ⅩⅤ続発性(被転移性)腫瘍

ⅩⅤ続発性(被転移性)腫瘍
泌尿器科領域の臓器にも他臓器からの転移や浸潤を受け
表1:続発性腫瘍の
ることがある[1)ー4)].この場合の用語であるが、”転
臓器別頻度
移性”という言葉が使われているが”転移性”という言葉は
続発臓器
例数
%
泌尿器科領域悪性腫瘍が遠隔臓器に転移をする場合にも使
肺
51558
9.93
われ、転移したのか転移を受けたのか判断に困ることが多
肝
49646
9.57
い.また続発性腫瘍とすると、この場合には遠隔臓器からの
骨、骨髄
26823
5.17
転移を受けた場合と隣接臓器からの連続性浸潤の場合をも
副腎
23491
4.53
含んでしまう.桐山[5)]は続発性腫瘍を1)直接浸潤.
腎
16086
3.10
2)多中心性発生、3)造血臓器の悪性腫瘍の全身的波及、
腎盂
507
0.10
4)遠隔臓器の悪性腫瘍からの転移、の四つに分類して、こ
膀胱
5411
1.04
れらすべてを、または1)、2)、3)を続発腫瘍としてい
前立腺
1677
0.32
るが、実際には直接浸潤か転移か判定困難な場合もあるとし
精巣
1152
0.22
ている.
陰茎
51
0.01
隣接臓器への連続性浸潤は、最近では悪性腫瘍の進展度の
その他
342571
66.01
一項目となっているし、病理剖検輯報では”浸潤転移”とし
518973
て一つの言葉としている.本書では遠隔臓器からの転移に隣 全臓器
表2:続発性泌尿器科領域腫瘍の原発巣(%)
原発巣
甲状腺
肺
食道
胃
小腸
大腸
肝
胆
膵
骨髄
リンパ節
乳腺
皮膚
子宮
卵巣
前立腺
精巣
腎
腎盂尿管
膀胱
その他
不明
副腎
(23491)
0.6
29.7
2.8
10.1
0.4
5.1
9.9
2.4
8.2
6.2
5.6
2.3
0.8
1.0
0.9
1.7
0.2
2.0
1.2
1.2
5.4
2.2
腎
(16086)
0.7
21.5
2.9
7.5
0.6
3.9
3.8
1.7
5.5
19.3
12.0
1.4
1.1
1.2
0.9
0.8
0.3
1.7
1.3
1.6
7.5
3.4
腎盂
(507)
9.3
1.2
22.5
0.6
3.7
1.6
4.1
5.1
16.6
11.8
1.2
1.1
1.2
1.4
2.6
0.3
3.6
7.3
39
5.3
2.0
その他の
泌尿器
(1610)
0.1
3.4
1.0
20.2
0.8
13.1
1.7
3.0
4.9
2.1
5.8
1.9
0.9
6.3
3.0
8.6
0.1
1.6
4.5
11.2
3.2
3.9
3.2
1.9
膀胱
(5411)
0.1
4.4
0.9
11.9
0.9
11.7
2.0
1.6
3.7
11.1
9.8
1.0
1.3
8.2
4.9
13.1
0.2
0.6
3.1
前立腺
(1677)
13.4
1.6
7.4
1.3
9.7
1.7
0.8
3.8
15.4
17.5
精巣
(1152)
0.2
3.0
0.9
3.6
0.3
2.7
1.2
0.2
1.3
43.6
20.5
1.2
1.0
1.9
0.5
0.5
1.9
13.5
5.3
3.9
1.9
1.1
0.6
0.6
1.9
5.6
5.0
陰茎
(51)
9.8
7.8
2.0
3.9
3.9
2.0
その他の
男性器
(338)
3.0
0.6
4.4
0.3
9.2
1.5
0.3
1.8
6.8
6.8
0.6
17.6
47.6
3.9
0.9
5.9
0.3
11.8
3.0
19.6
8.3
9.9
2.4
3.9
3.0
():例数
計
(50323)
0.51
21.95
2.43
9.71
0.54
5.78
6.22
2.26
6.33
12.04
8.89
0.97
1.72
1.94
1.32
2.31
0.26
1.64
1.61
2.09
6.02
2.82
接臓器からの連続性浸潤が含まれているもの(例えば日本病理剖検輯報[6)])は”続
発性腫瘍”とし、臨床報告などで明らかに遠隔臓器からの転移と考えられるものは”被転
移性腫瘍“とした.
