持続可能な社会構築に向けたエネルギーの経済性と環境性に関 する

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-発表・展示-
特定非営利活動法人
気候ネットワーク
助成事業名称:
持続可能な社会構築に向けたエネルギーの経済性と環境性に関
する研究
(平成23年度助成)
http://www.kikonet.org
【プロフィール】
気候ネットワークは、気候変動枠組条約第 3 回締約国会議(COP3)の成功を目指して
活動した「気候フォーラム」の趣旨・活動を継承して、1998 年 4 月に設立された全国
ネットワークの NGO・NPO 組織である。1999 年 12 月に特定非営利活動法人に移行
した。
京都(本部)と東京に事務所があり、約 150 の団体会員、約 500 人の個人会員の参
加があり、多数の研究者・専門家、ボランティアから支援を受けて活動を継続している。
地球温暖化防止、低炭素経済・社会の実現を目的として、国際交渉から国内全体・地域レ
ベルまで多岐にわたる活動に取り組んでいる。具体的には、地球温暖化・気候変動に関す
る情報収集・発信、調査研究、政策提言、セミナー・シンポジウムの開催、地域レベルの
実践活動、キャンペーン、国際交渉への参加等を行っている。ネットワークとパートナー
シップを重視し、国際的ネットワークや、テーマごとのネットワーク、地域ネットワーク
へ参加して活動の充実を図り、他セクターとの連携も進めて、多様な課題への対応と効果
の向上に取り組んでいる。
地球温暖化の進行にともない、また社会・経済の変化にあわせて、NGO・NPO の役割
も大きくなっている。その役割を担うことができるよう体制の強化にも取り組み、地球温
暖化防止に貢献できるよう、これまでの経験を基盤として活動を続けていく。
■ 助成事業報告
1.事業の目的
気候変動問題やピークオイル問題が深刻化により、これまでの化石燃料依存型構造からの脱却や
持続可能な再生可能エネルギーへの大規模な転換などが求められている。
こうした状況下、日本では、エネルギー基本計画が見直されたほか、再生可能エネルギーの全量
固定価格買取制度が検討されるなど目まぐるしい動向がみられる。しかしながら、こうした政策の
基本路線はこれまでの方針の延長線上にあり、大規模集中型の発電所によるエネルギー供給を基本
とした構造を前提としていることは変わらない。
そこで、本活動では、化石燃料(石油・石炭・天然ガス)、原子力、再生可能エネルギーにおけ
る経済性、環境性(持続可能性)等を客観的に評価し、現行のエネルギー政策の課題や、中長期的
な視野でのあるべきエネルギー政策や今後の社会ビジョンについてとりまとめることを目的とし、
調査研究を行なった。
2.事業の概要
2011 年 3 月の東日本大震災・原発事故により、エネルギーや環境を巡る状況が一変した。当
団体もその影響を直接受けるとともに、活動内容全体もそれに沿って見直す必要性があった。そう
した影響もふまえ、2011 年 8 月には研究会「エネルギーシナリオ市民評価パネル(エネパネ)
」
を発足した。2011年8月から 10 月にかけて研究会を実施し、レポート「I.発電の費用に関
する評価報告書」をまとめた。また、2 つ目のレポート「II.IEA事務局長の日本の原発シナ
リオの問題点」を、電話会議や個別のヒヤリング・議論を通じて、作成に至った。
「~持続可能なエネルギー社会の実現のために~
I.発電の費用に関する評価報告書」では、
福島第一原発の事故も踏まえ、発電にかかる費用について考え方を整理した。既存の発電コスト分
析の評価、原発停止の短期影響、将来の電気料金への影響、中長期のメリットなどの論点を取り上
げた。持続可能なエネルギー社会の実現というテーマに即して、主に経済的側面、社会的側面につ
いて深く分析を行った。
「~持続可能なエネルギー社会の実現のために~
II.IEA事務局長の日本の原発シナリオの
問題点」では、日本の原発のあり方に関して、IEA事務局長が来日して行ったプレゼンテーショ
ンを分析した。最初のレポートでの研究分析結果を踏まえ、新たに指摘すべき必要性を認識したた
めに作成に至った。国内の情勢を踏まえた分析を用いて、IEA事務局長のシナリオのリスク分析
を行っている。
このほか、10 月 21 日には、フォーリンプレスセンターにおいてレポート発表に関する記者会
見を行ったほか、レポートの発表をより広く認識されるよう、11 月 7 日には議員会館にてセミナ
ーを開催した。
3.調査結果より
本調査により、以下の点が明らかになった。
1. 発電にかかる費用は、これまで電力会社の視点にたつ狭い意味で捉えられ、電気料金に含
まれる様々な費用や、環境・事故などの外部費用は含まれていない。
2. 放射性廃棄物の処理コストや、廃炉コストは、過小評価されている。
3. 原子力発電のコストの実績は、政府試算よりも高かった。モデル発電所方式では、想定(設
備利用率、運転年数等)によって火力より安くも高くもなる。
4. 原発が全停止した場合の負担額は、燃料費や省エネの想定によって異なる。原発の核燃料
費に廃棄物処理費用などを適正に加え、実績通り省エネを見込めば、政府が想定するほど
負担は大きくならない。
5. これからの電気料金には、再生可能エネルギーの賦課金が上乗せされるが、今後上昇する
化石燃料調達コストを抑制する効果による利益の方が大きくなる。
6. 再生可能エネルギーにシフトすることにより、中長期的に、国内の設備投資や金融に資金
が循環し内需が拡大する。
また、発表された 2 つのレポートをもって、政府の担当者、国会議員、企業関係者などと個別
に議論を行った。また国家戦略室のコスト等検証委員会が、発電のコスト分析を行う際に、Call for
Evidence として一般からのインプットを求めていたことに対しては、エネパネとして活動の成果
を踏まえてデータ提出を行うなど、政府の政策形成プロセスに直接対応することが可能となった。
4.事業の評価と課題
3.11 後、今もなお、持続可能な社会に向けてエネルギー問題をどう考えたらよいかは、引き
続き大きなテーマになっている。中でも、原発については、安くてクリーンな電気と呼ばれて推進
されてきたことが、事故によって経済性・環境性の再考が求められている。そうした中、本事業を
通じて行ってきた研究は、時代要請と共に、予想以上の注目を浴びることにもなった。また、Call
for evidence へのインプットなど、政策議論に直接対応するものとなった。
参加メンバーにとって、共同研究をすることによって新たな情報を得、さまざまな知見や知識の
共有を図り、議論を重ねることができた。研究しているメンバーの中でその意義は共有され、事業
が終了した後も、エネパネとしての研究活動は続いた。そして、2012 年 5 月には 3 つ目のレポ
ート「III.エネルギー・環境のシナリオに関する論点」を発表している。これは、前に十分な議論
を重ね、2 つのレポートを発表したことがベースになっている。またこのレポートは、書籍「原発
もない、温暖化もない未来を創る」とのタイトルで書籍化した。事業の大きな波及効果であったと
受け止めている。