PVの概要と ノウハウ

安全管理・
必携
調査担当者
安 全 管 理・調 査 担 当 者 必 携
PVの概要 とノウハウ
PVの概要と
ノウハウ
国内対応からグローバル対応へ
企画・編集
一般財団法人
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団
一般財団法人 医薬品医療機器
レギュラトリーサイエンス財 団
序
開発から審査段階に重点が置かれていた医薬品の安全対策は,ICH における
E2E ガイドラインの合意を経て,2000 年代初めからは,開発から審査,市販後に
至るまでの医薬品のライフサイクル全般にわたるリスクマネジメント強化へと国際
的に大きく舵が切られました。
わが国においても,欧米に遅れながらも RMP の考え方が導入され,徐々に定着
しつつありますが,製薬企業のグローバル化に伴い,安全対策におけるわが国と欧
米との規制の違いが随所で指摘されております。
本書は,1998 年に初版が発行され,2008 年の改訂を経て,医薬品の製造販売後
安全管理や製造販売後調査担当の方々に幅広く活用されてきた「PMS の概要とノ
ウハウ」を,その後の,RMP 制度の本格的な導入や薬事法の改正等,医薬品の安
全対策を巡る大きな環境の変化を取り入れるため,今回,全面的な内容の見直しを
行ったものです。
特に,最新の知見や経験等をより幅広い方々に活用していただくため,2014 年 5
月と 7 月に開催した「2014 年度 製造販売後安全管理・調査 基礎研修講座 RMP の
導入と改正 GVP/ 改正 GPSP 等への対応 」を基に,関係する講師の方々のご協力
を得て,その内容をまとめたものです。執筆にご協力いただいた講師の方々には深
くお礼申し上げます。
また,2014 年 11 月には医薬品医療機器等法が施行され,関連通知も多数発出さ
れておりますので,これらについてもその内容を反映しております。
わが国をはじめ欧米各国の医薬品規制当局や製薬企業等は,医薬品等の安全対策
に如何に科学性を導入するか,如何に定性的評価から定量的評価への転換を図るか,
如何に効率的に実施するかに苦慮しております。本書が,このような内外の最新の
動向を取り入れるための一助となることを強く期待しております。
2015 年 5 月
一般財団法人 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団
理事長
B_i-x_PVの概要_前付-目次.indd i
土 井 脩
15.6.29 11:13:22 AM
1.2 製造販売後のファーマコビジランス
61
いて承認に係る用法・用量,効能・効果に従い,行う試験をいう(GPSP 省
令 第 2 条第 4 項)
。
(d)その他の手順
このほか,製造販売後調査等に関する業務の「自己点検」,製造販売後調査等
業務に従事する者の「教育訓練」,製造販売後調査等業務の「委託」および製造
販売後調査等業務に係る「記録の保存」に関する手順を定めなければならない。
なお,製造販売後調査等業務の委託にあたっては GPSP にしたがって,製造販売
後臨床試験業務の委託にあたっては GCP にしたがって,委託契約書を締結する。
(e)GPSP 適合性調査
再審査あるいは再評価申請後に適合性調査が,申請者,受託者および製造販売
後臨床試験受託医療機関に対して行われる。
適合性評価は,「適合」,
「不適合」の 2 段階に分類される。不適合と判断され
た場合,当該調査などに基づき作成された資料の一部または全部について,再審
査または再評価の対象から除外する措置がとられる。その結果を受けて,厚生労
働省は承認の取り消し,または承認の一部変更を命ずることがある。詳細につい
ては「5.2 再審査適合性調査の実際」を参照されたい。
( f )RMP の導入と GVP・GPSP 省令の改正
2013 年 4 月 か ら 導 入 さ れ た RMP は 2014 年 10 月 に 施 行 さ れ た 改 正 GVP・
GPSP 省令により制度化された(図 1.2.9)
。すなわち,GVP 省令の第 2 条に「医
薬品リスク管理」について定義され,第 9 条の 2 に医薬品リスク管理計画書の策
行政当局(厚生労働省,PMDA,都道府県等)
副作用等症例報告
使用上の注意改訂等
+ RMP
★業許可更新時 ★再審査申請に
GVP/GQP 調査 伴う GPSP 適
【医薬品医療機器
合性調査
等法 第 12 条】
再審査・再評価申請
安全性定期報告
【医薬品医療機器等
法 第 14 条 4,6】
製造販売業者
○○本部長
総括製造販売責任者(総責)
(製販責と同じまたは別の組織長)
〈GQP〉
品質保証責任者
連携
〈GVP〉
安全管理責任者(安責)
医薬品
リスク管理計画
製造所
RMP に
関する
連携・報告
GVP 実施責任者(部門)
〈GPSP〉
製造販売後調査等管理責任者(製販責)
製造販売後調査等
基本計画書
(従来品)
GPSP 実施責任者(部門)
医療関係者
図 1.2.9 RMP の実装と改正 GVP,GPSP 省令(2014 年 10 月改正)
