1. 食道狭窄に対するステント留置術

第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:鉾立博文,他
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消化管ステント
1 . 食道狭窄に対するステント留置術
旭川厚生病院 放射線科,消化器科
1)
鉾立博文,齋藤博哉,堀川雅弘,後藤 充
目 的
食道癌を中心とする悪性食道狭窄に起因する経口摂
取困難~不能に対してステントを留置して症状を緩和
する。
適 応
・悪性食道狭窄
進行食道癌(根治的手術や放射線化学療法の適応
外症例)
,縦隔リンパ節転移や縦隔腫瘍による食道
圧排および吻合部狭窄
・食道気管瘻,食道肺瘻,食道縦隔瘻など
・食道ブジーやバルーン拡張術が無効の瘢痕性食道狭
窄
(原則として短期間留置)
適応外
・食道入口部にステント端がかかる場合
疼痛や違和感が強い
・出血例
ステントの刺激により食道壁の脆弱化および壊死
を引き起こし更なる大出血の危険性が高くなる
・食道より肛門側に別の狭窄を有する
・全身状態不良
・放射線治療や化学療法の直後
・良性狭窄
ステント留置後の閉塞や逸脱などの合併症が高頻
度であり,原則的に適応外である
使用器具
マウスピース,内視鏡もしくは胃管やカテーテル,
ワイヤー留置下で造影する場合は Y 字コネクター。ガ
イドワイヤー(システムの直線化に適する硬性のもの:
0.035 inch Amplatz extra stiff 400 ㎝,Cook,選択性に
優れるアングル型の親水性のもの:Radifocus 400 ㎝,
Terumo など)
。拡張用バルーン(径 10~15 ㎜程度)
,食
道用ステント(Ultraflex, Boston カバーの有無,展開方
向:proximal/ distal type),造影剤
(非イオン性)
。
方 法
1 . 前投薬として 30 分前にペチジン(オピスタン )筋注,
®
5 分前にリドカイン(キシロカイン ビスカス 5 ㎖)に
®
94(226)
1)
てうがい後飲用させ,直前に咽頭部をリドカイン
®
(キシロカイン スプレー)で粘膜局所麻酔を施行す
る。体位は透視台に左側臥位とし,下顎を挙上させ
る。後投薬として直前あるいは術中に鎮静剤フルニ
®
トラゼパム・ミタゾラム(ロヒプノール ・ドルミカ
®
などを適宜投与する。
ム)
2 . 内視鏡または胃管・カテーテルを食道に挿入し狭窄
部口側まで進める。同部より食道造影を施行し直前
の狭窄部位・狭窄長などを確認する(図 1a)
。狭窄部
の口側と肛門側の位置を透視上で確認し,内視鏡的
なクリッピング(図 1b)もしくは体表に 18 G 針など
をテープで張り付けマーキングする。
3 . 狭窄長や狭窄部位および瘻孔の有無などを考慮しス
テントの長さ・カバーの有無を選択する。ステント
の長さは少なくとも狭窄長より 2 ㎝以上長いものを
選択し,狭窄が長区域にわたる場合は 2 個のステン
トをオーバーラップさせて留置することもある。ま
た,留置する部位に応じてステントが口側から展
開される proximal type と,肛門側から展開される
dystal type のどちらかを選択する。
4 . ガイドワイヤーを造影透視下もしくは内視鏡誘導下
に胃内に挿入し,胃内腔で十分たわませておく。ワ
イヤーを残しながら内視鏡もしくは胃管・カテーテ
ルを抜去する。
5 . 残したガイドワイヤーに沿わせてステントシステ
ムを挿入するが,咽頭でのたわみが強くスムーズ
に挿入されない場合は下顎を更に挙上させたりア
ウターシース(20 Fr sheath : DESILET-HOFFMAN
INTRODUCER SET 80 ㎝, Cook など)を併用してシ
ステムの挿入経路の直線化をはかり,狭窄部のマー
キングを目安にシステムを挿入する(図 1c)
。狭窄
が強固でシステムが挿入できない場合はバルーン
カテーテルで前拡張を行う場合もある。
6 . ステントのリリースに際しては Ultraflex の場合最初
に展開していく側の短縮率が大きいので(図 2),そ
の特性を十分考慮しながら慎重に留置する(図 1d)。
Distal release type の場合は目標とする留置部位のや
や肛門側より展開を始め,引き抜きながら位置を微
調整する。これは展開してからでは肛門側へのス
テント調整が困難なためである。Proximal release
type ではその逆となる。
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ステントの留置部位の上端は食道入口部より 2 ㎝
以内に入らないようにする。食道入口部は下咽頭収
縮筋輪状咽頭部であり,C5/6 または輪状軟骨の石
灰化が目安となる。すなわち C6/7 レベルがステン
ト上端の上限となる。入口近傍に留置しても問題な
1)
2)
いとする報告もあるが ,合併症は少なくない 。下
端は胃液の逆流による食道炎や誤嚥性肺炎の防止の
ため食道胃接合部より上方とする。しかしながら病
変が噴門部まで進展している例ではやむを得ずステ
ント下端を胃内腔へ留置する場合もある。
7 . ステント留置後,内筒およびガイドワイヤーをゆっ
くりと抜去する。この際,
システム先端がひっかかっ
てステントが移動しないように透視で確認しながら
抜去する。
