大学の地域実践型教育に関する一考察

大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小JI()
大学の地域実践型教育に関する一考察
一地域再生と地方大学の社会的役割一
小 川 尚 紀*
はじめに
本文は大きく 4つの章から 成 り立っ ている。
m峻の勝差と地方大学
I
まず Iでは‘社会流出とともに人口減少が進む
l.流出過多の岐阜県人口
岐阜県を事例として地域と課題と地方大学の課
一通勤 ・通学の状況から
題について触れていく。そのうえで Eでは、地
2
. 続出過多の岐阜.県人口
一転出 ・転入の状況から
域の課題に対して大学が果たすべき役割につい
3
. 人口の社会的流出による課題
て考察する。 Eでは、とりわけ経済学分野の専
4.若者の減少と大学間競争の激化
門性を地域の課題解決にどのように生かすこと
u 大学の地域貢献 ・地域迎燐
I
. 闘による地域と大学を結びつける政策
ができるのかと いう問題を取りあげる。これを
2.地峻実践型教育の課題
発展させ‘ Wでは、地域安舞台とした地方大学
一総務学分野の専門性展開の視点から
是正済学分野の専門性反則の可能性
による地域実践型教育の試みを事例として取り
1.j
也峻経済の不均等発展の観点から
あげる。以上を踏まえて、地域と大学との関わ
m
2.人材育成としての大学の社会的役割
3
. 経験的学習と専門的学習
I
V t
也減実践型教育への取り組み
りを考察していく。
I 地織の格差と地方大学
一総本大学の事例から
1
.t
色峻ブくりコーディネーター養成湯肢の概要
2.t
お4J
U
lの益成講座を事例として
3.1
皇成講座への参与観察
地方の人口減少という問題に対して、センセー
ショナルな影響を及ぽしたものとして、日本創
4.事例から学ぶべき点
4年 5月に発表し た fス トップ少子
生会議が201
おわりに
化 ・地方元気戦略J(いわゆる地田レポート)に
おける 「
消滅可能性都市j がある。 これは東京を
はじめに
はじめとする大都市への人口集中の影響によっ
年までに多くの自治体が 「
消滅可能性J
て
、 2040
人口減少が進むと予測されている地方に守地
にあるとするものであるa これ者昼 間避するため
する大学は、どのような社会的な意義を果たし
には、地方で人口流出を食い止めるための 「
ダ
ていく べきであろうか。加えて、大学の地域貢
ム機能j を作り、 『若者にとって魅力のある地方
献や地域連携を進める場合に、文系の大学や学
中核都市」づくりを f選択と集中Jの方法でもっ
部、とりわけ経済学はその専門性をどのように
て推し進めていかなければならないとする内容
発揮できるだろうか。またその際、大学の地域
である∼ただしこれに対しては、さらなる『選
貢献 ・地域連携なりをどのような経済学的枠組
択と集中Jが地方都市の衰退を加速させていく
みであ って考察すればよ いのがろうか肉そして
、
として、一定の批判が加えられている九
本稿では僧田レポートの内容を詳細に検討す
人材育成という観点から、地域を舞台としてど
のような取り組みが実践されているのだろうか。
る余裕はないが、地方の人口減少や地域格差の
本稿は、こうした問題意識から地域と大学との
問題認識を出発点として、大学の地域貢献 ・地
関わりについて考察するものである。
域連携を考える足掛かりとしていきたい。そと
本
岐阜経済入学非常勤講師.まちなか共同研究室コーディネーター
-43一
地
竣 経
t
斉
第3
4号 2015
.
3
で.本軍では.地方の人口減少の現状と若年人
上記では県外 I
.:::流出している人口のみを見て
口の続出が地方大学に及ぼす影響を、岐阜県の
きたが、地域の人口移動を見るためには涜入す
データを用いて考察する。
る人口を併せて考えなければならない。岐阜県
の流出人口(岐阜県から他県への通勤 ・通学者)
1.流出過多の岐阜県人口
2万7,367
人であり、流入人口(他県ー
から岐阜
は1
県への通勤 ・通学者)が 4万4
,140
人である。つ
一通勤・通学の状況から
本節では、岐阜県の人口が涜出している構造
まり涜出人口が涜入人口を約 8万人上回ってお
を 『
平成22年国勢調査J のデータから見ていき
り.流出過多の状況にあることが分かる。 これ
を昼夜間人口比率(夜間人口 100人当たりの昼
たい。
まず、総人口に占める従業地 ・通学地別の割
4%、 『
他市区
合であるが、『自市区町村j が40.
0であり 、全国でも第42
位
間人口)で示すと 96.
という位置にある九
8%、 f
従業も通学もしていないj が
町村j が22.
36.
8%となっている。また「他市区l
町村J のう
2. 流出過多の岐阜県人口
ち、岐阜県外が占める割合は岐阜県人口の6.
5
一転出・転入の状況から
%である《すなわち県人口の6.
5%が他県で従
前節では通勤 ・通学という視点であったが、
では 『
居住地J という点ではどうだろうか。岐
業 ・通学しているととになる。
では、他県に通勤する人々は、どの地域へど
阜県においては、人口の自然減よりも一定の社
の程度の割合で通っているのだろうか。就業者
会減が進んでいる。外国人人口の流入があるが、
人口の動向からその現状を見ていく。 『
岐阜県か
日本人がそれを上回る年間約 4千人規模の流出
0
万8,870人であ
ら他県へ通勤している人J は 1
超過となっている。地価や住宅価格の差から愛
り、そのうち愛知県が 1
0力 1
,
527人となってい
知県から岐阜県に移転する人も見られたが、愛
3%待出めて
る内これは、他県への通勤者の93.
知県愛の地価が下落するなか、愛知県外へ転出
いる。なお、次が三重県 であり、 3.582人(3.
3
する傾向が強くなっている。
a
転出者の傾向として、若者が多いという点が
%)である。すなわち他県に通勤している大多
数の人は愛知県で労働していることになる。
大きな特徴である。図表 1は、国勢調査の2005
図表 1 2
0
0
5
年時.
'
2
.と2
01
0
年時.
'
2
.
