ジャンボ剤∼利用の現状と課題∼ 農薬製剤・施用

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植 物 防 疫 第 70 巻 第 10 号 (2016 年)
リレー連載
農薬製剤・施用技術の最新動向⑥
ジャンボ剤∼利用の現状と課題∼
三井化学アグロ株式会社
研究開発本部
大河内 武夫(おおこうち たけお)
したパック型のジャンボ剤(以後,水面浮遊拡展型ジャ
は じ め に
ンボ剤と呼ぶ)に関して,優れた水面浮遊拡展性を有す
農業就業人口の減少と農業従事者の高齢化にともない
る水面浮遊拡展型ジャンボ剤の製剤設計を紹介するとと
(今野,2004)
,高齢者や女性でも水田に直接入らずに畦
もにジャンボ剤開発研究の今後の動向について述べる。
から手軽に散布できればとの農家からの声が高まる中,
I 水面浮遊拡展型ジャンボ剤の製剤設計の
コンセプト
その社会的要望に応える形で,省力水田施用剤であるジ
ャンボ剤が初めて上市されたのは今から約 20 年前の
1994 年のことであった。この革新的省力水田施用剤で
図―1 に水面浮遊拡展型ジャンボ剤の製剤設計のコン
あるジャンボ剤の開発のきっかけになったのは,1990
セプトを模式的に示した。水面浮遊型ジャンボ剤は水田
年 9 月,
(公財)日本植物調節剤研究協会による「手投げ
に散布したときに, 水溶性フィルムが溶けて破袋した
用除草剤」
(その後ジャンボ剤と命名)の開発の発案(吉
後,粒剤は水面を速やかにかつ広範囲に拡展し,短時間
沢ら,1998)であり,これを契機に多くの農薬メーカー
のうちに田面水中に崩壊分散する といったコンセプト
から様々なジャンボ剤が開発研究される中で(小川ら,
で製剤設計されている。
植物防疫
1992;川端ら,1992;小浦ら,1993;小川ら,1993;川端
II 水面浮遊拡展性の評価試験系の確立
ら,1993;上田ら,1994;小浦ら,1994 a;1994 b;平瀬
ら,1994;竹下ら,1994)
,上市にたどり着いたのである。
ジャンボ剤には優れた水面浮遊拡展性を有する合理的
「ジャンボ \ JUMBO」は(公財)日本植物調節研究協
な製剤設計が重要であり,粒剤の水面浮遊拡展性を 1 次
会の登録商標(第 2702970 号)であり水田除草剤の投げ
スクリーニングする評価試験系(室内)を構築すること
込み剤の総称である。最初に登録取得したのは,モゲト
が必要不可欠となる。図―2 に水面浮遊拡展性評価試験
ン ジ ャ ン ボ®,ク サ ト リ ー®ジ ャ ン ボ お よ び ク サ ト リ
系を示した。
ー® L ジャンボである。クサトリー®ジャンボやクサトリ
粒剤
ー® L ジャンボは約 0.5 g 錠剤を 100 錠くらい水溶性の
拡展
フィルムに分包したものであったが,製造コストが高く
PVA フィルム
なるため,その後,1996 年に粒剤を水溶性フィルムに
分包したクサトリー® E ジャンボおよびクサトリー® E ジ
ャンボ L が上市された。ジャンボ剤の特徴としては散
崩壊・分散
田面水
土壌
布機が不要で,手で簡単に散布できることや,ドリフト
がなく,周辺作物に対しても安全であることが挙げられ
図− 1 水面拡展型ジャンボ剤の製剤設計のコンセプト
る。現在,ジャンボ剤には大きく分けて,塊型ジャンボ
と粒剤を水溶性フィルムで分包したパック型ジャンボの
4m
二つのタイプがある。塊型ジャンボについては上田・渡
トユ
部らが「農薬製剤ガイド」で紹介しているので参照され
たい(上田・渡部,1997)。ここでは,パック型のジャ
10 cm
ンボ剤,特に水面浮遊拡展粒剤を水溶性フィルムに分包
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粒剤の投入地点
図− 2 粒剤の水面浮遊拡展性評価試験系
14 cm