山王と私 あけてびっくり玉手箱―山王 山王1丁目在住会員 柴田優子 私が生まれて、育ち、そして今も住む町?山王。私の記憶に残っている60年余り前の山王は、生 い茂った木がいたるところにあり、家からは海が見え、庭には鳥が来たり、小さな動物たちが生息 して、自然の豊かな場所でした。今でも山王を歩いていると、所どころに残っている土塀、表面は アスファルト舗装に変わったものの、細い道の曲がり具合など、子供のころに一瞬かえって、思い 出がよみがえってくる場所も少なくありません。私にとって、山王は、まさにふるさとなのです。 山王1・2丁目自治会の3月恒例の催し物の「講演と朗読」の会、山王にゆかりの作家をとりあげ、 尾崎士郎氏をお父上にもつ中村一枝さんが、尾崎士郎とその作家のかかわりについて講演し、私が 作品を朗読するという企画が始まって、今年で6年目になります。山王界隈に住んでいた尾崎士郎、 宇野千代、中村汀女、室生犀星、山本周五郎をとりあげ、様々な角度からの興味深いお話を中村さ んがされ、それぞれの作家の作品を私が、「読み語って」参加者と味わいました。 今では知らない人も増えたこの作家たちは、「馬込文士村」の一員として大森駅西口前の階段の銅 板レリーフなどにもありますが、私自身も作品まで読んだことはありませんでした。この会では中 村さんが作家の実像をお話しになります。ご一緒にこの作家の周辺事情を調べ、また作品を読んで みて、私が子供のころや青春時代には、尾崎士郎をはじめ大勢の文士たちが山王周辺で生活を営ん でいたのだと実感でき、今では私もたいそう身近に感じるようになりました。 この会のおかげで、知らなった作品や作者を知り、私自身の知的好奇心は、大いに満たされた感が あります。ふるさと、山王は、私にとって、あけてびっくりの玉手箱だと、単なる郷愁以上の存在 になってきたのです。 3月23日の「講演と朗読」には、中村さんの父上の尾崎士郎の議論仲間の広津和郎がとりあげら れますが調べていくうちに、次々と知らなかった興味深い点が判明してきて、中村さんの言葉をお 借りすれば、「血わき、肉躍る」興奮を覚えてきました。それは、どんなことだったのか? 尾崎士郎を愛した広津和郎―その知られざる素顔―をぜひ聞きにいらしてください。 また、4月から始まる NHK の朝の連続テレビ小説「花子とアン」の主人公、村岡花子。世代を超え て今でも人気のある「赤毛のアン」シリーズを最初に翻訳し、日本に紹介しました。花子は著作の あとがきに「大森において」と書いているように、大森(駅から蒲田よりの現・中央)で戦禍を被 りながら敵国の小説の翻訳を、命がけで続けたということです。ドラマの展開も楽しみですが、近 隣の人たちと力をあわせて地域を守った様子を振り返り、今の大森地域の繁栄に至るまでの道のり を思い起こしてみる機会になるのではないかと期待がふくらみます。手前味噌ではありますが、昭 和20年大森が空襲にあった4月13日に、花子が命をかけて、英語の原本と翻訳途中の原稿を守 った様子などを令孫、村岡恵理さん著「アンのゆりかご」からの抜粋朗読で私が紹介することにな りました。山王とその周辺の移り変わりに、ご一緒に思いを馳せ、また村岡花子の豊かで丁寧な日 本語に翻訳された「赤毛のアン」を、今一度朗読で味わっていただければ幸いです。 ◇ 「若葉朗読会」 第一部「大森の村岡花子」 第二部「赤毛のアン」 期日 4月13日(日)開演午後1時半 場所 山王オーディアム
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