PHYTOCHEMISTRY

PHYTOCHEMISTRY
Pergamon
The international Journal of Plant Biochemistry
ファイトケミストリー
PRODUCTION OF ANTI-TUMOUR-PROMOTING
FURANO-NAPHTHOQUINONES
IN TABEBUIA AVELLANEDAE CELL CULTURES.
S.UEDA1
1-2
1-3
1-4
ファイトケミストリー
Pergamon
植物生化学の国際的なジャーナル
タベブイア・アベラネダエ細胞培養による抗腫瘍促進
フラノ・ナフトキノンの生産
上田 伸一
上田 伸一、梅村 俊、道口 浩二、松崎 徹、徳田 春邦
西野 輔翼、岩島 昭夫
日本国 京都市左京区京都大学薬学部、同京都市上京区京都府立医科大学(1993年11月3日原稿受理)
キーワードインデックス:
タベブイア・アベラネダエ/ノウゼンカズラ科/ナフトキノン/5−ヒドロキシ−2(1−ヒドロキシエチル)
ナフト
〔2,
3−b〕
フラン−4,
9−ジオン/抗発癌促進活性
(要旨)
タベブイア・アベラネダエのカルス並びに細胞懸濁培養は、
有望な抗発癌促進活性を持つフラノナフトキノン,
5−ヒドロキシ2(1−ヒドロキシエチル)
ナフト
[2,
3−b]
フラン4,
9−ジオンと2−アセチル−5−ヒドロキシ−ナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオンを高収率で生産する。
(説明)
タベブイア・アベラネダエは、
ブラジルからアルゼンチン北部に
至る南米の原産である。この植物の俗称は、
ブラジルではIpe、
Ipe roxo、Lapacho、Paud' Arco Roxo、Peuva、Peuva roxa、
Piuva、
Queraiba、
或いはUpeuva、
Upeuva、
アルゼンチンではLapacho、
Lapacho negro、パラグアイではLapacho、
ガラニではTayihuと
呼ばれており、古代インカではTaheeboと呼ばれていたとの
ことである。この植物の樹皮は利尿剤や収斂剤として使用
されている
[1−3]。
最近、
アルゼンチンのタベブイア・アベラネダエの樹皮から、
他のナフトキノンやアントラキノン
[5]の外に、5−ヒドロキシ−2−
(1−ヒドロキシエチル)−ナフト
[2,
3b]
フラン−4,
9−ジオン
(1)、8−
ヒドロキシエチル−2−(1−ヒドロキシエチル)
ナフト
[2,
3−b]
フラン−
4,
9−ジオン、2−アセチル−5−ヒドロキシナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−
ジオン
(2)、2−アセチル−8−ヒドロキシナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−
ジオン及び2,
3−ジヒドロ−5−ヒドロキシ−2−( 1−メチルエセニル)
ナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオンが単離された[4]。
ペルーで入手したタベブイア・アベラネダエ(=タベブイア・イン
ペチギノーサ)の樹皮、
ペルーで採集したタベブイア・クリサンタ
(“タフアリ”)ならびにコロンビアのカルタゲナで採集したタベ
プイア・ロゼアの樹皮からも、
(5または8)
−ヒドロキシ−2−
(1−ヒロドキシ
エチル)−ナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオンが得られたが、材から
はラパコールとジヒドロ−α−ラパコンが得られただけである
[6]。
キノン
(1)
は、
キゲリア・ピンナータの材から最初に得られたので
キゲリノンと名付けられた。この化合物の構造は誤って8−ヒドロ
キシ−2−(1−ヒドロキシエチル)
ナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオンと
された[7]。
同じ化合物がタベブイア・カッシノイデスの樹皮からも単離
された。樹皮のアルコール抽出物は、P−388(マウス移転性
リンパ肉腫細胞)並びにKB(ヒト上皮様細胞がん)細胞に対し