の比較による県外転出数
(単位:人)
5αE
日
4虫X
l
40α3
3日)()
3αm
2日氾
α
z)()
1500
1
α)
(
)
500
日
軍
軍軍
基
重量唾軍基軍基礎援軍基礎軍基軍基礎軍基礎嘩軍基軍
基軍基礎袋軍基礎事基礎軍基軍基理
基礎事基礎 紙 袋署基礎誕援軍基礎 寝 袋署革 !
ll
走
0歳 2歳 4歳 6歳 8歳 10歳 12歳 :
"
;5
宣告
ロ
:
!
; ::::忽 2 ロs
;36歳 38歳 40歳 42歳 44歳 46歳 48歳 50歳 52歳 54歳 56歳 58歳 60歳 62歳 64歳 66歳 68歳 70歳 72歳 74歳 76歳 78歳 g :
;
;
:;
!
: 持
s
出所 :「
平成2
2
年国勢制査』{る年前の常住都道府県による現住地}
*5歳未満については
、 出生後にふだん住んでいた場所による
-44一
大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J
I
(
)
年時点と 2010
年時点の比較による県外転出数を .
なわち消費地や勤務地の関係でも県外流出は免
年齢別でグラフに表したものである。これを見
れないだろう。
8
歳を境目に転出者数が大きくなっている
ると 1
3. 人口の社会的流出による課題
歳代前半から 30
歳代
ことが見てとれる。また20
歳から 39
歳まで
が転出者の多い。具体的には20
これまで見てきたように、岐阜県外へ通勤し
で全体の6
1
.2% を占めている九 そして、その
たり、転出する人が多いわけだが、その要因と
後の年代は緩やかに少なくなっていることが分
して挙げられるのは 「
仕事 ・雇用Jの問題であ
かる。
る。すなわち.仕事を求めて県外へ転出する人
1
8
歳から大きく転出者が矯える理由は、大学
が多い。岐阜県の将来構想研究会が2
008
年に ま
等への進学による県外転出のためである。岐阜
とめた 「
岐阜県が直面する課題∼長期構想策定
県の高校生は、そもそも高校を卒業する時点で
に向けて検討すべき論点∼」でも、「仕事を求め
県外の大学等に進学する割合が高い。図表 2は
若
て若者が他県に流出Jする問題を取り上げ、 「
岐阜県内高校生の大学等進学率と県外大学等進
者の望む職場をつ くり出すことが課題Jである
学率の推移を示し たものである。こ れを見ると
としている。
大学等進学率は年々 k昇傾向にあるのに対して、
加えて‘男女別に見た場合、男件よりも女件
県外大学等進学率は70%台で推移しているとと
が転出する傾向が強い。とれは結婚等の理由に
が分かる。県外進学率の逆は県内進学率である
よって県外に住まいを移すということから現れ
が、岐阜県の高校生が岐阜県の大学等に進学す
ている。 了育て世代が少な くなれば地域の人口
る割合は約 2
1
i
!
Jしかない。
の再生産構造の偏りが大きくなり、 より若い人
なお、 この際、東京都などのより大きな都市
が少ない地域となっていく ことが考えられる。
の大学等に出て行ってしまっ場合もあるだろつ
そのためにも岐阜県では 「
若者の漏出に歯止め
が、陵阜県内に住みながら愛知県内の大学等に
表かけていくことが諜題Jであると考えられて
通学する大学生も一定数いるものと考えられる。
いる。
県外の大学に進学することで、消費において
図表 3はライフステージにおける若者の県外
も県外で買い物をする傾向が強くなると予想さ
流出の構造 を考家したものである。 これまでに
れる。 また大学を卒業した後もそのまま県外の
も述べたように県外の大学等 t
:進学した場合は
企業に就職する可能性が高いと考えられる。す
県外就職に至る可能性が高いと考えられるし 、
図表 2 貴
重
阜県内高校生の大字進??率と県外大ヤ進字率の推移
(
単位:%)
90
70
竺三日 5556
60
E《
54SSSS
S2
時 454647474746特 −
s
o
3
9404143
40
で三三:s333433323332323百 戸 3535343S37
3134
z
q
3
0
+ 県外大学等進学率
?
の
+ 大学等進学率
1
0
。
71727374757677787980818283848586878889909192939495969798990001020304OS060708091
01
112131
4
出所 :岐阜県 『
学校基本調査j 201
4年
本『
以外大学進学者数(弔}』 はWIl
年からデータなし(2010
年に高l
査事業終 fのため)
-45一
地域経済
図表3
ライフステ ジ仁おける若者の県外流出の権造
第 34号 2015.3
4. 若者の減少と大学問競争の激化
上記のような若者が流出する構造は、地域に
高 校卒 業 者
とって重要な課題であると同時に岐阜県内の大
1
8
,
2
0
7
人(
100
)
学等の教育機関にとっても重要な課題であると
大学等進学
いえる。なぜならば、少子化の影響で、若年層
10,291人(57)
県外文字等進学
県内大学等違苧
王国,人( 4
2
)
2,634人(14)
人口が減少し、全体の入学者数が減少するなか
で、愛知県の大学等と入学者確保のための大学
問競争が激化する可能性が高いからである。そ
の際、いかに岐阜県内の高校生の進学者を確保
していくのかという点は重要な経営課題でもあ
る
。
出所 ;岐阜県 「
学佼基本舗資J2
01
0年データを参考に筆者作成
0
1
0
年の高校卒業者数を 1
0
0とした均合の数
*指低 内数字は2
(端数は凶抱五入している}
他方で、大学問競争のひとつの流れとして、
大学の都心回帰が進んでいる点が挙げられる。
例えば愛知県内では、愛知大学がみよし市から
県内の大学等に進学した場合でも県内企業に就
名宵犀駅のささし支キャンパスへ、名峨大学が
職するとは限らない。また、県内企業に就職し
名古屋市天白区へ、名古屋学院大学が瀬戸市か
たとしても転職や転勤、結婚などによって県外
ら名古屋市熱田区へと移転している。大学が都
に流出していくことが考えられる。
心にキャンパスを置くことで、学生へのメリッ
0
歳代を中心に、職業上の理由、
すなわち、 2
ト(遊ぶ場所、アルバイト先の確保、就職活動
あるいは結婚のために、年間約 4千人規模で流
出していると いうのは、高校生の県外進学卒か
へのアクセス、通学の利便性、他大学との交流
