硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物の 機械的性質

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硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物の機械的性質,流動性及び耐圧性に及ぼすりんの影響
研究論文 特集 「銅合金鋳物の最近の進展」
硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物の
機械的性質,流動性及び耐圧性に及ぼすりんの影響
丸 山 徹* 阿 部 弘 幸** 松 林 良 蔵*** 寺 村 正 和****
明 石 隆 史***** 佐 藤 信 仁****** 小 林 武*******
Research Article
J. JFS, Vol. 87, No. 12(2015)pp. 849 ~ 854
Special Issue on Recent Development on Copper Alloy Castings
Influence of Phosphorus on Mechanical Properties,
Fluidity and Pressure Toughness of Lead Free Bronze
Castings with Dispersed Sulfide Particles
Toru Maruyama*, Hiroyuki Abe**, Ryozo Matsubayashi***,
Masakazu Teramura****, Takafumi Akashi*****,
Nobuhito Satoh****** and Takeshi Kobayashi*******
Lead-free bronze castings dispersed with sulfide particles, whose main composition is the same as JIS CAC411, and which
contains over 0.05mass% phosphorus as a residual element, were prepared. Tensile test, fluidity test, microstructure test, and
pressure toughness test of the lead-free bronze castings were carried out. Results of tensile tests on JIS CAC406 castings,
which are used as common bronze castings, show that the elongation of some specimens containing over 0.05 mass% phosphorus is below the JIS requirement of 15%. In contrast, the elongation of the lead-free bronze castings with dispersed sulfide
particles was over 15% even when phosphorus content was increased to about 0.1mass%. Increasing the phosphorus content
improves the fluidity of the lead-free bronze castings and realizes excellent pressure toughness. In addition, the results of
measurement of elemental distribution by EPMA reveal the presence of regions composed of phosphorus and nickel near the
sulfide particles. This suggests that a certain amount of phosphorus exists as a compound composed of phosphorus and nickel.
Keywords : fluidity, lead-free bronze castings, mechanical properties, microstructure, phosphorus, pressure toughness,
sulfide
1.緒 言
されているようである.
薄肉部と厚肉部が混在するバルブなどの場合は,肉厚差
水道用のバルブやメータケースには耐食性 ・ 耐圧性 ・ 鋳
があっても耐圧性に優れる素材を選択することが望まれ
造性に優れた青銅鋳物が用いられている.その素材には旧
る.一般に Cu-Sn 系青銅の凝固はマッシー型凝固である
来より CAC406(JIS H5120)が用いられているが,この合
ので,厚肉部に鋳巣が発生しやすく,内部から製品表面に
金には人体にとって有毒な鉛を含むため,その使用は制限
連結した鋳巣が形成されると耐圧性が低下する.Cu-Sn 系
され,青銅鋳物の鉛フリー化が進んでいる.鉛フリー青銅
の合金の中でも CAC411 は厚肉であっても耐圧性に優れ
の種類は多く,それらのほとんどにおいて,鋳物の機械的
ていることが知られている
性質は CAC406 と同等以上であることが JIS 規格によって
凝固が表皮生成型凝固であるためとされている
定められている.一方,耐食性,耐圧性,切削性,鋳造性
し,鋳込み後における表皮生成が早過ぎると欠陥発生のリ
は合金ごとの特徴があり,用途に応じて適当な合金が選択
スクが高くなる.例えば,溶湯に巻き込まれた空気や溶湯
1, 2)
.その理由は,この合金の
1, 3)
.しか
受付日:平成 27 年 9 月 5 日,受理日:平成 27 年 11 月 4 日(Received on September 5, 2015; Accepted on November 4, 2015)
* 関西大学 化学生命工学部 Faculty of Chemistry, Materials and Bioengineering, Kansai University
** 滋賀県東北部工業技術センター North Eastern Industrial Research Center of Shiga Prefecture
*** (株)マツバヤシ Matsubayashi Co., Ltd.
**** (株)ビワライト Biwalite Co., Ltd.
***** (株)明石合銅 Akashi Gohdoh Inc.
****** 兼工業(株) Kanekogyo Co., Ltd.
******* 関西大学 名誉教授 Kansai University
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から生じた気泡が溶湯から浮上して無くなる前に表皮が形
とを検討するために試料 No. 1 ~ 5 の目標組成とした.試
成し,溶湯内に気泡が閉じ込められると欠陥につながる.
