10.青年期・成熟期女性の健康増進のための地域医療に おける薬剤師と

10.青年期・成熟期女性の健康増進のための地域医療に
おける薬剤師と助産師の専門職間連携
○宮原富士子
(ケイ薬局
薬剤師
在宅医療担当)
工藤里香
(兵庫医療大学看護学部)
成田伸
(自治医科大学看護学部)
【研究目的】
青年期・成熟期女性は月経関連症状に悩むことも多く、相談できずに我慢することで重
篤な症状になり、不妊へ続くことも多い。地域に根づき町中にある薬局を女性の相談の場
として活用し、相談しやすい薬局薬剤師と女性の健康の専門家である助産師の専門職間連
携が、女性の疾病予防・健康増進に有効である。
本研究は、薬局を女性の健康を支援する健康相談の場としての活用の可能性について基
礎情報を得ることを目的とする。
【研究の必要性】
10 代から 30 代の比較的若い青年期・成熟期にある女性の健康課題の様相が変化してきて
いる。月経困難症の増加(蛯名ら、2006)(香川ら、2010)、子宮内膜症の若年化(川瀬・
松本、2005)
(小畑、2004、2005)(ACOG Committee Opinion、2005)が著明である。さら
に晩婚化という現象が加わり、不妊の課題も深刻である。
また生活の利便性向上に伴う運動量の低下や出産の影響などにより、月経血の増量や血
液もれ、若い頃からの尿もれ(中田、2012)も問題になってきている。さらに、女性のや
せ願望による過剰なダイエット(木内、2012)
、食生活の変化による体重増加や栄養の偏り
があり(間瀬ら、2012)
、それらが引き起こす疾患は本人だけでなく、次世代に引き継がれ
ている。この状況に対する一般女性の関心は低いわけでなく、女性向け雑誌で特集が組ま
れ、製薬企業を中心にパンフレット等の作成も進み、携帯電話やパソコンでのインターネ
ットを活用した相談窓口も多数存在している。しかし、女性の健康情報のインターネット
上での提供に関しては、質の問題が指摘され、氾濫する情報の選択も適切に行われている
とはいえない。これらの健康課題は、民間療法や生活改善だけでは改善したりしないもの
も多く、我慢したり、不適切な市販薬での対応の結果が将来の不妊につながったりする場
合もあるため、適切な薬物療法、小手術を含む治療の方略が必要であり、適切な医療機関
の受診に結び付くようなカウンセリングや絶え間ない情報提供が必要である。そこで、青
年期・成熟期の女性が足を運びやすく、かつ医療専門家が常駐する場所として、町中の薬
局が適していると考えた。しかし薬剤師の対象者は子どもから老年期まで幅広く、今回の
研究でめざす女性の健康支援に活躍できるには、十分とはいえない。
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薬局を女性の健康支援における健康相談の場として活用し、これらの潜在患者に薬剤師
や薬局での情報提供で気づきを与え、さらには薬局薬剤師による受診勧告や助産師等への
相談につなげる体制の構築には、薬剤師と助産師との専門職間連携が有効と考える。この
専門職間連携は地域医療における疾病予防としてそのメリットは大きいと考える。
【研究計画】
①
対象者:薬局薬剤師 3 名(協力薬局に勤務する協力薬剤師)
②
対象となる薬剤師へ、女性の健康に関する情報提供を、助産師である工藤が直接行う。
③
協力薬局においては、研究者(宮原、工藤、成田)の作成したポスター(月経・婦人
科疾患・避妊・性感染症など女性の健康に関する情報を提供する)を掲示し、薬局利用
者に対する情報提供と質問や問い合わせしてきた薬局利用者への女性の健康支援情報の
追加の提供を行う。その際、ポスターと同様の情報提供ができる小冊子を用いていただ
く。
④
薬局利用者への対応について、薬剤師としての利点、困難な点、提供する情報の過不
足(薬剤師自身の知識、ポスターなど)、受診勧告の有無などをポスター掲示から3か月
および 1 年後にインタビューし、その内容を IC レコーダーにて録音し、分析をする。
【実施内容・結果】
①
ポスター、小冊子の作成
青年期・成熟期にむけて必要な情報を、思春期の女性にもわかりやすい表現を用いて、
6 枚のポスターにまとめた。
ポスター1「月経の“普通”を知っていますか?」
ポスター2「月経の時も快適に過ごそう!」
ポスター3「自分の体調をチェック✔」
ポスター4「子宮頚がんを予防する」
ポスター5「性感染症」
ポスター6「子宮内膜症」
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これら 6 枚のポスターと同じ内容を、A5 版のサイズの小冊子にまとめた。
