済生会吹田病院

医学フォーラム
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<病 院 だ よ り>
地域 No1の病院を目指す済生会吹田病院
大阪府済生会吹田病院
院 長
黒 川 正 夫
創立 70周年を迎えて
戦後間もない昭和 20年 10月 21日,大阪市内
にあった済生会港病院院長内野滋氏は戦災で病
院が焼失したため,看護婦 3名,事務員 2名を
伴い,旧吹田町役場の一室において診療を始め
たことが当院の起源となる.開設当初,診察室
は旧吹田町役場を間仕切りしたものであり,医
療器具・医薬品等の物資も事欠く状態であった
というが,済生会精神のもと積極的に地域医療
を推し進めた.当時吹田市内には他に病院もな
く患者数は増加し,近隣の民家を買収しながら
数度の増改築と医療設備等の充実を図りながら,
昭和 52年には病床数 500を有する大阪府北部有
数の病院へ発展した.平成 10年に現在地に新
築移転し,名実ともに急性期の総合病院となっ
た.平成 13年 4月には病院だけでなく,高寿園,
松風園の二つの特別養護老人ホームや肢体不自
由児のリハビリテーション施設である療育園,
吹田・東淀川の二つの訪問看護ステーションか
らなる済生会吹田医療福祉センターを形成し,
医療から福祉までをシームレスにつなぐ「済生」
の理念を具現化し,2025年の地域医療構想を先
取りした組織に生まれ変わろうとしている.と
いうわけで済生会吹田病院は本年創立 70周年
を迎えることができた.地域のみなさまをはじ
め,当院に関わる全ての関係者のみなさま,と
りわけ京都府立医科大学の諸先輩に心より御礼
を申しあげたい.
近年の済生会吹田病院あゆみ
私は昨年 2月,岡上武先生の後任として院長
を拝命した.その直後に診療報酬改定と消費増
〒564
‐0013大阪府吹田市川園町 1番 2号
図 1 済生会吹田病院創立 70周年記念ロゴマーク
税があり,さらに看護師不足も重なり,困難な
スタートになったが,職員の努力により何とか
黒字基調で 1年を終えることができた.
私は 1998年 4月に整形外科・リハビリテー
ション科部長として新築移転直前の済生会吹田
病院に着任した.旧病院は手瀬間になり実質 350
床程度の稼働ベッド数であったものが一気に
500床に増加し,脳神経外科,心臓血管外科,
I
CU,NI
CUなどが新設されたものの,医師の数
は 70名程度で,かなりハードな勤務状況であっ
た.
2001年 3月,臨床研修病院の指定を受けて医
師の新卒後臨床研修制度に備え,8月には卒後
教育・臨床研修・生涯教育のための多人数収容
ホールそして図書室を備え,I
CT化推進のため
の情報管理部門も導入し,次代のニーズと医療
従事者の質向上を図ることを目的とした東館が
完成した.
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図 2 済生会吹田病院 70周年のあゆみ除幕式
第三者機関による評価と,継続的な医療の質
改善および広く地域社会への広報活動を行う目
的で,2001年 5月(財)日本医療機能評価機構
の病院機能評価の認証,2002年 4月品質マネジ
メントシステムである I
SO9001の認証を,2009
年 1月,省エネとコスト削減効果を目指し,環境
省のエコアクション 21の認証を取得した.2012
年 5月,卒後臨床研修評価機構の認定を,続い
て 2013年 2月,NPO法人日本 HI
S研究センター
より「はとはあと」情報公開優良医療施設,同
年 11月,日本人間ドック学会の定める人間ドッ
ク健診施設機能評価のそれぞれ認定を受けた.
これらの認証は職員のコンプライアンス向上と
病院内の体制の整備につながった.
2005年 6月,地元医師会の同意を得て登録医
制と開放病床を導入し開放型病院として医療連
携,機能分化を進めた.2006年 5月,DPC対象
病院として認定,2007年 2月,7対 1の看護配
置を実施し,同年 10月,NI
CUを 6床増設し 9
床とした.2008年 3月大阪府肝炎専門医療機関
の指定を,2009年 3月大阪府がん拠点病院の指
定,同年 11月地域医療支援病院として承認され
た.
一方移転後約 10年になり職種別の縦割り組
織の弊害ともいえるセクショナリズムがみられ
るようになっていた.2007年 4月に京都府立医
大から岡上武先生を院長に迎え,当院の特徴を
明確にし,組織横断的な部門組織づくりを目指
して,2007年 11月大阪府地域周産期母子医療
センターの認定を皮切りに,2008年 7月,呼吸
器病センター,消化器・肝臓病センター,周産
期センター,消化器内視鏡センター,化学療法
センターを開設した.
当院理念「やすらぎの医療」の第一節にある
「窮境にある患者さんの医療を積極的に支援する」
の根本は『済生勅語』である.
『済生勅語』とは
明治 44年 2月 11日明治天皇により時の総理大
臣桂太郎が召され,下賜金に添えられた済生会
創設の勅語であり,その大意は「恵まれない人々
のために施薬救療し,済生の道を弘めるように」
である.当院が開設された戦後の混乱期に財政
的に窮しながらも,経済的困窮者である患者さ
んへ医療を提供し続けることができたのは『済
生勅語』の発露であり,その精神は現在の当院
理念にも強く受け継がれている.
平成 22年から開始した「生活困窮者支援事業
(なでしこプラン)
」に地道に取り組みが続けら
れており,平成 24年 9月には地域に出向き生活
困窮者への無料健康診断(釜ヶ崎健診など)の
取り組みを行っている.
