大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小JI() 大学の地域実践型教育に関する一考察 一地域再生と地方大学の社会的役割一 小 川 尚 紀* はじめに 本文は大きく 4つの章から 成 り立っ ている。 m峻の勝差と地方大学 I まず Iでは‘社会流出とともに人口減少が進む l.流出過多の岐阜県人口 岐阜県を事例として地域と課題と地方大学の課 一通勤 ・通学の状況から 題について触れていく。そのうえで Eでは、地 2 . 続出過多の岐阜.県人口 一転出 ・転入の状況から 域の課題に対して大学が果たすべき役割につい 3 . 人口の社会的流出による課題 て考察する。 Eでは、とりわけ経済学分野の専 4.若者の減少と大学間競争の激化 門性を地域の課題解決にどのように生かすこと u 大学の地域貢献 ・地域迎燐 I . 闘による地域と大学を結びつける政策 ができるのかと いう問題を取りあげる。これを 2.地峻実践型教育の課題 発展させ‘ Wでは、地域安舞台とした地方大学 一総務学分野の専門性展開の視点から 是正済学分野の専門性反則の可能性 による地域実践型教育の試みを事例として取り 1.j 也峻経済の不均等発展の観点から あげる。以上を踏まえて、地域と大学との関わ m 2.人材育成としての大学の社会的役割 3 . 経験的学習と専門的学習 I V t 也減実践型教育への取り組み りを考察していく。 I 地織の格差と地方大学 一総本大学の事例から 1 .t 色峻ブくりコーディネーター養成湯肢の概要 2.t お4J U lの益成講座を事例として 3.1 皇成講座への参与観察 地方の人口減少という問題に対して、センセー ショナルな影響を及ぽしたものとして、日本創 4.事例から学ぶべき点 4年 5月に発表し た fス トップ少子 生会議が201 おわりに 化 ・地方元気戦略J(いわゆる地田レポート)に おける 「 消滅可能性都市j がある。 これは東京を はじめに はじめとする大都市への人口集中の影響によっ 年までに多くの自治体が 「 消滅可能性J て 、 2040 人口減少が進むと予測されている地方に守地 にあるとするものであるa これ者昼 間避するため する大学は、どのような社会的な意義を果たし には、地方で人口流出を食い止めるための 「 ダ ていく べきであろうか。加えて、大学の地域貢 ム機能j を作り、 『若者にとって魅力のある地方 献や地域連携を進める場合に、文系の大学や学 中核都市」づくりを f選択と集中Jの方法でもっ 部、とりわけ経済学はその専門性をどのように て推し進めていかなければならないとする内容 発揮できるだろうか。またその際、大学の地域 である∼ただしこれに対しては、さらなる『選 貢献 ・地域連携なりをどのような経済学的枠組 択と集中Jが地方都市の衰退を加速させていく みであ って考察すればよ いのがろうか肉そして 、 として、一定の批判が加えられている九 本稿では僧田レポートの内容を詳細に検討す 人材育成という観点から、地域を舞台としてど のような取り組みが実践されているのだろうか。 る余裕はないが、地方の人口減少や地域格差の 本稿は、こうした問題意識から地域と大学との 問題認識を出発点として、大学の地域貢献 ・地 関わりについて考察するものである。 域連携を考える足掛かりとしていきたい。そと 本 岐阜経済入学非常勤講師.まちなか共同研究室コーディネーター -43一 地 竣 経 t 斉 第3 4号 2015 . 3 で.本軍では.地方の人口減少の現状と若年人 上記では県外 I .:::流出している人口のみを見て 口の続出が地方大学に及ぼす影響を、岐阜県の きたが、地域の人口移動を見るためには涜入す データを用いて考察する。 る人口を併せて考えなければならない。岐阜県 の流出人口(岐阜県から他県への通勤 ・通学者) 1.流出過多の岐阜県人口 2万7,367 人であり、流入人口(他県ー から岐阜 は1 県への通勤 ・通学者)が 4万4 ,140 人である。つ 一通勤・通学の状況から 本節では、岐阜県の人口が涜出している構造 まり涜出人口が涜入人口を約 8万人上回ってお を 『 平成22年国勢調査J のデータから見ていき り.流出過多の状況にあることが分かる。 これ を昼夜間人口比率(夜間人口 100人当たりの昼 たい。 まず、総人口に占める従業地 ・通学地別の割 4%、 『 他市区 合であるが、『自市区町村j が40. 0であり 、全国でも第42 位 間人口)で示すと 96. という位置にある九 8%、 f 従業も通学もしていないj が 町村j が22. 36. 8%となっている。また「他市区l 町村J のう 2. 流出過多の岐阜県人口 ち、岐阜県外が占める割合は岐阜県人口の6. 5 一転出・転入の状況から %である《すなわち県人口の6. 5%が他県で従 前節では通勤 ・通学という視点であったが、 では 『 居住地J という点ではどうだろうか。岐 業 ・通学しているととになる。 では、他県に通勤する人々は、どの地域へど 阜県においては、人口の自然減よりも一定の社 の程度の割合で通っているのだろうか。就業者 会減が進んでいる。外国人人口の流入があるが、 人口の動向からその現状を見ていく。 『 岐阜県か 日本人がそれを上回る年間約 4千人規模の流出 0 万8,870人であ ら他県へ通勤している人J は 1 超過となっている。地価や住宅価格の差から愛 り、そのうち愛知県が 1 0力 1 , 527人となってい 知県から岐阜県に移転する人も見られたが、愛 3%待出めて る内これは、他県への通勤者の93. 