表紙
②
裏表紙
研究対象者への情報提供
-ポスター掲示前-
薬剤師の方は、女性に特化した健康という視点での教育をうけていないことが多いた
め、研究の説明、ポスター掲示の依頼時に、月経を中心とした女性の健康とおこりうる
問題についての情報提供を行った。1薬局では、30 分時間をいただき、その薬局すべて
の薬剤師に講義という形で情報提供を行った。
-ポスター掲示後-
子宮頸がんワクチン、低用量ピルの作用と副効用についての問い合わせがあった。
③
インタビューの結果
インタビューはポスター掲示から 3 ヶ月~5 ヶ月後に実施した。(計画していた 1 年後
のインタビューは、これから実施する。)
<ポスターの掲示への反応>
・目立つところに貼っているが、他にも多くのポスターがあるため、このポスターがど
れくらい注目されているかはわからない。
・興味がありそうに読んでいる人はいる。
・話しかけるタイミングが難しい。
・ポスターを見たからか、思春期の娘を持つ父親が、母親がいないので、性教育をどの
ように娘に行えばよいのか、質問があった。
・もう少し、内容の特色がわかるポスターが良い。
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・性に関することは、色々な方が来る薬局という場にそぐわないと思い、貼らなかった
ポスターもある。薬剤師自身にも抵抗がある。
<小冊子について>
・小冊子は、お渡しすると持っていってくれる。興味はあるようだ。
・内容はわかりやすく、説明がしやすい。
・自分自身も知識を得ることができた。
<薬剤師自身の知識・情報の不足>
・女性の健康に着目した学習を今までしてこなかったので、講義を聴いて、初めて知っ
たことやなるほどと思ったことも多い。そのため、薬局利用者に自信を持って話をす
ることが難しいと感じた。
・薬局にいるすべての薬剤師が女性の健康に関する知識が豊富であるというわけではな
く、偏りがある。
・わからないこと、自信がないことは、すぐに確認できることは必要である。
<薬局利用者が対象の女性ではない>
・高齢者が多い。
・小児科受診した子どもの母親を対象にも考えたが、最近は働いている女性も多いため、
薬局に薬を取りに来るのは、父親や祖父母であることも多い。
<時間がない>
・調剤業務が忙しく、気になる方がいらしても声をかける時間がないことも多かった。
<他に必要だと思うこと>
・女性への健康支援ということであれば、思春期・成熟期の情報だけでなく、更年期の
情報も欲しい。薬局という場であれば、更年期のほうが見てくれる方が多いのではな
いか。
【考察と今後の課題】
本研究では、青年期・成熟期の女性の健康増進を考え、青年期に入る前の思春期の女性
から知識を得ていくことが大切であると考え、
「女子力セルフチェック」と名前をつけたポ
スター、小冊子を作成した。薬局に来る方が様々な年齢であり、母親世代、祖母世代が情
報を得ることで、娘世代へ情報が伝達されることを期待したが、その成果を測定すること
ができなかった。また、母親世代、祖母世代を、伝達する人とだけ捉えるのではなく、そ
の方自身にも有用な情報、つまり女性全体の健康情報を一緒に提示すべきであった。特に
更年期に関する情報は、青年期・成熟期と密接に関連しているため、情報も伝わりやすか
ったのではないかと考える。
薬剤師の教育課程の中で、疾病治療に主眼がおかれており(宮原ら、2014)女性の健康
に関する教育内容は少ない。また薬剤師の臨床の場面においても、女性医療に関わる項目
に関して「自信がない」と答える薬剤師が 2 割以上いた(宮原ら、2014)。しかし、基礎教
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育力が非常に高い集団であるため、医療職種間での連携をより密接に行うことで、薬剤師
の女性の健康に関する知識の向上は早急に進むと考える。今回の結果より、「わからないこ
と、自信がないことは、すぐに確認できる」ためのシステムは重要である。
【経費使途明細】
使途内容
金額
ポスター作製・印刷
50,000円
小冊子作成・印刷
50,000円
研究依頼、インタビュー実施時の交通費
186,540円
インタビュー謝礼
11,190円
通信費(切手、メール便、電話 FAX など)
会議費(打ち合わせ 5 回)
9,937円
11,190円
資料
5,460円
合
計
324,317円
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