8 . 最後に内視鏡もしくは胃管から食道造影を行いス
テントの留置部位と通過性・瘻孔の閉鎖を確認する
(図 1e)。内視鏡下での留置であればステントを鉗
子で引き抜いての若干の位置補正が可能である。
た悪性食道狭窄 96 例(男:女= 86 例:10 例)
,年齢 72
±12歳
(43~96歳)。疾患内訳は食道癌:76例(術後1例),
胃癌:12 例(術後 2 例)
,肺癌:5 例,大腸癌肝転移:1
例,縦隔腫瘍:1 例,原発不明癌:1 例。
結果:使用したステントは 96 例全例で Ultraflex(covered:non covered = 91:5)で 20 Fr long sheath を併用
したものは 7 例であった。手技的成功率:99%(95/96)
で 1 例は胃瘻を経由して逆行性に留置した。食道気管
瘻は 23 例で瘻孔閉鎖率:83%(19/23)であった。鉗子
を用いた位置補正は 10 例施行し,抜去して再留置した
ものが 4 例,ステント追加したものが 3 例(1 例は同日
に 2 本留置)
だった。平均生存期間:188 日
(7~988 日)
,
経口摂取改善率(5 分粥以上):85%であった。合併症
は潰瘍・瘻孔形成:9 例
(9.4%)
,逸脱・移動
(1 週~ 4 ヵ
術後管理
咽頭麻酔がきれてから数時間後より飲水から開始
し,問題なければ経口摂取を重湯~ 3 分粥で開始する。
ステント留置後の摂食は少量ずつ行い,炭酸系飲料を
多用するなど残渣によるステント閉塞を予防する。ス
テント留置数日~ 1 週後に食道造影や X 線写真でステ
ントの拡張具合を確認して(図 1f)
,拡張不良や通過性
不良などがあればバルーン拡張やステントの追加など
を考慮する。
治療成績
対象:当院で 1997 ~ 2008 年に食道ステントを留置し
図 2 Ultraflex(non covered, distal type)の展
開(in vitro・透視下)
展開前のステント遠位端の位置(太矢印)
と展開後の位置(細矢印)を比べると短縮
率が大きいことがわかる。
図 1 60 歳代 男性 食道癌
a : 食道造影にて中部食道に狭窄・瘻孔
(矢印)
を認めた。
b : 内視鏡で狭窄部上端にクリッピングした。
c : 食道ステントのカバー上端
(セカンドマーカー)
をマーキング上方に合わせた。
d : ステントを展開させた。
e : 内筒およびワイヤーを抜去し再造影し,狭窄の改善を確認した。
f : 1 週後の造影にてステントの full expansion と瘻孔閉鎖を確認した。
a b c d e f
(227)95
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月):7 例(7.3%)
,縦隔洞炎・肺膿瘍:4 例(4.2%)
,残
渣による閉塞:3 例(3.1%)
,overgrowth:3 例(3.1%)
,
抜去が必要な嘔吐:2 例
(2.1%)
,大量出血
(2,17日目)
:
2例
(2.1%)
,hyperplasia:2 例
(2.1%)
であった。
これら治療成績については緒家の報告と同等であっ
3 ~ 5)
た (表 1)。
合併症とその対策
食道ステント留置手技に伴う合併症は稀であるが,
化学療法や放射線治療直後は病変や食道壁組織が脆弱
となっており,バルーンによる前拡張やガイドワイ
ヤーによる食道穿孔などに対し細心の注意が必要であ
る。ステント留置後の合併症は,ステント逸脱・疼痛・
穿孔・出血・再閉塞など比較的高頻度に報告されてお
,主な合併症に対する対処法を述べる。
り(表 2)
悪性食道狭窄に使用するステントは内腔への腫瘍進
展防止と瘻孔閉鎖の目的でカバードステントが多く,そ
のため逸脱が起きやすい。特に食道胃接合部に留置し
た場合は頻度が高いので注意を要する。Ultraflexであれ
ば消化管壁を損傷する鋭利な部分がないので胃内に留
まる例では内視鏡を用いて経口的に抜去可能である。
小腸に流出しても肛門より排出され重篤な合併症は起
こさないことが多い。ただ,術後の癒着や回盲弁など
で小腸に停滞すると穿孔や閉塞を来たし外科的処置が
7)
必要となる例もあり厳重な観察が必要である 。
疼痛は,ステントが生体になじむにつれ経時的に軽
快することが多いが鎮痛剤を用いてコントロールす
る。しかし,疼痛制御に難渋する例もあり抜去せざる
6)
表 1 悪性食道狭窄に対するステント留置術の
3〜5)
治療成績
・留置成功率
:96 〜 100%
・症状改善率(1w 〜 1m)
:
96 〜 100%
・普通食摂取率
:49 〜 96%
・瘻孔閉鎖率
:67 〜 100%
表 2 ステント留置後の合併症
6)
・疼 痛:9.5 〜 20.8%
・逆 流:5.5 〜 41.6%
・食道潰瘍:1.9%
・出 血:1.9 〜 6.9%
・異 物 感:2.4 〜 20.8%
・ステント拡張不良:2.7 〜 14.2%
・overgrowth:0 〜 19%
・migration:0 〜 8.3% など
図 3 70 歳代 男性 食道癌
a:ステント遠位端に再発による狭窄を認めた。
b:カバードステントを追加留置した。
c:造影にて再狭窄の解除が得られた。
a b c
a b c
図 4 70 歳代 男性 食道癌
a : ステント口側および肛門側に狭窄を認
め,内視鏡にて過形成を確認した。
b : 2 か所の狭窄をカバーするように追加
ステントの位置を合わせた。