被転移腫瘍の臨床的集計は不十分な臓器もあるので、剖検例について、日本病理剖検輯
報の 41 輯から 50 輯[6)]による 10 年間の情報で続発性腫瘍を検討した.この 10 年間
に行われた悪性腫瘍症例の剖検数は 131309 例であり、このうちリンパ節を除いて 518973 臓
器が続発性腫瘍である.続発性腫瘍の頻度が高い肺(気管、気管枝を含む)肝および骨、
骨髄を含め、泌尿器科領域臓器の全続発性腫瘍に対する頻度を表1に示す.泌尿器科領域
では副腎、腎、膀胱が比較的頻度は高いがその他は決して高頻度とはいえない.
泌尿器科領域臓器の続発性腫瘍の原発巣を表2示す.全体としては、消化管、肺、骨髄、
リンパ節が原発巣では多いが、これは、全ての臓器にみられることで泌尿器科領域に限った
ことではない.また骨盤腔内の泌尿器科領域同士、女性性器や大腸(結腸、直腸)が原発
巣となっている頻度が高いのは連続浸潤が多いためと思われる.
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臨床的な被転移腫瘍の報告は、副腎腫瘍では吉田ら[7)]が同一施設での臨床的に診
療された 26 症例を報告している.腎の被転移腫瘍については、桃原ら[8)]は本邦報告
例 212 例を集計している.腎盂尿管腫瘍については、早川ら[9)]は同一施設での続発
性腎盂尿管腫瘍 7 例を報告し、尿管腫瘍に限定すれば是永ら[10)]は 73 例の被転移性
尿管腫瘍の本邦報告例を集計している.被転移性膀胱腫瘍については太田ら[11)]は
44 例を集計している.続発性前立腺腫瘍についての臨床報告は、白血病の前立腺浸潤[1
2)]をはじめとして 11 例しか報告されていない[12)ー22)].
表3:被転移泌尿器科領域腫瘍の原発巣(%)
原
発
巣
例数
文献
甲状腺
肺
縦隔
食道
胃
大腸
肝
胆
膵
骨、関節
骨髄
リンパ節
皮膚
乳腺
下顎
咽頭
喉頭
子宮
卵巣
前立腺
精巣
腎
腎盂尿管
膀胱
尿道
その他
不明
副腎
26
7
46
12
8
4
4
4
腎
212
8
8.5
36.3
19.3
2.4
5.2
1.9
尿管
膀胱 前立腺
73
44
11
10
11
12-22
2.3
32.9
9.5
59.1
6.8
2.8
6.8
1.9
1.9
2.4
1.9
精巣 精巣上体
51
42
23
23
9.1
9.1
27.3
18.2
9.1
*9.1
精索
陰茎
84
112
24
25
2.4
21.6
52
1.2
47.6
14.3
2.4
1.2
10.7
8.9
1.8
1.8
4.5
8.0
尿道
9
26-30
22.2
1.8
9.1
8.2
1.4
4.5
4.5
0.9
11.1
1.8
4
4
1.9
4.2
2.7
5.4
1.4
24.7
15
11.3
0.9
2.3
20.4
9.1
61.0
21
9.8
14
5
3.6
2.4
8.3
3.6
2.4
25.9
1.8
5.4
8.9
26.8
1.8
11.1
22.2
22.2
11.1
7
1.4
7.6
2.4
*:胃または胆嚢
被転移精巣腫瘍については永田ら[23)]は本邦では 51 例が報告されているとしてい
る.また精巣上体へ転移をきたした腫瘍は永田ら[23)]が臨床報告例 42 症例を集計し
ている.被転移性精索腫瘍は加藤ら[24)]が 84 例を集計している.