知県愛の地価が下落するなか、愛知県外へ転出 いる。なお、次が三重県 であり、 3.582人(3. 3 する傾向が強くなっている。 a 転出者の傾向として、若者が多いという点が %)である。すなわち他県に通勤している大多 数の人は愛知県で労働していることになる。 大きな特徴である。図表 1は、国勢調査の2005 図表 1 2 0 0 5 年時. ' 2 .と2 01 0 年時. ' 2 . の比較による県外転出数 (単位:人) 5αE 日 4虫X l 40α3 3日)() 3αm 2日氾 α z)() 1500 1 α) ( ) 500 日 軍 軍軍 基 重量唾軍基軍基礎援軍基礎軍基軍基礎軍基礎嘩軍基軍 基軍基礎袋軍基礎事基礎軍基軍基理 基礎事基礎 紙 袋署基礎誕援軍基礎 寝 袋署革 ! ll 走 0歳 2歳 4歳 6歳 8歳 10歳 12歳 : " ;5 宣告 ロ : ! ; ::::忽 2 ロs ;36歳 38歳 40歳 42歳 44歳 46歳 48歳 50歳 52歳 54歳 56歳 58歳 60歳 62歳 64歳 66歳 68歳 70歳 72歳 74歳 76歳 78歳 g : ; ; :; ! : 持 s 出所 :「 平成2 2 年国勢制査』{る年前の常住都道府県による現住地} *5歳未満については 、 出生後にふだん住んでいた場所による -44一 大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J I ( ) 年時点と 2010 年時点の比較による県外転出数を . なわち消費地や勤務地の関係でも県外流出は免 年齢別でグラフに表したものである。これを見 れないだろう。 8 歳を境目に転出者数が大きくなっている ると 1 3. 人口の社会的流出による課題 歳代前半から 30 歳代 ことが見てとれる。また20 歳から 39 歳まで が転出者の多い。具体的には20 これまで見てきたように、岐阜県外へ通勤し で全体の6 1 .2% を占めている九 そして、その たり、転出する人が多いわけだが、その要因と 後の年代は緩やかに少なくなっていることが分 して挙げられるのは 「 仕事 ・雇用Jの問題であ かる。 る。すなわち.仕事を求めて県外へ転出する人 1 8 歳から大きく転出者が矯える理由は、大学 が多い。岐阜県の将来構想研究会が2 008 年に ま 等への進学による県外転出のためである。岐阜 とめた 「 岐阜県が直面する課題∼長期構想策定 県の高校生は、そもそも高校を卒業する時点で に向けて検討すべき論点∼」でも、「仕事を求め 県外の大学等に進学する割合が高い。図表 2は 若 て若者が他県に流出Jする問題を取り上げ、 「 岐阜県内高校生の大学等進学率と県外大学等進 者の望む職場をつ くり出すことが課題Jである 学率の推移を示し たものである。こ れを見ると としている。 大学等進学率は年々 k昇傾向にあるのに対して、 加えて‘男女別に見た場合、男件よりも女件 県外大学等進学率は70%台で推移しているとと が転出する傾向が強い。とれは結婚等の理由に が分かる。県外進学率の逆は県内進学率である よって県外に住まいを移すということから現れ が、岐阜県の高校生が岐阜県の大学等に進学す ている。 了育て世代が少な くなれば地域の人口 る割合は約 2 1 i ! Jしかない。 の再生産構造の偏りが大きくなり、 より若い人 なお、 この際、東京都などのより大きな都市 が少ない地域となっていく ことが考えられる。 の大学等に出て行ってしまっ場合もあるだろつ そのためにも岐阜県では 「 若者の漏出に歯止め が、陵阜県内に住みながら愛知県内の大学等に 表かけていくことが諜題Jであると考えられて 通学する大学生も一定数いるものと考えられる。 いる。 県外の大学に進学することで、消費において 図表 3はライフステージにおける若者の県外 も県外で買い物をする傾向が強くなると予想さ 流出の構造 を考家したものである。 これまでに れる。 また大学を卒業した後もそのまま県外の も述べたように県外の大学等 t :進学した場合は 企業に就職する可能性が高いと考えられる。す 県外就職に至る可能性が高いと考えられるし 、 図表 2 貴 重 阜県内高校生の大字進??率と県外大ヤ進字率の推移 ( 単位:%) 90 70 竺三日 5556 60 E《 54SSSS S2 時 454647474746特 − s o 3 9404143 40 で三三:s333433323332323百 戸 3535343S37 3134 z q 3 0 + 県外大学等進学率 ? の + 大学等進学率 1 0 。 71727374757677787980818283848586878889909192939495969798990001020304OS060708091 01 112131 4 出所 :岐阜県 『 学校基本調査j 201 4年 本『 以外大学進学者数(弔}』 はWIl 年からデータなし(2010 年に高l 査事業終 fのため) -45一 地域経済 図表3 ライフステ ジ仁おける若者の県外流出の権造 第 34号 2015.3 4. 若者の減少と大学問競争の激化 上記のような若者が流出する構造は、地域に 高 校卒 業 者 とって重要な課題であると同時に岐阜県内の大 1 8 , 2 0 7 人( 100 ) 学等の教育機関にとっても重要な課題であると 大学等進学 いえる。