外国子会社への社員の出向に係る課税関係について

日税メルマガ通信
平成27年5月11日発行
特別号
編集:日税メルマガ事務局
㈱日税ビジネスサービス 総合企画部
~税務のチェックポイント Q&A17~
東京都新宿区西新宿 1-6-1 新宿エルタワー29階
以
上
号
本メルマガは山下税理士に日常業務の中から「間違いやすい・見落としがちな」税務のチェックポイントをQ&A形式で
ご寄稿頂いたものになります。ぜひご参考になさってください。
『質問』
外国子会社への社員の出向に係る課税関係について
≪内容≫
A社は有機ELパネルを製造している企業です。今回、インドネシア共和国においてA社100%
出資の子会社X社を設立し、A社の有機ELパネルの製造技術等の供与を行い、インドネシア共
和国内でこの有機ELパネル製品を製造し、主に東南アジア地域で販売することを計画してい
ます。この計画において、A社は、経理や研究開発部門から指導社員をX社に出向させる予定
です。
このような出向に関して、A社とX社の間で出向者の給与等の支給方法等に対して寄附金課税
などの課税問題が生じる場合があるかどうかについて教えてください。
『答』
ご質問の場合、A 社はインドネシア共和国法人 X 社の発行済株式の 100%を保有することから、
X 社は A 社の国外関連者(外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人
の発行済株式又は出資(当該他方の法人が有する自己の株式又は出資を除きます。)の総数又
は総額の 50%以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の一定
の特殊の関係のあるもの)に該当しますので、X 社が負担すべき出向者給与負担額が相当でな
い場合や、出向者が X 社の業務を行う際に、その業務に関連して A 社が有するノウハウ等の無
形資産を使用しているにもかかわらず、X 社からその対価の額の支払を受けていない場合等に
は、寄附金課税や移転価格課税が問題となる恐れがあります。
(解説)
1
法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向者に対する給与を出向元法人
が支給することとしているため、出向先法人が自己の負担すべき給与(給与負担金)を出
向元法人に支出したときは、その給与負担金の額は、出向先法人におけるその出向者に対
する給与(退職給与を除く。)として取り扱うものとされています(法人税基本通達9-2
-45)。しかし、出向先法人における給与負担金の額の適否が問題となり、寄付金課税が
行われる場合があります。この点は法人の社員が外国子会社に出向する場合も同様です。
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したがいまして、ご質問のケースにおいて出向社員の業務の内容が、経理部門の出向社員の
ようにA社が有するノウハウ等の無形資産を使用するものではないと思われるような場合に
は、X社においては自社の基準で給与負担金を負担すれば、寄附金課税の問題はないものと
考えられます。
しかし、研究開発部門からの技術指導社員については、A社の有機ELパネルの製造技術等の
開発等に従事し、高度な技術開発知識や経験を有しており、X社に出向して有機ELパネルの
製造技術の指導を行うものであることから、その業務遂行に際しA社の有するノウハウ等の
無形資産を使用するものと思われます。そうしますと、A社はX社にこの技術指導社員の給
与負担金の額の負担を求めるだけではなく、別途、X社からノウハウ等の無形資産の供与の
対価の支払を受けることが相当と考えられます。
また、出向社員に国内で支給する留守宅手当は、海外出向社に対する給与の格差補填として
A社の損金とすることが認められています(法人税基本通達9-2-47)。
2 なお、X社が支給することとなっている出向社員に対する給与負担金の額をA社が負担
した場合には、その負担した金額は、原則として、国外関連者X社に対する寄附金に該当し、
その全額をA社の所得の金額に加算することになります(措法66の4③)。
このように、国外関連者に寄附金を支出した場合の損金不算入は、国外関連者との取引に関
する移転価格課税とは別個のものとして規定されています。
3 ところで、移転価格税制は、法人が、国外関連者との間で資産の販売、資産の購入、役
務の提供その他の取引(国外関連取引)を行った場合に、当該取引につき、当該法人が当該
国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当
該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度
の所得金額の計算上、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなして、国
外関連者に移転したと認められる金額を当該法人の所得金額に加算する制度です(措法66
の4①、措置法通達66の4(8)-1)。
なお、独立企業間価格とは、国外関連取引が(1)棚卸資産の販売又は購入、
(2)
(1)以
外の取引のいずれに該当するかにより定められた方法のうち、当該国外関連取引の内容及び
当該国外関連取引の当事者が果たす機能その他の事情を勘案して、当該国外関連取引が独立
の事業者の間で通常の取引条件に従って行われた場合に当該国外関連取引につき支払われ
るべき対価の額を算定するための最も適切な方法により算定した金額をいうものとされて
います(措法66の4②)。
4 したがいまして、A社はX社との間でこの無形資産の供与の対価について適正な金額の
支払を受ける旨の契約等を締結し、実際にその対価の額の支払を受ける必要があるものと考
えられます。なお、適正な対価の額の算定に当たっては、租税特別措置法に定める独立企業
間価格の算定方法が参考になるものと思われます。
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〈著者プロフィール〉
山下 德夫 氏
税理士、長崎県出身、旧大蔵省在職時には、法人税法関係の法律の企画立案事務に従事し、税
務大学校教授在職中に公益法人課税・減価償却関係等に関する論文発表。
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