〔実 7 頁〕 特 許 公 報(B1) (19)日本国特許庁(JP) (12) (11)特許番号 特許第5800211号 (45)発行日 (P5800211) (24)登録日 平成27年9月4日(2015.9.4) 平成27年10月28日(2015.10.28) (51)Int.Cl. FI A01G 1/04 (2006.01) A01G 1/04 A A23L 1/30 (2006.01) A23L 1/30 Z A23K 1/16 (2006.01) A23K 1/16 304B C12N 1/14 (2006.01) C12N 1/14 H C12N 1/14 G 請求項の数5 (全11頁) (21)出願番号 特願2015-26299(P2015-26299) (22)出願日 平成27年2月13日(2015.2.13) 天然物産業つくば株式会社 平成27年3月4日(2015.3.4) 茨城県つくば市研究学園四丁目31番地8 審査請求日 (73)特許権者 515041228 (74)代理人 100093816 早期審査対象出願 弁理士 (72)発明者 王 中川 邦雄 悦朋 茨城県つくば市東平塚1187番地80( 研究学園C43街区3)E−26 天然物 産業つくば株式会社内 (72)発明者 張 振亜 茨城県つくば市東平塚1187番地80( 研究学園C43街区3)E−26 天然物 産業つくば株式会社内 最終頁に続く (54)【発明の名称】サナギタケ子実体の人工培養方法 1 2 (57)【特許請求の範囲】 【請求項2】 【請求項1】 前記サナギタケが、Cordyceps属に属する菌で おから905重量部、米糠86重量部及び大豆かす9重 あることを特徴とする請求項1に記載のサナギタケの人 量部からなるサナギタケ子実体の培養培地を、滅菌した 工培養方法。 後、サナギタケの菌糸培養液を前記滅菌培地に接種し、 【請求項3】 培養環境条件を、空中湿度60%以上、温度20−25 請求項1又は請求項2に記載のサナギタケ子実体の人工 ℃及び暗条件として、サナギタケ菌糸体を培養し、 培養方法で培養したサナギタケ子実体及び/又はそれか 前記サナギタケ菌糸体が前記滅菌培地の略全体に蔓延し ら抽出した生理活性成分を含むことを特徴とするサプリ た後、 メントの製造方法。 培養環境条件を、空中湿度80%以上、15℃以上20 10 【請求項4】 ℃より低くい温度及び80−250Luxの光強度の間 請求項1又は請求項2に記載のサナギタケ子実体の人工 欠若しくは連続的な光照射に切り替え、サナギタケ子実 培養方法で発生した菌糸体を含むことを特徴とする菌床 体の芽を発育させ、 の製造方法。 前記サナギタケ子実体の芽が出た後、 【請求項5】 培養環境条件を、空中湿度80%以上、温度20−25 請求項4に記載の菌床の製造方法で得られた菌糸体を含 ℃、間欠的な換気、及び150Lux以上の光強度の間 む菌床を用いて作成されたことを特徴とする家畜飼料の 欠若しくは連続的な照射に切り替え、サナギタケ子実体 製造方法。 を育成することを特徴とする 【発明の詳細な説明】 サナギタケ子実体の人工培養方法。 【技術分野】 ( 2 ) JP 3 5800211 B1 2015.10.28 4 【0001】 るサナギタケ子実体の人工培養方法を提供することを目 本発明は、食品工業副産物を利用したサナギタケ子実体 的とする。 の培養培地、さらに野生のサナギタケ子実体と同様の生 【課題を解決するための手段】 理活性成分を含有させつつ、容易、低廉かつ迅速に培養 【0009】 し、健康食品、医薬品、化粧品等に用いることができる 上述の課題を解決するため本発明の構成は、 サナギタケ子実体の人工培養方法に関する。 (1) 【背景技術】 おからを主成分とし、さらに少なくとも、穀物の糠、油 【0002】 粕を含むことを特徴とするサナギタケ子実体の培養培地 サナギタケ(蛹茸 学名:Cordyceps mil 。 itaris(Vuill.)Fr.)は、冬虫夏草属 10 (2) に属する菌類の一種であり、野生ではチョウ目の幼虫や おからを主成分とし、さらに少なくとも、穀物の茎の粉 蛹に菌が感染し、体内に菌糸体が蔓延し、その菌糸体か 末、油粕を含むことを特徴とするサナギタケ子実体の培 ら子実体(キノコ部)が発生する。サナギタケ子実体は 養培地。 オレンジ色の棍棒状である。 (3) 【0003】 おから50∼90重量部と、 サナギタケ子実体には、抗腫瘍性を示すコルジセピンを 穀物の糠又は穀物の茎の粉末40∼9重量部と、 はじめ、血管拡張作用を有するとされるD−マンニトー 油粕10∼1重量部からなることを特徴とする ル、免疫賦活作用があるとされるβ−グルカン、活性酸 サナギタケ子実体の培養培地。 