なぜならば、少子化の影響で、若年層 10,291人(57) 県外文字等進学 県内大学等違苧 王国,人( 4 2 ) 2,634人(14) 人口が減少し、全体の入学者数が減少するなか で、愛知県の大学等と入学者確保のための大学 問競争が激化する可能性が高いからである。そ の際、いかに岐阜県内の高校生の進学者を確保 していくのかという点は重要な経営課題でもあ る 。 出所 ;岐阜県 「 学佼基本舗資J2 01 0年データを参考に筆者作成 0 1 0 年の高校卒業者数を 1 0 0とした均合の数 *指低 内数字は2 (端数は凶抱五入している} 他方で、大学問競争のひとつの流れとして、 大学の都心回帰が進んでいる点が挙げられる。 例えば愛知県内では、愛知大学がみよし市から 県内の大学等に進学した場合でも県内企業に就 名宵犀駅のささし支キャンパスへ、名峨大学が 職するとは限らない。また、県内企業に就職し 名古屋市天白区へ、名古屋学院大学が瀬戸市か たとしても転職や転勤、結婚などによって県外 ら名古屋市熱田区へと移転している。大学が都 に流出していくことが考えられる。 心にキャンパスを置くことで、学生へのメリッ 0 歳代を中心に、職業上の理由、 すなわち、 2 ト(遊ぶ場所、アルバイト先の確保、就職活動 あるいは結婚のために、年間約 4千人規模で流 出していると いうのは、高校生の県外進学卒か へのアクセス、通学の利便性、他大学との交流 など)が高ま り入学者数を健保しやすくなる。 ら始支って各ライフステージにおける段階で牛 ぞのため愛知県内の大学も都心部(名宵尾市) じて いる現象であると捉えることができる。 へのキャンパス移転を進めている。名古屋市へ では、若者が流出していくことでどのような は岐阜県からも通勤 ・通学園であるために、愛 波及的課題が生じる可能性があるのだろうか。 知県への大学等の進学者の割合は今後 も噌え る ひとつには労働力人口が減少していくことで、 可能性がある。 労働力不足が深刻化するおそれがあるとされて とれらのことを地成の側から見た場合は、学 いる。すなわち労働力人 Uが減少するこ とで、 生が通いたくなるよう魅力的なまちをつくって 県民所得が減少し、県内における消貨量も誠り、 いくことが地域づくりの戦略としても重要件接 地峻内のサービス産業なども衰退していく可能 待って いると いうことである。地域を舞台とし 性がある。また、その一方で、日系ブラジル人 ながら都心の大学とは違った学びが得られるこ や中国人を中心に外国人の流入が一定数あり 、 とが、地方大学が都心に立地する大学のメリッ 製造業への労働力として期待されている側面も トに対抗できる部分でもあるヘ ある。 一方、大学側から見た場合、経嘗課題として ゆえに、岐阜県の長期構想勺とおいても「女性 の入学者の確保はもちろんであるが、それだけ 動膏やすい現段手つく や高給者手合め、設もがi ではなく、朴会的存在としての大学の意義存果 、「モノづくり産業や観光交流を通し 、 ること J たしていくことが重要である。教育の面では、 、f 外国人と共生で 地域外から所得を稼ぐこと J 地域の子どもたちを受け入れ、地域を担う人材 きる社会をつくること J が課題であるとされて として教育していく点に地方の大学の大きな役 いる。 割があるといえよう。また、地域貢献 ・地域連 携の面では、人口が流出する地域の課題をとも に解決してくための取り組みを考えていかなけ -46一 大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小JI() ればならないだろう。 極的に整備していくものであるが.ここで要点 と考えられるのは、大学によって「地(知)の E 大 学 の 地 域 貢 献 ・地 域 連 携 拠点j としての意味合いが異なっているという 点であろう。上記の目指すべき大学像の例にも 前章では地方の人口減少とその影符を受ける あるように、学生教育、地域再生、成人教育、 地方大学について触れた。本章では、そのうえ 研究開発など大学のもつ資源によって重点とし で大学に地域連携が求められている現状につい ていく拠点のありょうは大きく異なっている。 て見ていきたい。具体的には固による地域と大 すなわち大学にとっては自身のもつ資源を生か 学との積極的な関わりを進める政策を紹介しつ して、どのような大学像を目指すのかという点 つ、大学自身が地域のなかでどのような大学像 が重要であり、それによって地域との関わり方 が大きく異な って くると いうことでもある。 を掲げていくべきなのかを考えていく 。 (2)総務省 f 地域の元気創造本部Jの設置と 1.固による地域と大学を結びつける政策 『 域学連携J事業 (1)文部科学省『地(知)の拠点整備事業 では、とりわけ地方の大学、支 た文系学部 ・ ( COC:Centero fCαr m . . n i t y) J 地域と大学との関わりを積極的に提起した国 学科をもっ大学にと ってはどのような大学像を の施策として、文部科学省による 『 地 (知)の拠 持って地域と関わっていく ことが考えられるの nt e rofCommuni t y 点整備事業(通称COC:Ce だろうか。これまで大学と地域の連携という場 事業) Jが挙げられる。 合「産学官連携J という言葉があ ったが、これ 0 1 3 年度よりスタートした事業であり、 これは2 は理系(とりわけ工学系)の大学と地域の企業 そり目的として、「大学等が自治体と連携し 、 や行政との連携が言われる傾向があったと思わ 全学的に地域安志向した教育 ・研 究 ・地域貢献 れる内ぞの点で、地方の大学や女系の学部 ・学 を進める大学等を支援することで、課題解決に 科については、どのようにその専門性や資源を 資する様々な人材や情報 ・技術が集まる、地域 生かす可能性が考えるのだろうか。 