(無断複写・転載を禁ず) 解 説 【第一問】 問1 使用人兼務役員の判定及び役員給与に関する問題である。 ⑴ 使用人兼務役員の意義 答案スペースがそれほど大きくないため、使用人兼務役員とされない役員は、条文どおりにカッコ書きで解答することとなる。 なお、条文ではカッコ書きの部分は、「社長、理事長その他一定の者を除く。」となっているが、次の⑵①で持株要件による役員 判定を行うため、「同族会社の役員のうち、一定の持株要件を満たす者」も除かれることを解答するとよいかと考えられる。 ⑵① 使用人兼務役員の判定 B及びCは、50%超基準の要件を満たさない(第2順位までで50%超となる)ため、使用人兼務役員になることができる。 Dは、使用人としての職制上の地位を有していないため、使用人兼務役員になることができない。 ⑵② イ 役員給与の損金不算入 事前確定届出給与は、職務執行開始前に株主総会等の決議によりその支給時期及び支給額があらかじめ定められていることを前 提としている。 Bに対する12月分の賞与は、上期の営業利益を基にして算定するため、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限までに支給 額は確定しない。 よって、12月分の賞与は、事前確定届出給与に該当しないため、損金不算入となる。 12月分の賞与が事前確定届出給与に該当しない場合、同一事業年度、かつ、同一職務執行期間中に支払う他の賞与についても事 前確定届出給与に該当しないこととなる。よって、通常であれば、7月に支給する賞与も、事前確定届出給与に該当しないことと なり、全額損金不算入となるが、問題で「複数の処理案が考えられる場合には、(中略)、甲社に有利となる処理案について解答 すること」とあるため、ここでは、事前確定届出給与に関する届出書の提出を7月分だけ行うと考える。 そうなると12月分の賞与は、臨時賞与扱いとなり、他の賞与には、影響を及ぼさないこととなるため、7月分の賞与を損金算入 することが可能となり、模範解答のような解答になる。 ロ Cに対する賞与は、事前確定届出給与に該当すれば、不相当に高額な金額もないため、損金算入が認められる。 事前確定届出給与に該当するためには、事前確定届出給与に関する届出書を届出書の提出期限(平成27年6月20日)までに提出 すればよい。 問題では、「必要な前提を補った上で」と指示があるため、その条件を付した上で解答を作成していくこととなる。 また、問題で「複数の処理案が考えられる場合には、(中略)、甲社に有利となる処理案について解答すること」とあるため、 事前確定届出給与に関する届出書を提出していない場合の取り扱いは、考慮しなくてよい。 ハ Dに対する年俸は、他に定期に給与の支給を受けていないが、甲社は同族会社に該当するため、年俸であっても事前確定届出給 与に関する届出書を届出書の提出期限までに提出しなければならない。(年俸について届出が不要なのは、非同族会社の場合) よって、Cに対する賞与と同様に、事前確定届出給与に関する届出書を届出書の提出期限している条件を付したうえで解答を作 成していくこととなる。 ⑴ (無断複写・転載を禁ず) 問2 資産調整勘定及び負債調整勘定に関する問題である。 ⑴ 仕訳 ① 事業の譲受けであるため、資産及び負債は、時価で取得したことになる。 ② 資産調整勘定及び負債調整勘定の計上判定は、次のとおりである。 イ 計上の可否 資産調整勘定等の金額を計上する場合は、非適格合併の他に、非適格分割、非適格現物出資又は事業の譲受けで、移転する事 業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が移転するもの(=非適格合併と同様の性格を有するもの)が含まれる。本問では 事業の譲受けで主要な資産又は負債のおおむね全部が移転するものと指示はないが、おおむね全部が移転するものと考え、計上 する必要があると考えられる。 ロ 資産調整勘定 事業譲渡に係る対価の額(交付金銭の額の合計額)が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を超える場合の超える部分 の金額(=貸借差額)が該当する。なお、この場合における負債の額には、次の退職給与負債調整勘定の金額が含まれることに 注意する。 ハ 退職給与負債調整勘定 甲社は乙社から従業者を引き継ぎ、これらの者に係る退職給与債務引受けをしたため、退職給与負債調整勘定が生ずる。なお その金額は、会計基準により計算される退職給付引当金(退職給付債務)に相当する金額となる。 