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速報 No.2015-07P
活性発泡体事件【実施可能要件を充足しないとした拒絶審決を取り消した裁判例】
言渡年月日
平成 27 年 8 月 5 日
裁判所
知的財産高等裁判所 第 3 部
裁判長裁判官 鶴岡 稔彦
事件番号
平成 26 年(行ケ)第 10238 号
出願・権利
(原審:不服 2011-20954 号)
事件名
関連条文
キーワード
特願 2006-536494 号
発明の名称「活性発泡体」
審決取消請求事件
結論
請求認容(拒絶審決取消)
特許法 36 条 4 項 1 号
実施可能要件、用途発明、併用、発明の要旨認定
【事実関係】
本件は、本願明細書は、本願請求項1に係る発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に
記載していなないので、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たさないとし
て本願を拒絶した審決の取消訴訟事件であり、本願の請求項1は以下の通りである。
【請求項1】天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シートを備えた
活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化
合物を含有し,薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いることを特徴とす
る活性発泡体。
本願明細書には、「本発明は,・・・副作用がなく,血行を促進し,体質改善や,癌等の病気
の治癒を促進することができる活性発泡体を提供することを目的とする」ものの、「そのメカニ
ズムは解明されていない」として、「ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物は,活性気泡
体内に太陽等からの赤外線を集める。そして,赤外線が活性発泡体内部の多数の気泡の壁にぶつ
かり,乱反射と集約を繰り返すことで,・・・波長4~25ミクロンの赤外線を,活性気泡体外
へ発生する。この赤外線と,人体の波長とが共振することにより,体の中の水分子やタンパク質
分子が活性化され,代謝促進作用によって人間が本来有している自然の治癒力が増進されると推
測される。」といった記載があり、<試験1>では、椅子の上に活性発泡体を敷き、その上に3
0分間静止状態で座った後に、血流量、体圧等を測定し、活性発泡体を敷かない比較例に比べ、
血流量が増加し体圧が下がることを示し、<試験2>では、前立腺癌細胞を培養した培養皿を上
下から活性発泡体で挟んだ状態で培養し,活性発泡体なしの状態で培養したものと比較した試験
を行い、活性発泡体は,ガン細胞のアポトーシス回路を立ち上げ,ガン細胞の働きを弱体化する
作用を促進するとの結論を示し、<試験3>では、前立腺癌細胞を培養し酪酸ナトリウムを添加
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速報 No.2015-07P
し培養皿を上下から活性発泡体で挟んだ状態で培養し,活性発泡体なしの状態で培養したものと
比較した試験を行い、活性発泡体は,ヒストン脱アセチル化酵素阻害物質のヒト前立腺癌細胞の
増殖抑制効果を促進するとの結論を示している。但し、<試験1>は薬剤を併用してその効果を
示した例ではなく、対象患者が1人であり、活性発泡体中のジルコニウム化合物及び/又はゲル
マニウム化合物の存在は明記されていなかった。また、<試験2>及び<試験3>は、インビト
ロの試験であり、「人体に直接又は間接的に接触」させた状態での試験ではなかった。
審決は、本願明細書は、本発明に係る「活性発砲体」を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接
的に接触させて用いる」場合に、活性発砲体と薬剤の併用効果が発揮されると当業者にとって理
解できるように記載されていない、として本願を拒絶した。
【判断のポイント】
本件判決は、活性発泡体を使用できるかについて、以下のように判断した。
『審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識できるような記載がない
ことを理由に,
本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けてい
る。しかしながら、本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その文言からして,活
性発泡体を用いる時期を特定するものにすぎず,その請求項において,
薬剤の効果を高めるとか,
病気の治癒を促進するなどの目的ないし用途が特定されているものではない。よって,本願明細
書に,活性発泡体の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性発泡
体を「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことに,それ以外の技術上の
意義があるということができるのであれば,少なくとも実施可能要件に関する限り,本願明細書
の記載及び本願出願当時の技術常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」とい
うべきである。そして,検討次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血行促進効
果を発揮させることができるような形で「使用できる」と認める余地があり得る・・・。よって,
審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記のような理由により本願明細書
が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざる
を得ず,審決は,取消しを免れない。』
【コメント】
本発明が「活性発泡体」という医療機器に関し、少なくとも、<試験1>から「血行促進効果
を発揮させる」という技術的意義を認める余地があったことから、「薬剤投与の際に」を、活性
発泡体を用いる時期を特定するものと解釈した上で、活性発泡体の薬剤との併用効果について当
業者が理解し認識できるような記載がないことを根拠に実施可能要件を満たさないとした審決
を取り消した。
以上
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