コミュニテ fの中核的行在としての大学の機能 ひとつの参考になる事業が、総務省が推し進 0 1 3年 強化を図ること」を掲げている。なお、 2 める 「 域学連携J事業である。総務省において 3 億円、2 0 日年度選定件数は5 2 件で 度予算額は2 は 、 『 地域の再生な くして、日本経済の再生はな あった。 地 いJとの認識から、総務大臣を本部長とする f この事業が実施された背景には、少子高指令化 域の元気創造本部J 安設問したうえで、地域発 ・地域コミュニティの衰退、国際競争の激化な の成長戦略である『地域の元気創造プランj の ど社会を取 り巻 く環境の変化がある。これに対 し、大学には社会の変革を担う人材の育成など 取り組みを推進している。 この取り組みの中に位置づけられている事業 の責務があるとの認識から、 「 社会の期待に応 大学生 が「域学連携j 事業である。 とれは、 f える大学改革j を実施するねら いで事業が推し と大学教員が地域の現場に入り、地域の住民や 進められている。その際、目指すべき新しい入 NPO等とともに、地域の課題解決又は地域づ 学像として 「 学牛がしっか η学び、向らの人牛 くりに綜続的に取り締み、地域の若 者件化及び地 と社会の未来を主体的に切り開く能力を繕う大 域の人材育成に資する活動Jであるとされる。 、あるいは「地域再生の核となる大学Jや 学J 具体的な活動事例としては、「 地域資源発掘、地 社会の知 「生涯学習の拠点となる大学j、また 「 域振興プランづくり、地域マップづくり、地域 を果たす大学J等が掲げら 的基盤としての役割l 、「地域課題解決に向けた実態 の教科書づくり J れているに 調査J 、f 地域ブランドづくり、地域商品開発、 プロモーションJ、「商店街活性化策検討、アン このように地(知)の拠点としての大学を積 -47一 地域経済 第 34号 20 15 . 3 テナショップ開設J.「観光ガイド実践.海外観 の応用となり得る地域を舞台とした実践型教育 環境保全活動、 光客向けガイドブックづくり j、『 の方が、うまく Eいのメリッ卜を合致させるこ まちなかアート実践、子ども地域塾運営、高齢 とができると考えられる。 また、地方の人材不 者健康教室運営」などが挙げられている九 足は、近隣に立地する地方大学にとっても重要 これらの活動事例を見ても分かる通り、この な問題である。ゆえにこうした取り組みは、文 「域学連携」事業の特徴は、①大都市よりも地方 系学科を有する地方の大学とっては、地域とも の地域諜題解決を対象としている点、 @理系よ に発展していくうえでも重要な経営諜題でもあ りも文系学部 ・学科の専門性を活用している点 ると いえ るだろう。 である。とりわけ②の点については、経済学 ・ 経営学部系の分野の領峻が広く対象とされてい 2. 地場実践型教育の課題 るように見える。つまり f 域学連携J 事業は、 一経済学分野の専門性展開の視点から 地方の大学の文系の学部 ・学科の専門性や資源 では、文系、とりわけ経済学系の分野では、 を生かして地域の課題を地域ともに解決しよう 地域と関わっていくことにどのような意義があ としていくものであるといえよう。 るのだろうか。本節では経済学系の分野におけ このような特徴が見られる背景には地域側の る専門件の展開の課題安見ていく 向 図表 4は大学の専門科目の学習がどの程度職 課題があると考えられる。とりわけ 「地域にお ける若い人材j や「地域活性化のための実践j 業生活に寄与しているのかを聞いたアンケート が不足しているという課題がある。 地峻の若い 調査の結果を示したものである。若干古いデー 人材が都市部に流出していくことから、地域内 タではあるが、これを見ると経済学系の専門科 部で地域を担う人材を担保できないという現状 目の学習が『役に立っていないj とする割合が がある。 .5%である。乙れらは経済学分野り 最も商く 60 v こうした地域のニーズに関わっていく場合、 専門件表実社会のなかで役 :てる岡難件安意味 理系の基礎研究の追及よりも、経済学や経営学 するのだろうか。 これだけのデータからは、関 図表 4 専門科目の学習が駿業生活に寄与しているか ・役立っている ・役立っていない (単位:%) 不 明 ・無回答 教育系 ・・E・ ‘ ・ ・ 家政系 且且 E s : 3 ヨa . 農 学系 ・ ・ E ‘ 4 ・ 3.3 工 学系 ’ ‘ 曇 劃 s . o- 理学系 38.1 経済学系 : 11 . 5 、 ,aI5 法 学系 •5.8 且』 人文系 1: 2 E 5 . 7 R唱 :E . 総計 0 . 0 2 0 . 0 4 0 . 0 6 0 . 0 l . 1 1 1 1 且二 8 0 . 0 6.1 1 0 0 . 0 出所: l : I..−$:労働紛究機構 調査附究報告; l } rNo . 64 大卒者の初期キャリア形成 ー『大卒就駁紛究会』 報 告ー』 1 995 年 -4 8一 大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J I ( ) 連性を示唆することはできないが.このことは 1.地場経済の不均等発展の視点から 経済学分野の専門を生かした地域との関わり方 地域の経済としての地域経済は、地域政治経 済という特徴をもっている。