料 No. 406 は CAC406 と同じ主要成分の組成でりん量が残
この対策としては鋳込み温度を高くすることが考えられる
余成分を超えた試料とした.試料 No. 1 ~ 3 は Sn,Zn 及
が,溶湯温度を高くし過ぎると亜鉛の蒸発損失や鋳型への
び Ni 量を JIS 規格で定められている CAC411 の成分範囲
熱影響が大きくなる.そこで,湯流れ性を向上させて溶湯
の中央付近とし,硫黄量を約 0.5mass%,りん量を 0.03 ~
充填完了温度を高くすることや固液共存温度範囲を広げる
0.09mass% に 変 化 さ せ た 試 料 と し た. 試 料 No. 4 は Sn,
ことが対策として考えられる.
Zn 及び Ni 量を JIS 規格で定められている CAC411 の成分
湯流れ性と凝固温度範囲を大きくするには,溶湯中のり
範囲内のほぼ最大値とし,硫黄量を最小値とした試料とし
ん量を増加させると効果的と考えられるが,Cu-Sn-P 合金
た.試料 No. 5 は Sn,Zn 及び Ni 量が最も少なく,硫黄量
鋳物の延性はりん量が大きくなると低下することが知られ
が最も多い試料とした.試料 No. 4 及び 5 は CAC411 の機
4)
ている .このことから,JIS 規格における CAC411 のり
械的性質が最も大きくなる組成及び最も小さくなる組成
ん量の残余成分は 0.05mass% 未満と定められていると考
にそれぞれ対応する .溶解容量の都合上,引張試験片の
2)
えられる.一方,CAC411 は他の CAC400 系合金と比べて
数は試料 No. 1,2 及び 406 については 10 本,No. 3 につ
Sn 及び Zn の量が少ないことと,凝固型が大きく異なるに
いては 4 本,No. 4 については 22 本,No. 5 については 26
も関わらず,CAC411 の諸特性に及ぼすりん量の影響に関
本となった.なお No. 4 及び 5 の成分分析は複数行い,そ
する報告はほとんど無いようである.りん量が 0.05mass%
の最大 ・ 最小値を Table 1 に記載した.JIS H5120 の A 号
以上含んだとしても JIS 規格で求められる性質が保障でき
試験片採取用鋳型に鋳造した鋳物を JIS 4 号試験片に加工
るのであれば,CAC411 の生産設計の自由度が大きくなる
して引張試験に供した.引張強さ,伸び及び 0.2% 耐力を
ことが期待できる.そこで,本研究では CAC411 に対して
求めた.この他,りん量を CAC411 の残余成分範囲内の
りん量を残余成分範囲(0.05mass%)以上添加した鋳造試
試料(試料 No. 6)とそれを超えた試料(試料 No. 7)につ
料を作製し,引張試験を行った.さらに,湯流れ性,耐圧
いて流動性評価のために渦巻き状鋳物が得られるシェル
鋳型に鋳造を行い,流動長さを測定した(試験回数は各 1
性及び肉厚感受性を調べた結果を報告する.
回).湯溜りから鋳型に繋がる経路を予熱した黒鉛棒を挿
2.実験方法
入して溶湯をせき止めながら湯溜りに注湯後,溶湯温度が
溶解原材料には CAC411 のインゴットを用い,成分調整
1180℃となった時に黒鉛棒を抜き取って溶湯を鋳型内に
用には純金属又は母合金を用いた.高周波誘導炉によっ
導いた.得られた渦巻き状鋳物の堰付近の光学顕微鏡組織
てインゴットを溶解し,溶解中の溶湯温度は 1230℃を
観察を行い,りん量の違いによる組織の変化を調査した.
