画像処理論 第11回 佐藤 洋一 生産技術研究所 情報理工学系研究科電子情報学専攻/情報学環 http://www.hci.iis.u-tokyo.ac.jp/~ysato/ 前回講義の内容 テクスチャ テクスチャとは? テクスチャの表現方法 テクスチャモデル獲得のための線形フィルタ テクスチャの合成 テクスチャによる形状推定 テクスチャの表現 基本的考え方 基本となる要素がある程度規則的に分布 このような要素をテクストン(texton)と呼ぶ テクスチャ表現のアプローチ 基本要素テクストンを定義 テクストンの分布を求める テクストンによる表現 入力画像に各フィルタを適用した結果の例 Gabor filters テクストンの分布 テクスチャを表現するために、テクストンの分布をどう記述? テクストンの選択と同様に、アプリケーションに依存 例)近傍領域における各フィルタの出力の平均と分散 I ( x, y ) ∗ ( F1 , , Fn ) → f1 ( x, y ), , f n ( x, y ) ( µ 0 , µ1 , , µ n ) ( µ 0 , σ 0 , , µ n , σ n ) テクスチャ表現のための特徴ベクトル 異なるフィルタ出力間の相関の考慮も有効 など ガウシアンピラミッド ガウシアンフィルタによる平滑化+サブサンプリング ラプラシアンピラミッド ガウシアンピラミッドのレベル間の差による表現 最上位のガウシアン画像(最も解像度の低い画像) 各レベル間のガウシアン画像の差(ラプラシアン画像) テクスチャ合成の基本的な考え方 サンプル画像からテクスチャに関するモデル(e.g., テクス チャに関する統計量、テクストンの分布など)を獲得し、その モデルにもとづきテクスチャ画像を合成する 仮定 テクスチャのモデルは画像中の位置に依存しない テクスチャのモデルはその近傍によってのみ決定される ノンパラメトリックなテクスチャ合成 新たに求めたい画素の周辺領域が類似した領域群をサンプ ル画像中で求め、その領域群からランダムに選んだ領域の 中心の画素値を用いる 合成画像における周辺領域で画素値がないものは除外 近似領域の検索 中心画素値の選択 合成画像 サンプル画像 合成されたテクスチャの例 サンプル画像 合成画像 本日の講義の内容 カラー画像処理 光と色 光源の色 物体表面の色 人間による色の知覚 線形色空間 非線形色空間 色恒常性と明るさ恒常性 カラー画像処理 色とは? 物理現象 ニュートン 色とは? 人間の心理 ゲーテ 光の波長と色 可視光領域 明るさと色の知覚 光源特性、反射特性、センサ特性に依存 入射光の強さ 放射束 単位時間あたりに放出、伝播、到達する放射エネルギー Φ 単位はW(ワット)もしくはJ ⋅ s −1 放射照度(irradiance) 単位面積・単位時間に照射される放射エネルギー dΦ E= [W ⋅ m − 2 ] dS 放射光の強さ(点光源) 放射強度(radiant intensity) 点状の放射原から単位立体角・単位時間に放出される放射エネ ルギー dΦ I= [W ⋅ sr −1 ] dω 放射光の強さ(面光源) 放射輝度(radiance) 観測方向から面状の放射源を見たときの、単位面積あたりの放 射強度 dI dΦ = [W ⋅ sr −1 ⋅ m − 2 ] L= dS cos θ dω ⋅ dS ⋅ cos θ 波長λの考慮 分光放射束 分光放射照度 分光放射強度 分光放射輝度 Φ (λ ) dΦ ( λ ) E (λ ) = dS dΦ (λ ) I (λ ) = dω dΦ ( λ ) L (λ ) = dω ⋅ dS ⋅ cos θ 人工光源の分光放射輝度 白熱電球 フィラメントの発熱による発光 蛍光灯 放電により生じる紫外線が蛍光物質にあたって発光 黒体からの熱放射による電磁波 黒体(black body、あらゆる放射 を完全に吸収し、その温度で最大 の放射強度をもつ理想物体)の分 光放射輝度 1 1 L (λ , T ) ∝ 5 λ exp(hc / kλT ) − 1 h プランク定数 k ボルツマン定数 c 光の速度 屋外自然光の分光放射輝度 さまざまな要因で変化 緯度 季節、時間 天候 天頂角 光の色温度 xy色度図で一致する黒体放射光温度 例)6000Kの光、モニタの色調節時のパラメタ 光の反射と分光反射率 L (λ ) 入射光の放射輝度 反射光の放射輝度 r (λ ) λ 分光反射率 λ ρ (λ ) λ 27 分光反射率 センサ出力 σ k (λ ) L (λ ) ρ (λ ) pk = ∫ σ k (λ ) ρ (λ ) L(λ )dλ 例)カラーカメラのRGB出力 pk ・・・ k 番目のセンサ出力 σ k (λ ) ・・・ k 番目のセンサの分光感度 ρ (λ ) ・・・物体表面の分光反射率 L(λ ) ・・・入射光の分光輝度 反射の角度依存性 