すなわち、 『 地域 という問題を提起しているものと思われる。 地域における若い人材J や『地域 すなわち f の人々や地域で活動する経済諸アクターなどの 活性化のための実践j が不足しているという地 各主体が、地域の運命 ・運営についての意思決 域、例えば衰退する商店街の活性化に関わる場 定権を有しているためである。地域の人々は、 合においても、「学生を若い労働力として派遣 地域社会を形成し、地域公共部門に公共信託す することはできる。商店街などに応援に行く。 ることを通じて.主体的に地域を運営し.その そこで若者らしいアイディアを出すとか、祭り 一環として地域の経済を発展させ、管理しよう に参加するなどは、教室では得られない実践を とする。ゆえに、自由な市場経済の原理だけで 学ぶという面で意味があることは否定しない。 は説けず、地域の各主体の意思と行動、地域社 しかし、これが派遣される側に真に役に立って 会 ・地域政治(地方自治)のあり方に規定され いるかどうかは判定が難い。日本の地方都市の る IOJのである。つまり、地域の発展のありょう 商店街の凋落は、学生の頑張りぐらいで何とか が各主体の意思と行動に規定されるならば、そ できる問題ではいような気がする 9」という意 の経済の上部構造の分析は経済学分野が担う重 見につながっている。 要な領域である。 シャッター商店街というような全国の商店街 このような視点から、地域経済における不均 でも共通する現象を、教科書のなかだけで学ぶ 等発展の要因を分析したものとして、島恭彦の だけではなく、体験を通して現場で学ぶことで 『 地域不均等発展論j があ る。島は「現代に於 学生の経済に対する理解が深まるという意義は いては一地域の生産額はその地域の住民の所得 あるだろう。ただし、金銭的 ・貨幣的な経済活 や資本の省棋と比例しない IIjと述べ、資本によ 件化へのインパクトは学牛の力だけでは限界が る支配や、資金や所得分布の地機的不均等、財 あるのではないだろうか。 政の役割を分析した。 全学的に地域連携を推し進める時代に入って 島の議論は次のようなものである。第 1に 、 いるなかで、学生の主体性に期待するだけでは 国民経済の不均等発展は資本主義の法則である 限界があるのはいうまでもない。だからこそ大 であるが、それは経済固有の法則であるという 学が持つ社会的役割としての研究、教育、地域 よりも、上部構造、すなわち国の政策や財政 ・ 貢献を迷関させ発展させていくことが重要であ 金融によって規定されており、これは地方財政 るといえるだろうの の不均等発展という具体的現れ接待っていると いうことである。第 2に、地方財政の不均等は E 経済学分野の専門性展開の可能性 中央政府と地方政府の財政的不均等をもたらし、 この不均等は中央集権を生み出すことになる。 Iで見た地方の人口減少や地域の格差といっ とのように地方財政の不均等は、垂直的および た現象をどのように経済学は捉えることができ 水平的不均等の 2つの意味で捉えられる。第 3 るのだろうか。 これは経済学の専門性を地域連 に、財政問の水平的不均等の激化は、ぞれを調 携との関わりでどのように牛かしていくのかと 整し均等化する制度を生み出す。そのうえでこ いう問題意識に関わって重要な認識をもたらす の均等化制度は財政的中央集権機織による調整 ものであると考えている。そこで本章では地域 作用であると認識されている。第 4に、中央集 経済の視点、から地方大学に求められる社会的役 権的な財政調整制度は、所得や資本の地域的再 割を考えていく 。加えて、教育という大学に求 分配をもたらし、不均等を緩和する側面を持つ められる社会的役割の観点から、地域実践型教 が、他方で地方財政の均等化と画一化で地域経 育の可能性を考察する。 済の不均等発展を促す傾向をもっているという -4 9一 地域経済 第 34号 20 15.3 ことである 九 育成を担う地域の学校や大学の役割も重要とな 本稿では、地域経済の不均等発展そのものや、 財政聞の不均等のありょうを詳細に見てい く余 る 。 裕はないが、ここで重要な点と しては、上部構 済活性化へのインパクトは学生の力だけでは限 造を見る政治経済アプローチから地域の経済構 界がある。しかし、そこには非経済的な要素に 造を変化させていく可能性を持っていることで おいて地域の発展を促す側面を持っていると考 ある. える。その際に、学生教育ももちろんであるが、 極端にいえば.経済構造が地域社会を決定す 前t ; !でも述べたように、金銭的 ・貨幣的な経 生涯学習の拠点、として大学は地域の「ひとづく るのではなく、地域のコミュニティが、そこで りJ ための拠点として重要な役割を持っている のまちづくり ・ひとづくりが、地峻経済の構造 を決定するという立場を取る。すなわち、地域 のではないだろうか。 ただし、地域経済の発展を考えたときに、あ から出発して経済を捉えるのである 13。ゆえに くまでもその主体となるのは企業であり、地方 積極的な政策関与、 とりわけ産業政策のみなら においてはその各主体同士の関係性のありょう ず、コミュニティ政策等を含めた総合的な地域 が地域の発展方向を左右する。ゆえに、非経済 政策の関与が重要になる内ここに経済学分野が 的要素から経済的要素へと結びつけるコーディ 持つ専門領域を発展させていく要素は十分にあ ネ←ターが重要な役割を果たす。暮らしのアメ ると考えられる。 ニティを高める試みは、結果として経済を活性 2.