集中豪雨時における風化砂岩と風化泥岩の互層斜面への雨水の浸透

第 49 回地盤工学研究発表会
463
E - 07 (北九州) 2014 年 7 月
集中豪雨時における風化砂岩と風化泥岩の互層斜面への雨水の浸透挙動
斜面,浸透流解析,豪雨,互層
大阪大学大学院
学生会員
○臼木
陽平
大阪大学大学院
国際会員
小田
和広
大阪大学大学院
国際会員
小泉
圭吾
大阪大学大学院
学生会員
伊藤
真一
1.はじめに
近年,局所的な集中豪雨が多発し,それによる土砂災害も発生している.地球温暖化の影響から今後も集中豪雨が多
発することが予測される.2013 年 8 月に気象庁は降雨量を基準に発令される特別警報を制定した.特別警報は各地域の
50 年に 1 度とされる 3 時間降雨量,または 48 時間降雨量に基づき発令される.ここで,3 時間降雨量は短期的な集中豪
雨を想定している.集中豪雨を誘引とする斜面災害のメカニズム解明のためには,斜面内の雨水浸透挙動を明らかにす
る必要がある.一方,斜面災害の素因として斜面の地層構成が挙げられる.均一でなく多層で構成される斜面では,層
毎の浸透特性の違いによって斜面全体での雨水浸透挙動は大きな影響を受けるものと考えられる.本研究では,風化し
た砂岩と泥岩の互層を有するとある道路斜面について,集中豪雨時の雨水浸透挙動を数値解析によってシミュレートし,
その特徴を明らかにすることを目的としている.
2.HYDRUS1)の特徴
本研究では,数値解析ツールとして飽和不飽和浸透流解析コード HYDRUS を用いた.HYDRUS では,不飽和状態に
対しては,間隙水に対する連続式から導かれる Richards の方程式を解いている.また以下の van Genchten モデルによる
水分特性曲線と透水係数の式が適用されている.
Se  (  r ) /(s  r )  {1  ( m )n } m
(1)
k  k s  S e {1  (1  S e
(2)
l
S e:有効飽和度
, n:パラメータ
1/ m m 2
) }
 :体積含水率
 r :残留体積含水率
 s:飽和体積含水率
k :透水係数
k s:飽和透水係数
l
:パラメータ
 m :サクション
m  1 1 / n
なお
,
3.解析対象斜面概要およびその数値モデル化
凡
複数の亀裂が確認
図-1 は解析対象斜面を示している.解析対象斜面はとある高速道
例
センサノード
雨量計
路沿いの切土斜面である.斜面の後背地では複数の亀裂が確認され,
基地局
ボーリング調査
地下水水位計
斜面右下では過去に小規模な崩壊が発生している.この斜面では土
コーン貫入試験
質特性を把握するため,S-1 から S-10 の各点で簡易動的コーン貫入
S-1
№-1
S-2
S-3
試験が行われた.数値解析にあたっては,S-3 から S-6 の断面を対
S-4
S-5
象とし,それを二次元問題としてモデル化した.図-2 は当該斜面の
S-7
S-6
地層構成を示している.地層構成は斜面法肩で行われたボーリング
S-8
S-10
S-9
調査の結果に基づき決定された.斜面中腹が砂岩と泥岩の互層で形
S-8,9,10
ふとん籠の影響把握
成されていることが本斜面の大きな特徴である.簡易動的コーン貫
入試験における打撃回数から換算された換算 N 値が 10 となった深
過去に小規模な崩壊
度を風化表土と基盤の境界とした.図-3 は解析モデルを模式的に示
している.解析では風化表土のみを解析対象とした.中腹のコンク
リートで覆われた小段の部分を除き,斜面表層を降雨境界とし
図-1 解析対象斜面の特徴
表-1
た.加えて斜面法尻を排水境界,それ以外の小段の部分と風化
van Genchten モデルにおける材料パラメータ
土の種類
表土と基盤との境界は不透水境界とした.表-1 は解析に用いた
風化砂岩 0.054 0.48 0.407 3.43 1.51×
van Genchten モデルにおける材料パラメータを示している.また,
風化泥岩 0.091 0.47 0.0133 1.41 1.01×
初期体積含水率は現地計測によって得られた体積含水率を基に風
0.5
0.5
化砂岩は   0.15 ,風化泥岩層は   0.32 と決定した.
ところで,当該斜面の存在する地域において特別警報の基準となる 3 時間降雨量は 150mm2)である.これを基に,想
Infiltration behavior of rainwater into a slope composed of both
weathered sand layers and weathered mudstone layers cumulated
alternately in heavy rain
925
.
Y. Usuki, K. Oda, K. Koizumi, S. Ito, Graduate School of
Engineering, Osaka University
定する集中豪雨として 50(mm/h)の雨を 3 時間与えることとした.解析時間は降
砂岩層
雨 3 時間,降雨終了後の経時変化を観察するため降雨終了後 21 時間の計 24 時
S3
泥岩層
間に設定した.
