平成26年度 子ども文教常任委員会 行政視察報告書 1 調査期間 平成

平成26年度
1
子ども文教常任委員会
行政視察報告書
調査期間
平成27年1月27日(火)~1月29日(木)
2
視察都市及び視察事項
期
日
視察都市
視察事項
1月27日(火)
沖縄県那覇市
那覇市歴史博物館について
1月28日(水)
沖縄県南城市
学校支援ボランティアについて
1月29日(木)
福岡県春日市
教育委員会改革について
コミュニティ・スクールについて
3
4
視察者
武藤
正人(委員長)
竹村
雅夫(副委員長)
加藤
なを子
市川
和広
永井
譲
原
輝雄
塚本
昌紀
栗原
義夫
視察事項の概要
(1)沖縄県那覇市
①人口及び面積
人口 323,075人
②平成26年度一般会計予算
面積 39.27k㎡
1,404億5,600万円
③視察事項の事業概要
a)藤沢市の課題
藤沢市に美術館・博物館の建設を求める声は、これまでにも多くの市民から
寄せられてきた。実際、藤沢市には収集品や寄贈を受けた書画、文物など多く
の収蔵品があり、その保管や展示をどうするかは長年の課題でもあった。
しかし美術館・博物館の建設や維持管理には多額の経費も要するため、藤沢
市が新たな「箱物」を建設することについては、異論も少なくなかった。
こうした中で、単独の施設ではなく、辻堂C-X(シークロス)の複合ビル
のワンフロアに藤沢市の収蔵する浮世絵を展示する「浮世絵館」の建設構想が
議会に提案され、論議が行われた。
このような「繁華街の複合施設の一角に美術館・博物館を設置する」ことや、
美術品などの文物の「収蔵と展示」について、具体的な事例を検討することが
必要であった。
今回、類似の設置形態を持つ沖縄県那覇市歴史博物館を訪れ、その設立の経
過と課題、運営の実態などを視察することとした。
b)那覇市歴史博物館の概要と成果・課題
那覇市歴史博物館は那覇市最大の繁華街「国際通り」に面し、モノレール県
庁前駅に直結する複合商業施設「パレットくもじ」という一等地のワンフロア
に設置されている。「繁華街の複合施設の一角に博物館を設置する」という形
態は、最初から意図されたものではない。那覇市が国宝指定を受けた琉球王家
の王冠の寄贈を受け、その展示の必要に差し迫られたのが発端である。
だが、新たに用地を取得し展示施設を建設することは容易ではなく、検討の
末、従来逓信博物館が設置されていた複合施設の現区画を購入し、開館したも
のである。
博物館には展示スペースの他、施設の半分近い面積が収蔵庫にあてられてい
る。このため常設展主体ではなく、2か月サイクルでテーマを決めて収蔵品を
順次展示するという形態をとっている。
このような博物館の形態の長所は、既存施設を利用したため、建設コストが
少なくて済んだことだ。また駅から至近距離にあるため、来訪者の利便性も高
い。
だが、実際には商業施設にショッピングに来た市民があえて博物館に立ち寄
ることは少なく、那覇市歴史博物館の立地条件は来館者の確保に必ずしも寄与
していない、という。その意味では辻堂C-X(シークロス)の一角にできる
とはいえ、「テラスモールに来た流れで浮世絵館を訪れる」という効果はあま
り期待できないことも想定すべきである。
また既存の複合ビルを利用しているため、博物館として求められるフロアの
高さや、消防施設などにも制約がある。この点では藤沢駅前の市民ギャラリー
と同様の制約がある。
一方、展示の形態については示唆的な面もあった。
藤沢市には、「公開型収蔵施設」という構想がある。単独の「箱物」として
の美術館・博物館は建設しない代わりに、まず温度や湿度管理のできる収蔵庫
を建設して収蔵品を保管し、隣接したギャラリーに収蔵物を随時展示するとい
うものだ。那覇市歴史博物館は、まさにこの「公開型収蔵施設」といえる。
この方法にはメリットもある。常設展を主とする博物館の場合、一度常設展
を見た来館者が同じ常設展を見に来ることは少ない。だが2か月ごとに企画展
が入れ替わる那覇市歴史博物館は、その都度訪れる来館者も一定数いる、との
ことだ。これは検討に値することかもしれない。
(2)沖縄県南城市
①人口及び面積
人口 42,136人
②平成26年度一般会計予算
面積 49.70k㎡
197億1,800万円
③視察事項の事業概要
a)藤沢市の課題
今日、公立学校に求められる役割は単に教科の授業だけではなく、総合的な
学習、安全・防災教育、地域との連携など多岐にわたる。だがその一方、課題
に対応できるだけの教職員定数増は行われず、学校現場の多忙は限界に来てい
るのが実態である。
そこで、地域の力で学校支援を行う取り組みが、各地の自治体や学校で進め
られてきた。だが、これは必ずしも有効に機能したケースだけではない。
藤沢市でも、部活動の実技指導者や図書ボランティア、学習支援など、地域
の市民による学校支援は数多く行われている。
これらが大きな成果をあげている反面、個々の学校がそのような地域人材を
探すことは容易ではなく、またボランティアに対する保険制度が確立していな
いなど、いくつもの課題が指摘されていた。
b)南城市学校支援ボランティアの概要と成果・課題
沖縄県南城市では、「学校支援ボランティア」制度を全市的に展開している。
この制度は「地域の力で学校を支える」という趣旨の下、ボランティアを希
望する市民に自分ができるボランティアの内容を登録してもらうことから始ま