理想完全拡散面(ランバート面)の例 反射成分は拡散反射成分のみ 強度は入射方向のみに依存し、反射方向に依存しない 反射の角度依存性 ハイライト状の反射を含む例 拡散反射成分に加え、正反射方向に鏡面反射成分を持つ 反射の角度依存性の扱い 方向ωiからの光が方向ωoにどれだけ反射されるか 入射光照度と反射光輝度の比で表現 双方向反射率分布関数 BRDF, Bidirectional Reflectance Distribution Function dLr (ωo ) dLr (ωo ) f r (ωi , ωo ) = = dEi (ωi ) Li (ωi ) cos(θ i )dωi 視覚センサとしての目:色受容器 2種類の視細胞が存在 錐体(cone):低感度、中心禍に局在、色の知覚に関係 桿体(かんたい、rod):高感度、視野10°の範囲に存在 異なる感度特性を持つ3種類の錐体により色を知覚 中心窩 Newton「眼を徹底解剖」, 2012年2月 35 日経サイエンス2006年10月号 3次元線形色空間による色表現 色を正確かつ簡便に表現するための方法が必要 人が知覚できる色の表現には3自由度で十分 分光放射輝度は厳密だが自由度が高すぎる 人間が3種類の色受容器を持つことに対応 カラーマッチングの線形性に基づき、3つの基本色(P1,P2,P3) の線形和(線形色空間)として表現 T ⇔ w1 P1 + w2 P2 + w3 P3 ( w1 , w2 , w3 ) により色を表現 カラーマッチング実験 テスト光と同じ色となるように基本色光の重みを調整 P1 T ⇔ w1 P1 + w2 P2 + w3 P3 P2 P3 カラーマッチング実験と等色関数 等色関数 波長を変えながら単波長光のカラーマッチング実験を行ったと き、混合重みを表す関数 CIE RGB表色系の等色関数 f (λ ) P1 P2 P3 T (λ ) ⇔ f1 (λ ) P1 + f 2 (λ ) P2 + f 3 (λ ) P3 700nm(赤), 546.1nm(緑), 435.8nm(青)の3原色 に対する等色関数 RGB表色系とXYZ表色系 CIE(国際照明委員会) RGB表色系 R(700nm)、G(546.1nm)、B(435.8nm)を基本色とする表色系 等色関数が負の値を持つ CIE XYZ表色系 等色関数が必ず正になるように定義した表色系 分光輝度分布に負の値を含む仮想光を基本色とする RGB表色系 XYZ表色系 RGBとXYZ等色関数間の関係 等色関数が非負となるように変換 x(λ)=2.7690r(λ)+1.7517g(λ)+1.1301b(λ) y(λ)=1.0000r(λ)+4.5907g(λ)+0.0601b(λ) z(λ)=0.0000r(λ)+0.0565g(λ)+5.5928b(λ) RGB表色系 XYZ表色系 XYZ表色系による色 分光分布 s(λ) を持つ光の3刺激値(X,Y,Z)は下式で計算 単波長に対するスコアの重ね合わせ 780 X = k ∫ x (λ ) s (λ )dλ 380 780 Y = k ∫ y (λ ) s (λ )dλ 380 780 Z = k ∫ z (λ ) s (λ )dλ 380 xy表色系 XYZ表色系における明るさを正規化した表色系 X Y ( x, y ) = ( , ) X +Y + Z X +Y + Z 均等色空間 色の“違い”がxy表色系では均一に表現されない 人間が識別可能な最小の色の差が均一でない 均等色空間:色の距離(近さ)が均一になるように設計した色 空間 CIE u’v’表色系やCIE LAB表色系など CIE u’v’表色系 次式による変換により定義される 4X 9Y (u ' , v' ) = ( , ) X + 15Y + 3Z X + 15Y + 3Z 人間による視知覚の明るさ恒常性 照明強度の変化に影響を受けずに物体表面の明るさを知覚 できる特性 明るさ恒常性の工学的実現 基本的な仮定 シーンにおける照明は緩やかに変化 キャストシャドウの境界などは考慮しない 完全拡散反射面のみ 光沢面におけるハイライトなどは考慮しない 表面反射率のみが急激に変化 厳密には表面反射率ではなく“シーン”の反射率 Hornの手法の基本的考え方 C ( x) 画素xにおける明るさ C ( x) = k c I ( x) ρ ( x) k c カメラによるゲイン I ( x) 画素xにおける照明の強さ ρ ( x) 画素xにおける反射率 log C ( x) = log k c + log I ( x) + log ρ ( x) d log C ( x) d log I ( x) d log ρ ( x) = + dx dx dx 閾値 積分 log C ( x)′ ≈ log ρ ( x) 人間による視覚の色恒常性 照明色が変化した場合にも、物体表面の色の見え方が大き く変化しないという視覚特性 本来ならば、異なる分光放射輝度の照明下では反射光も異なる はずなのに、分光反射率に関する情報を得ている Landの2色法の実験 照明が変化すると… Landの2色法の実験 実際には赤みがかかった色しか存在しないのに、青や緑が 知覚される Rチャンネルのみ Gチャンネルの値の白黒画像 色恒常性の工学的実現 光源色の推定に基づく手法 画像から光源色を直接推定する方法。