c : stent in stent 後の造影および内視鏡に
て狭窄の解除を確認した。
96(228)
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を得ない場合もある。
ステント留置後の再狭窄・閉塞については腫瘍の
overgrowth・正常粘膜の hyperplasia が原因となる場
合があるが,ステントの追加で対処する(図 3,4)。食
物残渣による閉塞では,内視鏡による洗浄で対処する
(図 5)。
その他,ステント留置後の瘻孔形成や膜破損も報告
されているがステント追加にて対処している。食道胃
接合部に留置した際は逆流性食道炎や誤嚥性肺炎など
が生じうるが,制酸剤投与や食後の座位・立位を保つ
ことで予防する。
重篤なものでは,縦隔洞炎(図 6)・肺膿瘍などがあ
りドレナージが必要となるが救命できない場合もあ
り,ステント留置に際しては十分な説明と同意を得る
8)
必要がある 。出血は概ね一過性であることが多いが
時に大出血をおこし致命的となり,動脈塞栓術で救命
図 5 60 歳代 男性 食道癌
a : 造影にてステント上端の閉塞を認め内視
鏡で食物残渣の充満を認めた。
b : 内視鏡下の洗浄にて閉塞が解除された。
a b
できたとの報告がある 。食道ステントによる気道閉
7)
塞に対しては気管ステントも考慮する 。
9)
食道ステントの短期留置
当院において食道ステントを一時的に留置して抜去
した症例が 6 例あり,4 例が良性食道狭窄であった(表
3)
。良性食道狭窄に対するステント留置は短期間での
逸脱や長期留置による合併症も多く原則的に適応外で
あるが,われわれは必ず抜去する方針で 1 ~ 2 週の短
期間の留置を試行している。主に食道癌の放射線化学
療法後の瘢痕狭窄例でバルーン拡張やブジーに抵抗性
のあるものに実施し良好な経過が得られている症例も
経験している(図 7)
。2 例は悪性食道狭窄症例で,や
むなく短期留置となった症例であったが,癌死するま
でブジー効果としては十分であった(図 8)
。Kim らは
10)
2 ヵ月留置を標準としており ,われわれの試みであ
a b
図 6 70 歳代 男性 食道癌
a : バルーン拡張後の狭窄に対しカバードステ
ントを留置した。
b : 留置 1 ヵ月後の造影にてステント外に造影
剤漏出が見られ,縦隔炎~肺炎・胸水貯留
を認めた。
a b c d e
図 7 70 歳代 食道癌放射線
治療後の瘢痕
a : 下部食道に比較的スムー
スな狭窄を認める。
b : カバードステントを留置
した。
c : 1 週後の X 線写真にてステ
ントの full expansion を確
認した。
d : 2 週後に内視鏡的に抜去
した。
e : 3 ヵ月後の造影で再狭窄
は見られない。
(229)97
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表 3 食道ステント短期留置 症例一覧
症例
疾 患
留置期間
開存期間
経 過
食道癌
#
2wks
2m
固形物可も IVH 併用で癌死
食道癌
#
2wks
4m
再発にて stent 留置 2 回
追加治療継続 1 年 9ヵ月癌死
食道癌
#
2wks
3ys
経過良好にて外来観察中
食道癌
#
1wk
2m
以後バルーン拡張繰り返し
2 年生存中
2wks
*
5m
経口摂取可能→癌死
**
1wk
4m
経口摂取可能→癌死
50 M
79 M
71 M
75 M
89 M
食道癌
66 M
胃癌再発
#:RT 後瘢痕狭窄
*:stent 移動にて抜去
**:初回カバードステント脱落後のベアーステントが胃壁で閉塞するため留置 1 週後に抜去
a b c
図 8 60 歳代 男性 胃噴門部癌再発
a : 初回留置のカバードステントが 1 ヵ月で
脱落したためベアーステントを留置した。
b : ステント遠位が胃壁にあたるため 1 週後
に抜去した。
c : 造影にてブジー効果良好で 4 ヵ月後の癌
死まで経口摂取可能だった。
る留置期間 1 ~ 2 週が妥当かどうか更なる検討が必要
であるが,良性狭窄に対する短期留置の有用性が期待
できると考えている。
【参考文献】
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4)Saxon RR, Morrison KE, Lakin PC, et al : Malignant
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98(230)
long-term results in 100 patients. Radiology 207 :
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テント留置術.第 23 回日本 Metallic stent & Grafts
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7)Ko HK, Song HY, Shin JH, et al : Fate of migrated
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in 70 patients. J Vasc Interv Radiol 18 : 725 - 732, 2007.