目標温度とした.インゴットが溶解した後,必要に応じ
さらに,EPMA により元素マッピングを行い,りんと他
て成分調整用の純金属 ・ 母合金を加えた.注湯目標温度
の合金元素の分布との間の対応を調べた.肉厚が 10,20,
は 1180 ~ 1200℃とした.脱酸及びりん量の増加には Cu-
30 及び 40mm の階段状試験片が得られる鋳型にも注湯を
15mass%P 合金を用いた.Table 1 に鋳造試料の組成を示
行い,得られた鋳物の断面の染色浸透探傷試験を行った
す.試料 No. 406 及び No. 1 ~ 5 は機械的性質の評価用に
(試料 No. 8 及び 9).25A のボールバルブ本体の鋳物を 84
溶製した.CAC411 の主要成分規格値の全ての範囲におい
個作製し,これらの外観検査及び耐圧性試験(0.5MPa)を
て,りん量が増加しても機械的性質の規格値を満たすこ
行った(試料 No. 10).
Table 1 Chemical compositions of lead-free bronze castings with dispersed sulfide
particles and leaded bronze castings(mass%).
硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物及び鉛入り青銅鋳物の化学組成(質量 %).
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No.
Cu
406
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
85.07
92.91
92.58
92.4
89.9�90.9
94.1�94.8
92.4
92.3
89.9
94.1
92.1
850
Sn
4.83
3.81
3.84
4.0
4.6�4.8
2.9�3.0
3.8
3.7
4.8
3.0
4.1
Zn
4.67
2.26
2.54
2.5
2.5�2.9
1.0�1.2
2.5
2.5
2.9
1.2
2.5
Ni
0.19
0.31
0.30
0.3
1.0
0.1�0.2
0.3
0.3
1.0
0.1
0.3
S
P
Pb
0.09
0.55
0.54
0.46
0.2
0.5
0.5
0.5
0.2
0.5
0.5
0.112
0.033
0.061
0.088
0.08�0.11
0.07�0.11
0.045
0.103
0.08
0.08
0.134
4.96
0.08
0.08
0.05
0.01
0.01
0.08
0.08
0.01
0.01
0.08
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が増加しても引張強さに変化はほとんど無く,耐力は僅
3.実験結果及び考察
かに増加する傾向を示したが,伸びは減少した.Fig. 3 に
CAC411 の主要成分範囲内で強度が最も大きくなる組成近
3. 1 機械的性質
Fig. 1 に Sn, Zn, Pb 量が CAC406 と同等の合金でりん量
傍の試料にりんを残余成分以上に添加した鋳造試料(No.
が 0.11mass% の鋳造試料(No. 406)の引張強さと伸びの
4)の引張強さ及び伸びを示す.引張強さが大きい試料で
関係を示す.引張強さが大きい試料は伸びも大きいという
は伸びも大きく,引張強さの平均値は 293MPa,耐力は
鋳造材の特徴が認められた.図中の破線は JIS 規格で求め
162MPa,伸びは 30% であった.Fig. 4 に CAC411 の主要
られている引張強さ(195MPa)及び伸び(15%)を示して
成分範囲内で強度が最も小さくなる組成近傍の試料にり
いる.引張強さは多くの試料において 195MPa を超えてい
んを残余成分以上に添加した鋳造試料(No. 5)の引張強さ
るが,伸びは 10 本中 3 本が 15% 未満であった.このこと
4)
から,りん量が過剰であると伸びが低下すること が確認
Fig. 2 に Sn, Zn, Ni 量が CAC411 と同等の合金でりん量
を変化させた鋳造試料(No.1 ~ 3)の引張強さ,耐力及び
伸びを示す.なお,試料 No. 3(りん量:0.088mass%)の
Tensile Strength, MPa
耐力においては,記録時の都合により欠測した.りん量
300
15%
Tensile Strength, MPa
された.