など)が高ま り入学者数を健保しやすくなる。
ら始支って各ライフステージにおける段階で牛
ぞのため愛知県内の大学も都心部(名宵尾市)
じて いる現象であると捉えることができる。
へのキャンパス移転を進めている。名古屋市へ
では、若者が流出していくことでどのような
は岐阜県からも通勤 ・通学園であるために、愛
波及的課題が生じる可能性があるのだろうか。
知県への大学等の進学者の割合は今後 も噌え る
ひとつには労働力人口が減少していくことで、
可能性がある。
労働力不足が深刻化するおそれがあるとされて
とれらのことを地成の側から見た場合は、学
いる。すなわち労働力人 Uが減少するこ とで、
生が通いたくなるよう魅力的なまちをつくって
県民所得が減少し、県内における消貨量も誠り、
いくことが地域づくりの戦略としても重要件接
地峻内のサービス産業なども衰退していく可能
待って いると いうことである。地域を舞台とし
性がある。また、その一方で、日系ブラジル人
ながら都心の大学とは違った学びが得られるこ
や中国人を中心に外国人の流入が一定数あり 、
とが、地方大学が都心に立地する大学のメリッ
製造業への労働力として期待されている側面も
トに対抗できる部分でもあるヘ
ある。
一方、大学側から見た場合、経嘗課題として
ゆえに、岐阜県の長期構想勺とおいても「女性
の入学者の確保はもちろんであるが、それだけ
動膏やすい現段手つく
や高給者手合め、設もがi
ではなく、朴会的存在としての大学の意義存果
、「モノづくり産業や観光交流を通し 、
ること J
たしていくことが重要である。教育の面では、
、f
外国人と共生で
地域外から所得を稼ぐこと J
地域の子どもたちを受け入れ、地域を担う人材
きる社会をつくること J が課題であるとされて
として教育していく点に地方の大学の大きな役
いる。
割があるといえよう。また、地域貢献 ・地域連
携の面では、人口が流出する地域の課題をとも
に解決してくための取り組みを考えていかなけ
-46一
大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小JI()
ればならないだろう。
極的に整備していくものであるが.ここで要点
と考えられるのは、大学によって「地(知)の
E 大 学 の 地 域 貢 献 ・地 域 連 携
拠点j としての意味合いが異なっているという
点であろう。上記の目指すべき大学像の例にも
前章では地方の人口減少とその影符を受ける
あるように、学生教育、地域再生、成人教育、
地方大学について触れた。本章では、そのうえ
研究開発など大学のもつ資源によって重点とし
で大学に地域連携が求められている現状につい
ていく拠点のありょうは大きく異なっている。
て見ていきたい。具体的には固による地域と大
すなわち大学にとっては自身のもつ資源を生か
学との積極的な関わりを進める政策を紹介しつ
して、どのような大学像を目指すのかという点
つ、大学自身が地域のなかでどのような大学像
が重要であり、それによって地域との関わり方
が大きく異な って くると いうことでもある。
を掲げていくべきなのかを考えていく 。
(2)総務省 f
地域の元気創造本部Jの設置と
1.固による地域と大学を結びつける政策
『
域学連携J事業
(1)文部科学省『地(知)の拠点整備事業
では、とりわけ地方の大学、支 た文系学部 ・
(
COC:Centero
fCαr
m
.
.
n
i
t
y)
J
地域と大学との関わりを積極的に提起した国
学科をもっ大学にと ってはどのような大学像を
の施策として、文部科学省による 『
地 (知)の拠
持って地域と関わっていく ことが考えられるの
nt
e
rofCommuni
t
y
点整備事業(通称COC:Ce
だろうか。これまで大学と地域の連携という場
事業) Jが挙げられる。
合「産学官連携J という言葉があ ったが、これ
0
1
3
年度よりスタートした事業であり、
これは2
は理系(とりわけ工学系)の大学と地域の企業
そり目的として、「大学等が自治体と連携し 、
や行政との連携が言われる傾向があったと思わ
全学的に地域安志向した教育 ・研 究 ・地域貢献
れる内ぞの点で、地方の大学や女系の学部 ・学
を進める大学等を支援することで、課題解決に
科については、どのようにその専門性や資源を
資する様々な人材や情報 ・技術が集まる、地域
生かす可能性が考えるのだろうか。
コミュニテ fの中核的行在としての大学の機能
ひとつの参考になる事業が、総務省が推し進
0
1
3年
強化を図ること」を掲げている。なお、 2
める 「
域学連携J事業である。総務省において
3
億円、2
0
日年度選定件数は5
2
件で
度予算額は2
は
、 『
地域の再生な くして、日本経済の再生はな
あった。
地
いJとの認識から、総務大臣を本部長とする f
この事業が実施された背景には、少子高指令化
域の元気創造本部J 安設問したうえで、地域発
・地域コミュニティの衰退、国際競争の激化な
の成長戦略である『地域の元気創造プランj の
ど社会を取 り巻 く環境の変化がある。これに対
し、大学には社会の変革を担う人材の育成など
取り組みを推進している。
この取り組みの中に位置づけられている事業
の責務があるとの認識から、 「
社会の期待に応
大学生
が「域学連携j 事業である。 とれは、 f
える大学改革j を実施するねら いで事業が推し
と大学教員が地域の現場に入り、地域の住民や
進められている。その際、目指すべき新しい入
NPO等とともに、地域の課題解決又は地域づ
学像として 「
学牛がしっか η学び、向らの人牛
くりに綜続的に取り締み、地域の若
者件化及び地
と社会の未来を主体的に切り開く能力を繕う大
域の人材育成に資する活動Jであるとされる。
、あるいは「地域再生の核となる大学Jや
学J
具体的な活動事例としては、「
地域資源発掘、地
社会の知
「生涯学習の拠点となる大学j、また 「
域振興プランづくり、地域マップづくり、地域
を果たす大学J等が掲げら
的基盤としての役割l
、「地域課題解決に向けた実態
の教科書づくり J
れているに
調査J
、f
地域ブランドづくり、地域商品開発、
プロモーションJ、「商店街活性化策検討、アン
このように地(知)の拠点としての大学を積
-47一
地域経済
第 34号 20
15
.