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金原出版, 東京. 2007, p32 - 33.
9)Kos X, Trotteur G, Dondenlinger RF : Delayed
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treatment with embolization. Cardiovasc Inter v
Radiol 21 : 428 - 430, 1998.
10)Kim JH, Song HY, Choi EK, et al : Temporary metallic stent placement in the treatment of reflactory
benign esophageal strictures : results and factors
associated with outcome in 55 patients. Eur Radiol
19 : 384 - 390, 2009.
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消化管ステント
2 . 大腸ステント留置術
愛知県がんセンター中央病院 放射線診断・IVR 部
佐藤洋造,稲葉吉隆,山浦秀和,名嶋弥菜,金本高明
友澤裕樹,坂根 誠,北角 淳,寺倉梨津子
はじめに
大腸ステント留置術に必要な準備:手袋,マスク,
ガウン,あればシューズカバーの着用が望ましく,間
違っても白衣のままで行わないほうがいい。経肛門イ
レウスチューブ挿入術でも経験することであるが,手
技が完了して油断していると…(+_+)
。あとは実際に
手技を行い経験して欲しい。
さて本題に入ろう。大腸ステント留置術は,食道ス
テント留置術と経肛門イレウスチューブ挿入術の経験
があれば,ほぼ問題なく行うことができる手技である。
適 応
・手術不能悪性大腸狭窄や大腸癌術前における消化
管減圧が適応となるが,右半結腸は技術的に困難で
ある。
・代替の治療法として,人工肛門造設術の可否を常に
検討する必要がある。
適応外
・肛門輪に近い病変は,違和感,疼痛が強く避けたほ
うがよい。
・癌性腹膜炎などによる多発狭窄の症例。
・出血傾向のある症例。
術前準備
検査
・経肛門的に消化管造影を行い,狭窄・閉塞の部位・
範囲を確認する。
・腹膜播種の場合は多発狭窄の除外が必要である。
前投薬
・ペンタジン(15 ㎎)
,アタラックス P(25 ㎎)
を使用。
・手技直前にキシロカインゼリーによる肛門麻酔。
・適宜セルシンやドルミカムなどの鎮静剤を併用。
主な使用器具
・ステント,ガイドワイヤー(ラジフォーカス,アンプ
ラッツなど)
,カテーテル
(当院では 6.5 Fr シーキング
カテーテルを使用)
,適宜大径シースなど。
・ステント:大腸ステントは保険適応未承認であり,食
道用ステントを使用することが多い。最近 Ultraflex
stent 以外に,Niti-S stent が食道用ステントとして承
認され,今後大腸領域にも使用されていく可能性が
ある。Ultraflex stent を使用する場合にはステント移
動の防止目的で,ベアステントを使用している。他
に気管用 spiral Z stent や自作ステントを使用するこ
ともある。
手 技
透視下で行う場合と内視鏡を併用する場合がある
が,ほとんどは透視下で行っている。
1 . 造影(図 1a)
:ネラトンカテーテルなどを肛門より挿
入し,ガストログラフィンによる造影にて病変部を
確認する。
2 . ガイドワイヤー挿入(図 1b)
:狭窄部をガイドワイ
ヤーで超える。狭窄部までカテーテルのみでは到達
しにくい場合があり,S 状結腸近位(肛門側)までの
病変なら,大径のネラトンチューブなどをそのまま
押し込むことで比較的容易に狭窄部まで到達可能で
ある(細径のカテーテルだと意外と腸管壁にひっか
かる)。ネラトンチューブを外套として,その内腔
にカテーテルを挿入すると操作が容易である。
3 . ガイドワイヤー交換:カテーテルを狭窄部遠位まで
挿入し,アンプラッツなどの比較的固いガイドワイ
ヤーに交換する。
4 . ステント挿入(図 1d)
:カテーテルをステントイン
トロデューサーに交換し,狭窄部にステントを留置
する。ステントが狭窄部を通過困難な場合は,大径
シース(オーバーチューブ)を併用する。大腸壁は薄
いため穿孔の危険性があり,バルーン拡張は行わな
1)
いほうが無難である 。Ultraflex stent を使用の場合
は,ステントイントロデューサーの先端部が比較的
長いので(特に distal type)十分ガイドワイヤーを挿
入しておくべきである。
5 . ステント留置(図 1e)
:直腸病変ではステント断端
が肛門近くに位置しないように留置する。Ultraflex