被転移性陰茎腫瘍は剖検では非常に少ないが、向井ら[25)]は本邦報告例 112 症例
を集計している.被転移尿道腫瘍は 9 例が報告されているに過ぎない[26)ー30)].
これらの報告例を引用して泌尿科領域臓器が転移をうける原発巣の頻度を表3に示した.
被転移性腫瘍の報告例で原発巣をみると、全体としては消化管特に胃からの転移や肺か
らの転移が多いが、被転移臓器によって多少の違いがみられる.腎では胃よりも食道から
の転移を受けることが多く[2)]、精巣[3)]や陰茎では原発が前立腺のことが多い.
これは転移を受ける臓器の特性や転移の経路による違いも考えられる.例えば精巣では前
立腺癌の治療法として去勢術が行われこの組織診断で発見されたり[3)]、前立腺癌に対
するホルモン治療による精巣機能低下のため正常精巣にくらべ癌浸潤を受けやすいことな
どが考えられている[31)].しかしながら臨床報告例では、全身的な多臓器転移の一部
と思われるものは報告され難く、単独転移でも報告者の興味のある症例が多く報告される
ことは否めない.
文
献
1)三方律治、木下健二:孤立性対側副腎転移を来した腎細胞癌の1例.臨泌、38:57ー59、
1984.
2)三方律治,今尾貞夫,加藤 温,松尾 聰:腎転移を来した食道癌の1例.日癌治,
25:1492-1496,1990.
3)三方律治:播腫性骨髄癌症を呈し精巣へも転移した前立腺癌の1例
日外科系連会
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誌,23(6)1025ー1027,1998
4)新美文彩,深澤 立,今尾貞夫,三方律治,川原 穣: 乳癌膀胱転移の一 1 例
第 561 回日本泌尿器科学会東京地方会,2003,6,19
5)桐山啻夫:多臓器腫瘍の尿路性器に及ぼす影響、または続発性尿路性器腫瘍.市川篤
二、落合京一郎、高安久雄 監修、新臨床泌尿器科全書7B、金原出版、東京、1984、pp333-353
6)日本病理学会編、日本病理剖検輯報、41 輯ー50 輯、日本病理学会、1998-2007.
7)吉田利夫、岡田安弘、岸本裕一、石田 肇、岡田清己、根本則道:転移性副腎癌の診
断と治療.内分泌外科、16:189-192,1992
8)桃原実大、小森和彦、高田 剛、今津哲央、本多正人、藤岡秀樹:食道原発転移性腎
腫瘍の1例.西日泌尿、64:385-362,2002
9)早川正道、小田島邦男、藤岡俊夫、秦野 直、石川博通、村井 勝:続発性腎盂尿管
腫瘍の臨床的検討.臨泌、35:52-57,1981
10)是永佳人、鄭 泰秀、髙井公雄、吉弘 悟、松山豪泰、内藤克輔:乳癌原発尿管腫
瘍の1例.西日泌尿、65:110-114,2003
11)太田昌一郎、酒本 護、風間泰蔵、布施秀樹、片山 喬:結腸を原発とする転移性
膀胱腫瘍の一例.泌尿紀要、39:845-897,1993
12)小田完五、小野利彦、高橋 徹:白血病の前立腺浸潤.日泌尿会誌、58:632-636,1967
13)平野章治、田尻伸也:血清酸フォスファターゼ高値を示した続発性前立腺腫瘍の1
例.日泌尿会誌、67:375-376,1976
14)下田直威、能登宏光、木津典久、西本 正、加藤哲郎:前立腺転移を初発症状とした胃
癌の1例.日泌尿会誌、77:1901、1986
