巻頭言

巻 頭 言
病院建設費と健全経営
医療施設近代化センター理事長
廣瀬 省
近年、診療報酬はマイナス改定が続くなど、病院の経営環境は極めて厳しい。施設整備に際し、適
正な建設費で行わなければ、その後の健全な経営維持は困難となる。
公立病院の建設費は1床当たり約3,300万円と、民間の2倍に上ることが「自治体病院共済会」の調査
によりわかった、との記事が本年5月各紙に載った(9日共同通信配信)。この額は、1997年以降に建
設された約100の公立病院ごとに、建設費を病床数で割って算出した額の平均値である。一方、同時期
に建てられ、建設費が公表されている約20の民間病院の平均額は1,600万円だった。公立病院は建設単
価が割高で、民間なら共用する設備や部屋も診療科別に設けるなど無駄も多い。吹き抜けのホールな
ど、過剰な豪華設計も目立つ。総務省の2007年調査では、減価償却費の医業収入に対する割合も、民
間病院は4.6%だが自治体病院は8.1%と高い、と書かれていた。昨年12月、総務省から各自治体に通
知された「公立病院改革ガイドライン」にも高い病院建設費の抑制が指示されている。
公立病院の多くは、他の自治体が整備した病院の面積や単価を基に、それ以上のものを整備しよう
とするため段々高額となる。首長などの選挙対策の側面もあり、豪華病院の設計が好まれる。建設会
社も豪華病院は歓迎であり、市民も豪華であることを自慢に思う。また、公立病院の整備は起債(借入
金)で行われるが、その利息や元金返済額について、一定比率で交付税により措置されるため、高額な
建設費を意に介さない面もある。しかし、残りの額は減価償却前利益から返済しなければならない。
医業収益からみて過大な建設費の元金返済は容易ではない。当然損益計算上赤字経営となる。長期的
には資金不足も生じる。整備後の収支見込について、「建設が可能となるように」希望的な利益計上の
事業計画を作成し、整備費の予算化を行っているのではないかと思う。発注も、公会堂や庁舎のよう
な、収支を考慮しなくてもよい建物と同じシステムで行われている。
民間病院の場合、病院を建替えようとすると、通常、銀行等から多額の借入金の調達が必要となる。
その返済財源は、減価償却前税引後利益を充てなければならない。人件費、減価償却費や金利などの
固定費の医業収益に対する比率が高くなると、利益を上げることは一段と難しくなる。したがって、
整備後の堅実な収支見込が何より重要である。借入金額は年間の医業収益以内が一つの目安となるが、
(独)福祉医療機構の平成18年度データでは、一般病院のうち7対1看護の病院1床当たり医業収益は
20,016千円、収益率は0%、10対1看護では16,553千円、収益率はマイナス0.7%である。建築費は面
積×単価であり、一定の金額内に収める場合は、どちらかを抑えなくてはならない。必要な機能につ
いては、十分な面積、単価とし、事務部門などの面積、単価は抑制するなど工夫が必要となる。効率
的な面積配分とする、デザインに凝りすぎないなど設計段階での工夫が重要である。
整備に当り、まず、どのような機能の病院にするのか、経営戦略を明確にする必要がある。何を行
い、何を行わないかを決めなければならない。基本構想は外部専門家の助言を得つつも、病院自らが
詰めなければならない。建築計画は、病院理念の具現化の手段であり経営計画の一環なのである。
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