stent はかなり短縮するので位置決めには注意が必
要である。ちなみに肛門付近の病変で proximal type
を使用した場合,マーカーに合わせてデリバリーし
ようとすると,手前側のステント断端が肛門より体
外にでてしまうことがある。この場合はデリバリー
(231)99
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システムを奥に押し込み,位置合わせをしながら
ゆっくりステントをデリバリーしていく。
6 . 確認造影(図 1f)
:デリバリーシステムを抜去し,カ
テーテルに交換して通過の確認造影を施行。
*一期的に行う場合と,経肛門イレウスチューブを留
置して二期的に行う場合がある
(図 1c)
。
* S 状結腸の蛇行が強い症例では内視鏡の併用が必要
となることが多い。
合併症
術中
・出血:保存的に対応可能であることが多いが,止血
処置を必要とすることもある。
・穿孔:無理なガイドワイヤー,イントロデューサー
操作が原因となる。大腸の屈曲部や腫瘍部で注意を
要する。
・疼痛:イントロデューサー挿入時,ステント留置に
伴う疼痛や肛門部の操作時などに来たす。迷走神経
反射にも注意が必要である。
術後
・ステントの逸脱:カバーステントで来たしやすい。
・ステント閉塞:腫瘍のステント内への増殖(tumor
in-growth)やステントを超えての腫瘍の増大(tumor
over growth)による。食物塊や便塊による閉塞は内
視鏡的に取り除いたり,洗浄を行う。
・疼痛:ステント拡張に伴う圧迫によるもので,麻薬
製剤を必要とすることもある。大腸ステントでは肛
門部近傍にステント断端部が位置すると違和感・疼
痛などでステントを抜去せざるを得ないこともある
(図 2a 〜 d)
。
・穿孔:ステントの圧迫による消化管壁の壊死などが
原因となる。
治療成績
ここ数年で,大腸ステントの報告はかなり増えてき
ている。ここでは本邦で行った多施設共同前向き第Ⅱ
相試験
(JIVROSG−0206 : Japan Interventional Radiology
2)
in Oncology Study Group)
のデータを簡単に紹介する 。
目的は切除不能悪性大腸狭窄に対するステント治療
の臨床的評価で,primary endpoint は臨床的有効性,
secondary endpoint は有害事象の発現頻度と程度,手
技の実行性の評価である。人工肛門造設が適応となる
図 1 直腸癌術後局所再発症例。左尿管には DJ カテーテルが留置されている。癌性腹膜炎を
合併しており,経肛門イレウスチューブを挿入し
(c)症状改善を確認した後に,ステン
ト留置
(uncovered Ultraflex stent を使用)
を行った。
100(232)
a b c
d e f
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a b
c d
図2
a,
b : 直腸癌術後局所再発症例。ステント留置
(uncovered Ultraflex stent を使用)を行っ
たが,肛門部の激痛で翌日にステントを
抜去した。
c,d : 約 1 週間後に自作ステント(Z ステント)を
再留置し,その後の経過は良好であった。
症例や術前減圧目的の症例は除外している。使用ステ
ントはuncovered Ultraflex stentで,
手技は97%
(32/33)
で成功し,手技に伴う重篤な合併症は認めなかった。
臨床的有効性は 81.8%(27/33)に認められ,症状が十
分に改善した症例は 45.5%(15/33)であった。経過中に
Grade 2 ~ 3 の下痢を 33.3%,疼痛を 15.2%,出血を 3%
に認めたが,消化管穿孔などの重篤な合併症は認めな
かった。これらの結果から,切除不能悪性大腸狭窄に
対する症状緩和目的でのステント治療は有用であると
結論した。
海外からは人工肛門造設とステント治療の比較試験
の報告なども散見され,ステント留置が人工肛門造設
にとって代わる治療と結論する報告もあるが,試験デ
ザイン自体に疑問が残るものも多い。個人的には(大
腸ステントの症例を主治医として診ていると)予後が
十分見込める症例であれば,やはり人工肛門造設を優
先すべきと考える。
まとめ
大腸ステントの当院での留置手技ついて概説した。
本邦での消化管ステントの保険適応は食道領域のみで
あるが,近年大腸領域の有用性を示す報告も増えつつ
あり今後の適応拡大を期待したい。最後に医学的な事
項ではないが,本手技後は検査室の開放が望ましく,
後に検査が控えていない状況で行うことをお勧めする
(これは医療従事者のみでなく,他の患者さんのため
にも重要である…)
。
【参考文献】
1)田中建寛,吉川公彦,吉岡 哲,他:消化管ステン
ト.IVR 会誌 17 : 224 - 232, 2002.