素を消去するSODなどの生理活性成分が豊富に含まれ (4) ていることが知られている。 20 【0004】 (1)∼(3)の何れかに記載のサナギタケ子実体の培 養培地を、滅菌した後、サナギタケの菌糸培養液を前記 そのため、昨今、絶滅状態にあった冬虫夏草(Cord 滅菌培地に接種し、 yceps 培養環境条件を、空中湿度60%以上、温度20−25 sinensis(Berkeley) Saccardo)の代用品として世界中に注目されて ℃及び暗条件として、サナギタケ菌糸体を培養し、 いる。 前記サナギタケ菌糸体が前記滅菌培地の略全体に蔓延し 【0005】 た後、 サナギタケ子実体を人工的に形成させる研究は、米国な 培養環境条件を、空中湿度80%以上、15℃以上20 どの各国で成功例が報告されており、特に中国では人工 ℃より低くい温度及び80−250Luxの光強度の間 的に形成したサナギタケ子実体を漢方薬剤として使用す 欠若しくは連続的な光照射に切り替え、サナギタケ子実 る研究が活発になされ、現在では実用段階にある。また 30 体の芽を発育させ、 、韓国内でも人工サナギタケ子実体を形成する研究が近 前記サナギタケ子実体の芽が出た後、 年活発になされており、既に商業的目的で利用するため 培養環境条件を、空中湿度80%以上、温度20−25 の多様な研究が進行中である。 ℃、間欠的な換気、及び150Lux以上の光強度の間 【0006】 欠若しくは連続的な照射に切り替え、サナギタケ子実体 しかしながら、特許文献1、2等で開示されているよう を育成することを特徴とする に、人工的なサナギタケ子実体の培養培地の構成が複雑 サナギタケ子実体の人工培養方法。 で、コストが高く、これまでのサナギタケ子実体の人工 (5) 培養方法は普及していない。 前記サナギタケが、Cordyceps属に属する菌で 【先行技術文献】 【特許文献】 あることを特徴とする(4)に記載のサナギタケの人工 40 培養方法。 【0007】 (6) 【特許文献1】特開2003−116522号公報 (4)又は(5)に記載のサナギタケ子実体の人工培養 【特許文献2】特開2005−287488号公報 方法で培養したサナギタケ子実体及び/又はそれから抽 【発明の概要】 出した生理活性成分を含むことを特徴とするサプリメン 【発明が解決しようとする課題】 ト。 【0008】 (7) そこで、本発明は、食品工業副産物を利用したサナギタ (4)又は(5)に記載のサナギタケ子実体の人工培養 ケ子実体の培養培地、野生のサナギタケ子実体と同様の 方法で発生したことを特徴とする菌糸体を含む菌床。 生理活性成分を含有させつつ、容易、低廉かつ迅速に培 (8) 養し、健康食品、医薬品、化粧品等に用いることができ 50 (7)に記載の菌糸体を含む菌床を用いて作成されたこ ( 3 ) JP 5 5800211 B1 2015.10.28 6 とを特徴とする家畜飼料。 【0015】 とした。 以下、本発明を実施するための形態を実施例及び図面に 【発明の効果】 基づいて具体的に説明する。なお、本発明はそれら実施 【0010】 形態に限定されるものではない。 本発明であるはサナギタケ子実体の人工培養方法では、 【実施例】 食品工業由来のおから、さらには、少なくとも穀物の糠 【0016】 又は穀物の茎の粉末、及び油粕の内から選ばれる1種ま 実施の一例であるサナギタケ子実体の人工培養方法は、 たは2種以上を含む培地を滅菌し、サナギタケの菌糸培 以下の手順で行った。 養液を接種し、菌糸体培養工程、芽出し工程、育成工程 【0017】 を経てサナギタケ子実体を培養するもので、既存の人工 10 1)[試管培地の作製] 培養方法(例えば:特許文献1、2)よりも容易、低廉 ・試管培地組成 かつ迅速にサナギタケ子実体を培養することができる。 グルコース 20g 【0011】 寒天 20g 本発明によれば、野生のサナギタケと同様の形態の子実 ペプトン 10g 体を培養することができる。また、野生のサナギタケ子 ポテトエキス 実体と同様の生理活性成分量を含有するサナギタケ子実 KH2 PO4 3g 体を効率よく安価に得ることができる。この人工培養サ MgSO4 ・7H2 O ナギタケ子実体をそのまま粉砕し加工したり、必要に応 蒸留水 じて、生理活性成分を抽出したりして、医薬品、サプリ 【0018】 メントなどの健康食品、化粧品などに利用することがで 20 グルコース、寒天、ペプトン、ポテトエキス、KH2 P きる。 O4 、MgSO4 ・7H2 Oは市販品を用いた(以下同 【0012】 じ)。 