3
テナショップ開設J.「観光ガイド実践.海外観
の応用となり得る地域を舞台とした実践型教育
環境保全活動、
光客向けガイドブックづくり j、『
の方が、うまく Eいのメリッ卜を合致させるこ
まちなかアート実践、子ども地域塾運営、高齢
とができると考えられる。 また、地方の人材不
者健康教室運営」などが挙げられている九
足は、近隣に立地する地方大学にとっても重要
これらの活動事例を見ても分かる通り、この
な問題である。ゆえにこうした取り組みは、文
「域学連携」事業の特徴は、①大都市よりも地方
系学科を有する地方の大学とっては、地域とも
の地域諜題解決を対象としている点、 @理系よ
に発展していくうえでも重要な経営諜題でもあ
りも文系学部 ・学科の専門性を活用している点
ると いえ るだろう。
である。とりわけ②の点については、経済学 ・
経営学部系の分野の領峻が広く対象とされてい
2. 地場実践型教育の課題
るように見える。つまり f
域学連携J 事業は、
一経済学分野の専門性展開の視点から
地方の大学の文系の学部 ・学科の専門性や資源
では、文系、とりわけ経済学系の分野では、
を生かして地域の課題を地域ともに解決しよう
地域と関わっていくことにどのような意義があ
としていくものであるといえよう。
るのだろうか。本節では経済学系の分野におけ
このような特徴が見られる背景には地域側の
る専門件の展開の課題安見ていく 向
図表 4は大学の専門科目の学習がどの程度職
課題があると考えられる。とりわけ 「地域にお
ける若い人材j や「地域活性化のための実践j
業生活に寄与しているのかを聞いたアンケート
が不足しているという課題がある。 地峻の若い
調査の結果を示したものである。若干古いデー
人材が都市部に流出していくことから、地域内
タではあるが、これを見ると経済学系の専門科
部で地域を担う人材を担保できないという現状
目の学習が『役に立っていないj とする割合が
がある。
.5%である。乙れらは経済学分野り
最も商く 60
v
こうした地域のニーズに関わっていく場合、
専門件表実社会のなかで役 :てる岡難件安意味
理系の基礎研究の追及よりも、経済学や経営学
するのだろうか。 これだけのデータからは、関
図表 4 専門科目の学習が駿業生活に寄与しているか
・役立っている
・役立っていない
(単位:%)
不 明 ・無回答
教育系
・・E・
‘
・
・
家政系
且且
E
s
:
3
ヨa
.
農 学系
・
・
E
‘
4
・
3.3
工 学系
’
‘
曇
劃
s
.
o-
理学系
38.1
経済学系
:
11
.
5
、
,aI5
法 学系
•5.8
且』
人文系
1:
2
E
5
.
7
R唱
:E
.
総計
0
.
0
2
0
.
0
4
0
.
0
6
0
.
0
l
.
1
1
1
1
且二
8
0
.
0
6.1
1
0
0
.
0
出所: l
:
I..−$:労働紛究機構 調査附究報告;
l
} rNo
.
64 大卒者の初期キャリア形成 ー『大卒就駁紛究会』 報 告ー』 1
995
年
-4
8一
大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J
I
(
)
連性を示唆することはできないが.このことは
1.地場経済の不均等発展の視点から
経済学分野の専門を生かした地域との関わり方
地域の経済としての地域経済は、地域政治経
済という特徴をもっている。すなわち、 『
地域
という問題を提起しているものと思われる。
地域における若い人材J や『地域
すなわち f
の人々や地域で活動する経済諸アクターなどの
活性化のための実践j が不足しているという地
各主体が、地域の運命 ・運営についての意思決
域、例えば衰退する商店街の活性化に関わる場
定権を有しているためである。地域の人々は、
合においても、「学生を若い労働力として派遣
地域社会を形成し、地域公共部門に公共信託す
することはできる。商店街などに応援に行く。
ることを通じて.主体的に地域を運営し.その
そこで若者らしいアイディアを出すとか、祭り
一環として地域の経済を発展させ、管理しよう
に参加するなどは、教室では得られない実践を
とする。ゆえに、自由な市場経済の原理だけで
学ぶという面で意味があることは否定しない。
は説けず、地域の各主体の意思と行動、地域社
しかし、これが派遣される側に真に役に立って
会 ・地域政治(地方自治)のあり方に規定され
いるかどうかは判定が難い。日本の地方都市の
る IOJのである。つまり、地域の発展のありょう
商店街の凋落は、学生の頑張りぐらいで何とか
が各主体の意思と行動に規定されるならば、そ
できる問題ではいような気がする 9」という意
の経済の上部構造の分析は経済学分野が担う重
見につながっている。
要な領域である。
シャッター商店街というような全国の商店街
このような視点から、地域経済における不均
でも共通する現象を、教科書のなかだけで学ぶ
等発展の要因を分析したものとして、島恭彦の
だけではなく、体験を通して現場で学ぶことで
『
地域不均等発展論j があ る。島は「現代に於
学生の経済に対する理解が深まるという意義は
いては一地域の生産額はその地域の住民の所得
あるだろう。ただし、金銭的 ・貨幣的な経済活
や資本の省棋と比例しない IIjと述べ、資本によ
件化へのインパクトは学牛の力だけでは限界が
る支配や、資金や所得分布の地機的不均等、財
あるのではないだろうか。
政の役割を分析した。
全学的に地域連携を推し進める時代に入って
島の議論は次のようなものである。第 1に
、
いるなかで、学生の主体性に期待するだけでは
国民経済の不均等発展は資本主義の法則である
限界があるのはいうまでもない。だからこそ大
であるが、それは経済固有の法則であるという
学が持つ社会的役割としての研究、教育、地域
よりも、上部構造、すなわち国の政策や財政 ・
貢献を迷関させ発展させていくことが重要であ
金融によって規定されており、これは地方財政
るといえるだろうの
の不均等発展という具体的現れ接待っていると
いうことである。第 2に、地方財政の不均等は
E 経済学分野の専門性展開の可能性
中央政府と地方政府の財政的不均等をもたらし、
この不均等は中央集権を生み出すことになる。
Iで見た地方の人口減少や地域の格差といっ
とのように地方財政の不均等は、垂直的および
た現象をどのように経済学は捉えることができ
水平的不均等の 2つの意味で捉えられる。第 3
るのだろうか。 これは経済学の専門性を地域連
に、財政問の水平的不均等の激化は、ぞれを調
携との関わりでどのように牛かしていくのかと
整し均等化する制度を生み出す。そのうえでこ
いう問題意識に関わって重要な認識をもたらす
の均等化制度は財政的中央集権機織による調整
ものであると考えている。そこで本章では地域
作用であると認識されている。第 4に、中央集
経済の視点、から地方大学に求められる社会的役
権的な財政調整制度は、所得や資本の地域的再
割を考えていく 。加えて、教育という大学に求
分配をもたらし、不均等を緩和する側面を持つ
められる社会的役割の観点から、地域実践型教
が、他方で地方財政の均等化と画一化で地域経
育の可能性を考察する。
済の不均等発展を促す傾向をもっているという
-4
9一
地域経済
第 34号 20
15.3
ことである 九
育成を担う地域の学校や大学の役割も重要とな
本稿では、地域経済の不均等発展そのものや、
財政聞の不均等のありょうを詳細に見てい く余
る
。
裕はないが、ここで重要な点と しては、上部構
済活性化へのインパクトは学生の力だけでは限
造を見る政治経済アプローチから地域の経済構
界がある。しかし、そこには非経済的な要素に
造を変化させていく可能性を持っていることで
おいて地域の発展を促す側面を持っていると考
ある.