2)Inaba Y, Arai Y, Yamaura H, et al : Phase II clinical
study on stent therapy for unresectable malignant
. ASCO : abstr
colorectal stenosis(JIVROSG-0206)
9641, 2008.
(233)101
第 38 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:宮山士朗
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消化管ステント
3 . 胃十二指腸・胃空腸吻合部ステント
福井県済生会病院 放射線科
宮山士朗
はじめに
消化管ステントは Song ら の 1991 年の手術不能な悪
性食道胃狭窄病変への留置の報告以来,quality of life
(QOL)の改善に有用な方法として注目を集めるよう
になった。その後次第に大腸や胃十二指腸狭窄にも応
用されつつあるが,本邦では食道のみが保険適応で,
また認可された消化管ステントは 1 種類しかない。現
状の器具を用いた胃十二指腸・胃空腸吻合部ステント
(以下胃十二指腸ステント)は決して容易ではなく,洗
練された手技とはいいがたい。本稿では胃十二指腸ス
テントの技術面を中心に概説する。
1)
目的・適応と代替治療
胃十二指腸ステントの目的は,手術不能な膵頭部領
域癌や胃癌による胃十二指腸や胃空腸吻合部の狭窄に
対し,ステントを留置して閉塞を解除することで経口
摂取を可能にすることであり,代替療法としては胃空
腸吻合などのバイパス術,経鼻胃管や経皮経食道胃管
(PTEG)によるドレナージがある。バイパス術は侵襲
的で,経鼻胃管は内径が細いため効果が不十分であっ
たり,人によってはかなりの苦痛を伴う。
方法・使用器具
現在,本邦で認可された消化管ステントは Ultraflex
(Boston Scientific)のみである(図 1)
。このステントは
0.15 インチのナイチノール鋼線を編みこんだ構造であ
り,口側端がフレアー状の形状をしている。ステント
図 1 Uncovered Ultraflex
102(234)
は有効長 95 ㎝の 16 F デリバリーカテーテルに糸で縛
り付けて装着されており,糸を引いてほどくことで
展開される。ステント装着部の外径は約 20 F である。
Ultraflex には留置時に手前からステントが展開される
proximal release system と先端部から展開される distal
release systemの2 種類がある。Proximal release system
では展開時の手前側の短縮が大きく,distal release
system では先端側の短縮が大きい。このため distal
release systemでは先端部を十分奥まで挿入する必要が
あるが,十二指腸では強い曲がりのため困難なことが
多く,proximal release system の方が適している。また
covered stent と bare stent の 2 種類があるが,covered
stent では留置後の移動が,bare stent ではステント内
への腫瘍の侵入による閉塞が問題となる。我々の経験
上,bare stent であっても経過中のステント閉塞はほ
2)
とんど生じない 。これは胃十二指腸ステントの適応
となる患者の予後が限られていることや,適応の多く
を占める膵癌などでは壁外病変が主体であるためと考
えられるが,胃癌や長期生存例では閉塞のリスクはあ
る。一方,covered stent でも正確に留置できれば移動
3)
しないとの報告もあり ,統一された見解はない。
我々は食道や大腸のステント留置は透視下のみで施
行しているが,胃十二指腸ステントでは内視鏡を併用
している。内視鏡が狭窄部を通過できる場合は,内視
鏡のチャンネルから 0.035 インチアンプラッツガイドワ
イヤー(Cook)を十分奥まで挿入する
(図 2)
。内視鏡が
通過しない場合には,ERCP 用の造影カテーテルと親
水性ガイドワイヤーの組み合わせで閉塞部を貫通する
(図 3)
。胃空腸吻合例で吻合部が内視鏡で確認できな
い場合は,透視下で貫通を試みる。また貫通に難渋す
2)
る場合にはマイクロカテーテルを使用することもある 。
いずれかの方法で 0.035 インチアンプラッツガイドワイ
ヤーが病変部を越えて挿入できたら,カテーテルや内
視鏡を抜去する。その後,手元部を切って適当な長さ
にした 22~24 F の C 型 Keller-Timmermans introducer
set(Cook)
(以下 C 型シース)
(図 4)をガイドワイヤーに
沿わせて胃内に挿入し,10~15 ㎜径バルーンカテーテ
ル(Balloon Dilator ; Hobbs Medical)で狭窄部を拡張し
