵害受容性疼痛 生理的痛 【内臓痛】 【体性痛】 ・局在が漠然 ・局在が明確 ・鈍い/重い痛み ・鋭い/激しい痛み(突出痛) ・レスキュードラッグ フェンタニル速放性製剤 ・オピオイド有効 炎症性痛 http://www.kampo-future.com © 2013 Y.Hiyama 疼痛 – 神経障害性疼痛 痛覚受容器の刺激ではなく、末梢神経系あるいは中枢神経系 における損傷、または機能障害に起因する。 - 灼熱痛・刺痛・電撃痛 - 難治性 - オピオイド効果不十分 - 補助薬を必要とする - 抗うつ薬ノルトリプチリン,デュロキセチン, 抗痙攣薬ガバペンチン,プレガバリン, - 外用薬リドカインパッチ、ブプレノルフィンテープ http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 疼痛性疾患に対する漢方治療 - 漢方医学では疼痛をどう捉えるか - 漢方医学的病態と治療法 病態の分析 アプローチの仕方(瀉法・和法・補法) 治療の目標(標治・本治・標本同治) http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では 疼痛をどう捉えるか http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学的病態と治療法 病態の分析 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学における疼痛の病理 実痛 不通則痛・通則不痛 → 例)寒凝瘀血 虚痛 不栄則痛 → 例)腎気虚損 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 気・血・水からみると 気 の 異 常 http://www.kampo-future.com 血 の 異 常 水 の 異 常 © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 気・血・水の異常 http://www.kampo-future.com © 2010 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 五臓の相互関係と病機 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 五臓の病機からみると 肝 肝の機能: 蔵血・疎泄を主る 「疎=通」、泄=散 肝陽上亢 イライラ~緊張持続状態~不眠症 興奮状態 肝気欝結 肝血虚・肝陰虚 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 五臓の病機からみると 心 心の機能:血脈・神志を主る 血脈=気血が運行する通路 神志=精神、意識、思惟 心陰虚火旺→心陽上亢 心陽上亢:不安、興奮、不眠、動悸、焦燥感 心陽虚:徐脈、結代、息切れ、易疲労 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 五臓の病機からみると 脾 脾の機能:運化と昇清 運化:運=搬送、化=変化 水穀+水液→吸収→水穀の気+津液 昇清:水穀の精微を心・肺へ送り、気・血を 臓腑器官に配布すること 脾の機能:生化と統血 生化:血を生成すること 統血:血が血脈から漏れ出ないようにすること =固摂 脾気虚 脾陽虚=脾気虚+寒証 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 五臓の病機からみると 腎 腎の機能:精を蓄え供給する 精=生命を維持する 基本物質 先天の気は自らの生命活動に伴い 充実し、消長してゆく ①腎陰虚→腎陽上亢 →心火旺(水克火) ②腎陽虚:虚寒証 ③腎気虚:①+②=腎精不足 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 五臓の病機からみると 肺 肺の機能:気を主り、呼吸を主る 宣発作用:気血や津液を全身に配布 粛降作用:体表の皮毛に衛気や水穀 の精微を送る。 肺陰虚:火旺→大逆上気 肺気虚 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 病因 外因 内因 不内外因 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 病因:外因=外感 風邪 対応する気血レベルが低→気血の順行が低下→神経・筋系に障碍 =筋痙攣、関節のこわばり・痛み、神経痛 寒邪 温煦(おんく)作用低下→気血の順行低下→神経・筋系に障碍 =筋痙攣、関節のこわばりや痛み、神経痛を生ずる。 湿邪 津液の代謝障害から水→痰 夏には熱邪と結び湿熱、冬には寒邪による腎陽虚が水滞悪化 →気血の順行低下→神経・筋系に障碍・・・・・・・・・ http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 病因:内因=内傷 内寒 内熱内火 ≒肝陽虚→冷えて痛む。 陰虚火旺、心肝火旺 心陽虚が加わることが常。 →不安・緊張 慢性化すると脾気虚 →痛みの増強 内風 内湿 熱盛生風、血燥生風、肝陽化風→痙攣 津液の代謝障害から水滞となる:めまい、頭重 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学では疼痛をどう捉えるか 病因:不内外因 飲食不足・過度 労逸・怠惰 睡眠不足(夜更かし) http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 今回取り上げる疼痛性神経・筋疾患 頭部の痛み(緊張型頭痛、片頭痛、非定型顔面痛) 神経痛(三叉神経痛、肋間神経痛、坐骨神経痛) 筋肉痛・こり(筋けいれん~こむら返り) 筋力低下(時間の都合で割愛、抄録に掲載) http://www.kampo-future.com © 2015 Y.Hiyama 慢性頭痛の診療ガイドライン2013 日本頭痛学会 片頭痛 急性期治療薬①アセトアミノフェン②NSAIDs③エルゴタミン④トリプタン⑤制吐剤 月経時片頭痛①トリプタン②NSAIDs 予防療法①抗てんかん薬(バルプロ酸、トピラマート)②抗うつ薬(アミトリプチリン) ③β遮断薬(プロプラノロール>メトプロロール)④Ca拮抗薬(ロメリジン) 緊張型頭痛(反復性→頻発型、慢性) 急性期治療薬①アセトアミノフェン500mg ②NSAIDs:アスピリン500~1000mg イブプロフェン200~800mg ロキソプロフェン60mg ③抗不安薬(エチゾラム、アルプラゾラム) 予防療法①抗うつ薬(三環系:アミトリプチリン5→30mg) ②筋弛緩薬(チザニジン、エペリゾン) ③四環系抗うつ薬(マブロチリン、ミアンセリン、セチプチリン) ④SNRI(ミルナシプラン、デュロキセチン) or NaSSA(ミルタザピン) [注]②③は副作用が少ないため選択される。 http://www.kampo-future.com © 2010 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 気・血・水の異常 水滞 頭重感~緊張型頭痛~血管性頭痛 瘀血 生理周期に関連した血管性頭痛 気逆・気鬱 頭重感~緊張型頭痛~血管性頭痛 ------------------------------------------------------------------------------------ 冷え・寒:寒厥 血管性頭痛 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 水滞 随伴するめまい(感) 気逆を伴う 脾気虚→痰飲の存在 潜在する裏寒に留意 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 対応する方剤の選択 水滞 急 ①五苓散 性 期 ②苓桂朮甘湯 慢 ③半夏白朮天麻湯 性 ④: ①+柴胡剤 期 (大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、柴胡桂枝乾姜湯) ②+駆瘀血剤/補血剤(四物湯) ③当帰芍薬散 [重要生薬]沢瀉、蒼朮、茯苓 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 対応する方剤の選択 瘀血 瘀血:目のクマ(消長あり)、しみ 気逆:頭痛以外の症状・徴候 →のぼせ、顔面紅潮、動悸 随伴するめまい(感) *併存する血虚、水滞:単純ではない! http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 対応する方剤の選択 瘀血 急 ①桃核承気湯、通導散 性 期 ②桂枝茯苓丸 慢 ③血虚:当帰芍薬散 性 ④瘀血:加味逍遙散+桂枝茯苓丸 期 ⑤: ①+柴胡剤 (大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、柴胡桂枝乾姜湯) ②+駆瘀血剤/補血剤(四物湯) [重要生薬]川芎、芍薬、牡丹皮 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 対応する方剤の選択 気逆・気鬱 *血虚・瘀血を伴う ☆☆☆肝気欝結→肝鬱化火 ☆☆肝陰虚火旺=肝陽上亢 ★腎陰虚→腎陽上亢 →肝陰虚→肝陽上亢 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 対応する方剤の選択 気逆・気鬱 急 ①風寒:川芎茶調散、葛根湯 性 期 ②寒厥:呉茱萸湯、桂枝人参湯 慢 ③肝陽上亢:釣藤散、七物降下湯 性 ④肝欝化火:加味逍遥散、女神散、竜胆潟肝湯 期 ⑤: ①兼用:柴胡剤(大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、柴胡桂枝乾姜湯) ②+補血剤(四物湯) [重要生薬]桂皮、芍薬、川芎 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 頭痛(緊張型頭痛・片頭痛) 冷え・寒 対応する方剤の選択 「寒気勝者為痛痺=寒痺」素問 巻第十二 『痺論篇』 風寒:「痛みは寒気多きなり。寒ある故に痛むなり」 辛温解表:桂枝湯類、葛根湯 内寒:腎陽虚→内寒 温裏:人参湯、真武湯 寒厥:気血順行途絶、裏寒 http://www.kampo-future.com 温中散寒 止痙 止痛 © 2011 Y.Hiyama 非定型顔面痛 西洋医学的病態と治療 ①痛みの性質:顔面の深部のうずくような、締め付けられるような ②三叉神経の走行に沿わず発作性ではなく持続するため不快。 ③自律神経・血管支配に合致する分布:範囲が変化 片側が多い ④自律神経症状(流涙、顔面紅潮、鼻閉) ⑤交感神経節ブロックが有効抗うつ剤(アミトリプチリン、セチプチリン)が有効 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 非定型顔面痛の漢方治療 症状から: 気鬱 (頭冒感、頭重感) > 気逆 > 気虚 (上気) (無気力) →疏肝解欝: 大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散 柴胡疎肝湯、抑肝散、柴胡桂枝乾姜湯 徴候から: 瘀血>血虚=水滞 →活血化瘀: 通導散、桃核承気湯、桂枝茯苓丸、加味逍遙散 →利水消腫・補血: 当帰芍薬散、 →補陰・補血: 溫経湯 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 神経痛(神経障害性疼痛) 末梢神経系、中枢神経系における損傷、機能障害に起因する。 