焼成の更なる低温・短時間化を目指した無機ペースト用バインダー 新規導電性ペースト用低温分解材料 (信州大院理工学系) 英謙二 (新中村化学)○高田浩平、古賀徳仁 (和歌山県工技セ) 山下宗哲 [1PB02] (Tel: 073-423-3256) 新中村化学工業株式会社の高田浩平、信州大学大学院理工学系研究科の英謙二教授、和歌山県工業 技術センターの山下宗哲らの研究グループはアクリル系樹脂の組成・分子量の設計、及び信州大学の シーズである油性ゲル化剤(シクロアスパルテーム誘導体)との配合比の最適化により、電子部品等に 使用される優れた焼成特性を持った無機ペースト用新規バインダーを開発した。図 1 に本ゲル化剤の 化学構造を示す。本バインダーを使用した無機ペーストは、市販のエチルセルロース樹脂やブチラー ル樹脂を使用した系と同等のスクリーン印刷適性を維持しつつ、焼成の更なる低温・短時間化が可能 となる。また、本バインダー成分であるアクリル系ポリマーはその原料モノマーが工業用に多種類が 市販されており、分子量制御や組成設計の自由度が高く、更にゲル化剤の添加量変更等により、ペー ストの粘弾性特性の改善が容易となる。 O H HN O O O NH H 図 1. 信州大学のゲル化剤【略名:Cyclo(L-Asp(OR)-L-Phe)】の化学構造 スクリーン印刷技術にて微細パターンを形成する時、導電性ペースト(無機粒子を含む)の一成分と して“無機粒子の分散性” ・“印刷配線の形状維持” ・ “印刷適性向上”を目的としたバインダーが使用 されており、エチルセルロース樹脂やブチラール樹脂を中心に使用されている。図 2 にスクリーン印 刷の概念図を示す。 焼 成 図 2. スクリーン印刷とは また、最近の電子部品では、アルミナのような高温焼成タイプの無機粒子から、ガラス粒子等の低 温焼成タイプの無機粒子まで、焼成条件が広範囲となりつつある。しかしながら、市販のエチルセル ロース樹脂やブチラール樹脂のバインダーにおいては、 これらの広範囲の焼成条件に対応不可であり、 特に低温焼成型の無機粒子を焼結させる場合や、酸化防止を目的とした還元性雰囲気中で金属粒子を 焼結させる場合、焼成不良としてカーボン等の残渣を生じ、セラミックスや金属導体などの最終製品 の特性が低下するという問題がある。また、既存のアクリル樹脂では焼成の低温化は可能であるが、 アクリル独特の糸曳性によりスクリーン印刷適性が悪化する。 そこで、我々は市販のエチルセルロース樹脂やブチラール樹脂を使用した系と同等のスクリーン印 刷適性を維持しつつ、焼成の低温化が可能となるアクリル樹脂系バインダーの開発を行い、成功に至 った。図 3 に本バインダーを使用した銀ペーストのスクリーン印刷パターンを示す。 基材:PET フィルム スクリーン版: L/S=165/165 (μm) 図 3. 新規バインダーを使用した銀ペーストのスクリーン印刷パターン バインダー単体の TG-DTA 測定結果を表 1 に示す。新規バインダーはエチルセルロース樹脂やブチ ラール樹脂と比較して、分解開始温度が低く、残渣(Residue)も少ない事が確認できた。 表 1. TG-DTA 測定による熱重量減少温度 Polymer Temperature (℃) Residue T T T Novel acrylic compounds*1 310 368 391 <0.7 Ethyl cellulose resin 323 360 >500 <6.0 Butyral resin 340 401 450 <1.2 5 *1 50 95 (%) 試料 10mg、昇温条件:30®500℃,レート 10℃/min, 窒素雰囲気下 エチルセルロース樹脂または新規バインダーをスライドガラス上に塗布し、空気雰囲気下で 400℃ -30 分間焼成させた後、デジタルマイクロスコープにて観察した結果を図 4 に示す。 エチルセルロース樹脂 新規バインダー 図 4. 400℃-30 分間にて焼成後のバインダーのデジタルマイクロスコープ観察結果 図 4 から、エチルセルロース樹脂では中心部に未分解物らしき残渣が確認されたが、新規バインダ ーでは未分解物が確認できなかった。よって、新規バインダーの使用により、400℃-30 分間での焼成 が可能である事が示唆される。 【適用分野】 :積層セラミックコンデンサ(MLCC)、LTCC、太陽電池 他 【謝辞】 :本研究は(公財)わかやま産業振興財団の H26 年度未来企業育成事業により実施致しました。
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