300
250
40
30
20
Elongation, %
0.08~0.11mass% のりんを含み,CAC411 の主要合金
元素の範囲において強度が最も大きくなる組成の鉛フ
リー青銅鋳物(No. 4)の引張強さと伸びの関係.
0.11mass% のりんを含む鉛入り青銅鋳物(No. 406)の
引張強さと伸びの関係.
250
35
30
25
200
20
150
Elongation, %
Tensile Strength
Proof Stress
Elongation
15
0.05
0.1
Phosphorus Content, mass%
0.15
Fig. 2 Relationship between phosphorus content and
mechanical properties of lead-free bronze castings with
dispersed sulfide particles(No. 1~3).
Tensile Strength, MPa
Fig. 1 Relationship between tensile strength and elongation of leaded bronze castings(No. 406)containing
0.11 mass% phosphorus.
300
40
30
20
Elongation, %
Fig. 3 Relationship between tensile strength and elongation of sulfide dispersed lead free bronze castings
(No. 4)with chemical composition in which strength
becomes largest in range of main alloying element of
CAC411, containing 0.08 to 0.11 mass% phosphorus.
195MPa
200
10
Tensile Strength, MPa
Proof Stress, MPa
195MPa
200
10
250
0
15%
300
15%
250
195MPa
200
10
30
20
Elongation, %
40
Fig. 4 Relationship between tensile strength and elongation of sulfide dispersed lead free bronze castings
(No. 5)with chemical composition in which strength
becomes smallest in range of main alloying element of
CAC411, containing 0.07 to 0.11 mass% phosphorus.
0.07~0.11mass% のりんを含み,CAC411 の主要合金
元素の範囲において強度が最も小さくなる組成の鉛フ
リー青銅鋳物(No.5)の引張強さと伸びの関係.
硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物(No.1 ~ 3)のり
ん量と機械的性質との関係.
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及び伸びを示す.Fig. 3 に示した結果と同様に,引張強さ
ら,酸素の検出位置は研磨時の硫化物の酸化または試料表
が大きい試料では伸びも大きい傾向であった.引張強さの
面に残った研磨材中の酸素を検出したものと考えられる.
平均値は 241MPa,耐力は 100MPa,伸びは 28% であった.
硫化物の近傍にりんの濃度が高い個所が認められた.これ
前掲 Fig. 2 より,りん量が増加すると伸びはやや減少した
に注目するとニッケル濃度の高い個所と一致した.このこ
が前掲 Fig. 2 ~ 4 の結果より,りん量が 0.05mass% を超え
とからりん量が大きくなると合金中のりんの一部はニッ
ても本実験範囲内の 0.1mass% 程度までであれば JIS 規格
ケルとの化合物として存在すると考えられる.CAC411 の
で求められる機械的性質(引張強さ:195MPa 以上,伸び:
硫化物は凝固後半に生成する ことから硫化物の近傍に存
15% 以上)を満たすことが明らかとなった.Fig. 2 より,
在する Ni-P 系化合物も凝固後半に生成したものと考えら
りん量が 0.061 から 0.088mass% まで増加したときの伸び
れる.前掲 Fig. 2 ~ 4 より,硫化物を分散させた鉛フリー
の低下割合が 0.1mass% を超えるりん量においても変わら
青銅鋳物の引張伸びはりん量が増えてもあまり低下しな
ないと仮定すると,伸びが 15% 以上となるりん量の限界
かった.一般的な青銅においては,りん量が増加すると硬
値は約 0.15mass% 付近であると予想されるが,実験によ
くて脆い Cu3P が生成することで伸びが低下すると考えら
3)
る実証が必要と考えられる.
3. 2 組織に及ぼすりんの影響
CAC411 のりん量が JIS 規格における残余成分範囲(<
0.05mass%)を超えることによる組織への影響を調べた.