034-079_PVの概要_1章-2.indd 61
15.6.29 11:14:36 AM
2.1 副作用・感染症報告,研究報告および外国措置報告
103
表 2.1.15 副作用・感染症の情報源
自発的な情報源(unsolicited sources)
・ 医療関係者からの自発報告(市販直後調査からの報告も含む)
・ 一般使用者
・ 文献
・ 社内関連部門(品質保証部門,広報等)
企業からの依頼に基づく非自発的な情報源(solicited sources)
・ 製造販売後調査,製造販売後臨床試験
・ 臨床試験(治験)
・ 企業主導臨床研究
その他
・ 提携企業
・ 規制当局
主治医から MR へ連絡され,その情報が安全管理部門に伝えられ,評価後,法規
制に基づき PMDA へ報告されることになる。この医療関係者からの自発報告は,
使用上の注意の改訂に結びつくケースが他の情報源に比べて多いことから有用な情
報源と考えられる。
また,文献を通して情報を入手するケースや,医療関係者が直接,PMDA へ報
告した症例を PMDA からフィードバックされるケース等がある。
② 一般使用者からの自発報告
患者やその関係者から企業のお客様相談室等への問い合わせや連絡の中に安全性
に関する情報が含まれているケースがある。このときに症例が valid となる以下の
情報は必ず入手できるよう心がけておく必要がある。また,評価に必要な詳細情報
についても,可能な限り入手するよう努める。
・ 患者識別情報(イニシャル,年齢,性別等)
・ 情報源(医師,薬剤師,消費者等)
・ 副作用・感染症名
・ 被疑薬名
③ 社内関連部門からの情報
品質保証部門に寄せられる品質クレーム情報や,広報部門に寄せられる情報の中
に,安全性に関する情報が含まれている可能性があるため,これらの部門からもも
れなく安全性情報が入手できるようにルートを確立しておく。
④ 市販直後調査
販売開始後 6 か月間,医薬品の適正使用を促し,その際に重篤な副作用の発生を
迅速に把握するために行う市販直後調査において入手した副作用も,自発報告とし
て取り扱う。
095-113_PVの概要_2章-1.indd 103
15.6.29 11:15:32 AM
2.2 安全性情報の医学的評価
117
目となる。これらの項目に関する規定は 2.1 節をご参照いただくことにして,本節では
とくに医学的評価の考え方が必要となる場合について簡単に説明する。
(2)個別症例評価 − 重篤性
重篤の定義は基本的に規制どおりであり,死亡・入院等の事実関係に基づく外形的評
価であるが,そういった情報がない場合には,
「その他の医学的に重要な状態」に該当
するかどうかを企業として適切に判断しなくてはならない。この判断は,報告者により
重篤とされていない有害事象についてのみ行うことで,報告要否決定のためには事足り
るのであるが,理論上は全部の事象に対して行わなくてはならない。
「その他の医学的に重要な状態」か否かの評価方法としては,
① 個々の症例ごとに経過を考慮して判断
② 事象名のみで判断
という 2 つの方向性がある。「常に重篤と取り扱う事象のリスト:Always Serious Term
List」を定め,そのリストに載っている事象なら重篤とする,という方式が米国系企業
ではしばしばみられる方法である。一方,「医学的に重要な事象のリスト:Medically
Significant List」を定め,そのリストに載っている事象については個々の症例経過を考
慮して検討し,非重篤と考える根拠がない場合には重篤とする,という方式が,欧州系
企業で多く用いられているようである。
リストに載せるべき事象としては,事象名自体が重症であることを示唆しているもの,
例えば横紋筋融解症,劇症肝炎,中毒性表皮壊死融解症などが代表的である。
グローバル企業では,リストの記載事象名を英語にせざるをえないのだが,その場合
は日本語で入手した事象名の MedDRA 用語による英訳に注意が必要である。例えば「痙
攣」は MedDRA では PT 10010904 Convulsion であり,通常リストに載っており重篤と
なる。しかし,日本語ではてんかんの大発作にみられるような代表的な強直性間代性痙
攣でなくても,物をとろうとしたときに手がゆらゆらと震える,顔や指がピクピクと引
きつる,何かの拍子に腕全体がピクンと動く,こむら返りのようにふくらはぎがつる,な
どいろいろな状態が「けいれん」と呼ばれる。これらは英語なら tremor,myoclonus,
twitch,clamp な ど の 多 彩 な 表 現 に な り, 必 ず し も 全 部 が 重 篤 で は な い の だ が,
convulsion と訳せば重篤となってしまうようだ。
(3)個別症例評価 − 予測性
予測性の根拠は添付文書になるが,そこに記載されていても,副作用の性質・症状・
特異性などが記載内容と一致しないものは「予測できない」とするのがルールである。
しかし,これはなかなかに難しい医学的判断である。この点を考慮したていねいな予測