気鬱>気逆>気虚 瘀血>血虚 水滞 (随伴するめまい、浮腫)>津虚 ---------------------------------------------------------------冷え 外寒・寒邪による悪化 裏寒≒腎陽虚 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 三叉神経痛の漢方医学的病態 症状から わずかな刺激で誘発される、強烈な痛み → 気血の順行が途絶:行気・理気、行血 次いで生じる水滞:利水消腫 発症時期から 発作は春先と秋口に頻発:疲れが出る時期に予防的対策 → 気虚and/or血虚:補気/補血 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 三叉神経痛 西洋医学的病態から 漢方医学的病態・治法へ (日本神経治療学会 標準的神経治療:三叉神経痛 2009) ①三叉神経のroot entry zoneにおける圧迫→三叉神経の浮腫 →水滞:利水消腫 五苓散の有効例多数 ②神経原性疼痛の興奮性抑制:抗けいれん薬 →肝鬱血虚:養血柔肝、疏肝解鬱 柴胡桂枝加芍薬湯、芍薬甘草湯 →気逆・瘀血:活血化瘀、降気 桃核承気湯 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 肋間神経痛 気・血・水からみると 気鬱=瘀血>水滞(局所に腫れ):五積散 五積散 陳皮・枳殻(理気) 川芎・当帰(活血化瘀) 蒼朮・厚朴・茯苓(袪湿) 半夏・桔梗・陳皮(去痰) 芍薬・甘草(補陰・止痙) 麻黄・白芷(去風散寒) 乾姜・桂皮(温裏散寒) http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 肋間神経痛 五臓の病機からみると ①肝気欝結:疎肝解鬱 大柴胡湯、四逆散、柴胡桂枝湯、抑肝散(陳皮半夏) ②脾気虚→痰飲→去痰 補気健脾: 四君子湯、人参湯 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 肋間神経痛 病因:外因=外感 寒邪:桂枝加朮附湯、当帰湯 湿邪:五積散(寒邪+) 風邪:葛根湯、薏苡仁湯 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 腰痛・坐骨神経痛 五臓の病機からみると 血虚(瘀血)+水滞 ☆☆ 気鬱=瘀血>水滞(局所に腫れ):五積散 ☆ 血虚・瘀血:疎経活血湯 ☆ 気逆・瘀血:桃核承気湯(+四物湯) http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 腰痛・坐骨神経痛 五臓の病機からみると 腎虚:[腎陰虚>腎陽虚] →進行して [腎陰虚+腎陽虚] 脾気虚>肝血虚の併存に留意 八味地黄丸:附子を漸増 強い痛みに 芍薬甘草(附子)湯を兼用 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 筋痛 肩こり 気鬱、気虚 瘀血、血虚 肝気鬱結 筋けいれん~こむら返り 血虚→芍薬 (腎陽虚→肝血虚) 水滞→蒼朮、茯苓 冷え=陽虚を伴うこと多→乾姜、附子 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 筋力低下 筋のトーヌス低下:肝血の低下に注目 →養血柔肝 筋の萎縮:脾気虚に注目 →補気健脾 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学的診断の要諦 病態の首座はどこにあるか 神経痛だから表にあると決めつけぬこと ①陰陽・虚実 ②気、血、水 ③五臓 特に肝=心>腎の関与 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方医学的診断の要諦 併存する病態はないか 難治の時に考慮 ①脾気虚 ②腎陽虚:裏寒の存在 見落としやすい虚寒証 潜証(小倉重成先生) 虚寒証の顕在と潜在--いわゆる潜証をめぐって 日本東洋医学雑誌, 31, 179, 1981 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方方剤選択の要諦 単方か合方か simple is best but the pathology of a patient is not simple. 急性期は単方で 慢性期・間欠期は単方<合方(兼用) http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 漢方方剤選択の要諦 合方か兼用方か 併存する病態の座標による 陽証・実証 ⇔ 陰証・虚証 (瀉剤) (補剤) 兼用:先補後瀉 http://www.kampo-future.com © 2011 Y.Hiyama 謝辞 以下の先生方に大いに inspire されました。 ご芳名 所属 専門 中川 美里 先生 日野市立病院麻酔科 日本麻酔科学会 専門医・指導医 井上 美貴 先生 がん研有明病院総合内科 日本腎臓学会 腎臓専門医 余郷 麻希子 先生 東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター 神経内科 日本神経学会認定 神経内科専門医 杉本 耕一 先生 JR東京総合病院 血液・腫瘍内科 日本血液学会 血液専門医・指導医 嶋田 昌彦 先生 東京医科歯科大学 大学院歯学総合研究科 疼痛制御学分野 日本歯科麻酔学会 歯科麻酔指導医 Visit http://www.kampo-future.com © 2015 Y.Hiyama
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