ジョルダン標準形, 広義固有空間分解

2W 数学演習 V・VI
担当教員 : 浜中 真志 研究室 : A327
標準 H010-1
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ジョルダン標準形, 広義固有空間分解
作成日 : January 25, 2012
Updated : January 27, 2012 Version : 1.0
実施日 : January 27, 2012
べき零行列のジョルダン標準形続編 (目覚ましバージョン)
H006(11/22 実施問題) では最小多項式が ψA (x) = xn であるような n 次正方行列 A を
扱った. ここでは, 最小多項式が ψA (x) = xk , (1 ≤ k < n) であるような n 次正方行列に
ついて考えよう. (「最小多項式が xk である」という条件は「Ak−1 ̸= O かつ Ak = O」と
いう条件と同値である.)
問題 1. 以下の 4 × 4 べき零行列 Ai (i = 1, 2, 3, 4) について以下の問いに答えよ. 固有多項
式はすべて ϕAi (x) = x4 である.






0 1 0 0
0 0 0 0
0 0 0 0
 0 0 1 0 
 0 0 1 0 
 0 0 0 0 






A4 = 
 , A3 = 
 , A2 = 
 , A1 = O.
 0 0 0 1 
 0 0 0 1 
 0 0 0 1 
0 0 0 0
0 0 0 0
0 0 0 0
(1) Ai の最小多項式 ψAi (x) を求めよ.
(2) 最小多項式が ψA (x) = xk であるようなべき零行列 A に対して, Ak−1 w
⃗ が零ベクトル
k−1
にならないような縦ベクトル w
⃗ が存在する. このとき A w
⃗ は固有値ゼロの固有ベク
トルとなるが, これとは別の一次独立な n−k 個の固有ベクトル ⃗vi (i = 1, 2, · · · , n−k)
が存在して, ⃗v1 , · · · , ⃗vn−k , Ak−1 w,
⃗ · · · , Aw,
⃗ w
⃗ を一次独立にとることができる. この
事実を上記の 4 行列について確かめよ.
(3) 上記の事実を認めると, 最小多項式が ψA (x) = xk であるようなべき零行列 A に対
して, P = (⃗v1 , · · · , ⃗vn−k , Ak−1 w,
⃗ · · · , Aw,
⃗ w)
⃗ とおくと, (Om を m 次の零行列として)


O
On−k

0 1
O 




...
−1


P AP = 
0



.
.
 O
. 1 
O
0
が成り立つことを示せ. 右辺の行列をべき零行列 A のジョルダン標準形と呼ぶ.
(4) n 次正方行列 A の最小多項式が ψA (x) = (x − a)k であるとする. このとき次式を
満たすような n 次の正則行列 P が存在することを示せ. 右辺の行列を A のジョル
ダン標準形と呼ぶ. (ヒント:B = A − aEn とおく. En は n 次の単位行列. )


aEn−k
O

a 1
O 




.
−1
.

