Document

社 会 科
育 成し たい「 思 考力」
社会 的事象 につい て, 事象が 内包す る事実 を既有 経験を 基に比 較・類 別し て特色 を捉えた り,
そ の特色 から問 いをつ くり, 時間的 ・空間 的・ 公的視 野の広 がりの 中で事 象相互 を関係 づけ ,そ
の意味や 価値を捉えたりし て,社会の全体像を 再構成する力
社会科では,現実社会を理解し,公民的資質の基礎を養うことをねらっている。よって,
授業を窓に社会の姿が分かる授業づくりが求められる。そのためには,一つ一つの社会的事
象の目に見える部分を知るだけでなく,事象の意味や価値という見えない部分を理解し,社
会の姿を総合的に判断し,子ども自身が社会への解釈を描き直す必要がある。この過程で働
くのが上記「思考力」である。
な お , 社 会 科 で は , 問 題 解 決 の 過 程 に 沿 っ て 「 思 考 力 」を 三 つ に 分 け て 述 べ る 。
( 1 )比 較・ 類 別し ,特 色 を捉 え る力
「 事 象 が内 包 す る 事 実 を 既有 経 験 を 基 に比 較 ・ 類 別 し ,特 色 を 捉 え る 」と は , 対象 とな る 事
象 が 何 で ,他 と ど こ が 同 じ で何 が 異 な る のか , と い っ た 事象 そ の も の を 捉え る こ とで ある 。 具
体 的 に は ,事 象 の 目 に 見 え る部 分 を 丹 念 に調 べ , 事 象 を 構成 す る 事 実 や 関連 す る 事実 を比 べ た
り , 事 実 を集 め て 仲 間 分 け した り す る こ とを 通 し て , 一 つの , 又 は 複 数 の事 象 の 特色 を明 ら か
に す る こ とを 指 す 。 そ の 際 には , 一 つ 一 つの 事 実 が 子 ど もの 経 験 と 結 び 付い た 状 態で 理解 さ れ
て い るこ とに 留 意す るこ と が必 要 であ る。 以 下に その 実 践例 を 示す 。
第 3学 年「 め ぐ っ て
見 えた
学 校 の ま わ り 」 の実 践 例よ り
【 本 単 元で 育 成し たい「 思 考 力 」】
住宅や店の広がり,公共施設の位置,道路の様子等を手がかりに,探検したコースを比
較・ 類別 す る力
追究対象である学校の周りの様子について,家,店,人,車のそれ
ぞれの様子を手がかりにして,学校の南ルートと西ルートを比べた。
それによって,子どもたちは広い道路の辺りにはお店や大きな車が多
い が , 狭い 道路 の 辺り には 家 や自 転車 で通 る 人が 多い と いう 差異 点 や ,
全体に家が多いという共通点を見いだしていった。このように学校の
周 りの 特色 を 捉え る際 に働 く のが 比較 し, 特 色を 捉え る 力で あ る。
そ の 後 , 捉 え た 地 域 ご と の 特 色 を 基 に , 上 記 の 視 点 を 手 が か り に し 【 共通点,差異点を探す】
て 地域 を仲 間 分け し, 市全 体 の特 色を 捉え た 。こ れが 類 別し , 特色 を捉 える 力 であ る。
( 2 )関 係づ け ,そ の意 味 や価 値 を捉 える 力
社 会 的 事象 に 特 色 が 現 れ るの は , 社 会 を構 成 す る 人 間 の営 み の 結 果 だ から で あ る。 そこ に は
必 ず 人々 の願 い に基 づく 工 夫や 努 力が あり , 動機 や改 善 策と な った 事象 が 存在 する 。
「 時 間 的・ 空 間 的 ・ 公 的 視野 の 広 が り の中 で 事 象 相 互 を関 係 づ け る 」 とは , そ の関 係す る 事
象 を 時 間 的 ・ 空 間 的 ・ 公 的 視 野 を 広 げ て , 事 象 の 相 互 関 係 を 「 目 的 と 手 段 」「 原 因 と 結 果 」 等
と 見 い だ して い く こ と で あ る。 社 会 的 事 象の 構 造 は 複 雑 であ り , 他 の 多 くの 事 象 とも 関係 し 合
っ て 成 り 立 っ て い る 。「 そ の 意 味 や 価 値 を 捉 え る 」 と は , こ う し た 事 象 の 機 能 , 成 因 , 影 響 等
を 明 らか にす る こと であ る 。以 下 にそ の実 践 例を 示す 。
○ 「 時間 的 」「空 間的 」な 視 野の 広 がり の中 に 存在 する さ まざ ま な事 象と 関 係づ ける
追 究 対 象で あ る 事 象 が 存 在し て い る 「 時」 か ら , 過 去 や現 在 , 未 来 へ と時 間 的 に視 野を 広 げ
て い く 中 に, ま た は そ の 事 象が 存 在 し て いる 「 位 置 」 か ら, 空 間 的 に 広 げて い く 中に 存在 す る
さ ま ざま な事 象 との 関係 を 考え る 。
第 5 学 年 「 こ れ から の 食 料 生 産 - 瀬 戸 内 鰆 の 資 源 管 理 - 」 の 実 践 例 よ り
【 本 単元 で育 成 した い「 思考 力 」】