える。その際に、学生教育ももちろんであるが、
極端にいえば.経済構造が地域社会を決定す
前t
;
!でも述べたように、金銭的 ・貨幣的な経
生涯学習の拠点、として大学は地域の「ひとづく
るのではなく、地域のコミュニティが、そこで
りJ ための拠点として重要な役割を持っている
のまちづくり ・ひとづくりが、地峻経済の構造
を決定するという立場を取る。すなわち、地域
のではないだろうか。
ただし、地域経済の発展を考えたときに、あ
から出発して経済を捉えるのである 13。ゆえに
くまでもその主体となるのは企業であり、地方
積極的な政策関与、 とりわけ産業政策のみなら
においてはその各主体同士の関係性のありょう
ず、コミュニティ政策等を含めた総合的な地域
が地域の発展方向を左右する。ゆえに、非経済
政策の関与が重要になる内ここに経済学分野が
的要素から経済的要素へと結びつけるコーディ
持つ専門領域を発展させていく要素は十分にあ
ネ←ターが重要な役割を果たす。暮らしのアメ
ると考えられる。
ニティを高める試みは、結果として経済を活性
2.人材育成としての大学の社会的役割
純粋に求められるものであろう。ゆえに、両者の
化させる可能性はあっても、それ自体としては
他方で、教育機関、あるいは教育との関係性
を考える際の重要な概念、と して、人的資本概念
結びつきを意識的につなげるコーディネーショ
Lに地方 0)大学が来たす新
シが重要となる。己 こ
がある内ぞもぞも人的資本とは、教育や職業訓
たな役割安{す置づけることができると考えられ
練によって個人に蓄積されるスト ック(資本)
る
。
であると捉え られている。その際、教育や訓練
これは地域連携、すなわち企業と企業にとど
に掛かる教育支出はフロー(資本に対する投資)
まらず、企業と 自治体
、 大学、 NPOなどの関係
であり、それによって能力が高まれば、高い賃
性のありように関する視点、である。繰り返しに
金や収益を得ることができる可能性が高まると
なるが、地域経済の発展の主体はあくまで企業
されている。より重要な点は、これらは個人の
であるが、その関係性のありょうが発展 ω方向
問題だけではなく 、地域の発展にも拡張して考
君付けるのである 叱
性を{すI
えることができるのではないかという考え方で
このように経済学は資本主義における構造的
ある。すなわち人的資本に対する投資のリター
視点を持ち、単に具体的な現象を見るだけでは
ンは、「必ずしも金銭的報酬だけを意味してお
なく、現象の背後にある地峻構造 ・社会構造を
らず、地域の結束力の向上、まちづくりへの寄
分析するという点で重要な専門性を持っている
与、社会的弱者への支援など、地域発展を促す
といえる。加えて、そこに政策論的視点を入れ
成果が得られたのであれば、非金銭的な貢献で
たうえで地域と のかかわりを持つこ とができる
も 『人的資本への投資に対する I)ターン』りで
分野であり、 T学系の専門分野の応用とは支か
あると捉える見方である。
違った政策的な応用が可能な領域であると考え
地域人材、すなわち直接的に地域を担う主体、
ることができる。
地域の人的資本を重視するのである。中小企業
が国際的な競争の中で自主企画 ・自主販売のカ
3. 経験的学習と専門的学習
を持ち続けるには、そこで働く人材が重要であ
地域を担う人材を育成するうえで、地域実践
型教育はどのような積極的な怠義をもつのだろ
ることはいうまでもないだろう。ゆえに、人材
- 50一
大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J
I
(
)
地域実践型教育についても .身近な体験から
うか.木節では.経験的学習と専門的学習の関
出発して自らや地域を変えていくという動態的
係性から考えていきたい。
この点においては、生活言語と学習言語の関
な観点に積極的な意義を見いだすことができる
係が参考になると考えている。そもそも生活言
と考える。学生たちの実践についても完成され
語とは、日常生活で用いられる言葉であり、基
た専門性ではなく、発展途上で変化する、非専
本的に五感で感じるととができるものである。
門的な学生としての特性にこそ積極的な意義が
また、学習言語とは、学習や抽象的思考に用い
あり得ると考えている。
られる言葉であり。生活言語とは遣い五感で捉
えることが困難なものである。いわば物事の考
N 地域実践型教育への取り組み
一松本大学の事例から
え方、すなわち概念である。人聞が言葉を覚え
る際に、生活言語がベースとなって学習言語へ
の理解が深まっていく関係があると考えられて
本章では、地域実践教育の取り組み事例とし
いる。つまり具体的体験から抽象的思考へと向
て、長野県松本市に立地する松本大学 16が主催
かっていく考え方である。こうした点から、生
する f
地域づくりコーディネーター養成講座j
活言語は比較的容易に身につけることがで者る
手中心に考えていきたい拘本講序は地域におい
0
年はかかるといわれ
が、学習言語の習得には 1
てコーディネータ←を担う人材育成のための事
ている。
業であり、地域の格差を埋め発展に導くための
これらは経・
験的学習と専門的学習に置き換え
ひとづくりの要素を持っている。地方において
、
て考えることができる。すなわち経験的学習と
地域を舞台とした地域実践型の教育を展開して
いうのは五感を使って感じる学習である。専門
おり、本稿の問題意識からも参考になると考え
的学習といつのはある学問体系に基づいた物事
ている。
の見方なり抽象的!