.
P AP = 
a




.
.
 O
. 1 
O
a
標準 H0-2W11-10 難易度 : C
名古屋大学・理学部・数理学科
2W 数学演習 V・VI
標準 H010-2
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直和
問題 2. 実線形空間 V の部分集合 W が線形部分空間であることの定義を書け.
定義 1. K を R または C とする. K 上の線形空間 V の線形部分空間 W, H につ
いてその和 W + H を次で定義する.
W + H = {w
⃗ + ⃗h ∈ V | w
⃗ ∈ W, ⃗h ∈ H}.
W + H は再び V の線形部分空間となる. 更に, 次の条件を満たすとき, この和を直
和とよび, W ⊕ H と表す:
W ∩ H = {⃗0}.
以下, K 上の線形空間を単に線形空間, 線形部分空間を単に部分空間とよぶ.
Caution! W + H と和集合 W ∪ H を混同してはいけない.
R2 の標準基底を ⃗e1 , ⃗e2 とし, ⃗ei で生成される部分空間を R ⃗ei で表すと, R2 = R ⃗e1 ⊕ R ⃗e2
である.
問題 3. {f⃗1 , f⃗2 } を R2 の基底とする. このとき, R2 = R f⃗1 ⊕ R f⃗2 であることを, 次の 2 つ
のことをチェックすることにより示せ.
(1) R2 は f⃗1 , f⃗2 で張られている, すなわち, R2 = R f⃗1 + R f⃗2 .
(2) 上の和は直和である, すなわち, R f⃗1 ∩ R f⃗2 = {⃗0}.
問題 4. 線形空間 V が V = W ⊕ H のように部分空間の直和で表せるとし, V の部分空間
L が W ∩ L = {⃗0} を満たしていたとする. このとき L ⊂ H は常に成り立つか? 必ずし
も成り立たないのであれば反例を挙げよ.
問題 5. 行列 A が異なる固有値 λ1 , λ2 を持ったとする. W1 , W2 ⊂ K n をそれぞれ固有値
λ1 , λ2 に対する固有空間とする. このとき, 和 W1 + W2 は直和であることを示せ.
3 つ以上の部分空間に対して直和の概念を定義するために, まず次の問題を考えよう.
問題 6. 線形空間 V の 2 つの部分空間 W , H に対し, 次の 3 つの条件が互いに同値である
ことを示せ.
(1) W ∩ H = {⃗0} である, つまり W + H は直和である.
(2) 任意の W + H の元 ⃗x に対して, ⃗x = w
⃗ + ⃗h (w
⃗ ∈ W, ⃗h ∈ H) という表し方が 一通
りだけである.
(3) w
⃗ ∈ W, ⃗h ∈ H に対して, w
⃗ + ⃗h = ⃗0 ならば w
⃗ = ⃗0 かつ ⃗h = ⃗0 である.
標準 H0-2W11-10 難易度 : C
名古屋大学・理学部・数理学科
2W 数学演習 V・VI
標準 H010-3
担当教員 : 浜中 真志 研究室 : A327
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定義 2. K 上の線形空間 V の K 線形部分空間 Vi の和 V1 + · · · + Vr が次の同値な
条件のいずれかを満たすとき, この和を直和とよび, V1 ⊕ · · · ⊕ Vr と記す.
(1) 任意の V1 + · · · + Vr のベクトル ⃗x に対して ⃗x = ⃗v1 + ⃗v2 + · · · + ⃗vr (⃗vi ∈ Vi , i =
1, . . . , r) という表し方が一通りだけである.
(2) ⃗vi ∈ Vi (i = 1, . . . , r) に対して, ⃗v1 +⃗v2 +· · ·+⃗vr = ⃗0 ならば ⃗vi = ⃗0 (i = 1, . . . , r)
である.
問題 7. V を K 上の n 次元線形空間とするとき, 次の 2 つの条件は同値であることを示せ:
(1) f⃗1 , · · · , f⃗n ∈ V は V の基底をなす.
(2) V = K f⃗1 ⊕ · · · ⊕ K f⃗n
直和分解と対角化
以下, 線形空間は C 上とし, 行列はすべて複素行列とする.
問題 8. ちょうど 2 つの異なる固有値 λ1 , λ2 のみをもつ n 次正方行列 A を考える. λ1 , λ2
に対応する固有空間をそれぞれ W1 , W2 ⊂ Cn とする. 問題 5 より和 W1 + W2 は直和で
ある. W1 ⊕ W2 = Cn のとき行列 A は対角化可能であることを示せ.
n 次正方行列が対角化可能であることと, n 個の一次独立な固有ベクトルを持つことは同
値であるが, これを言いかえると次のようになる:
定理 1. n 次複素正方行列 A の固有値 λ の固有空間を
W (λ) = {⃗x ∈ Cn | A ⃗x = λ ⃗x}
とおく. λ1 , . . . , λr を互いに異なる A のすべての固有値とするとき,
A が対角化可能 ⇔ Cn = W (λ1 ) ⊕ · · · ⊕ W (λr ).
対角化可能ではない行列に対してはこのような Cn の固有空間分解は得られない. しかし,
固有空間の概念を拡張した広義固有空間の概念を導入すると同様な分解が得られる.
広義固有空間分解
定理 2. n 次正方行列 A の固有値 λ の広義固有空間を
f (λ) = {⃗x ∈ Cn | ∃ℓ > 0, (A − λ E)ℓ⃗x = ⃗0}
W
とおく. λ1 , . . . , λr を互いに異なる A のすべての固有値とするとき, 常に
f(λ1 ) ⊕ · · · ⊕ W
f (λr )
Cn = W
が成り立つ. これを n 次正方行列 A に関する Cn の広義固有空間分解と呼ぶ.
標準 H0-2W11-10 難易度 : C
名古屋大学・理学部・数理学科
2W 数学演習 V・VI
標準 H010-4
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この定理の証明には多項式論が使われる. 詳細については講義や教科書を参照して欲しい.
(問題 12 以降はその理解の補助となる整数論の問題である.) 次の問題を解くと, 大体の様
子がわかるであろう.
問題 9. 次の 3 × 3 行列 A について以下の問いに答えよ:


