中国山西省・磧口鎮を訪ねて −古村・古鎮保存再生の国際会議に出席

中国山西省・磧口鎮を訪ねて
−古村・古鎮保存再生の国際会議に出席
大
西
(建築科
國太郎
昭和25年卒)
僻地で開かれた国際会議
一昨年の秋、中国の都市計画学会と山西省の
招へいを受け、古村・古鎮(歴史的な村と町)保
存再生の国際会議に出席してきました。
開催地は山西省臨県の磧口(チィコウ)という
町で、省都・太原市から車で五時間半もかかる
という僻地です。中国全土の大学や中央・地方
政府の専門家が約 100 名、報道関係者が約 30
名も集まるという大規模な会議でした。海外か
らは日本人の私とフランス人の中国建築の専門
家・フレデリック・エデルマン氏が出席し、特
別講演をしました。
会議が開かれた磧口鎮は、黄河のほとりにあ
り、かつては港を持ち、明・清から中華民国時
代にかけて繁栄したところです。ユネスコの危
機遺産に指定されています。中心の町には、伝
統的な商家や四合院住宅(中庭式住居)が残り、
優美な寺院やかつての宿駅、票号(銀行)、倉庫、
埠頭跡などが当時の繁栄を偲ばせてくれます。
この周辺の黄土高原には、伝統的な集落が数
ヶ所残り、一帯に広がる農地と黄河沿いの雄大
な景観がパノラマのように展開しています。磧
口の価値は、このような町と村、自然、さらに
伝統的な生活様式や芸能が自然な姿で残されて
いるところにあります。
山腹に素朴な窰洞住居
農村部は町への食料供給の地として一体的に
発展してきたのです。李家山
(リィジィァシャ
ン)のほか 3 ヶ所の古村を視察しましたが、そ
の多くは黄土高原の山腹に横穴を空けて住居と
した窰洞(ヤオトン)の集落でした。
地中にあるため、冬は暖かく、夏は涼しいと
いいます。高さが 30 から 40 メートルもある谷
を囲んで、6 段から 8 段くらいのひな壇状に窰
洞住宅が並んで、壮観でした。こうした窰洞に
住む人たちは中国全土で 1 億 1 千万人にのぼり、
総人口の 9 パーセントにも達するといいます。
視察した窰洞集落には電気は通っていました
たが、家電製品は一つもなく、昔ながらの暮ら
しぶりです。農業を営み、山羊や鶏を飼うとい
う自給自足の生活です。住民の人たちの素朴さ
には感銘を受けました。
都市部との格差是正−保存再生が鍵
磧口からの帰路、北京に立ち寄り、教え子の
自宅に招かれました。オートロックのしゃれた
分譲マンションの高層階に、100 平方メートル
の住戸を持ち、小学生の娘さんにはバレエやピ
アノを習わせています。彼は大学教授で建築設
計事務所を主宰、経済的に恵まれています。
中国の大都市部では、富裕層のための高層、
超高層の分譲住宅が、建設ラッシュを迎えてい
ます。国際会議で訪れた磧口と、北京などの都
市部と比べると、生活の格差があまりにも大き
く、複雑な気持ちになりました。
今、中国では農村部と都市部の格差を是正す
るため、中央政府の大号令で西部開発が 10 年
ほど前から始まっています。山西省でも、省都・
太原市を中心に放射線状に高速道路が建設され
ています。磧口から車で約 2 時間の距離にある
呂梁市まで、高速道路が最近開通しました。
山西省は、磧口へのアプローチ道路や各種の
インフラを整備し、古村・古鎮を保存再生し、
その観光収入によって生活レベルの向上を図ろ
うとしています。観光目的の乱開発を防止し、
いかに町や村全体の生活レベルの向上を図り得
るかが成功の鍵です。磧口鎮の保存再生の成功
を祈るものです。
中国山西省臨県・磧口鎮に残る
窰洞(ヤオトン)の集落
会
誌
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