モダンの系譜(科学の諸相) (鈴木) 14 道徳性の脳科学/15 まとめ 1 1 道徳性の脳科学研究 2 授業全体のまとめ 2 (ここでは)道徳とは… • 道徳=何をすべきか・すべきでないかに かんする教えや規則 • 道徳性=何をすべきか・すべきでないか を判断する能力 3 道徳にかんする事実 • 道徳的な問題にかんする人々の考えに は、おおまかな一致が見られる。 - 人を殺すことや人のものを盗むことは悪いこ と。 - 老人や小さな子供に親切にするのはよいこ と。 4 • 難しい問題にかんする考えは、人によっ て異なる。 - 中絶は許されるか? - 環境保護のために、われわれは現在の豊かな 生活を断念すべきか? 5 道徳をめぐる問い • 難しい問題にたいする正しい答えとは? • 正しい答えはどのようにすれば得られる のか? • さまざまな道徳的問題にたいして、われ われはどのように答えを出しているの か? 6 道徳性にかんする二つの見方 ヒューム: 「理性だけで善悪を見分けることは 不可能」 「道徳的知識は、論証や帰納的推論 によってではなく、直接的な感情や David Hume (1711-1776) 内的感覚によってもたらされる」 (『人間本性論』) 7 カント: 「[よい行為]は、主観的な傾向 性や好みによらなくても、ただち に好ましいものに見える…よい行 為を意志するために必要なのは、 理性だけである」(『道徳形而上 Immanuel Kant (1724-1804) 学の基礎づけ』) 8 グリーンらの実験(2001) 9人の被験者に、60の実践的ジレンマに回答 させ、そのときの脳の活動をfMRIで計測。 3種類のジレンマ: ・道徳的でないジレンマ:駅に行きたいがバスが すぐ来ないとき、余分なお金を払ってタクシーに 乗るか、しばらくバスを待つか? ・個人的でない道徳的ジレンマ:トロリー問題 ・個人的な道徳的ジレンマ:陸橋問題 9 トロリー問題 鉄道の工事現場で、トロリーが暴走した。トロ リーの先では、5人が作業をしており、このま まではトロリーにひかれてしまう。あなたの前 には切り換えポイントがあるが、引き込み線の 先でも作業をしている人が1人いるため、ポイ ントを切り換えれば、この男性がひかれること になる。あなたは、ポイントを切り換えたほう がよいだろうか? 10 陸橋問題 鉄道の工事現場で、トロリーが暴走した。 ト ロリーの先では、5人が作業をしており、この ままではトロリーにひかれてしまう。あなたは 陸橋の上からこの状況を見ているが、目の前に は大柄な男性が立っている。彼を線路に突き落 とせば、トロリーを止めることができるが、彼 はトロリーにひかれてしまうことになる。あな たは、この男性を突き落としたほうがよいだろ うか? 11 多くの人は、トロリー問題にはイエス、 陸橋問題にはノーと答える。 - このような答えは首尾一貫しているか? - なぜわれわれはこのように答えるのか? 12 活動に差が見られた脳部位 背外側 腹内側前頭 前頭前 前野 野 後帯状回 頭頂葉 角回 赤字:個人的な道徳的ジレンマでより活性 青字:それ以外でより活性 13 各部位の血流量の違い 論理的思考 感情に関係する部位 に関係する部位 道徳的で 安静時と 個人的 の差(%) 道徳的だ が個人的 でない 道徳的で ない 内側前頭 後帯状回 左角回 右角回 外側前頭 頭頂葉 頭頂葉 前野 前野 (両側) (右) (左) (右) 14 結果: • 個人的な道徳的ジレンマのときにだけ、 感情と関連することが知られている部位 (内側前頭皮質、後帯状回、角回)が強 く活性化した。 15 反応時間 道徳的で個人的 道徳的だが個人的でない 道徳的でない 反応時間 イエス ノー 被験者の答え 16 • 個人的な道徳的ジレンマに「行動は適切 である(男を突き飛ばしたほうがよ い)」と回答したときの反応時間は、そ れ以外の場合よりも長かった。 - 感情的な反応を抑制するのに時間がかかる? 17 グリーンの解釈: • 道徳的判断には、感情と理性、 あるいは直観と推論の両者が関 与している。 • 異なる脳部位がそれぞれの働き を担っている。 Joshua Greene • 感情は、個人的な道徳的ジレン マの場合に強く働く。 18 考察 • グリーンらの実験は何を明らかにしてい るのか? - われわれの道徳的判断には理性と感情の両者 が関与している。 19 1 道徳性の脳科学研究 2 授業全体のまとめ 20 脳科学の発展 • イメージング技術の発展 - 脳波計、CT→PET、MRI • 高次機能の解明 - 知覚、感覚→思考、感情など • - 電極刺激→磁気刺激、薬理学的介入 21 帰結①:脳を「読む」技術の進展 • イメージング技術の発展 →認知活動に関与する部位の特定、知覚 内容の特定 → 22 帰結②:脳を操作する技術の進展 • 非侵襲的な刺激法の開発、神経薬理学の 発展 →BMIの利用、精神疾患の薬物治療 → 23 帰結③:社会制度の変化 • 人間の行動を生み出す脳のメカニズムの 解明 →現在の社会制度の脳科学的観点からの 評価 → 24 帰結④:人間観の変化 • 脳の働きの解明 →人間の活動はすべて脳の産物という見 方 → 25 論点①:脳科学の特殊性 • 脳科学は、他の科学技術にはない新しい 問題を引き起こすだろうか? - イメージング技術を用いたマインド・リーデ ィングと「心の理論」 - 神経マーケティングと通常のマーケティング - 26 • 脳科学が人間のあり方を根本的に変える ことはあるだろうか? - BMI、BCIによる機械やコンピュータとの接続 - →たんなる程度問題なのか、あるいは質 的な変化なのか? 27 論点②:社会の対応 • われわれは脳科学研究に制約を課すべき か? • 脳科学の応用に制約を課すべきか? 28 これらの問題について考えるために: • 科学や技術は価値中立的か? - • 脳科学は価値中立的か? 29 • 制約について誰が決定を下すべきか? - 脳科学者は社会的、倫理的問題にかんする専 門的な知識を持たない。 - 倫理学者、政治学者は脳科学の専門的な知識 を持たない。 - 30 論点③:インチキ脳科学の問題 • 社会に流通している脳に関する言説は、 すべてが信頼できるものではない。 - 31 参考文献 Greene, J., et al., 2001, “An fMRI investigation of emotional engagement in moral judgment”, Science, 293: 2105-2108. 32
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