風化表土
4.解析結果
S4
図-4 および図-5 は斜面が均一な風化砂岩で構成されていると仮定した場合に
おける,それぞれ降雨終了時および降雨終了後 21 時間経過時(解析終了時)の体
積含水率の分布を示している.降雨終了直後,雨水の浸透によって斜面内の体
積含水率は顕著に増加している.その後,雨水は斜面下部方向に浸透し,不透
S5
基盤
S6
水境界に沿って流下した後斜面法尻より排水されていることが分かる.図-6 は
図-2 地層構成
斜面が均一な風化泥岩で構成されていると仮定したときの解析終了時の体積含
水率の分布を示している.このケースでは雨水がほとんど浸透せず,表層のみ
1.0
降雨境界
体積含水率が増加している.すなわち,風化砂岩は透水性が高く,設定した降
S3
不透水
雨のようにその強度が非常に大きい場合でも雨水は概ね浸透し,斜面全体の体
積含水率が変動する.一方,風化泥岩は透水性が非常に低く,設定した降雨で
1.5
排水境界
S4
単位:m
1.54
はほとんどの雨水が斜面に浸透しないことが分かる.
図-7 および図-8 は実際の対象斜面におけるそれぞれ降雨終了時および降雨終
了後 21 時間経過時(解析終了時)の体積含水率の分布を示している.斜面上部の
厚い風化砂岩層における体積含水率が顕著に増加している.一方,降雨終了後
21 時間経過後では,斜面上部の厚い風化砂岩層の体積含水率は顕著に低下して
いる.そして,この層の下の風化泥岩層の体積含水率が増加している.つまり,
13.5
S5
S6
43.4°
18.39
図-3 解析モデル
斜面上部の厚い風化砂岩層より雨水が斜面に浸透し,この層の下の風化泥岩層において帯水したものと考えられる.ま
た,斜面が均一な風化泥岩で構成されていると仮定したケースに対する解析結果である図-6 に比べ,互層部分の風化泥
岩層の体積含水率は基盤付近まで高い値を示している.つまり,風化砂岩と風化泥岩の互層という地層構成では,風化
砂岩層から風化泥岩層に雨水が供給され,たとえ非常に強い集中豪雨でも,風化泥岩層にも雨水が浸透すると考えられ
る.よって,風化砂岩と風化泥岩の互層を有する斜面では集中豪雨時に互層部分が脆弱化し,降雨終了時には斜面崩壊
の危険性が高くなることが示唆される.また,斜面上部の厚い風化砂岩層のような集中豪雨でも多くの雨水が浸透する
地層が存在すると,その層から斜面内に水分が供給されることになり,降雨後崩壊の危険が高くなることが示唆される.
5.まとめ
本研究では,風化砂岩と風化泥岩の互層を有する斜面に対し,集中豪雨時における浸透流解析を行った.その結果,
風化砂岩と風化泥岩の互層のような地層構成では,風化砂岩層から雨水が浸透するため,短期間の集中豪雨でも互層内
の風化泥岩層の体積含水率が増加する可能性が高いことが分かった.すなわち,風化砂岩と風化泥岩の互層を有する斜
面は,潜在的に崩壊の危険性の高い斜面であることが示唆される.
参考文献
D. Rassam, Jiri Simunek, and M.Th. van Genuchten : HYDRUS-2D による土中の不飽和流れの計算, 2004.
1)
2) 気象庁,特別警報の発表基準について,2014 年現在,気象庁 HP :http://www.jma.go.jp/jma/index.html
降雨終了時
th[-]
th[-]
th[-]
0.479
0.442
0.406
0.369
0.333
0.296
0.259
0.223
0.186
0.150
0.113
0.077
0.479
0.442
0.406
0.369
0.333
0.296
0.259
0.223
0.186
0.150
0.113
0.077
0.479
0.442
0.406
0.369
0.333
0.296
0.259
0.223
0.186
0.150
0.113
0.077
Max : 0.479
Min : 0.077
Max : 0.479
Min : 0.077
Max : 0.479
Min : 0.077
図-4 体積含水率の分布図
(均一な風化砂岩)
降雨終了時
Z
X
解析終了時
解析終了時
図-5 体積含水率の分布図
図-6 体積含水率の分布図
(均一な風化砂岩)
(均一な風化泥岩)
解析終了時
th[-]
th[-]
0.479
0.442
0.406
0.369
0.333
0.296
0.259
0.223
0.186
0.150
0.113
0.077
0.479
0.442
0.406
0.369
0.333
0.296
0.259
0.223
0.186
0.150
0.113
0.077
Max : 0.479
Min : 0.077
Max : 0.479
Min : 0.077
図-7 体積含水率の分布図(実斜面)
図-8 体積含水率の分布図(実斜面)
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