た後にステント留置する。留置後にはカテーテルを挿
入し適宜造影を行った後,シースを抜去して再度内視
鏡にてステントの位置を確認する。
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技術教育セミナー / 消化管ステント
施行時のコツ・工夫・注意点
Ultraflex の有効長は 95 ㎝しかなく,胃十二指腸ス
テントではシステムを延長する必要がある。まずデ
リバリーカテーテルの手元のグリップ部分を切断し,
ステントを固定している糸を引き出す。延長用のテ
フロン製チューブ(三尚)の中にループスネア(Boston
Scientific)を通してステントを固定している糸を縛り,
スネアを閉じて糸を少し引き込み固定する。その状態
でテフロンチューブをデリバリーカテーテルに被せて
連結する
(図 5)
。
食道ではバルーンによる前拡張はまず必要ないが,
胃十二指腸では前拡張をしないとステント挿入に難
2)
渋することが多く ,最近では全例で施行している。
Ultraflex のデリバリーカテーテルは腰が弱く,胃大弯
側でたわみが生じる。そのためロングスライディング
チューブ(オリンパス)やロングシースが必要となるが,
最近は C 型シースを使用し,先端が幽門側に向くよう
a b c
d e
図 2 進行胃癌
a : 胃角部から幽門部にかけて高度狭
窄を認める。
b : 内視鏡で狭窄部を貫通し,ガイド
ワイヤーを挿入した。
c : C 型シース(矢印)を挿入した後,バ
ルーンカテーテルで狭窄部を拡張。
d : ステントを留置した。
e : ステント留置直後。
図 3 進行膵癌
a : 十二指腸に高度狭窄を認める
(矢印)
。
b : 内視鏡が通過しなかったため,ERCP 用造影カテーテル
(矢印)
と親水性ガイドワイヤーで病変部を
貫通した。
c : バルーン拡張後にステントを留置した。
a b c
(235)103
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技術教育セミナー / 消化管ステント
にひねりながらステントを挿入している。高塚らは
C 型シースの先端をスネアで把持し,幽門側に向けた
状態で固定する方法を報告している。C 型シースを使
用してもステントが押せない場合は,フィンガーリン
グをはずしてステント固定用の糸のルーメンに 0.035
インチアンプラッツガイドワイヤーを先端から出さな
4)
いように挿入し,シャフトを補強する(図 6)
。それで
もたわみのためにステントが進まない場合は,胃大弯
側を体表から用手圧迫しながら挿入する(図 7)
。留置
目的部位を少し越えるまでステントを挿入してから全
体のたわみを取るように引き戻して位置を合わせるほ
うが,正確に留置できる。
a
b
c
図 4 C 型 Keller-Timmermans introducer setとUltraflex
の組み合わせ
図 6 デリバリーカテーテルのシャフトの補強
フィンガーリングをはずし,ステント固定用の糸
のルーメンに 0.035 インチアンプラッツガイドワイ
ヤーを挿入する(矢印)
。
d
図 5 デリバリーカテーテルの延長
a : デリバリーカテーテルのグリップ部を切断し,
ステント固定用の糸を引き出す。また延長用
チューブにスネアを通しておく。
b : ステント固定用の糸をスネアに縛りつける。
c : ステント固定用の糸をスネアに引き込み固定
する。
d : 延長用チューブをデリバリーカテーテルに被
せて連結する。
*
図 7 胆嚢癌術後再発
a : 十二指腸での閉塞を認め,胃は下垂している。尚,経鼻胃管が挿入されている
(矢印)
。
b : 胃の大弯側(*)
を体表から圧迫し,デリバリーカテーテルを挿入した。
c : ステント留置後。
104(236)
a b c
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胃十二指腸狭窄を有する患者では胆管狭窄が並存す
ることも少なくない。乳頭を越えて留置された胆管ス
テントは胃十二指腸ステントの支障にはならないが
(図 8)
,十二指腸内に Ultraflex が留置された後に,乳
頭を越えて胆管ステントを留置する場合は,Ultraflex
のメッシュ間隙を貫通するのにかなり難渋するため
(図 9),胆管狭窄が並存する場合には胆管ステント留
置を先行したほうがよい。
術後管理
ステント留置 2 時間後より飲水を開始し,翌日より
流動食から経口摂取を開始する。その後は通過状態を
見ながら順次固形物摂取へと進めていく。留置後 3 日
間はステントの拡張状態と移動や穿孔の有無を確認す
2)
るため,腹部単純写真を撮影する 。経過で通過障害
が再発した場合には,内視鏡や CT にてステントの状
況を確認し,必要時には追加処置を行う。
図 8 胆管閉塞と十二指腸狭窄を伴う進行膵癌