思考の枠組み安学ぶ学習であ
なお、松本大学は 『日経ゲローカル地域貢献
る。専門的学習の理解を進めるうえで経験的学
0
1
1年度 1
7
位
、 2
01
2
度ランキングJ において、 2
習はその土台となる。事例や自身の体験を思い
年度 6位
、 2
0
1
3
年度 9位であり、地域貢献に積
出すなかでよりよく理解を深めることができる
極的な大学として外部からも高い評価を受けて
からである。ただし、専門的学習は経験的学習
いる大学である。
の上位概念ではないと考える。確かに専門的知
見は高度なものであるが、こうした専門性を生
,.地場づくりコーディネーター養成講座の概要
活や暮らしに応用するためには経験的学脅が重
本節では、松本大学がギ僻する「地域づくり
要になるからである。つまりこの両者の相互作
コーディネーター養成講座J(以下、養成講座)
用が真の意味での学習につながると考えている。
についてその全体概要を報告する。
この点は、地域との関係を考える際!とも同様
0
0
9
年度から開
松本大学による養成講座は、 2
である。すなわち、現実の地域を見る場合、専
訴されている。とれまでに第 3期までの講座が
門的学問体系の分析担角を用いて演緯的な方法
終了しており、 2
0
1
4
年1
1月から 2
0日年秋までの
で地域を分析するということと併せて、地域を
期間が第 4期の講座実施期間である。
間発点、として世界手再椛成していくことが必要
本講停の同的は、「地域の人材や資源存コー
である。なぜならば、演縛的手法で巨視的に地
ディネー卜する人材を育成するとと Jであると
域を国民経済の一部分として取り扱ってしまう
されている。対象は、 『
地域での実践を経験し、
ことは、現実の地域から起生する動態的なメカ
実際にコーデ fネー トに携わる、あるいは携わ
ニズムを見落としてしまう可能性があるからで
ろうとする社会人および学生」である。とれに
ある。地域から出発して経済を捉える視点乙そ
より f
地域づくり コーディネーター」の認定審
大学の地域連携にも必要な視点であろう。
査を受け、審査会を通じて認められれば 『
地域
- 51一
地域経済
第 34号 2
015.3
づくりコーディネーターj の認定を得ることが
できる。
認定までの講座全体の過程 ・プロセスは次の
次に.②「考える(専門講座) J である。ここ
では、ファシリテーシ ョンに関する講義と演習、
マネジメントに関する講義と演習、フ.
ロデユー
、
通りである。まず、受講者は 『知る(基礎講座)J
スに関する講義と演習などが計画されている。
、「育む(実践講座) J、「高
「考える(専門講座) J
年 12月である。
実施時期は2014
める(プレゼンテーション) J といった養成講
さらに、③「育む(実践講座) Jでは、受講者
座のプログラムを受講する。それぞれのプログ
それぞれがテーマを持って企画の実践に取り組
ラムでは‘講師というかたちで.他地域の先進
むことなる。その間で.プログラムづく り(実
事例や先駆者を呼んでの講義が展開されている。
践の企画書作成)のための講座や、ラウンドテー
次に、講座を踏まえたうえで、 自ら のテーマに
プル ・中間報告が何回か実施され、実践活動の
基づき現場実践をおこなう。これらをレポー ト
5
振り返りでまとめることになる。時期は、 201
にまとめ、審査会でのプレゼンテーションとグ
年 2月から 7月にかけてである。
ループワークによってコーディネーターとして
そして、最後に実施されるのが、④ 「
高める
の能力が審査される。そして、これに合格すれ
(プレゼンテーション)』である。これは③の実
ばコーディネーターとして認定される、という
践で取り組んだ内符安受講者ぞれぞれがプレゼ
流れである。なお、認定をおとなう審査会は、
ンテーションし尭表し合うものである。時期は
松本大学の教員 3名、外部講師 3名にメンバー
2015年 8月が予定されている。
以上を踏まえて、内容が審査され地域づくり
によって構成されている。
過去の認定者は、第 1期が 4名(うち受講者
35
名)、第 2期が 5名(定員 I
O
名)、第 3期が 6
コーディネーターとしての認定結果が出るのが、
2015
年1
0月という予定である。
名(定員 lO名)。全体を通じて準認定(学生認定
なお、第 4期は、総務省「地療の担い手創造
者)は 1名(第 2期の学牛)である内このよう
事業』におけるモデル実評事業として、①基ー礎
に受講者に対して、認定者が非常に少ないとい
講座、 ②専門講座を開講している。 また、第 4
う点が特徴である。これは、リーダーでもなく、
期の受講者は20
名(内訳は、社会人 16
名、学生
ファシリテーター(進行役)でもなく、地域づ
4名)である。実際に 20
名以上の応募があった
くりのための 「コーデ ィネーターJの養成を重
がレポートおよび企画書で受講者を決定してい
視しているためである。また、申し込みから認
る。受講料は、社会人20,000円、学生は 10,000
定までおよそ 1年間 ω時間を要することになっ
円となっている。
ている内このように本講斥は、長期にわたって
開催される連続講座でもあり、認定までのハー
ドルも高く、受講者によるコーーディネートの実
践も含んだ非常にユニークな取り組みである。
3. 養成講座への参与観察
1月22日(土)、 1
1月23日
ここからは、 2014年 1
知る
(日)にかけておとなわれた第 4期 の ①『
(基礎講座)」にて筆者が参与観察して把握した
2.第 4期の養成講座を事例として
内容を中心に報告する
l
月からスタートした第 4
本節では、 2014年 l
I
l
月2
2日は、コーディネーターの基礎概要の
期の義成講停の内存者与見てい者たい内講停の全
Jエンテ←シ 弓ンとしての交流会など
講義やオ I
体像は下記の通りである。
が実施された。講義といっても、内容は基本的
まずは、①『
知る(基礎講座) J がある。これ
には講義と演習を織り交ぜて進める方式であり、
は、オリエンテーシコンおよびコーテVネーター
指に実践が求められる。さらに、講師から学ぶ
の基礎概要の講義、 コーディネーターの現場に
だけではなく、交流の中で受講生同士が学び合
赴いてのフィールドワークとい った内容であり、
うことも諦座のねらいであり、ポイントとして
開催時期は2014年 11月である。
いる点である。具体的には、一方通行で講師が
-52一
大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J
I
(
)
話をするだけではなく .r
気づきj を書き出した
会では .それぞれの自己紹介 と講座受講への想