例えば、ハイライトの色 は光源色と一致することなどを利用 B カラー画素値をRGB空間へ投影 G R 分光関数の線形近似に基づく手法 「分光放射輝度も分光反射率も現実に存在するものは ある程度の範囲に限定される」という事実を利用 物体からの反射光 分光放射輝度・分光反射率・センサ分光感度の関係 p k = ∫ σ k (λ ) ρ (λ ) E (λ )dλ p k k番目のセンサ出力 σ k (λ ) k番目のセンサの分光感度 ρ (λ ) 物体表面の分光反射率 E (λ ) 光源の分光放射輝度 物体からの反射光 σ k (λ ) L (λ ) ρ (λ ) pk = ∫ σ k (λ ) ρ (λ ) L(λ )dλ pk ・・・ k 番目のセンサ出力 σ k (λ ) ・・・ k 番目のセンサの分光感度 ρ (λ ) ・・・物体表面の分光反射率 L(λ ) ・・・入射光の分光輝度 分光反射率の線形基底表現 一般的な分光反射率は少数(~8)の線形基底で表現可能 主成分分析 さまざまな物体の分光反射率 分光反射率の線形基底 8 ρ (λ ) = ∑ rnφn (λ ) n =1 58 分光関数の線形近似 センサの各チャンネルの出力 pk = ∫ σ k (λ ) ρ (λ ) L(λ )dλ (k = 1, , K ) 分光放射輝度と分光反射率を線形近似 M N m =1 n =1 L(λ ) = ∑ emψ m (λ ) ρ (λ ) = ∑ rnφn (λ ) 分光放射輝度:M=3~4 分光反射率:N=3~8 分光関数の線形近似とセンサ出力 分光関数の線形モデル近似により N M n =1 m =1 pk = ∫ σ k (λ ){∑ rnφn (λ )}{∑ emψ m (λ )}dλ = M ,N ∑e m =1, n =1 r {∫ σ k (λ )φn (λ )ψ m (λ )dλ} ≡ m n M ,N m =1, n =1 gmnkはσ、φ、ψが既知なので計算可 P画素, Kバンドのセンサの場合、 ∑e 観測数:PK、未知数:PN+M M K≥N+ ならば直接e, rを計算可能 P r g mnk m n 灰色仮説の利用 全ての物体の分光反射率の平均はグレーと仮定 画像全体におけるセンサ出力の平均 p k pk = M ,N ∑e m =1, n =1 r g mnk m n rn は灰色の反射率として既知 K ≥ M ならばemを未知数とする線形方程式を解ける K ≥ N ならば、推定されたemを用いて各画素ごとにrn を解ける →分光反射率を推定(色恒常性の実現) 本日の講義内容のまとめ カラー画像処理 光と色 光源の色 物体表面の色 人間による色の知覚 線形色空間 非線形色空間 色恒常性と明るさ恒常性 参考資料 Chapter 6, Computer Vision: A Modern Approach, D. A. Forsyth and J. Ponce, Prentice Hall レポート 課題 研究論文のうち1件を選びその内容をまとめること。その際に、手法の 問題点を指摘し、自分なりの解決のアイデアを提案できると更に良い。 A4 2~3枚程度、フォーマット自由 提出方法 メール添付で[email protected]に送付 ファイル名はreport-12-012345.pdf (12-012345は学生番号) ファイルサイズは5Mバイト以下 メールのSubjectは画像処理論レポート 未提出の場合は「未受験」の扱い 提出期限(厳守) 2015年2月13日(金)11:59pm レポート用論文リスト K. He, J. Sun, and X. Tang, “Guided Image Filtering”, ECCV 2010 Q. Shan et al., “High-quality Motion Deblurring from a Single Image”, SIGGRAPH 2005 J. Sun et al, “Image Completion with Structure Propagation”, SIGGRAPH 2005 Y. Ke and R. Sukthankar, “PCA-SIFT: A More Distinctive Representation for Local Image Descriptors”, CVPR 2004
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