時系列データのフラクタル的解析手法について

平成 26 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文概要集
計算応用科学分野
時系列データのフラクタル的解析手法について
学籍番号
25413505
氏名
指導教員
伊佐次 礼
大鑄 史男
1. 本論文の目的
本論文は「Higuchi 法の方法はボックス次元を推定し
化し,時系列のデータセットを次の様に k 個構成する.
ようとしているものである.
」という主張の正当性をより
X̃m (k) :
強固なものにすることを目的としている.本稿では時系
列データの理論的モデルとして河野の自己アフィン関数
[5] と [2] で紹介されている自己アフィン関数(F -自己ア
(
[
] )
N −m
X(m), X(m + k), X(m + 2k), . . . , X m +
k
k
m = 1, 2, 3, . . . , k
フィン関数と呼ぶ)を統合拡張した拡張 F -自己アフィン
この X̃m (k) (m = 1, · · · , k) に対して次の様な「長さ」
関数を定義し,そのボックス次元を求め,両端変動法を
と呼ばれる量 Lm (k) (m = 1, 2, 3, . . . , k) を定義する.
適用した結果と比較する.その結果,拡張 F -自己アフィ
ン関数では,両端変動法の上極限,下極限,ボックス次
元が同じ範囲に収まり,ボックス次元と両端変動法が一
致する可能性があることが分かった.また,河野の自己
アフィン関数とファルコナーの自己アフィン関数につい
ては両端変動法によってボックス次元が推定されること
[ N −m
]
k
Lm (k) =
∑ |X(m + ik) − X(m + (i − 1)k)|
k
i=1
ここで [ ] はガウス記号である.最後に k で粗視化され
た時の時系列の長さを Lm (k) の算術平均で定義する.
k
∑
が示されている [4][5] が,本稿ではもう少し広い範囲で
一致することが示される.これら結果により,Higuchi の
< L(k) >=
方法によって得られるフラクタル次元は多くの場合ボッ
クス次元である,という主張が補強されることになる.
2. ボックス次元
Nδ (A) を A ⊆ R2 を覆うのに必要な直径 δ > 0 以下の
集合の最小個数とする.A の上ボックス次元と下ボック
ス次元は,以下のように定義される.
log Nδ (A)
dimB A = lim sup
,
− log δ
δ→0
dimB A = lim inf
δ→0
log Nδ (A)
.
− log δ
log Nδ (A)
.
δ→0
−logδ
トして最小二乗法で当てはめた直線の傾きの絶対値をこ
の時系列データ X(i) のフラクタル次元と呼ぶが,意味
することは必ずしも明確ではない.
Higuchi 法の理論的背景が以下に示す両端変動法であ
る.f : [0, 1] → R の δ 幅での平均両端変動量 av(δ) を
K = [1/δ] として,
v(δ) =
K
∑
|f ((n + 1)δ) − f (nδ)|,
n=0
av(δ) =
v(δ)
.
δ
と定義する.Higuchi 法は次の極限値を推定していると
考えられる.
log av(δ)
δ→0 − log δ
dimB A = lim
ボックス次元には他に同値な定義があるが,特に経験科
k
この < L(k) > を k に対して,両対数でグラフにプロッ
これらの上極限と下極限が等しく極限が存在するとき,
それを A のボックス次元と呼び,dimB A と書く.
Lm (k)
m=1
lim
極限が存在しない場合は,上極限と下極限を考えること
学上重要なものは,上の式の Nδ (A) を A と交わりをもつ
になる.
δ-mesh cubes の個数としたものである.R2 上の δ-mesh
cubes とは,[m1 δ, (m1 + 1)δ] × [m2 δ, (m2 + 1)δ] の形の
4. 拡張 F -自己アフィン関数
{S1 , · · · , Sm0 }, {T1 , · · · , Tm1 } を下記のように定義さ
正方形である.
れる R2 上のアフィン変換とする.
[
] [
][
] [
]
0
t
γi0 0
t
γ10 + · · · + γi−1
Si
=
+
x
a0i c0i
x
b0i
[
] [
][
] [
]
1
t
γi1 0
t
γ11 + · · · + γi−1
Ti
=
+
x
a1i c1i
x
b1i
3.Higuchi の方法と両端変動法
Higuchi の方法の手順は以下の様である [1].データ点
数 N ,サンプリングタイム ∆t の時系列データ X(i) (i =
1, · · · , N ) が得られたとする.時系列データを k で粗視
0 < γi0 < 1, |c0i | < 1, c0i ̸= 0 0 < γi1 < 1, |c1i | < 1, c1i ̸= 0
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Si , Ti を統一的に記述するために,Rik (k = 0, 1) を以下
のように定義する.
[
] [
][
] [
]
k
t
γik 0
t
γ1k + · · · + γi−1
k
Ri
=
+
x
aki cki
x
bki
{
Rik =
Si , k = 0, i = 0, · · · , m0 ,
Ti , k = 1, i = 0, · · · , m1 .