ニ 短期重要負債調整勘定 甲社は乙社から移転を受けた事業につき、製造者責任を問われる訴訟に係る損害賠償金を支払うことが見込まれるため、短期 重要負債調整勘定の計上が想定されるが、利益に重大な影響を与えるものに限るものとされており、具体的には、その生ずるお それのある損失として見込まれる金額が移転を受けた資産の取得価額の合計額の20%相当額を超える場合に限られる(法施行令 第 123条の10第8項)。よって、本問では損失の見込額が資産の取得価額の20%相当額を超えないため、計上する必要はない。 ⑵ 資産調整勘定又は負債調整勘定の取崩しについて 問題では、上記⑴で計上した資産調整勘定又は負債調整勘定の取崩しについて問われているため、資産調整勘定の取崩し及び退職 給与負債調整勘定の取崩しを解答すればよい。 問3 ストックオプションに関する問題である。 ⑴ 職務執行の対価として付与された新株予約権の損金算入時期の特例制度について 理論集どおりに解答すればよいが、どこまで解答すればよいかが問題となる。 問題の内容及び解答スペースからすると、新株予約権が消滅した場合並びに低額発行及び高額発行した場合の取り扱いは、解答し なくてよいかと思われる。 ⑵について 処理案2つは、税制適格要件に該当するかしないかで解答することとなる。 ① 税制適格要件を満たさない場合 ストックオプションが税制非適格のものである場合は、権利行使に伴い株式を取得したことにより役員等が受ける経済的利益の 額は、役員等に対する給与の額として取り扱う。 なお、法人税法で給与として認識される金額は発行時における新株予約権の価額となる。 ② 税制適格要件を満たす場合 税制適格要件を満たす場合、権利行使を行っても給与等課税事由が生じないため、個人側で給与所得課税が行われないことから その役務の提供に係る費用の額は損金不算入となる。 よって、権利確定日までに費用計上していた株式報酬費用は認容するが、同時に社外流出による処理が必要となる。 なお、その場合の仕訳は、 (借)そ の 他 流 出 1,000,000円(貸)前 払 費 用 1,000,000円 となる。 ③ 資本金等の額の増加 税制適格要件を満たすかどうかにかかわらず、払込金額及び権利行使を受けた新株予約権の帳簿価額(新株予約権債務)の合計 額が、資本金等の額の増加となる。 ⑵ (無断複写・転載を禁ず) 【第二問】 問1 ⑴ 掛売上の計上もれは、加算調整を行う。なお、当期に認容の調整を行うことに注意すること。 ⑵ 仕様変更手数料は、ソフトウェアの取得価額に算入する。よって、損金経理していることから償却費として扱われ、償却超過額が 生ずる。なお、前期に計上した償却費の額は、ソフトウェアの貸借対照表価額から推定する。 ⑶ X社からの配当金は、完全子法人株式等に係る配当等の額に該当するため、全額益金不算入となる。よって、減算調整を行う(雑 収入に計上されているため、計上もれの調整は必要ないと考えられる。)。なお、受取配当等の益金不算入額は当初申告要件及び適 用額の制限がないため、修正申告書での適用が可能である。 問2 1.交際費等 ⑴ 災害を受けた得意先等に対してその復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内の売掛金の免除等による損失の額は 寄附金及び交際費等に該当せず、損金算入される(基通9-4-6の2他)。 この場合における相当の期間とは、災害を受けた取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいうため、本問 における取引先は平成28年3月に事業を再開しており、甲社が支出した日(平成27年4月)は相当の期間内であることから、損金算 入することができる。 ⑵ ゴルフに係るキャンセル料及びモーターボートの維持管理費用は、いずれも取引先を接待等するために支出したものでないことか ら、交際費等に該当しない。 ⑶ 少額の飲食費等は、1人当たり5千円以下のものであると考えられるため、交際費等に該当しない。また、会議のために通常要す る費用も、交際費等に該当しない。 ⑷ 甲社は資本金1億円以下であるが、資本金5億円以上のA社による完全支配関係を有しているため、中小法人に該当しない。 よって、交際費等について定額控除限度額の適用はなく、接待飲食費の額の50%相当額が損金算入限度額となるが、本問では接待 飲食費の額がないと考えられるため、全額損金不算入となる。 2.減価償却 ⑴ リース資産である営業用車両は、所有権移転外リースに該当するため、リース期間定額法により償却する。