(a)
(b)
Fig. 5 に試料 No. 6 及び 7 の光学顕微鏡組織に及ぼすりん
量の影響を示す.Fig. 5(a)はりん量が 0.045mass% の試料
(No. 6),Fig. 5(b)はりん量が 0.103mass% の試料(No. 7)
である.両試料とも α-Cu の基地組織に硫化物が分散した
組織であった.りん量が変化しても基地組織及び硫化物の
組織に大きな違いは認められなかった.りん量の多い試料
50�m
(No. 7)の SEM 像及び EPMA によって測定した元素分布
を Fig. 6 に示す.基地組織は銅の固溶体であることが認
められた.硫化物は硫化銅と硫化亜鉛から構成されている
1 ~ 3, 6, 7)
ことが確認できる
.酸素が検出された箇所は脱酸剤
であるりんとは一致せず,硫化物及び硫化物と基地組織の
境界と一致した.EPMA 用の試料作製においては,湿式
研磨後にアルミナ研磨材によるバフ研磨を行ったことか
Fig. 5 Influence of phosphorus content on microstructure of lead-free bronze castings with dispersed sulfide
particles.(a)0.045mass%P(No. 6),(b)0.103 mass%P
(No. 7).
硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物の顕微鏡組織に及
. a)0.045 質量 %P,
ぼすりんの影響 (
(b)0.103 質量 %P.
Fig. 6 Secondary electron image and element distribution of lead-free bronze castings with
dispersed sulfide particles, containing 0.103mass% phosphorus(No. 7).
0.103 質量 % のりんを含む硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物(No.7)の二次電子線像及び元素分布.
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硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物の機械的性質,流動性及び耐圧性に及ぼすりんの影響
4)
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1)
れている .しかし,主要成分が CAC411 と同等の青銅鋳
り ,りん量を増加させても硫化物の生成にほとんど影響
物においては,りんの一部はニッケルと化合物を形成する
しないために,鋳巣特性は良好であったと考えられる.
ことで,Cu3P の生成が抑制されると考えられる.CAC411
一般に溶湯中の酸化性元素の量が増加するとその脱酸
鋳物中のりん化物の生成 分散に及ぼすりん量とニッケル
効果により溶存酸素が減少する.そして溶湯が過剰に脱酸
量の影響を検討することで,伸びの低下要因の詳細が明ら
されると,水素が吸収されやすくなる.しかし,Fig. 7 の
かになると考えられる.
結果より脱酸剤であるりん量が増加してもガス欠陥はほ
3. 3 湯流れ性
とんど認められなかった.この合金における酸化性元素と
湯流れ試験用鋳型に鋳造した試料(No. 6 及び 7)の流動
しては Sn, Zn, Ni, P 及び S があり,特に Sn と Zn の脱酸効
・
長を Table 2 に示す.りん量が増加すると流動長が大きく
果は大きい.CAC411 の Sn 及び Zn 量は CAC406 などに代
なった.Cu-Sn 系の青銅鋳物においてはりん量が増加す
表される青銅鋳物に比べると少ないことから,りん量が多
5)
ると流動性が向上することが知られている .本実験の試
少増加しても溶湯は脱酸過剰にならなかったためにガス
験回数は各 1 回であり,渦巻き型を用いた流動性試験に
欠陥がほとんど発生しなかったと考えられる.
おいては,ばらつきも考えられるため,Table 2 の結果の
ボールバルブ本体部(試料 No. 10)の鋳物外観及び切削加
定量的な信頼性は高くないが,定性的には参考になると
工後の加工面外観の検査及び耐圧性試験の結果を Table 3
考えられる.このことから CAC411 のりんの残余成分は
に示す.84 個の鋳物を鋳造した.鋳物の外観検査では,不
0.05mass% までであるが,これを超えてりんを添加すると
良は認められなかった.機械加工後の加工面に欠陥が認め
流動性はさらに向上すると考えられる.