15)山口建二、和食正久、福井準之助、小川秋實:胃癌の前立腺転移の 1 例.日泌尿会誌、
78:1138,1987
16)米田勝紀、荒木富雄、加藤広海、齋藤 薫、加藤雅史、栃木宏水:食道癌の前立腺転
移の1例.臨泌、41:436-437,1987
17)江原英俊、伊藤雅康、出羽正義、田村公一、山本直樹、藤弘 茂、栗山 学、河田
幸道:続発性前立腺腫瘍の1例.泌尿紀要、37:923-925,1991
18)雨宮 剛、長谷川洋、小木曽清二、佐野 力、谷合 央、籾山正人、伊藤之一、千
田嘉毅、高橋 裕、上原圭介、宮崎 晋、秋田昌利:孤立性前立腺転移をきたした大腸癌
の一例.日臨外会誌、59(S):502,1998
19)島崎英幸、安斎幹雄、遠藤久子、関塚久美、相田真介、緒方 衝、加藤 圭、玉井
誠一:尿、膀胱洗浄液および乳糜腹水中に腫瘍細胞が出現した混合型肝癌の1例.日本臨
床細胞学会誌、39:35-39,2000
20)梶原 哲、山内崇生、菊池 隆、呉 聖哲、百瀬昭志、舟生富寿、工藤達也、鈴木
唯司:前立腺転移をきたした肺小細胞癌の一例.泌外、14(S):512,2001
21)旗手和彦、中村隆俊、大谷剛正、柿田 章、三富弘之:下行結腸癌術後に骨盤腔内
腹腔外に転移性腫瘍を来した1例.手術、56:1844-1848,2002
22)木下英親、渡辺 聡、臼井幸男、原島康寿、河村信夫:胃癌の前立腺転移の1例.
泌外、18:1285-1287,2005
23)永田大介、藤田圭治、佐々木昌一、伊藤恭典、日比野充伸、郡 健二郎:精巣上体
転移を来した腎盂腫瘍.臨泌、52:961-963,1998
24)加藤久美子、鈴木弘一、佐井紹徳、村瀬達良、小林陽一郎:陰嚢水腫を伴った胃癌
精索転移の1例.泌尿紀要、45:895-861,1999
25)向井尚一郎、山下康洋、濱砂良一、蓮井良浩、長田幸夫、大藤哲郎:陰茎転移を契
機に発見された前立腺癌の 1 例.西日泌尿、63:18-20,2001
26)松井 隆、稲葉洋子、梅津敬一、里中和廣:卵巣腫瘍を原発とする転移性尿道腫瘍
の1例.西日泌尿、54:848-851,1992
27)前之園省三、浜本隆一、中原健朗、末光浩也:直腸癌の尿道転移の1例.松江赤十
字病院医学誌、3:72-75,1991]、長本ら[長本章裕、中込一彰、齋藤和男、増田光伸、広川
信、岩渕啓一:転移性尿道腫瘍の 1 例.西日泌尿、55:754-757,1993
28)Kobayashi T.,Fukuzawa S.,Oka H.,Fujikawa K.,Matsui Y.,Takeuchi H.:Isolated recurrence of
prostatic adenocarcinnoma to the anterior urethra after radical prostatectomy.J.Urol,164:780,2000
29)森山浩之、井上洋二、望月英樹、中原 満、西阪 隆、福原敏行:前部尿道へ転移
した前立腺癌.臨泌、55:757-759,2001
30)黒田 功、植月裕次、桑田善弘、竹中生昌:子宮体癌尿道転移の1例.西日泌尿、
63:83-85,2001
31)小杉道男、佐藤裕之、門間哲雄、斉藤史郎:精巣転移をきたした前立腺癌の1例.
泌外、15:779-781,2002
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