性の評価は容易ではない。適切に運用されていることを正当に抗弁しうる企業が現在ど
の程度あるのかは不明である。
114-134_PVの概要_2章-2.indd 117
15.6.29 11:15:55 AM
3.1 医薬品リスク管理計画の現状と対策
195
らの判断と方針で創意工夫して J RMP を策定する。逆にこの機会を利用して,製薬企
業は J RMP の公開情報を通じて医療関係者や薬剤師の協力を得ることができる。ベネ
フィットがリスクを上回ることを継続的かつ定期的に確認する「育薬」の活動は,患者
にとってもメリットがある。このように医療関係者と患者をまき込んでともに「育薬」
活動を行うことができれば,製薬企業は製品のライフサイクルの延長とポテンシャルの
最大化も実現できる。
3.1.9 RMP 重要なリスクへの対策
RMP で把握された重要なリスク(
「安全性検討事項」)に対応するために,どのよう
な考え方で対策を立てるべきかそのコンセプトを表 3.1.2 に示した。RMP の中で追加
の措置が必要になった場合は,以下のような対策が求められる。
(1)
「重要な特定されたリスク」への対応
「重要な特定されたリスク」は,すでに医薬品との関連性がわかっているので,リス
ク最小化計画に基づく追加の安全対策が必要になる場合がある。患者にとって,製品の
ベネフィットが該当する重要なリスクを上回るようにするために創意工夫して,添付文
書の改訂だけに頼らない「追加のリスク最小化策」を講じる必要がある。
(2)
「重要な潜在的リスク」の対応
「重要な潜在的リスク」の対応は,関連性が疑われるが十分に薬剤との因果関係が確
認されていない「グレー」な重要なリスクの状態から,そのリスクが「白」か「黒」か
の結論を出すために「追加の安全性監視計画」を実施する場合がある。従前の使用成績
調査 3,000 例で課題が解決するのかを検討する必要がある。適切なツールや方法をリス
表 3.1.2 RMP 重要なリスクへの対応方針
安全性監視計画
安全性
検討事項
通常
リスク最小化計画
追加
通常
重要な特定
●
されたリスク
重要な
●
潜在的リスク
重要な
不足情報
有効性
179-198_PVの概要_3章-1.indd 195
追加
○
○
●
15.6.29 11:17:36 AM
364
6 ファーマコビジランスの国際動向と契約
安全性定期報告・PBRER
再審査
再審査
申請
RMP(最新化される)
承認
日本
製造販売後調査(調査・試験)
市販直後調査(6 か月)
措置報
措
報
副作用・感染症報告/研究報告/外国措置報告
添付文書,患者向医薬品ガイド
0年
5年
10 年
RMP(最新化される)
PBRER
承認
E
U
ACO*1
PBRER
Renewal
PASS/PAES
ACO
PBRER
Renewal
PASS/PAES
Additional monitoring
副作用報告(Special
al situa
a
situation
at
report,Emerging
ng Safet
n
Safety
t Issue 含む)
SmPC*2,PIL*3
*1
Addendum to clinical overview, *2 Summary of Product Characteristics, *3 Patient Information Leaflet
注)EU と日本では,
市販後の医薬品安全性監視に供せられる,
ツール(RMP,添付文書,定期報告など),
活動(副作用報告,臨床研究など)や,市販後の情報に基づき再度評価されるシステムなど似ている
点が多い。
図 6.2.1 市販後の医薬品安全性監視システムの日本と EU の比較
タベースである EudraVigilance を使って EMA により監視されている。
個別症例レベルの活動で日本と大きく違うのは報告される情報の範囲であり,
表 6.2.1 で示すように,EU では以下にあげた使用時の重篤副作用および非重篤副
作用を,それぞれ 15 暦日および 90 暦日で報告することが要求されている。
・ 承認範囲内での使用(表 6.2.1 で示す Special situation を含む)
・ 過量投与,off label 使用,誤用,濫用,医療過誤など,承認範囲外での使用
・ 職業的曝露
また,個別症例や定期報告に該当せず,これまで当局報告が曖昧だった文献や基
礎・臨床試験から得られる情報を,Emerging Safety Issue(新規安全性情報)と位
置付け,当局報告を必須とするとともに,シグナル検出での活用が求められている。
これは日本における研究報告や海外措置報告に該当する。
② 集積情報レベル
上記に沿って収集された個別症例の安全性情報が集積されたデータベースや,
Emerging Safety Issue などを使って,ベネフィット リスクバランスが評価される
が,その機会は以下の 3 つに分類される。
362-379_PVの概要_6章-2.indd 364
15.6.29 11:23:18 AM