人材育成としての大学の社会的役割 純粋に求められるものであろう。ゆえに、両者の 化させる可能性はあっても、それ自体としては 他方で、教育機関、あるいは教育との関係性 を考える際の重要な概念、と して、人的資本概念 結びつきを意識的につなげるコーディネーショ Lに地方 0)大学が来たす新 シが重要となる。己 こ がある内ぞもぞも人的資本とは、教育や職業訓 たな役割安{す置づけることができると考えられ 練によって個人に蓄積されるスト ック(資本) る 。 であると捉え られている。その際、教育や訓練 これは地域連携、すなわち企業と企業にとど に掛かる教育支出はフロー(資本に対する投資) まらず、企業と 自治体 、 大学、 NPOなどの関係 であり、それによって能力が高まれば、高い賃 性のありように関する視点、である。繰り返しに 金や収益を得ることができる可能性が高まると なるが、地域経済の発展の主体はあくまで企業 されている。より重要な点は、これらは個人の であるが、その関係性のありょうが発展 ω方向 問題だけではなく 、地域の発展にも拡張して考 君付けるのである 叱 性を{すI えることができるのではないかという考え方で このように経済学は資本主義における構造的 ある。すなわち人的資本に対する投資のリター 視点を持ち、単に具体的な現象を見るだけでは ンは、「必ずしも金銭的報酬だけを意味してお なく、現象の背後にある地峻構造 ・社会構造を らず、地域の結束力の向上、まちづくりへの寄 分析するという点で重要な専門性を持っている 与、社会的弱者への支援など、地域発展を促す といえる。加えて、そこに政策論的視点を入れ 成果が得られたのであれば、非金銭的な貢献で たうえで地域と のかかわりを持つこ とができる も 『人的資本への投資に対する I)ターン』りで 分野であり、 T学系の専門分野の応用とは支か あると捉える見方である。 違った政策的な応用が可能な領域であると考え 地域人材、すなわち直接的に地域を担う主体、 ることができる。 地域の人的資本を重視するのである。中小企業 が国際的な競争の中で自主企画 ・自主販売のカ 3. 経験的学習と専門的学習 を持ち続けるには、そこで働く人材が重要であ 地域を担う人材を育成するうえで、地域実践 型教育はどのような積極的な怠義をもつのだろ ることはいうまでもないだろう。ゆえに、人材 - 50一 大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J I ( ) 地域実践型教育についても .身近な体験から うか.木節では.経験的学習と専門的学習の関 出発して自らや地域を変えていくという動態的 係性から考えていきたい。 この点においては、生活言語と学習言語の関 な観点に積極的な意義を見いだすことができる 係が参考になると考えている。そもそも生活言 と考える。学生たちの実践についても完成され 語とは、日常生活で用いられる言葉であり、基 た専門性ではなく、発展途上で変化する、非専 本的に五感で感じるととができるものである。 門的な学生としての特性にこそ積極的な意義が また、学習言語とは、学習や抽象的思考に用い あり得ると考えている。 られる言葉であり。生活言語とは遣い五感で捉 えることが困難なものである。いわば物事の考 N 地域実践型教育への取り組み 一松本大学の事例から え方、すなわち概念である。人聞が言葉を覚え る際に、生活言語がベースとなって学習言語へ の理解が深まっていく関係があると考えられて 本章では、地域実践教育の取り組み事例とし いる。つまり具体的体験から抽象的思考へと向 て、長野県松本市に立地する松本大学 16が主催 かっていく考え方である。こうした点から、生 する f 地域づくりコーディネーター養成講座j 活言語は比較的容易に身につけることがで者る 手中心に考えていきたい拘本講序は地域におい 0 年はかかるといわれ が、学習言語の習得には 1 てコーディネータ←を担う人材育成のための事 ている。 業であり、地域の格差を埋め発展に導くための これらは経・ 験的学習と専門的学習に置き換え ひとづくりの要素を持っている。地方において 、 て考えることができる。すなわち経験的学習と 地域を舞台とした地域実践型の教育を展開して いうのは五感を使って感じる学習である。専門 おり、本稿の問題意識からも参考になると考え 的学習といつのはある学問体系に基づいた物事 ている。 の見方なり抽象的! 思考の枠組み安学ぶ学習であ なお、松本大学は 『日経ゲローカル地域貢献 る。専門的学習の理解を進めるうえで経験的学 0 1 1年度 1 7 位 、 2 01 2 度ランキングJ において、 2 習はその土台となる。事例や自身の体験を思い 年度 6位 、 2 0 1 3 年度 9位であり、地域貢献に積 出すなかでよりよく理解を深めることができる 極的な大学として外部からも高い評価を受けて からである。ただし、専門的学習は経験的学習 いる大学である。 の上位概念ではないと考える。確かに専門的知 見は高度なものであるが、こうした専門性を生 ,.地場づくりコーディネーター養成講座の概要 活や暮らしに応用するためには経験的学脅が重 本節では、松本大学がギ僻する「地域づくり 要になるからである。つまりこの両者の相互作 コーディネーター養成講座J(以下、養成講座) 用が真の意味での学習につながると考えている。 についてその全体概要を報告する。 この点は、地域との関係を考える際!とも同様 0 0 9 年度から開 松本大学による養成講座は、 2 である。