なお、残価保証額があ る場合は、償却の基礎となる金額から控除する。 ⑵ ソフトウェアについては、前期の修正申告により生じた償却超過額より、当期認容額が生ずる。 3.受取配当金 本年度の改正の内容が出題されている。 ⑴ 乙社株式は、支払基準日以前6月以上引き続き持株割合が3分の1超であるため、乙社から収受する配当金は関連法人株式等に係 る配当等の額に該当する。 ⑵ E社株式の支払基準日における持株割合は5%以下であるため、配当金の額は非支配目的株式等に係る配当等の額に該当する。 ⑶ X社は配当等の計算期間を通じて甲社との間に完全支配関係があるため、配当等の額は完全子法人株式等に係る配当等の額に該当 する。 ⑷ 控除負債利子の額は、問題の指示により総資産按分法により計算するが、次の点に留意する。 ① ② ⑸ 支払利子には、借入金利子の他、手形売却損が含まれるが、売上割引料は含まれない。 総資産の簿価及び株式等の簿価は、特に調整は必要ない。 法人税額から控除される所得税額は、計算期間中元本の異動がないため、全額となる。また、住民税は法人は源泉徴収されないた め、特に考慮する必要はない(単に金額を与えているだけだと考えられる。)。 ⑹ 法人に対して支払われる配当金に対しては配当割は課されないが、資料では、配当割の金額が与えられている。 源泉徴収されていると考えられなくもないが、受取配当金に関する資料だけ会社の経理方法が記載されていないことを考えると、 ダミーの資料として与えていると考える。よって、源泉徴収は、所得税だけがされ、配当割は源泉徴収されていないと考え、何ら処 理を行わなくてよい。 4.税効果会計 繰延税金資産の取り崩しにより生ずる法人税等調整額は、否認されるため、申告調整を行う。 ⑶ (無断複写・転載を禁ず) 5.給与 決算賞与は、前期末までに通知し、かつ、損金経理して、当期の4月中に支給していることから、前期に損金算入されていると想定 される(なお、Eに対するものは、役員であり、使用人賞与でないため、否認される。)。 当期になって 1,500,000円を雑収入に計上しているが、これはEに対して支給した際に誤って損金経理し、その後未払金を取り消す ために計上されたものであると考えられる。役員に対する決算賞与は、損金不算入となるため、加算調整を行う。 6.租税公課 ⑴ 確定申告に当たって納税充当金の取り崩しにより納付した事業税は、申告減算するが、甲社は積立不足額として一部を損金経理し しているため、その金額を控除した金額を調整する。 ⑵ 修正申告により納付した法人税及び住民税も、中間納付額と同様に申告加算を行う。 ⑶ 修正申告により生じた附帯税は、損金不算入となる。 ⑷ 資産に係る控除対象外消費税額のうち、20万円未満のものは、損金算入することができるが、この取り扱いは当該控除対象外消費 税額が生じた事業年度にのみ行うことができるため、翌期以降に全額損金算入することはできない。よって、損金算入限度額は5年 均等償却の方法により計算される。 7.税額控除 ⑴ ⑵ 雇用者が前期末比で10%以上増加していないため、雇用促進税制の適用はない。 所得拡大促進税制で税額控除の対象となる給与等の支給額は、国内雇用者(国内の雇用者で、賃金台帳に記載された者)に対する ものとなる。よって、Nに係る給与負担金は、Nが甲社の賃金台帳に記載されているため、当期の給与等支給額に含まれる。 ⑶ 基準雇用者給与等支給額は、基準事業年度(甲社の場合は平成25年3月期)の給与等支給額となる。 ⑷ 比較給与等支給額は、前期における給与等支給額となる。なお、その金額は支給額ベースではなく損金算入ベースで計算するため 未払賞与の金額(Eに対するもの以外)は、前期の給与等支給額として取り扱う。 ⑸ (比較)平均給与等支給額の計算に当たっては、継続雇用者に対するものに限られるため、給与支給総額から非継続雇用者支給額 及び新入社員支給額(当期に限る。)を控除した金額を、一般被保険者数(当期の新入社員を除く。)に12月を乗じたもので除して 求める。なお、Nは、当期に出向を受けているため、継続雇用者に該当しない。 ⑹ 甲社は、給与等支給額が比較給与等支給額以上でないため、所得拡大促進税制の適用はない。 8.欠損金 平成20年3月期のものは、繰越期間が7年間であり、当期では期限切れとなる。また、甲社は中小法人に該当しないため、損金算入 限度額は所得金額(別表四・差引計)の65%相当額となる。 9.その他 甲社は中小法人でないため、軽減税率の適用はない。 ⑷
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