激減した瀬戸内鰆の資源回復について,時間的・空間的・公的視野を広げ,どのような 取り
組みによって資源が回復してきたのかを予想し,資料から長期的展望に立った広域的 な協力体
制によって「みんなで育て,あとでとる」取り組みが,鰆資源を増やしたことを捉える。
瀬戸内鰆の激減という課題について,今すぐ解決することは難しく
と も ,未 来に おい て 解決 す るた めに 何 かで きる ので は ない かと 考え た 。
「鰆の漁獲量の推移」と「鰆を増やす取り組み年表」をつなぎ,鰆資
源が回復してきたこと(結果)と,鰆の稚魚を放流し,秋漁を自粛し
た こ と ( 原 因 ) と を 関 係 づ け た 。 こ れ が , 時 間 を 広 げ て 原 因 と 結 果 を 【 時間的視野を広げる 】
関 係づ ける 思 考で ある 。
また,香川県内の取り組みだけでは難しいが,広域の協力体制によって可能ではないか,
と 考 え た 。「 鰆 の 回 遊 範 囲 」 と 「 鰆 を 放 流 し て い る 所 」 の 地 図 資 料 を つ な ぎ , 鰆 資 源 が 回 復 し
て き た こ と ( 結 果 ) と , 県 の 取 り 組 み が 瀬 戸 内 海 沿 岸 11府 県 に 広 が り , 協 力 し て 鰆 の 稚 魚 を
放流してきたこと(原因)とを関係づけた。これが,空間を広げて事象どうしを関係づける
思考である。これらのようにして,子どもたちは瀬戸内海のサワラを増やすことができた
の は , 瀬 戸 内 海 沿 岸 の 11 府 県 が , 協 力 し て , 未 来 の た め に 今 を が ま ん し た か ら だ と 捉 え
て いっ た。
○ 「 公的 」 な視 野の 広 がり の 中に 存在 す るさ まざ ま な事 象 と関 係づ け る
追 究す る社 会 的事 象を ,「自 分 との か かわ り」 (私)と いう 立 場か ら ,「社 会全 体と の かか わ
り 」 (公 )とい う 立場 に視 野 を広 げ てい く中 で ,そ こに 存 在す る 事象 との 関 係を 考え る 。
第 5 学 年 「 私 た ち の 生 活 と 食 料 生 産 - 日 本 の主 食 , 米 の 秘 密 を 探 る - 」 の 実 践 例 よ り
【 本 単元 で育 成 した い「 思 考力 」】
我が国の農業について,調査,表現などを通して得た生産者の営みを比較・類別し,国
民生 活の 維 持向 上や 自然 環 境と 関係 づけ て ,そ の 特色 や意 味 を捉 える 力
水田で生き物を飼う理由を探るための複数の視点の中で,私から公へと立場を広げ,生産
者や消費者の立場に立って考える必要があると考えた。そこで栽培面積と出荷量に関する資
料を基に,農薬を使わない安全なお米を育ててきたこと(結果)を,消費者の安全,安心な
米がいいという思い(原因)等と関係づけた。その際働くのが,公的視野を広げて事象どう
し を 関 係 づ け る 思 考 で あ る 。 こ の よ う に し て 子 ど も た ち は ,「 生産者は,その土地の自然条件を
生かしながら費用をかけて農 業を行い,消費者は作物 を買うことによって,生産者を支えている。
つまり,価格と費用という経済的側面からも両者 は結ばれている」と捉えていった。
( 3 )社 会の 全 体像 を再 構 成す る 力
「社会の全体像を再構成する」とは,事象の意味や価値を,子どもが既習事項や生活経験
から得た断片的な情報を基に解釈していた社会の全体像の中に,教材からの学びや友達との
学び合いの中でその解釈を磨き合い,修正したり,より妥当性の高いものに組み替えたりし
て 描 き 直 す こ と で あ る 。 次 にそ の 実践 例 を示 す 。
第6学年「巨大金銅仏造営-国家プロジェクトを支えたもの-」の実践例より
【 本 単元 で育 成 した い「 思 考力 」】
巨大金銅仏造営を中心に調べ,時間的・空間的・公的視野を広げることで事象相互
を関係づけ,その影響や携わった人々の思いや願いを捉え,国家的事業に対する解釈
を再 構成 す る力
子 ど も た ち は , 大 仙 古 墳 造 営 か ら 巨 大 金 銅 仏 造 営 に 対 す る 自 分 な り の 解 釈 を も った 。「 大 仏
造 営 が 生 活 を よ く す る こ と に つ な が る か 。 民 は 望 ん で い た か 。」 と い う 問 い を 追 究 す る こ と で
自分の考えを組み立てる材料を増やし,現在とは大きく異なる奈良時代の現状や当時の人々
の思いや願いに迫り,聖武天皇が行った国家的事業に対する解釈もより妥当性のあるものに
近 づ け た 。「 権 力 を 誇 示 し 争 い を な く す た め 」 と い う 解 釈 を , 新 し く 捉 え た 「 仏 教 」「 世 の 中
の 乱 れ 」「 民 の 生 活 」 等 の 中 で 何 が 妥 当 か 判 断 し ,「 仏 教 の 力 で 世 の 中 の 乱 れ や 民 の 生 活 を 改
善 しよ うと し た」 と組 み立 て 直し た。 これ が 再構 成す る 思考 で ある 。