1 0
0


A =  −3 1 −3 
3 0
4
(1) A の固有多項式を求めよ.
(2) 多項式 (x − 1)2 と x − 4 に対して, 恒等式
p(x) (x − 1)2 + q(x) (x − 4) = 1
を満たす多項式 p(x), q(x) を求めよ.
(3) 行列 A を各多項式に代入して A1 = p(A) (A − E)2 , A2 = q(A) (A − 4E) とおくと,
A1 + A2 = E,
A 1 A2 = O
が成り立つことを示せ.
(4) W1 = A1 (C3 ) ⊂ C3 , W2 = A2 (C3 ) ⊂ C3 とおくと
C3 = W1 ⊕ W2 .
f(4), W2 = W
f(1) である. 解答の【注】参照.)
が成り立つことを示せ. (実は W1 = W
f(λ1 ) ⊕ · · · ⊕ W
f(λr ) に対して
問題 10. n 次正方行列 A の広義固有空間分解 Cn = W
f (λi )) ⊂ W
f(λi ) が成り立つこと, すなわち, 各固有値の広義固有空間は A 不変な部分
A(W
空間であることを示せ.
次の問題は広義固有空間分解が基底変換による行列の簡略化 (=ジョルダン標準形の理論)
において重要であること示唆している:
問題 11. A を n 次正方行列とする. Cn が部分空間 W1 , W2 によって Cn = W1 ⊕ W2 と
表されて, かつ
A(W1 ) ⊂ W1 ,
A(W2 ) ⊂ W2
が成り立っているとする. {⃗e1 , . . . , ⃗es } を W1 の基底, {f⃗1 , . . . , f⃗t } を W2 の基底とし (こ
のとき, s + t = n かつ {⃗e1 , . . . , ⃗es , f⃗1 , . . . , f⃗t } は Cn の基底である), n 次正則行列 P を
P = (⃗e1 , . . . , ⃗es , f⃗1 , . . . , f⃗t ) で定めると, P −1 AP は
(
)
B O
O C
の形になることを示せ.
標準 H0-2W11-10 難易度 : C
名古屋大学・理学部・数理学科
2W 数学演習 V・VI
標準 H010-5
担当教員 : 浜中 真志 研究室 : A327
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以下は整数論に関する自習用問題です (宿題ではありません!)
法と合同
定義 3. 整数 a, b を整数 n で割った余りが等しいとき, a, b は n を法として合同で
あると言い,
a ≡ b (mod n)
と書く.
a ≡ b (mod n) であることと, ある整数 k が存在して, a − b = kn が成り立つことは同値
である.
例 1 100 ≡ 1 (mod 3), 2 ≡ −1 (mod 3)
問題 12. 91000000 を 7 で割った余りを求めよ.
問題 13. a ≡ a′ (mod n), b ≡ b′ (mod n) ならば, a + b ≡ a′ + b′ (mod n), ab ≡ a′ b′
(mod n) であることを示せ.
問題 14. 自然数 n が 3 の倍数であるための必要十分条件は n の 10 進数表示の各桁
の和が 3 の倍数であることである. これを証明せよ. (ヒント:n の 10 進数表示 n =
a0 + a1 10 + a2 102 + · · · + ar 10r を考えてみよ.)
ユークリッドの互除法
整数 a, b の最大公約数を (a, b) と書くことにする.
問題 15. 二つの自然数 a, b に対してその最小公倍数を m とおく. すると m (a, b) = ab が
成り立つことを示せ.
定義 4. a と b の最大公約数が 1 であるとき, つまり (a, b) = 1 であるとき, a と b
は互いに素であるという.
定理 3. (a, b) = 1 であることは, 次の条件と同値である:
∃x, ∃y ∈ Z,
定理 4. (ユークリッドの互除法)
の最大公約数に等しい.