り、共有するということを重要視しながらプロ
い、問題意識を共有した。図表 5はそれぞれの
グラムが組まれていた。どのような内容であっ
属性と講座を受けたきっかけや問題意識を表に
たとしても必ず振り返りを入れながら展開され
まとめたものである。
特徴としては、相対的であるが、①20
代から
る点が特徴である。
とれらの特徴は、養成講座の全体として「共
3
0代の若者が多い とと、②行政駿員が多いとと、
感j を重視している点から来ている。すなわち、
@上記 2点に関連して現役で働いている社会人
木講座は「リーダー養成ではなく コーディネー
が多いことである。主観的には.r
コーディネー
ター養成」であるということである。そのため
ター として既に現場で活動している」という人
に、コーディネーターという点の役割をはっき
ではなく 、「何かをしたいと思っているがその
りさせており、そこに f
共感』という要素を重
やり方が分からないJ という人が多 く受講して
視している理由がある。 これは、第 l期講座が
いる印象であった。
2日目のフィール ドワークでは、過去の養成
結果的にリーダー養成になってしまったという
講座認定者が、地域づくり コーディ ネーターと
反省を踏まえているという。
なお、講}
¥の進行方法については、時間配分
して、どのよ うな取り組み(コ ーディネー ト
)
や内容を、その場その場で柔軟に組みなおして
しているのかを視察した。視察先は、①伊那市
いくといったフレキシプルな進行方法が採られ
で「若者参加のまちづくり協議会j ・「セジュー
ていた。
j旬、それぞれの事務局を担当している戸枝智 了
受講者20
名のうち、初日の交流会の参加者は
氏、②辰野町で地産地消の農家レストラン「乙
1
5
名であった(うち女性 5名、男性 1
0名)。交流
めはなやj を経営する小津尚子 氏、③塩尻市で
図表 5 交流会参加受講者の属性と講座への関わり
性別
年代
1
女性
2
験
:
業
講座を受けたきっかけ ・問題意識
2
0
ザ
守
山
,
生
地域づくり考房ゆめゆ所属
女性
2
0
学
生
地域づくり考房ゆめ所属
3
男性
2
0
主
全
生
地域づくり考房ゆめ所属
4
女性
4
0
中間支援
シニアコーディネーター
5
男性
2
0
行政総員
地域づくり課駿員
6
男性
2
0
行政駿員
地域づくり課駿員
7
女性
3
0
中間支援
地域おこし協力隊
8
女性
2
0
行政綴員
福祉課験員
9
男性
2
0
会社員
販促 ・PR代理業
1
0
男性
3
0
会社員
中小企業診断士として活動
1
1
男性
3
0
会社員
寺子屋(読み聞かせ合宿)を展開
1
2
男性
6
0
主
l
;
耕作放棄地問題に危機感
1
3
男性
4
0
行政E
議員
村役窃職員として、集落ビジョンづくりに関わる
1
4
男性
2
0
行政駿員
地域づくり r
i
!
1
!
駿員
1
5
男性
6
0
有
ミ
協{動局針の策定委員として
家
明
出 所 :参与線擦により筆者作 成
-5
3一
地域経済
第 34号 20
15.3
市民交流センター「えんばーく j 設立に携わっ
地域側の人材育成を担っているという点である。
た、元塩尻市駿員の清水進氏らである。そして、
これにより学生教育との相乗効果も様々なかた
フィールドワークの最後には松本大学に集合し、
ちで生まれている。実際に松本大学の学生たち
受講者で気づいたこと、学んだことの共有がお
との関連企両が多様なかたちで実現している。
こなわれた。
このように人材やネットワークの蓄積が生まれ
ていくととで、機々な学生たちとの連携事業が
写 真 1 K J法などのワークを使いながら
取り組みやすくなる基盤が生まれているといえ
る
。
第 3に、講座受講者の僚のつながりが多様な
かたちで生まれているという点である。具体的
にはコ ーディネーター認定者が核となる中間支
援団体が生まれているという。これらは自然発
生的に何もないとこ ころから生まれたも のでは
なく、講座を企画する際に意図的に仕掛けられ
ていたといえるの
第 4に、受講者は実践を通じて、長期にわたっ
て講座に参加し、その実践を支援していくかた
P
r
o
j
e
c
t
ちで講座がデザインされている。 PBL(
)やアクティプラ ーニングに近
BasedL
e
a
r
n
i
n
g
写 真 2 交流会の様子
い。とりわけ 2月から 7月の半年間もの時間で、
受講者それぞれに実践活動が求められる点で特
徴的である内加えて、前段階の講義と演習の方
式を常に組み合わせて進行される点にもこうし
た思想が賞かれている。
このように、地域実践型の教育において地域
仰は学生の人材育成の相乗効果を図りながら展
開されている.すなわち、松本大学の建学の理
念
、 『
教台 ・研究を通じた地域社会への貢献を目
標とするJ という点に基づいて、円指すべき大
も、
写真 :筆者総影(2
0
1
4
年 1I
f
l
)
学像として、地峻再生の核となり、生涯学習の
拠点となりながら、地域を担う人材としての学
4. 事例から学ぶべき点、
生を育てるといった実践が取り組まれているの
本節では、事例の特徴および地域実践型教育
である.
の観点から学ぶべき点をまとめたい。
この養成講座からみる大学の役割として、コー
第 1に、リーダーでもなく、ファシリテーター
ディネーターのコーディネー卜といったソフト
(進行役)でもなく 、地域づくりのコーディネー
の部分持多く拘っているといえる肉地域の人材
ターの養成を重視しているという点である。と
を育成しながら、地成の資額をつなげていく役
れは受講者!:対して認定者数が少ないという点
割も、今後の地域連携において地方の大学に期
にも関連している。厳しい審査基準があり、コー
待される役割だろう。
ディネーターとしての役割を担って点に地域で
活動できる人材を認定している。
第 2に、松本入学の地域連携教育における、
- 54一
大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J
I
(
)
ター養成講座への参与観察に際して大変お世話
おわりに
になった。文末ながら深くお礼を申し上げたい
。
教育とは 「
人格の発達J を目的にする人間の
営為であるが、それを捨象して考えた場合、教
育は、 生産性向上のための基礎を作り出 し、個
人の所得を高める投資としての側面を持 ってい
【
脚 注】
る。しかし .教育によ って得た能力を生産過程
l 噌 悶 寛也 『地方約混一』I
i
京一傾集中が招く人ロ急減』{中
のなかで発揮しなければ、その効果は発鐸され
ない 。
問
01
3
£
f
)4
7
4
8
頁
公筋書、2
2 例えば. 小回切徳美 ・坂 本 誠 ・岡悶知弘による. l
¥
!