すなわち、現実の地域を見る場合、専 訴されている。とれまでに第 3期までの講座が 門的学問体系の分析担角を用いて演緯的な方法 終了しており、 2 0 1 4 年1 1月から 2 0日年秋までの で地域を分析するということと併せて、地域を 期間が第 4期の講座実施期間である。 間発点、として世界手再椛成していくことが必要 本講停の同的は、「地域の人材や資源存コー である。なぜならば、演縛的手法で巨視的に地 ディネー卜する人材を育成するとと Jであると 域を国民経済の一部分として取り扱ってしまう されている。対象は、 『 地域での実践を経験し、 ことは、現実の地域から起生する動態的なメカ 実際にコーデ fネー トに携わる、あるいは携わ ニズムを見落としてしまう可能性があるからで ろうとする社会人および学生」である。とれに ある。地域から出発して経済を捉える視点乙そ より f 地域づくり コーディネーター」の認定審 大学の地域連携にも必要な視点であろう。 査を受け、審査会を通じて認められれば 『 地域 - 51一 地域経済 第 34号 2 015.3 づくりコーディネーターj の認定を得ることが できる。 認定までの講座全体の過程 ・プロセスは次の 次に.②「考える(専門講座) J である。ここ では、ファシリテーシ ョンに関する講義と演習、 マネジメントに関する講義と演習、フ. ロデユー 、 通りである。まず、受講者は 『知る(基礎講座)J スに関する講義と演習などが計画されている。 、「育む(実践講座) J、「高 「考える(専門講座) J 年 12月である。 実施時期は2014 める(プレゼンテーション) J といった養成講 さらに、③「育む(実践講座) Jでは、受講者 座のプログラムを受講する。それぞれのプログ それぞれがテーマを持って企画の実践に取り組 ラムでは‘講師というかたちで.他地域の先進 むことなる。その間で.プログラムづく り(実 事例や先駆者を呼んでの講義が展開されている。 践の企画書作成)のための講座や、ラウンドテー 次に、講座を踏まえたうえで、 自ら のテーマに プル ・中間報告が何回か実施され、実践活動の 基づき現場実践をおこなう。これらをレポー ト 5 振り返りでまとめることになる。時期は、 201 にまとめ、審査会でのプレゼンテーションとグ 年 2月から 7月にかけてである。 ループワークによってコーディネーターとして そして、最後に実施されるのが、④ 「 高める の能力が審査される。そして、これに合格すれ (プレゼンテーション)』である。これは③の実 ばコーディネーターとして認定される、という 践で取り組んだ内符安受講者ぞれぞれがプレゼ 流れである。なお、認定をおとなう審査会は、 ンテーションし尭表し合うものである。時期は 松本大学の教員 3名、外部講師 3名にメンバー 2015年 8月が予定されている。 以上を踏まえて、内容が審査され地域づくり によって構成されている。 過去の認定者は、第 1期が 4名(うち受講者 35 名)、第 2期が 5名(定員 I O 名)、第 3期が 6 コーディネーターとしての認定結果が出るのが、 2015 年1 0月という予定である。 名(定員 lO名)。全体を通じて準認定(学生認定 なお、第 4期は、総務省「地療の担い手創造 者)は 1名(第 2期の学牛)である内このよう 事業』におけるモデル実評事業として、①基ー礎 に受講者に対して、認定者が非常に少ないとい 講座、 ②専門講座を開講している。 また、第 4 う点が特徴である。これは、リーダーでもなく、 期の受講者は20 名(内訳は、社会人 16 名、学生 ファシリテーター(進行役)でもなく、地域づ 4名)である。実際に 20 名以上の応募があった くりのための 「コーデ ィネーターJの養成を重 がレポートおよび企画書で受講者を決定してい 視しているためである。また、申し込みから認 る。受講料は、社会人20,000円、学生は 10,000 定までおよそ 1年間 ω時間を要することになっ 円となっている。 ている内このように本講斥は、長期にわたって 開催される連続講座でもあり、認定までのハー ドルも高く、受講者によるコーーディネートの実 践も含んだ非常にユニークな取り組みである。 3. 養成講座への参与観察 1月22日(土)、 1 1月23日 ここからは、 2014年 1 知る (日)にかけておとなわれた第 4期 の ①『 (基礎講座)」にて筆者が参与観察して把握した 2.第 4期の養成講座を事例として 内容を中心に報告する l 月からスタートした第 4 本節では、 2014年 l I l 月2 2日は、コーディネーターの基礎概要の 期の義成講停の内存者与見てい者たい内講停の全 Jエンテ←シ 弓ンとしての交流会など 講義やオ I 体像は下記の通りである。 が実施された。講義といっても、内容は基本的 まずは、①『 知る(基礎講座) J がある。これ には講義と演習を織り交ぜて進める方式であり、 は、オリエンテーシコンおよびコーテVネーター 指に実践が求められる。さらに、講師から学ぶ の基礎概要の講義、 コーディネーターの現場に だけではなく、交流の中で受講生同士が学び合 赴いてのフィールドワークとい った内容であり、 うことも諦座のねらいであり、ポイントとして 開催時期は2014年 11月である。 いる点である。具体的には、一方通行で講師が -52一 大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J I ( ) 話をするだけではなく .r 気づきj を書き出した 会では .