て細胞毒性があった
[8]。最近、
タベブイア・バルバータの樹皮
の95%エタノールエキスをブラインシュリンプ
(アルテミア属の甲
殻類)致死活性を指標として分画し、抗腫瘍キノン類、例えば8
−ヒドロキシ−2−( 1−ヒドロキシエチル)ナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9
−ジオンが単離されている。これらのキノンは、
インビトロでヒトの
固型がん(A−549,
MCF−7,
HT−29)に対して強い細胞毒性を
示した[9]。
これまで調査した南米植物の中では、
タベブイア・アベラネダエ
がその有望な治療効果と豊富にナフトキノンを含むことから、
薬用資源として極めて注目に値する。
しかし、
この樹木の人工
栽培は非常に難しい。薬用に供されているのは、20年以上の
野生のタベブイア・アベラネダエだけである
[1]。
この事実から、
タベブイア・アベラネダエの高ナフトキノン生産
細胞系を得る必要が生じたのである。
タベブイア・カライバ細胞
培養は、
4種のナフトキノン、
化合物(1)
(2)、
2−アセチルナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオン及び5−ヒドロキシ−2−
(1−メチル−エセニル)
ナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオンを生産した
[10]。
(結果と結論)
タベブイア・アベラネダエのカルス組織をキササゲで用いた
方法[11]で誘導した。インドール酢酸とカイネチンを添加した
ムラシゲ・スクーグ培地[12]で培養したカルスと細胞懸濁培養は、
表1. 12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート
(TPA)
に対するタベブイア・アベラネダエの抑制する影響
引き起こされたエプスタイン・バーウイルスの初期の抗原(EBV-EA)活性化
濃度:モル比(テスト合成物/TPA)
合成物
1
2
ラパコール
1+ラパコール
(臼歯の定量 1:1)
1000
0* (0)†
0 (0)
19.7 (80)
0 (20)
500
0 (0)
0 (0)
46.2 (80)
0 (30)
100
0 (0)
0 (0)
68.4
36.6 (80)
10
9.2 (20)
53.7 (70)
100
56.0
1
18.9 (50)
90.4
100
83.6
0.1
65.2 (80)
100
100
0.01
90.3
100
100
*値はEBV-EA活性化(%)
±s.dです。肯定的なコントロール
(100)
に関連のあるテスト合成物がある状態でのσ
(±5.0%)。その活性化は
TPA(32pmpl)
によって引き起こされました。
括弧中の†値は、
Rajiセルの実行可能性パーセントが、
0.25%のリン酸塩緩衝液(pH 7.2)
中のTPA、
n-ブチレートおよびテスト物質を備え
たセルのconcomittant処理の後に残存するセル48hrを数えることを後に続けて、
Trypanによって青を汚すことを測定したと言います。
1-5
微量の2−アセチル−5−ヒドロキシナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオ
ン
(2)
と共に5−ヒドロキシ−2−( 1−ヒドロキシエチル)−ナフト
[2,
3
−b]
フラン−4,
9−ジオン
(1)
を高収率(乾燥重量当たりで0.05%)
で生産した。この2種のキノンに関する物理的並びにスペクト
ルデータは、
文献値[5]
と一致した。細胞培養からの化合物(1)
の収率は、樹皮からの収率の100倍以上であった。EBVゲノム
を保持したヒトリンパ芽球細胞におけるエプスタイン・バールウィ
ルス
(EBV)発現活性化を利用する短期インビトロアッセイは、
腫瘍促進因子、
例えば12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセ
テート
(TPA)並びに抗腫瘍促進因子を検出するのに用いられ
ている
[13−15]。このアッセイシステムは、