1f
l
]
レポート批判.地域拠点都市治批判がある.岩波3店『世
そのため資本の価値糟殖に資する人材育成と
いう観点から、地方の大学においては、実業的
界2
0
1
4.1
0
』
3 都道府県別の昼夜間人口比準の第 1位は点京協 018
.
4)‘
m 2位が大阪府( 1
0
4.
7
)、第 3f
立が愛知県 (
I
OI
.5
)であ
・実務的な技能を教える教育が必要だと いう論
i
iも低い県が
り、三大都市圏で高くなっている.対してi
者も いる。磯業的教育と高度な研究的教育をお
t
奇玉県(8
8
.
6)であり,次いで千葉県 <
s
9
.
s
>
. 奈良県
こなう 2つの大学の二元論的機能分担の考え方
(
8
9
.
9
)であ り.三大都市圏の高い畏間人口は周辺県から
である 叱
の涜入人口によるこ とが分かる.
しかし、人間の人格にしても、地域に しても、
二元論的機能分担にして分割できる存在ではな
4 |平成2
2年同勢調査』(5年 前 の常住都道府県による現住
地}より
5 岐r
.
i
i
県『岐 r
;
i
i
県長.
W
I
椛惣 希 笠 と 誇 り の 待 て る ふ る さ と
い。機能分担論は、あたかも大都市は頭脳であ
り、中核都市が胴、民村は末端の手や足と して、
有機体の器官を分業する考えに近い。 大都市は
グロ ーパル、重
量村はロー カルと いったかたちに
二元論的な後能分担を し、選択と集中によって
)
岐取県を自衛して ∼人口減少時代への挑戦∼』
(2009年
6 江口 忍 I
止まらない大学の都心 周防J共立総合研究所
「
REPOR
'
1
'
2
0
1
4 Vol.時 4
J4
54
8
頁
7 文部将学省 「平成2
5
年度『地(知)の拠点綴備 ・
1
1
1
1
』パ
ンフレット J 2頁
8 総務省ウェプサイト『域学連機J のページよ り(2
0日年
2月現住)
成長を支えるという考えは現実性を欠いている。
(
h
t
t
p:
//
w机1・ 油umu.
g
o
.jp/ma
i
n
_:踊i
k
i
/
j
i
c
hi
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山 昭i
/
本稿では、大学の地域貢献 ・地域連携の視点、
から、人口が減少する地方の大学が目指すべき
「g
yousci/i
kigakurcnkei.html)
¥
l 濱田康行編著『地域再生と大学』(中央公論社、2007年)
大学像について考察を加えてきたが、こうし た
大学 ω地域実践型教台においても機能分担論は
5
5
頁
1
0 中村剛治郎 『
序 章 現 代.
I
l
!破経 済学の基礎と課 題』中 村
0
0
8
剛治郎編『基本ケースで学ぶ地 域経涜学』(有斐隙. 2
菜当し ない自つまり 、経験的学脅と専門的学宵
は概念としては分けて考えることができるが、
学習という点では両者は不可分である。すなわ
ち、地域をフ fールとした実践 ・体験型の学習
と
、 大学で取 り組まれる座学の講義をいかに有
機的に結合させていく のかと いう点が重要であ
ろう し、単に資本の価値嶋嫡に資する人材育成
という観点持超えて、地域存担う人材手育成し
ていくことが社会的存在として、真に大学に求
められる役割であろう。
年
) 3買
I
I ぬ 恭 彦 『 現 代 地方 財政誼』 e
r
ぬ 主主彦著作集 ?
.
i
'
l
4
Y
.
l
<
地域論』有斐悶‘ 1
9
8
3
年に採録)2
1頁
1
2 島 恭平『財政学概論』(岩波書店、1964年) 2
8
2
2
8
3
頁
1
3 宮本憲一 ・櫛田 茂 ・中村剛治郎編 r
t
芭峻経済学』{有斐
倒. 1
9
9
0年
) 5
9頁
1
4 諸i
i
¥
' 徹『地峻再生の新戦略』(中央公誼新社、 2
0
1l年 再
版
) 2
5
5
25
6
頁
1
5 鍵 山 洋 ・佐繁田光 ・菊 本 舞 r
:
1
t
陣地峻経済学』{日本
0
0
7
年
) 2
7
9
2
8
0民
経済評論社
、 2
1
6 怯本大学は
、 長野県松本市に位位する私立大学である.
郊を母体として、2
0
0
2
年に設E
をされた.
’F
部は 2
怯 商 学i
学 部4学科 ?あり、総合経営学郷とし 7総合経営学科お
最後に、本稿の作成にあた っては大変多くの
方々にお世話になった。 とりわけ松本大学の福
島明美専任講師には、地域づく りコ←デ ィネ←
-55一
よび観光ホ スピタリティ学科をもち‘人間健康学協とし
範学科を備えている.
て健康栄養学科およびスポーツ飽b
また大学院や短期大学郁もあり、学生数は全体でおよそ
I
.明均名弱(2
0
1
4年4
担任}である.
地 域 経 済 第 34号 20
15.3
1
7 参与観察にあたっては般本大学の信ぬ明1
'専任講師にお
世話になった. 福島講師はコーディネーターを養成する
ためのプログラムをアレンジするコーデ ィネーターの役
割を担っていた.
1
8 f
地域づく り考房ゆめ」とは.学生が大学で学んだ知識や
枝衡を.地峻づくりの中で実践的に生かしていくことを
目指して、 2005!Fに怯本大学の学内に開設された機関で
ある.専任の殺駿ぬが地域とネットワークを緩み.さま
ざまなプロジェク トを展開している.
1
92
吉本憲一『社会資木論』
{布斐|
剖‘ゆ6
7
年
) 1
3
9
頁
20 例えば「グローパル』 と 『
ローカル』 という 2つの経済
園を設定し.必要とされる人材似の違いから教育のあ り
方もそれに合わせたものにするべきだという今えである.
冨山和彦 『
なぜローカル経済から日本は詮るのか』(株式
会社PHP研 究 所、 2014年}
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