られた鋳物は 1 個であった.欠陥の形状は球形であり内面
は黒光沢を呈していたため,吹かれであると考えられる.こ
Table 2 Effect of phosphorus content on flow length
of lead-free bronze castings with dispersed sulfide
particles.
硫化物を分散させた鉛フリー青銅鋳物の流動長に及ぼ
すりん量の影響.
の欠陥による孔は鋳物を貫通していないように見られたこ
とから,84 個すべてについて耐圧試験を行った.その結果,
全ての試料において耐圧漏れは認められなかった.このこと
から,CAC411 のりん量は残余成分として 0.1mass% 程度ま
で含まれても,鋳巣特性及び耐圧性に優れると考えられる.
Phosphorus Content, mass%
Flow Length�mm
0.045
0.103
410
440
3. 4 鋳巣特性及び耐圧性
階段状試験片用鋳型に鋳造した試料(No. 8 及び 9)にお
いて各肉厚部の中心を通る垂直断面の染色浸透探傷試験
結果を Fig. 7 に示す.両試料には CAC411 の残余成分範
囲を超える量のりんを添加しているが,肉厚 40mm の個
所において少量の多孔質巣(ざく巣)
(Fig. 7 中の矢印で示
した個所)が認められるものの,巣の発生はほとんど認め
られなかった.CAC411 においては凝固中に生成する硫化
物がポロシティーの発生を抑制することが報告されてお
Table 3 Result of pressure toughness test and appearance inspection of lead-free bronze castings with
dispersed sulfide particles, containing 0.134 mass%
phosphorus, for ball valve.
りんを 0.134 質量 % 含む硫化物を分散させた鉛フリー青
銅のボールバルブ用鋳物の外観検査及び耐圧試験の結果.
Casting Surface
Machined Surface
Pressure
Toughness Test
Non-defective: 84
Defective: 0
Non-defective: 83
Defective: 1
Non-defective: 84
Defective: 0
Appearance Inspection
4.結 言
JIS H5120 CAC411 と同じ主要成分の合金でりん量を約
0.1mass% まで増加させた鋳物を作製した.その機械的性
質,湯流れ性,鋳巣特性及び耐圧性を調べた結果,以下の
ことが明らかになった.
1) 引張伸びは減少するが,JIS 規格で求められる 15%
以上の伸びが得られる.
2) 合金中のりんの一部はニッケルとの化合物として
存在すると考えられる.
3) 湯流れ性は向上する傾向を示した.
4) 鋳巣の発生はほとんど認められず,耐圧性に優れる.
以上のことから CAC411 におけるりんは残余成分とし
Fig. 7 Results of die penetrant test of stepped test bars.
階段状試験片の染色浸透探傷試験結果.
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て約 0.1mass% 含まれても JIS 規格で求められる性質
を満足することが明らかとなった.
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854
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 12 号
3)小林武,明石巌,丸山徹,阿部弘幸,杉谷崇,若井寛明:
謝辞
本研究の一部は平成 25 年度関西大学理工学研究科高度化
推進研究費により行われたものであり,謝意を申し上げる.
鋳造工学 81(2009)650
4)D. Hanson and W. H. Pell-Walpole: Chill Cast Tin Bronzes
(E. Amold)
(1951)244
参考文献
1)阿部弘幸,丸山徹,野洲拓也,松林良蔵,小林武:鋳
造工学 81(2009)661
2)丸山徹,阿部弘幸,野洲拓也,松林正樹,丸直樹,明
石隆史,橘徹行,小林武:鋳造工学 81(2009)667
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854
5)日本鋳造工学会編:鋳造工学便覧(丸善)
(2002)426
6)吉田亮子,丸山徹,阿部弘幸,松林良蔵,寺村正和,
小林武:鋳造工学 86(2014)26
7)T. Maruyama, H. Abe, K. Hirose, R. Matsubayashi and T.
Kobayashi: Mater. Trans., 53(2012), 380
2015/11/26
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