登山に対する動機について ―個人属性に着目して― 前原 健志郎(生涯スポーツ学科 野外スポーツコース) 指導教員 清水史郎 キーワード:登山者,動機,個人属性 1. 序論 のほうが,心に安らぎを求めていた.これは,東 小林(1993)は,登山者の動機・満足度と個人 日本大震災の経験により,安らぎを求めているか 属性ついて調査を行い,登山動機と個人属性の関 らではないかと考えられる.また, 「教育」因子に 連について有意な差があったと述べている.しか おける年齢差を見たところ, 高年の登山者よりも, し,小林(1993)が登山動機と個人属性について 若年の登山者のほうが自分自身の価値を高めたい 調査を行ったのは,10 年以上前で,現在でも,登 という動機が高かった.これは,高年の登山者は 山動機と個人属性の関連は, 存在するのか, また, 人生経験が豊富であり,自分の価値を高めるとい 登山者は,どういった動機で登山をするのか疑問 うより,趣味の一環として登山を楽しんでいるか を持った. らではないかと考えられる. そこで,本研究では,登山者が登山をする動機 登山動機について,質問 27 項目の平均値が最 について調査し,個人属性との関連を明らかにす も大きい項目は「美しい風景に出会いたい」であ ることを目的とした. った.これは,普段の生活では見ることのできな 2. 研究方法 い美しい風景を見ることができるのは山であるた 1) 被調査者及び調査場所 め,高い得点を示したのではないかと考える.ま 日本三大名山の 1 つである白山の登山者 100 た,平均値が最も小さい項目は「家族内の不平か 人を対象とした.調査は,白山の登山口の 1 つ ら逃れる」であった.これは,登山をすることと, である別当出合登山口で行った. 家庭内のことは関連がないため,低い得点を示し 2) 調査方法 たのではないかと考える. 小林(1993)が作成した登山と動機に関する 登山に対するイメージについて,自由記述の結 アンケート 28 項目を参考に,筆者が作成した 果により,美しい風景,一人っきりになれる,仕 質問 27 項目の 5 段階評定を用いてアンケート 事とは全く関係ない空間などの記述が見られた. 調査を行った.また,登山に対するイメージに 5. 結論 ついて,自由記述にて回答を得た. 3. 結果の処理法 登山動機と個人属性について, 「心理」因子にお ける住まい地域では,西日本在住の登山者より, 登山動機 27 項目について,平均値(M)およ 東日本在住の登山者のほうが,心に安らぎを求め び標準偏差(SD)を求めた.また,登山動機に関 るという動機が高かった.また, 「教育」因子にお する質問紙 27 項目の因子を抽出するため,5 段階 ける年齢では,高年の登山者よりも若年の登山者 評定値をもとに最尤法を行った. のほうが,自分自身の価値を高めたいという動機 4. 結果と考察 が高かった.この結果から,登山動機と個人属性 最尤法により抽出された,心理,教育,体力, の関連について, 「教育」因子では,年齢との関連 社会の 4 因子を,登山動機と個人属性の関連を把 があるということが明らかになった. 握するために,性別,住まい地域,年齢で比較を 参考文献 行った.その結果,登山動機と個人属性について, 小林昭裕(1993)大雪山国立公園を事例とした登 「心理」 因子における住まい地域差をみたところ, 山者の満足度, 動機および回答者の特性の関連性. 東日本在住の登山者よりも,西日本在住の登山者 造園雑誌.56(5) ,175-180.
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