る。学校から要望があった場合には、教育委員会に置かれた「コーディネータ
ー」が要望に見合うボランティアを登録者の中から探し、斡旋する、というシ
ステムだ。
あくまで学校からの要望にもとづく派遣であり、学校の主体性は担保されて
いる。
南城市では学習支援、学校行事、総合学習の講師などに約389人が登録さ
れており、学校教育の重要な支援制度として機能している。
説明を受けた限りでは、特にこの「コーディネーター」の存在が南城市の制
度の要だ、と感じた。
藤沢の場合、それぞれの学校がボランティアを探さなければならない場合が
多い。これでは学校の負担が多すぎ、また適切な人材とのマッチングも難しい。
校庭の芝生化が十分に機能しなかった原因も、維持管理を行う地域のボランテ
ィアの確保が困難だったことに一因がある。
南城市の「コーディネーター」は南城市の地域をよく知り、人脈も豊富に持
つ人材が任用されている。任用形態は市の嘱託であり、年間人件費は約113
万円。学校支援ボランティア事業費の大半はこのコーディネーターの経費だ。
学校ボランティアのもうひとつの課題は、万一の事故の場合だ。南城市では
全国社会福祉協議会のボランティア保険が市費負担で全員にかけられている。
もちろん、南城市はまだ「地域コミュニティ」がかなり機能している地域だ
という。だからこそ可能になっている側面もあり、この制度が藤沢にそのまま
適用できるとは限らない。
だが、「コーディネーター」と「ボランティア保険」に関して言えば、藤沢
市についても必要なものではないだろうか。
すでに「共に学ぶ」インクルーシブ教育の進展に伴い、特別支援教育ボラン
ティアのニーズも顕在化している。早急に論議されるべきことと感じた。
(3)福岡県春日市
①人口及び面積
人口 112,348人
②平成26年度一般会計予算
面積 14.15k㎡
316億1,413万円
③視察事項の事業概要
a)藤沢市の課題
今日、教育委員会制度の改革は重要な課題となっている。だが、大津市のい
じめ自殺事件以降の改革論議は、首長と教育委員会との関係にかかわる論議が
中心となっている感がある。それは藤沢市においても例外ではない。だが、教
育委員会制度を考えるのであれば、教育委員会と学校との関係の改革も重要な
課題である。
一方、地域に根ざした学校づくりの試みである「コミュニティ・スクール」
は、一昨年中学校2校で研究が行われたが、まだ全市的な展開とはなっていな
い。
さらに学校における教職員の多忙の解消と、教育委員会の持つ権限の学校へ
の委譲の要として、学校事務の共同実施の課題がある。この共同実施は藤沢市
ではいまだ行われていない。
これらの課題について先進的な取り組みを行っている、福岡県春日市を視察
し、成果と課題を調査した。
b)福岡県春日市の教育委員会改革、およびコミュニティ・スクールの概要
と成果・課題
本来「教育改革」とは、子どもたちにとってどのような教育制度や学校のあ
り方が最善の利益につながるか、が論議の中心でなければならない。
首長と教育委員会との関係ばかりが話題に上る中、福岡県春日市では教育委
員会が持っていた権限を各学校に委譲し、地域に根ざしたコミュニティ・スク
ールの取り組みを各学校が主体的に行えるよう、制度面からも担保する政策を
進めてきた。
コミュニティ・スクールの取り組みは全国各地でも行われているが、春日市
が特徴的なのは
① 地域住民の学校運営への参加
② 予算執行権・予算原案編成権などの各学校への委譲
③ 学校事務職員の役割の抜本的見直し、共同実施
を三つの柱として、一体的に展開してきたことだ。
このうち①ついては、各学校に保護者や自治会代表などが参加する学校運営
協議会が置かれている。学校評議員制度をさらに進め、地域コミュニティの声
が直接学校運営に反映されるしくみだ。
②の予算執行権、予算原案編成権の各学校への委譲は、各学校の地域に根ざ
した特色ある学校づくりを予算面から担保する制度である。
各学校には予算委員会が設けられ、校長、教頭のほか学校事務職員や教員の
代表も参加する。ともすれば一般教員の意識からは遠ざかりがちな学校配当予
算だが、主体的に決定に参加することにより、教員にも責任が生じ、コスト意
識も求められる。
③の共同実施については、市内3つのブロックの学校事務職員が全校への兼
務発令を受けて、共同で事務処理を行ったり教材等の共同購入を行うなど、各
学校の枠を越えてチームとして業務を行うものである。これによって事務の効
率化や相互点検、新採用事務職員への効果的な研修が可能となり、意義のある
制度と言える。
ともすれば一般には知られにくい学校事務職員である。だが、学校が経営的
な視点を高め、また「教務」と「事務」を分離することによって教員が子ども
に向き合う時間を確保するためにも、非常に重要な基幹職員である。
現在、藤沢市ではまだ共同実施は行われていないが、春日市の取り組みはひ
とつの参考になるものと思われる。
いずれにしても、コミュニティ・スクールに相当する学校・家庭・地域の連
携は、多くの地域で取り組まれている。だが、ともすればイベント主義になっ
たり、「何のための連携か」の論議が希薄になったりする傾向もあるかもしれ
ない。
その点、春日市の場合は権限委譲・共同実施と三位一体となってコミュニテ
ィ・スクールの実践が行われていることが、内実のある成果につながっている
ように感じた。