標準 H0-2W11-10 難易度 : C
ax + by = 1.
a, b の最大公約数は a = q b + r とするとき b, r
名古屋大学・理学部・数理学科
2W 数学演習 V・VI
標準 H010-6
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この定理を繰り返し使うと, 大きな数 a, b の最大公約数を, 割り算を実行することで求め
ることができる.
問題 16. 38254 と 17577 の最大公約数を求めよ.
また, ユークリッドの互除法を繰り返し使うことにより, 次の様なパズルを解くこともで
きる.
パズル 38254g と 17577g の重りがたくさんある. 天秤にこれらを適当にのせて 31g を
計れるようにするには重りをどちらに何個のせたらよいか?
より一般化して, 次の問いに答えることができる.
問 整数 a, b, c に対して ax + by = c となる整数 x, y が存在するかどうか判定し, 存在す
る場合はそれらを求めよ.
問題 17. 上のパズルを解け. (ヒント:ユークリッドの互除法の過程を逆に辿ってみよ.)
Z の商集合
定義 5. n を自然数とする. 整数 m に対し, Z の部分集合 m を
m = {a ∈ Z | a ≡ m
(mod n)}
で定義する. 例えば, 1 = n + 1, 2 = n + 2 である. Z の部分集合 m (m ∈ Z) を重複
なく, しかもすべて集めた集合を Z/nZ と表記する. 則ち,
Z/nZ = {0̄, 1̄, 2̄, . . . , n − 1}.
Z/nZ のことを, Z の n を法とする商集合という.
Z から Z/nZ へは自然な射影 π がある:
π : Z → Z/nZ ; m 7→ m.
このとき
π −1 (π(m)) = {x ∈ Z | a ≡ m
(mod n)} = m
が成り立つ.
問題 18. Z/nZ において次が成り立つことを示せ.
a ≡ a′
(mod n),
b ≡ b′
(mod n)
⇒ a + b = a′ + b′ ,
a ≡ a′
(mod n),
b ≡ b′
(mod n)
⇒ a b = a′ b′ .
標準 H0-2W11-10 難易度 : C
名古屋大学・理学部・数理学科
2W 数学演習 V・VI
標準 H010-7
担当教員 : 浜中 真志 研究室 : A327
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Z の足し算, かけ算を使って商集合 Z/nZ にも足し算, かけ算を次で定義する:
a + b := a + b,
a b := a b.
ここで問題になるのは a = a′ , b = b′ であるときに a + b = a′ + b′ や a b = a′ b′ が成り立
つかということであるが, 問題 17 よりこれらは正しい, つまり, 上で与えた足し算, かけ
算の定義は論理的整合性を持つ (well-defined であるともいう. 引き算も可能であることを
確かめてみよ). 一般に足し算, 引き算, かけ算のできる集合を環という. Z も Z/nZ も環
である. 次に Z/nZ において割り算が定義できるかどうか考える.
定義 6. R を足し算, 引き算, かけ算のできるような集合とする. 数 a ∈ R に対して,
a b = b a = 1.
(ただし, 1 はかけ算についての単位元を表す.) が成り立つような b ∈ R を, a の逆
元といい, a−1 で表す.
問題 19. 次の各問いに答えよ.
(1) 3 ∈ Z/7Z の逆元は存在するか? あれば求めよ.
(2) 4 ∈ Z/6Z の逆元は存在するか? あれば求めよ.
(3) m ∈ Z/nZ の逆元が存在するための m, n の条件を求めよ.
この問題の (3) より, 素数 p を法とする商集合 Z/pZ は四則演算をもった数の集合 (これ
を体という) であることがわかる.
標準 H0-2W11-10 難易度 : C
名古屋大学・理学部・数理学科