ここで,t 方向(横方向)の縮小率を x 方向(縦方向)の
k
縮小率より小さいとする.R1k , Rm
それぞれの不動点は,
k
k に関わらず同一であるとして,
)
(
bk1
k
k k
p1 = R1 (p1 ) = 0,
1 − ck1
(
)
k
k
a
+
b
m
m
k
k
k
pkmk = Rm
(pkmk ) = 1,
, k = 0, 1
k
1 − ckmk
p01 = p11 = pl , p0m0 = p1m1 = pr
k
(pl ), (1 ≤ i ≤ mk −1, k =
とおき,Rik は Rik (pr ) = Ri+1
0, 1) を満たすものとする.
ω = (ω1 , ω2 , ω3 , · · · ), ωj = 0 or 1 のような系列を考
え,以下のようにしてフラクタル図形を構成する.
pl と pr をつないでできる線分を E0 とおく.
Riω1 (E0 ), i = 1, 2, · · · , mk は Riω1 (pl ) と Riω1 (pr ) をつ
なぐ折れ線 E1 を構成する.自明な場合を除くために,こ
れらの全点は同一線上にはないとする.
この E1 をさらにアフィン変換 Riω2 , i = 1, · · · , mω2
で変換すると,それ自身が折れ線である Riω2 (E1 ), i =
1, · · · , mω2 を繋げた折れ線が得られる.この折れ線を
E2 と書く.このような手続きを続けることで
ωn
(En−1 )
En : R1ωn (En−1 ), R2ωn (En−1 ), · · · , Rm
ωn
Fω が決まる.このアトラクターは,[0, 1] 上の実数値関
数のグラフと考えられ,拡張 F -自己アフィン関数と呼ぶ.
0 < c0i < 1, i = 1, 2, · · · , m とし,
ω = (0, 0, 0, · · · ) のような系列を考えれば Rik によってで
1
m,
きる関数 F(0,0,0,··· ) はファルコナーの自己アフィン集合
によってできる関数 F そのものであり,縦方向に
横方向に
1
3
1
9
定理 2
Fω に両端変動法を適用した結果は以下のよう
である.
log γmax
log γmin
q log(|c01 | + · · · + |c0m0 |) + p log(|c11 | + · · · + |c1m1 |)
·
0
1
q log γmax
+ p log γmax
log av(δ)
log av(δ)
≤ lim inf
≤ lim sup
δ→0
− log δ
− log δ
δ→0
log γmax
≤2−
log γmin
(
)
q log(|c01 | + · · · + |c0m0 |) + p log(|c11 | + · · · + |c1m1 |)
1+
0
1
q log γmax
+ p log γmax
1−
また,ボックス次元については以下が成立する.
log γmax
log γmin
q log(|c01 | + · · · + |c0m0 |) + p log(|c11 | + · · · + |c1m1 |)
·
0
1
q log γmax
+ p log γmax
≤ dimB Fω
log γmax
≤2−
log γmin
)
(
q log(|c01 | + · · · + |c0m0 |) + p log(|c11 | + · · · + |c1m1 |)
1+
1
0
+ p log γmax
q log γmax
1−
また,ファルコナーの自己アフィン関数と河野の自己
アフィン関数については,両端変動法の上極限と下極限
とボックス次元がそれぞれ一致し,アフィン変換をひと
つだけにした拡張 F -自己アフィン関数についても両端変
動法はボックス次元を与えることが証明される.
5. 結論及び今後の課題
拡張 F -自己アフィン関数では,一般的に両端変動法の
上極限と下極限とボックス次元が同じ範囲内に収まるこ
とが示された.一致することは証明されていないが,可
の折れ線が順次決まり,n → ∞ として,アトラクター
また,γi0 =
計算応用科学分野
倍,
倍し,必要に応じて反転するような変換を考
えれば,河野の自己アフィンの代表例である Peano 関数
を構成することができる.
拡張 F -自己アフィン関数について以下が成立する.
∑n
定理 1 p = limn→∞ i=1 ωi /n として極限が存在す
るとき,Fω のボックス次元は次のようである.
dimB Fω =
q log(|c01 | + · · · + |c0m0 |) + p log(|c11 | + · · · + |c1m1 |)
,
1−
0
1
q log γmax
+ p log γmax
q = 1 − p.
dimB Fω は系列 ω 内での 1 or 0 の割合によって依拠する.
能性は存在することがわかる.また,ω = (0, 0, 0, · · · ) の
場合は一致することが示されていて,Higuchi houga ボッ
クス次元の推定値を与えていることが強く推察できる.
今後の課題として,一般的に一致することを確かめる
ことおよび非整数ブラウン運動の場合についての考察が
残されている.
参考文献
[1] 樋口 知之,時系列データのフラクタル解析,統計数
理 第 37 巻 第 2 号 210 − 231(1989)
[2] Kenneth Falconer 著,服部 久美子,村井 浄信 訳,
フラクタル幾何学,共立出版株式会社 (2006)
[3] 石村 貞夫,石村 園子,フラクタル数学,東京図書株
式会社 (1990)
[4] 大鑄 史男,関数の変動量を用いたフラクタル次元,数
理解析研究所講究禄 1857, 19 − 29(2013)
[5] 中込 真理子,時系列データのフラクタル的解析法に
ついて,平成 25 年度修士論文
[6] 伊佐次 礼,時系列データのボックス次元を求める手
法について,平成 24 年度学士論文