さらには、菌糸体(菌糸塊)にも、多糖類、フェノール 【0019】 類、SOD様物質などのサナギタケの特有の生理活性成 ・試管培地調整 分、その他機能生物質が含有するため、培養残渣である 前記試管培地の組成物を攪拌した(pH調整なし)。こ 培地菌糸体を含み、家畜を対象とした飼料の添加物に応 れを121℃に設定した殺菌釜で20分間加熱殺菌(オ 用することもできる。 ートクレーブ)し、前記組成を15mlほど試験管に流 【0013】 し込み、水平から約10°に傾けたまま冷却ゲル化させ つまり、本発明は、食品工業副産物を利用してサナギタ 、固形の試管培地を得た。なお、培地の殺菌は、オート ケ子実体を培養することで食品廃棄物を減少させること 30 クレーブ以外の方法であってもよい(以下同様)。 ができるとともに、培養済みの菌糸体を含む培地は家畜 【0020】 飼料にすることで、培地を廃棄物とすることのない、環 2)[試管種菌(菌母)の作製] 境にやさしいサナギタケ子実体の人工培養方法を提供す 市販の種菌(スラント培地培養の菌糸状種菌)を、前記 ることができる。 1)[試管培地の作製]で作製した試管培地(ゲル)に 【図面の簡単な説明】 移植して菌糸体を培養し、試管種菌(菌母)を完成させ 【0014】 る。 【図1】実施例のサナギタケ菌糸体1の培養工程の実物 【0021】 写真である。培養培地に菌糸体が蔓延して培地が白色に 3)[培養種菌の作製] 見える。 ・種菌培養液体培地(以下「菌糸培養液」という)組成 【図2】実施例のサナギタケ子実体3の芽出し工程の実 40 グルコース 20g 物写真である。白色の菌糸体の一部がオレンジ色に変色 ペプトン 10g し、米粒状のサナギタケ子実体原基2が確認できる。 ポテトエキス 【図3】実施例のサナギタケ子実体3の育成工程の実物 KH2 PO4 3g 写真である。各ガラス瓶4中の培養培地から棍棒状でオ MgSO4 ・7H2 O レンジ色のサナギタケ子実体3が多数本生育しているこ 蒸留水 とが確認できる。 【0022】 【図4】実施例のサナギタケ子実体の生理活性成分含有 ・菌糸培養液の調整 量と市販のサナギタケ子実体の生理活性成分含有量の比 前記菌糸培養液組成を攪拌した(pH調整なし)。これ 較表である。 を121℃に設定した殺菌釜で20分間加熱殺菌(オー 【発明を実施するための形態】 50 4g 1.5g 1000ml 4g 1.5g 1000ml トクレーブ)し、クリーンベンチに移し替えて室温まで ( 4 ) JP 7 5800211 B1 2015.10.28 8 冷却し、菌糸培養液を作製した。 培養種菌を接種した培養培地を温度20−25℃、湿度 【0023】 60%以上に設定した培養室で、暗条件下で培養した。 この菌糸培養液に、前記2)[試管種菌(菌母)の作製 暗条件下で培養すると、菌糸体が培養培地全体に蔓延し ]で作成し、菌母を接種して菌糸体が十分に回って白変 、茶色の培養培地が乳白色に変化する。 した試管培地を移し入れる。その分量は菌糸培養液10 【0029】 00mlに対して試管種菌1本(15ml/ゲル)の割 ・芽出し工程 合とした。その後、温度を23℃に設定して電磁攪拌培 培地の表面に米粒状の突起(子実体原基)が確認できた 養した。約1週間が経過する頃、菌糸培養液中に球状の ら、15℃以上20℃より低くい温度で80−250L 菌糸体(培養種菌)の広がりが確認できた。 【0024】 uxの照明を12時間間欠若しくは連続的に照射して子 10 実体の発芽を促進させ、突起がオレンジ色に変化する発 4)[サナギタケ子実体の培養培地の作製] 芽を確認した。光源として、LED、蛍光ランプ若しく ・培養培地組成 は自然光などが例示できる。 おから 905g(約90%) 米糠 大豆かす 86g(約9%) 9g(約1%) 【0030】 ・子実体育成工程 発芽した後、空中湿度80%以上、温度20−25℃、 合計1000g(100%) 毎日30分間の換気、毎日12時間の150Lux以上 【0025】 の間欠若しくは連続的な照射条件に切り替え、培養を継 おからは豆腐店から入手した。米糠は穀物の糠の例とし 続した。 て、精米所から若しくは市販品を入手した。大豆かすは 【0031】 油粕の例として、市販品を入手した。おからと米糠は乾 20 6)[成熟/収穫(培養終了)] 燥せず、そのまま使用した。大豆かすは乾燥して、粉砕 サナギタケ子実体の成熟は、子実体と子嚢殻の形成が確 して使用した。米糠の他、他の穀物糠も使用でき、さら 認された時点とし、その前後に収穫を行った。 に穀物の茎の粉末であってもよい。穀物の茎の粉末であ 【0032】 れば、米糠などのような他の食品等へ利用が全くない未 収穫したサナギタケ子実体の生理活性物質を測定し、従 利用バイオマスであるので、極めて安価に入手でき、培 来の培地(比較例3、2)、野生採取(比較例1)の含 養コストの抑制に繋がり好ましい。