済生会吹田病院の今後のあるべき姿
2014年度の診療報酬改定において最も強調
されている方向性は急性期病床の絞り込みであ
医学フォーラム
る.紹介・逆紹介率あるいは重症度,医療・看
護必要度などによって振い分けられそうな状況
であるが,本質的には急性期病院の役割と医療
内容が問われているということを忘れてはなら
ない.その内容とは小児・周産期,循環器疾患,
脳卒中を含む救急医療とがん,高齢者の呼吸器
疾患,運動器・感覚器などの専門性の高い医療
ということができる.当院においては吹田病院
の理念である「やすらぎの医療」の中の「高度
の医療レベルと総合医療機能を持ち,地域に貢
献する病院」を実践するため,ハード,ソフト
の両面からの充実を図っている.
DPCデータが様々な臨床指標として利用さ
れるようになっているが,あくまで一側面を見
ているにすぎない.平成 16年 1月に電子カルテ
が導入され 11年以上が経過したにもかかわら
ず,その内容は依然としてアナログで,電子カ
ルテのデータを DPCデータほど簡単には利用
できない.何とかして電子カルテのデータを容
易に利用できるような仕組みを確立することが
喫緊の課題と考えている.これを実現するため
にはデータを取り扱う側の人の意識改革が必要
で,医療者に対する教育・啓蒙が重要であること
は言うまでもない.今年度から臨床研究グルー
プが新設されたことは臨床研究における方法論,
倫理的側面などコンプライアンスを遵守する基
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本的な研究姿勢を身につけるための条件が整備
できたと考える.また人材開発室もようやく軌
道に乗りつつあり,すべての職種が階層ごとに
あるべき姿を目指し,専門知識や技術だけでな
く,人格的にもキャリア形成が可能な風土がで
きつつある.
卒後臨床研修評価の更新審査ではおかげさま
で前回以上の高い評価をいただいた.若い研修
医の先生の意気込みは平成 25年度には年間救
急車受け入れ件数 5000件超えを達成した.周
産期救急も引き続き高い貢献を続けているが,
より高いレベルを目指すためには院内外での更
なる協力体制と人的充実が望まれる.
がん医療についても着実に実績を向上させて
おり,全人的な取り組みをより推進するためにが
ん診療推進室を立ち上げ,より充実した予防・
診断・治療・緩和ケアのシームレスな体制を構築
することを目指している.これを実現するため
に一昨年から昨年にかけて思い切った画像診断装
置および治療装置の更新を行った.64列の CT
(GEヘルスケア・ジャパン社製 Opt
i
maCT660
)
,
乳房撮影装置(SI
EMENS社製 MAMMOMATI
ns
pi
r
a
t
i
o
n
)
,3Tの MRI装置(Si
e
me
ns社製 MAGNETOM Sky
r
a
)
と高精度放射線治療装置
(BRAI
NLAB社製 No
v
a
l
i
s
Tx
)である.医療機器・設備
の整備の最優先課題として,高性能の画像診断・
図 3 高精度放射線治療装置(BRAI
NLAB社製 No
v
a
l
i
s
Tx
)
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図 4 済生会吹田病院全景
放射線治療装置を購入する目的を,利用者によ
りよい医療を提供すること,ひいては地域医療
に貢献でき,当院がかかげる「地域ナンバーワ
ンの病院」という目標達成への必須の手段と位
置付けた.病院がどの医療機器を選ぶかの判断
の基準は医療情勢・経営はもちろんのこと,装
置をより有効に利用するための人材,各診療科
のニーズ・モチベーションなど多くの要素を含
んでいる.機器選定においては整備の目的を明
確にし,現場のスタッフを中心に発案・計画・
行動目標を求めた.この方法はスタッフにモチ
ベーションと責任感を喚起し,装置の実力を最
大限に発揮させる動機づけにつながったと感じ
ている.
2018年秋に J
R岸辺駅前に国立循環器病研究
センター,吹田市民病院の同時新築移転が計画
されており,当院を取り巻く医療環境は厳しい
ものがある.2025年までに訪れる超高齢社会
を間近にして,これを追い風にするべく一昨年
当院の健康管理センターを中心にして 3本目の
柱ヘルシーエイジングプロジェクトを立ち上げ
た.メタボリックシンドローム,ロコモーティ
ブシンドロームを中心に老化といかにうまく付
き合うかの取り組みを始めている.2007年に始
まった吹田市骨粗鬆症検診の地域連携パスは脆
弱性骨折予防・早期発見・早期治療の観点から
全国的にも高い評価が得られている.健康で活
気のある地域社会を地域住民の手で作り上げる
こと,すなわち地域医療構想と地域包括ケアに
地域医療支援病院としていかに貢献できるか知
恵を絞っているところである.これに認知症管
理の充実をあわせて,吹田病院の質の向上につ
なげていきたいと考えている.
お
わ
り
に
今年度を出発点として 2017年までに,病床機
能分化をより明確にすべく,救急病床(棟)
,緩
和ケア病床(棟)の新設などを視野に入れて,医
師,看護師の増員も計画している.幸いにして
多くの優秀な医療技術者や事務職の活躍もあり,
医師,看護師の働きやすい環境を準備できてい
ると自負している.
最後に京都府立医科大学のますますの発展を
祈念するとともに,引き続きご支援ご鞭撻を心
からお願いして本稿を終える.