今月の一冊第5回(8月)【PDF】

「今月の一冊」第5回
2015.8
「今月の一冊」
、今回は出雲高校作文集です。全国どこの学校も夏休みの課題は読書感想文という
のが定番ですが、本校は伝統的に感想文も含めて自由課題にしています。今年度は数えて第49集
(つまり来年は半世紀!)。現代文教員は大体2,3クラス担当しますけど、もちろん100人前後
の作品を評価するのは結構大変ですが、面白くもあります。
25 年度、26 年度 出雲高校「作文集」
時に「こりゃすごいなぁ」と唸らされることもあります。
2,3年生の諸君は覚えているかも知れませんが、この3
月に定年退職された張戸先生がこの作文集に言及され、本校
卒業生で作家、翻訳家の松本侑子さん(九月に久徴祭で講演
して下さいます)が作家を目指された原点は、高2の時、こ
の作文集に掲載されて担当教諭から褒められて自信になった
経験だと述べておられました。この件は張戸先生も「又聞き」
でしたから、今回思い切ってご本人に確認してみましたとこ
ろ、概ね事実であり、またこの逸話の紹介も許可していただ
きました。もう少し言葉を添えておくと、この「白い花」という作文は全国のコンクールに応募、
入賞しています。パソコンもワープロもなかった当時、作文が入賞作品を集めた冊子に掲載されて
活字になり、出雲高校だけでなく全国の高校生に読んでもらえて、感動したそうです。
さて、次の文章はその松本さんの高2時の原稿の一節です(ご本人の許可を頂いております)。
そして「人からテーマを与えられなければ、自分のテーマを見つけられないような人間は、自
分の人生を生きることができない」と結んでいた。作文の題材を探し得ようと、やっきになって
読んでいた私にとって、この時の衝撃は大きかった。……(中略)……やはり、自由とは、好き
勝手とか、束縛からの解放のみではないと思う。自分で考え、行動し、もしそれが失敗すれば、
自分で後始末すること。自主的な判断、行動力、責任感を伴う厳しいものが、自由だと思う。私
は、そんな意味での「自由」な生き方をしていきたい。
松本侑子「白い花」作文集第14集
「白い花」というタイトルからは想像しにくい引用だったでしょうが、これは切り取った私の責
任。全文については、別掲の「作文集セレクション」に収録していますのでぜひご覧を。多分まだ
小説家になるつもりは明確にはなかったであろう頃の小説観がうかがえ、感慨深いものがあります。
それはさておき、この部分を取り上げる理由ですが、高2の松本さんは夏休みにこの課題が出た
際、題材を探そうとしてまずは様々なジャンルの小説、随筆、雑誌を読みあさったのだそうです。
その果てに「本来自分で決めるべき卒論のテーマを、教授に与えてもらった女子大生」について記
された、とあるエッセーに逢着したのだとか。引用文内の「
じ
」の中が松本さんが出会った論文
の一節、それ以外の地の文はそこで得た思いの披瀝ですね。経緯はおわかりいただけたでしょうか。
核心に入りましょう。私が敢えてここを引用した意図は二つあります。
1
先輩がこれほどに心血を注いでこの作文集に取り組んだのだということの紹介のため
2
本来の研究はまず自ら課題を見つけ、それを検討していくものであることを示すため
(SSH,SGHの課題研究って、まさにこれじゃぁないですか!)
かくあるほどに、出雲高校作文集はすごい(はず)。読書感想文ももちろん大いに意義があるけれど、
自分でテーマを探し出して、意見を述べる、それも「合理的な」事例に基づいて読者の批判に耐えうる
意見を。簡単ではないけど、やりがいはありすぎるほどにある。たぶんこの経験はむしろ高校を出た後
により活かされるはずだと思うのです。私は3年生を担当することが多いのですが、その時は必ずこう
言います、
「出雲高校三年間の集大成を示せ、クラスで選ばれるのはたった一編だが、僕はすべて誠実に読む。」
学校によっては1,2年生は必須、3年生に対しては提出自由(もちろん受験勉強に配慮してのこと
ですが)、などとする場合もあるのですけど、本校は基本的に各学年全員出してきます。そして、冒頭述
べたように、毎年力作に会えるというわけですね。これも伝統のなせるわざでしょうか。
前述の理由1にまつわるエピソードをもう一つ紹介しておきましょう。松本さんの文章が掲載された
第14集の後書きは、今年度も一年生の現代文の講師をお願いしている広原先生が書いておられるので
すが、その先生から聞いたお話。当時、作文集に載ることはある種のステータスになっていたのですが、
これに漏れた一部有志が自主的に「裏作文集」を編纂、自分たちの作品の方が格段に優れていると称し
て、広原先生のところに持参するに及びました。なるほど、面白い。率直にそう評価された広原先生が
全編に感想を付して返したところ、有志諸氏、大いに喜んだのだとか。熱いですね。
ちなみに、この「裏作文集」ってどこかに現存するのでしょうか?
歴代の作文集は図書館に保存してありますが、今回特別に許可をいただいて、松本さんの「白い
花」、それから、私は本校に勤めて七年目なのですが、その間印象に残った作品で、かつ私の依頼を
なんとか聞いてくれそうな面々のそれを、ジャンルなども
考慮しながらいくつかセレクトし、別掲「作文集セレクシ
ョン」として掲載してみました。ひとりだけ、昨年度選に
漏れたけど、紹介したい人を入れてます。
「では、なぜ私のがないのか!」
そんな声も聞こえてきそうですが、そういう方は「新・裏
作文集」をお創りください。私も見るのはやぶさかではあ
りませんし……。ともあれ、今年も渾身の作を期待してい
る次第です。
(文責 田中)
※「作文集コレクション」は一旦このページを閉じてか
日本初の全文訳『赤毛のアン』
ら、該当ページをクリックして下さい。右は松本さんが翻
モンゴメリ著・松本侑子訳・集英社
訳された集英社文庫「赤毛のアン」の表紙です。講演でも
文庫・2013 年第 10 刷 掲載許諾済
「赤毛のアン」に触れられるご予定です。