a : 経皮的に総胆管から乳頭にかけて胆管ステントを留置した。
b : 胆管ステント留置後に十二指腸にステントを留置した。
c : CT にて胆管と十二指腸のステントの開存が確認できる。
a b c
図 9 胆管閉塞と十二指腸狭窄を伴う進行膵癌
a : 下部胆管での閉塞を認める。
b : 乳頭を越えて S.M.A.R.T. stent の留置を試みたが,デリバリーカテーテルが通過せず手前への留置
となったため(矢印)
,Ultraflex のメッシュ間隙をバルーンで拡張した後に Palmaz stent を追加留置
した(矢頭)
。
c : CT にて Ultraflex を胆管ステントが貫通しているのが確認できる
(矢印)
。
a b c
(237)105
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治療成績と合併症
まとめ
Covered stent(Song stent)を用いた Songら の 102 例
の報告では,技術的成功率は 99%,臨床的有効率は
84%で,合併症は移動 2 例,出血 1 例,閉塞性黄疸 2 例,
5)
ステント閉塞 5 例で,Bessoudら も 72 例で同じステン
トを留置し,技術的成功率 97%,臨床的有効率 90%で,
合併症は移動 8 例,ステント破損 1 例,穿孔 1 例,閉塞
7 例と報告している。我々は現在まで 39 例に施行し,自
作の covered spiral Z stent を使用した最初の 1 例以外は
bare stent を留置した。技術的成功率は 100%,臨床的
有効率は 92%であるが,2 例では初回には留置できず,
数日後に再挑戦し留置に成功した(1 例では Ultraflex の
留置を断念し Wallstent を留置)
。合併症では手技中の
頸部食道穿孔を 1 例で認め,緊急手術により穿孔部を
縫合し救命できた。Misplacement は 3 例に認め,うち
2 例では留置直後に内視鏡下に鉗子でステントを把持
しながら抜去し,再留置を行った。1 例では数日後に
misplacement が判明し,内視鏡にて抜去を試みたが
不成功に終わり,経過観察となった。胃癌術後胃空腸
吻合部再発の 1 例では 5 ヵ月後に腫瘍の増大によるス
テント閉塞を認め,ステントの追加留置を行った。ス
テント破損は 1 例に認め,留置 4 ヵ月後にバイパス術
が施行された。
7,8)
Covered stent の移動の頻度は 21~26% ,ステント
9)
破損の頻度は 4.6% と報告されているが,いずれも韓
国製のナイチノールステントでの成績であり,Ultraflex
の移動率や破損率は明らかにされていない。ステント
破損は動きのために生じると考えられており,発現時
期は留置から 34 ~ 270 日(平均 101.8 日)後で,なかで
も幽門輪部への留置例,長期生存例,化学療法未施行
例で頻度が高い。可能であればステントの追加留置で
9)
対処する 。ステント留置に伴う穿孔はステント以外
の器具に起因することもあり,判明した場合は可能で
10)
あれば速やかに手術を考慮する 。
5)
将来展望
Ultraflex には種々の問題があり,特にステント装着
部の摩擦が大きいため,胃十二指腸には留置しづらい。
最近になって胆道用として認可された 20 ㎜径の Niti-S
Type-D stent
(Century Medical)
は外径が10.5 Fと細く,
ステントが outer sheath で覆われているため挿入時の
摩擦抵抗も少ない。有効長は 180 ~ 220 ㎝で,十二指
腸に留置するのに十分な長さがある。数例で使用した
が留置が容易で(図 10)
,適応の拡大が望まれる。ま
た最近になって,韓国製のナイチノールステントや
Wallstent の認可へ向けた動きがある。良性狭窄に対
しては回収可能なステントや生体吸収性ステントの導
入や開発が期待される。
106(238)
胃十二指腸ステントは QOL の改善には有用な方法
であるが,Ultraflex は決して扱いやすいステントでは
なく,留置の際にはさまざまな工夫が必要となる。本
法は手技自体の困難さからまだあまり認知されていな
いが,適応となる患者は決して少なくなく,留置が容
易なステントが使用可能となれば,広く普及する可能
性がある。
a
b
図 10 進行胃癌
a : 幽門部から
十二指腸に高
度狭窄を認め
る。
b : バルーンでの
前拡張なしに
Niti-S Type-D
stent を 留 置
した。
【参考文献】
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技術教育セミナー / 消化管ステント
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(239)107