インジケーターとしての
EBV−非生産細胞株、誘発剤としてのn−ブチレート、TPA並び
に試料からなっている。培地に、n−ブチレート、TPA及びナフト
キノン
(1)又はナフトキノン
(2)
を加えてから、細胞を37度で48
時間培養し、EBV初期抗原発現細胞の比率を蛍光抗体法
で測走した。このインビトロアッセイでキノン
(1)
とキノン
(2)は、
用量依存的な強い抑剤効果を示した。特に
(1)の活性は(2)
の約100倍以上であった。又、短期インビトロアッセイで
(1)の発
がん予防活性はラパコールの1000倍以上であった。
(表1)
(実験の部)
融点:未補正;IR:KBrディスク;プロトンNMR:220MHz,
CDCl(TMS標準)
3
:高分解能質量分析:陽イオン;TLC分析:
Merckシリカゲル60F254プレート
(分析目的では0.25㎜、
分取目的
では0.5㎜)、
トルエン・酢酸エチル
(4:1)
で展開。TLCプレートは、
UV光下254と360nmで観察した。
植物材料:果実、
樹皮、
植物標本は、
サンパウロ大学名誉教授
W.R.アコーシ博士より提供された。樹皮は日本国大阪のタヒボ
ジャパン株式会社から入手した。
組織培養/細胞懸濁培養の確率
タベブイア・アベラネダエの種子を70%のエタノール中に30秒、
ついで次亜塩素酸ナトリウム
(1%活性塩素)に30分浸して
殺菌した。さらに、滅菌水で5回洗浄し2%寒天板上、暗所
25度で培養した。30日以内にほとんどの種子が発芽した。長さ
−5
約5㎜の幼芽を10 モル2,
4−Dを添加したリンスマイヤー・スクーグ
(LS)基礎培地(オートクレーブ前のpH5.6)
に移し、暗所25度で
培養した。1−3週間でカルス組織が誘導された。このカルスを
−5
−5
2×10 モルのIAAと10 モルのカイネチンを添加したムラシゲ・
スクーグ
(MS)基礎培地(オートクレーブ前のpH5.8)
に移植し、
暗所25度で培養し4−5週間毎に継代した。3−5回の移植で、
カルス組織下の寒天層が黄色となった。これはナフトキノンの
生産を示すものである。カルス組織は寒天を入れないMS液体
培地
(200ml)
に移植した。液体培地は暗所25度で往復振とう機
(85ストローク/分、
振幅8㎝)
で振とうした。細胞は4−5週間毎に
移植した。
ナフトキノン
(1)
と
(2)の抽出分離
凍結乾燥したタベブイア・アベラネダエのカルス組織(10g)
を
還流下、
メタノールで30分宛4回抽出した。メタノールエキスは
合併し、減圧濃縮すると褐色の残渣を与えた。
これをクロロホルムで繰り返し抽出した。クロロホルムエキスは
水で洗浄後MgSO 4で乾燥し、黄色残渣を得た。この残渣を
TLCに付して2本の黄色バンドが得られた。
CHCl 3とMeOH(9:1)の混合溶媒で溶出し、Rf0.3の黄色
バンドからは、
5−ヒドロキシ−2−
(1−ヒドロキシエチル)
ナフト
[2,
3−b]
1-6
フラン−4,
9−ジオン
(1)
を5㎎得た。同様にもうひとつの黄色バンド
(Rg0.8)からは2−アセチル−5−ヒドロキシナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオン
(2)
を0.5㎎得た。この細胞系のキノンの含量は、
ブラ
ジルで収集した樹皮のキノン含量の100倍以上である。
5−ヒドロキシ−2−(1−ヒドロキシエチル)
ナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオン
(1)黄色針状晶(EtOHで再結晶)、
融点181°
;HR−MS,
+
28
m/z:258.0541[M](C14H10O5計算値258.0525)
;
[α]D −25°
(MeOH)
;UVλmaxnm
(logε)
:204
(4.26)
、
233
(sh3.74)
、
247
(4.05)
、
−1
300(388)、
396(3.83)
;IRιmax㎝ ;2950、
2860、
1670、
1640.1580、
1
1460、1370、1190、1170、970;HNMR;
δ1.65(3H,
d,
J=6.6Hz)、
2.25(1H,
brs,
D2Oを加えると消失)、5.05(1H,