また大豆かすを他の 有量と比較した結果を図4に示した。実施例では、アデ 油粕に置換してもよい。 ノシンにおいては比較例3の3.5−4倍、コルジセピ 【0026】 ンにおいては比較例1の約3倍、比較例2、3の約10 ・培養培地の調整 倍に及ぶものもあった。 前記の培養培地組成成分を混合し、ガラス瓶4(容量: 30 【0033】 368ml、直径:71mm、高さ:122mm)に、 多糖類においては、野生型の半分程度であるものの、比 混合培養培地を50g入れ、通気性を有するキャップ5 較例2と同等、比較例3の約5倍の含有量であった。 を被着し、121℃に設定した殺菌釜で20分間加熱殺 【産業上の利用可能性】 菌した。その後、容器を殺菌釜から取り出してクリーン 【0034】 ベンチに運び入れ、前記キャップ5を開けて、紫外線ラ 本発明は、食品工業副産物のおから等の再利用、さらに ンプ照射下で、培養培地を自然的に冷却した。 機能性物質の生産に貢献できる。 【0027】 【符号の説明】 ・種菌接種 【0035】 培養培地の温度が25℃を下回ったことを確認してから 1 サナギタケ菌糸体 、前記3)で作製した培養種菌(培地重量比5%−10 40 2 子実体原基 %)を培養培地に接種した。 3 サナギタケ子実体 【0028】 4 ガラス瓶 5)[培養] 5 キャップ ・菌糸体培養工程 【要約】 【課題】食品工業副産物を利用したサナギタケ子実体の培養培地、さらにサナギタケ子実 体の人工培養方法を提供する。 【解決手段】本発明に係るサナギタケ子実体の培養培地は、おからを主成分とし、さらに 少なくとも、穀物の糠、油粕を含むことを特徴とするサナギタケ子実体の培養培地とした ( 5 ) JP 5800211 B1 2015.10.28 。また、本発明に係るサナギタケ子実体の人工培養方法は、食品工業由来のおからを主成 分とする滅菌した培養培地に、サナギタケの菌糸培養液を接種し、それぞれ異なる培養環 境である、菌糸体培養工程、芽出し工程、子実体育成工程を経てサナギタケの子実体を培 養する方法である。 【選択図】図1 【図1】 【図2】 ( 6 ) 【図3】 JP 5800211 B1 2015.10.28 【図4】 ──────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 王 淋渤 茨城県つくば市東平塚1187番地80(研究学園C43街区3)E−26 天然物産業つくば株 式会社内 審査官 (56)参考文献 鶴 剛史 中国特許出願公開第103503689(CN,A) 特開2012−060974(JP,A) 中国特許出願公開第102948325(CN,A) 中国特許出願公開第104177182(CN,A) 特開2008−266177(JP,A) 中国特許出願公開第104160873(CN,A) 中国特許出願公開第102578559(CN,A) 中国特許出願公開第103348872(CN,A) 特開2011−050338(JP,A) Lim, L. et al.,Optimization of solid state culture conditions for the production of a denosine, cordycepin, and D-mannitol in fruiting bodies of medicinal caterpillar fungu s Cordyceps militaris (L.:Fr.) Link (Ascomycetes).,Int. J. Med. Mushrooms,2012年 ,Vol.14 No.2,pages 181-187 Wang, L. et al,Optimal Fermentation Condition of Soybean Curd Residue by Cordyceps mi litaris and the Bioactivity Evaluation.,日本生物工学会大会 講演要旨集,2013年,Vo ( 7 ) JP 5800211 l. 65th,page 208 (3P-082) (58)調査した分野(Int.Cl.,DB名) A01G 1/04 A23K 1/16 A23L 1/30 C12N 1/14 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) WPIDS/WPIX(STN) FROSTI(STN) FSTA(STN) B1 2015.10.28
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