随想 調停のこころ

 ケー ス研 究30 7 号
随想
調停のこころ
福 島調停 協会 会 長
渡
邊
健
壽
私は 昭 和 62 年 に福島家庭裁判所家事調停委 員 に 任命 さ れ 、 平 成5年 に 福 島簡易
裁判 所民 事調停 委 員 併 任とな りま した 。
こ れ ま で23 年 に わ たり調 停委 員を 務め 、種々 の調停 事件 を担 当し て来 まし たが 、
常々 、よ りよい 調 停 を 実現す るた めに どう した らよ いか を考え させ ら れます 。
昨年 の 第 58 回 全国調停委員大会で、川口冨 男 先 生の 基 調講演のテーマは「調停
委員 に求 められ る 資 質 と素養 」とい うもの でし た 。川 口 先 生 の お 話は 易 者 、翻 訳者 、
通訳者 、 精神科 医 、文学者、宗教人などいくつ か の 職業 を 挙げられ、その職業人と
の比較 か ら調停 委 員に必要な性向、能力等を分 析 さ れた も ので、調停 委 員 が当事 者
とど のよ うに向 き 合 っ たらよ いか を考 える のに 大変 示唆 に富む もの で した。
そし て 、 川口 先 生は「調停のこころ」という キ ー ワー ド を挙げて 、 無 名 無 私 か ら
湧き出 で る 発想 の 豊かさ、的確さとともに、調 停 の 重要 性 を認 識 す る こ と に よ っ て
生 じ る 調 停 に 対 す る高 い こ こ ろ ざし が 調 停 委 員 に求 め ら れ る と訴 え てお ら れ ま し
た。
「調 停 の ここ ろ 」という表現は、調停委員の 方 々 それ ぞ れにいろ い ろ な 受 け 止 め
方が ある と思い ま す が 、意味 する とこ ろを 私な りに 考え てみま した 。
調停 のこころ
P a rt1
当事者 に こ ころ を寄 せる
調停 は 、 紛争 の 一刀両断的解決を目的とせず 、 双 方の 話 し合いを 前 提 と し て 、 互
譲によ り 、 条理 に かない実情に即した解決を目 指 す もの で す。 当 事 者 が 調 停 の 趣 旨
を理解 し 、 合意 に よる解決を求めるという意思 が な けれ ば 、円 滑 な 進 行 は 困 難 で す
から 、そ の点か ら 心 を 開いて もら う必 要が あり ます 。
調停 に 臨 んで は 、裁判所に出頭して来た申立 人 の 心情 、 相手方の 心 情 を 十 分 理 解
して 、当 事者と 調 停 委 員会と の信 頼関 係を 形成 する こと が肝要 です 。
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そ の た めには 、 調 停 の進行 にも 細や かな 心遣 いが 必要 です。
まず は 双 方の 主 張を虚心坦懐に聴き取ること を 基 本に し 、その上 で 解 決 の 糸 口 を
見つ け出 す工夫 を す べ きです 。
紛争 の 外 形的 事 情や争点のみに目を奪われる こ と なく 、 当事者の 心 の 中 に あ る も
のを感 じ 取 り、 こ れを解きほぐすことにより、 柔 軟 で適 切 な解 決 に 到 達 で き る も の
と思 いま す。
紛争 に 直 面す る 当事者の精神的苦痛は大きい も の です 。 紛争の解 決 を 求 め る 当 事
者の心 情 に 応え て 円満な解決に導こうとする調 停 委 員の 熱 意こ そ 「 調 停 の こ こ ろ 」
とい うべ きでし ょ う 。
調停のここ ろ
P a rt2
調停委員のこころざ し を高める
調停 委 員 とし て 当事者の人生を左右するよう な 仕 事に 携 わってい る と い う 使 命 感
を自覚 し な がら 、 現実に当事者に与える影響の 大 き さを 考 えれ ば 、 自 ら の 言 動 、 判
断に 謙虚 さを忘 れ て は ならな いと 思い ます 。
当事 者 は 自分 の 有利不利を探ろうとして、調 停 委 員の ひ とこと、 一 挙 手 一 投 足 に
注目し て い るも の です。調停委員が一方に偏ら ず 、 自分 に 拘ら ず 、 誠 実 に 行 動 す る
ことか ら 、 その 真 摯さが相手に伝わり、当事者 双 方 の信 頼 を受 け る こ と が 出 来 、 納
得度 と満 足度の 高 い 解 決にむ すび つく もの と思 いま す。
調停 委 員 の公 正 無私の心境、調停制度の趣旨 、 公 的な 性 格を十分 に 認 識 し 適 正 妥
当な解 決 を 実現 し ようとする高いこころざしこ そ 「 調停 の ここ ろ 」 と い う べ き で し
ょう 。
調停 のこころ
P a rt3
い ろはか る たに 詠み 込ま れた 調停 のこころ
先 日 、〈調 停 いろは かる た〉 とい うもの が あるこ とを 知り まし た。
い
い ろいろの
も めご とはま ず調 停へ
ろ 論よ りは
義 理と人 情 の
話し合 い
は
話し合 い
相 手に五 分の
利 を譲り
に
人情 の
機 微 にふれ つつ
手際よ く
白黒を
決め ぬとこ ろに
味 がある
:
し
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:
ん
“ん”という ま で
じっ くり 話し 合い
こ の 〈 調停い ろ は か るた〉 は、 昭和 29 年 10 月 1 日日 本 調 停 協会連 合会 発行 、最
高裁判 所 事務総 局 賛助の「調停読本」に載って い る もの で 、いささか時代のギャッ
プを 感じ る点も あ り ま すが、 一面 、調 停の あり 方を 鋭く 示して いる と 思いま す。
更に 、 こ の調 停 読本には「調停手続は調停の 成 立 を目 的 として進められるもので
『 当 事 者 に 信 頼 感を 与 え つ つ 』『そ れ ぞ れ につ く す 誠 が 実 を結 び 』『 双 方 の納得 で
きる名 調 停』が 成 立するならば、関係者は『生 き 甲 斐を 成 立に知る帰りみち』とい
うこ とに なりま し ょ う 」とあ りま す。
簡潔 な 表 現な が ら、私たち調停委員にとって 「 調 停の こ ころ」を 示 し て く れ る 味
わい 深い 言葉で は な い でしょ うか 。
近年 、 社 会構 造 の変化や価値観の多様化等に よ っ て解 決 の困難な 調 停 事 件 が 増 え
ている 、 あ るい は 調停実務において対応の難し い 当 事者 が 増え て い る と い う こ と が
言わ れま すが、 そ れ で も「調 停の ここ ろ」 とい うも のは 変わら ない と 思いま す。
より よ い 調停 を 目指して、調停委員一人ひと り が 「調 停 のこころ 」 を 感 得 し 、 実
践し なけ ればな ら な い と考え てい ます 。
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