m)、6.85(1H,
d,
J=0.7Hz)
、
7.27
(1H,
dd,
J=8,
3,
1.5Hz)
、
7.62
(1H,
[email protected],
J=8.3Hz)、7.82(1H,
dd,
8.3,
,
1.5Hz)、12.18(1H,
D2Oを加えると
消失)。
2−アセチル−5−ヒドロキシナフト
[2,
3−b]
フラン−4,
9−ジオン
(2)
max
エタノールで再結晶、黄色針状晶、融点218−220°
;UVλ nm
(logε)
:200
(4.36)
、
240
(4.07)
、
255
(4.30)
、
275
(4.12)
、
414
(3.50)
;
−1
1Rιmax㎝ ;2950、
2860、
1780、
1670、
1650、
1580、
1460、
1370、
1250、
1
1200、
1170、
1110,
970,HNMR;
δS2.67
(3H,
s)
、
7.33
(1H,
dd,
J=8.4,
1.5Hz)、
7.60(1H,
s)7.67(1H,
t,
J=7.8Hz)、
7.82(dd、
J=7.4,
1.5Hz)
,
12.13(1H,
8,
D2Oを加えると消失)。
(謝辞)
著者等は、
ミネソタ大学の故E.Leete教授、
並びに京都大学の
T.藤多教授に感謝する。同時にサンパウロ大学の名誉教授
W.R.Accorsi博士に対し、植物材料の提供、並びに親切な
助言に感謝する。著者にタベブイア・アベラネダエ植物を紹介
された本吉博士に感謝する。
(参考文献)
1.W.R.Accorsi(1998)
“TAHEEBO”、
p28 ゼロ・プランニング
(神戸)
2.橋本G(1962)
“ブラジル植物記”、p193 帝国書院(東京)
3.da Silva, M.F., Lisbo a, P.L.B, Lisbo a R.C.L(1977)
“Names Vulgares de Plantas Amazonicas”p.163.
Conselho National de Desenvolvimeto Cienifico e Tecnologco.
Instiuto nacional de Pesquisas da Amazonia, Manaus.
4.Wagner, H, Kreher, B.,Lotter, H.(1989)Helv,Chim. Acta72巻659
5.Burnett, A.R., Thomsohn, R.H.(1967)J.Chem. Soc.(C)2100.
(1988)
6.Girald, M., Kindack, D., Dawson, B.A., Ethier, J−C, Awang, D.V.C
J, Nat. Prod. 51巻、1023
“Phytochemistry”20巻、
2271
7.井上、
K.井上, H.Chen C.−C,(1981)
8.Rao, M. M.,Kingston、D.G.I.(1982)J, Nat. Prod. 45巻、600
9.Saizarbitoria, T. C., Andersor, J, E.、Mclaughlin, J,I.(1992)
(バージニア州ウィ
リアムスバーグ)
アメリカ生薬学会第23年会要旨集P−22
10.井上. H、上田. S、井上. K、苗代. H、漏留. N、
(1982)
“Plant Tissue Culture 1982”
(藤原・A、編集)p375−376
11.上田. S、井上. K、塩原. Y、木村. I井上. H、
(1980)
Planta Medica 40巻、168
12.ムラシゲ. T, SKOOG. H(1962)
“Physiol. Plant.”15巻、473
13.伊藤. Y、柳瀬. S、藤田. J、原山. T、竹島. M、今中. H(1981)
“Cancer Letters”13巻、29
14.岡本. H、吉田. D、水崎. S、
(1983)
“Cancer Letters”19巻、47
15.上田. S、岩橋. Y、徳田. H、
(1991)J. Nat. Prod、54巻、1677
16.Linsmier, E.M. Skoog, F(1965)Physiol. Plant. 18巻、100