それぞれの自己紹介 と講座受講への想 り、共有するということを重要視しながらプロ い、問題意識を共有した。図表 5はそれぞれの グラムが組まれていた。どのような内容であっ 属性と講座を受けたきっかけや問題意識を表に たとしても必ず振り返りを入れながら展開され まとめたものである。 特徴としては、相対的であるが、①20 代から る点が特徴である。 とれらの特徴は、養成講座の全体として「共 3 0代の若者が多い とと、②行政駿員が多いとと、 感j を重視している点から来ている。すなわち、 @上記 2点に関連して現役で働いている社会人 木講座は「リーダー養成ではなく コーディネー が多いことである。主観的には.r コーディネー ター養成」であるということである。そのため ター として既に現場で活動している」という人 に、コーディネーターという点の役割をはっき ではなく 、「何かをしたいと思っているがその りさせており、そこに f 共感』という要素を重 やり方が分からないJ という人が多 く受講して 視している理由がある。 これは、第 l期講座が いる印象であった。 2日目のフィール ドワークでは、過去の養成 結果的にリーダー養成になってしまったという 講座認定者が、地域づくり コーディ ネーターと 反省を踏まえているという。 なお、講} ¥の進行方法については、時間配分 して、どのよ うな取り組み(コ ーディネー ト ) や内容を、その場その場で柔軟に組みなおして しているのかを視察した。視察先は、①伊那市 いくといったフレキシプルな進行方法が採られ で「若者参加のまちづくり協議会j ・「セジュー ていた。 j旬、それぞれの事務局を担当している戸枝智 了 受講者20 名のうち、初日の交流会の参加者は 氏、②辰野町で地産地消の農家レストラン「乙 1 5 名であった(うち女性 5名、男性 1 0名)。交流 めはなやj を経営する小津尚子 氏、③塩尻市で 図表 5 交流会参加受講者の属性と講座への関わり 性別 年代 1 女性 2 験 : 業 講座を受けたきっかけ ・問題意識 2 0 ザ 守 山 , 生 地域づくり考房ゆめゆ所属 女性 2 0 学 生 地域づくり考房ゆめ所属 3 男性 2 0 主 全 生 地域づくり考房ゆめ所属 4 女性 4 0 中間支援 シニアコーディネーター 5 男性 2 0 行政総員 地域づくり課駿員 6 男性 2 0 行政駿員 地域づくり課駿員 7 女性 3 0 中間支援 地域おこし協力隊 8 女性 2 0 行政綴員 福祉課験員 9 男性 2 0 会社員 販促 ・PR代理業 1 0 男性 3 0 会社員 中小企業診断士として活動 1 1 男性 3 0 会社員 寺子屋(読み聞かせ合宿)を展開 1 2 男性 6 0 主 l ; 耕作放棄地問題に危機感 1 3 男性 4 0 行政E 議員 村役窃職員として、集落ビジョンづくりに関わる 1 4 男性 2 0 行政駿員 地域づくり r i ! 1 ! 駿員 1 5 男性 6 0 有 ミ 協{動局針の策定委員として 家 明 出 所 :参与線擦により筆者作 成 -5 3一 地域経済 第 34号 20 15.3 市民交流センター「えんばーく j 設立に携わっ 地域側の人材育成を担っているという点である。 た、元塩尻市駿員の清水進氏らである。そして、 これにより学生教育との相乗効果も様々なかた フィールドワークの最後には松本大学に集合し、 ちで生まれている。実際に松本大学の学生たち 受講者で気づいたこと、学んだことの共有がお との関連企両が多様なかたちで実現している。 こなわれた。 このように人材やネットワークの蓄積が生まれ ていくととで、機々な学生たちとの連携事業が 写 真 1 K J法などのワークを使いながら 取り組みやすくなる基盤が生まれているといえ る 。 第 3に、講座受講者の僚のつながりが多様な かたちで生まれているという点である。具体的 にはコ ーディネーター認定者が核となる中間支 援団体が生まれているという。これらは自然発 生的に何もないとこ ころから生まれたも のでは なく、講座を企画する際に意図的に仕掛けられ ていたといえるの 第 4に、受講者は実践を通じて、長期にわたっ て講座に参加し、その実践を支援していくかた P r o j e c t ちで講座がデザインされている。 PBL( )やアクティプラ ーニングに近 BasedL e a r n i n g 写 真 2 交流会の様子 い。とりわけ 2月から 7月の半年間もの時間で、 受講者それぞれに実践活動が求められる点で特 徴的である内加えて、前段階の講義と演習の方 式を常に組み合わせて進行される点にもこうし た思想が賞かれている。 このように、地域実践型の教育において地域 仰は学生の人材育成の相乗効果を図りながら展 開されている.すなわち、松本大学の建学の理 念 、 『 教台 ・研究を通じた地域社会への貢献を目 標とするJ という点に基づいて、円指すべき大 も、 写真 :筆者総影(2 0 1 4 年 1I f l ) 学像として、地峻再生の核となり、生涯学習の 拠点となりながら、地域を担う人材としての学 4. 事例から学ぶべき点、 生を育てるといった実践が取り組まれているの 本節では、事例の特徴および地域実践型教育 である. の観点から学ぶべき点をまとめたい。 この養成講座からみる大学の役割として、コー 第 1に、リーダーでもなく、ファシリテーター ディネーターのコーディネー卜といったソフト (進行役)でもなく 、地域づくりのコーディネー の部分持多く拘っているといえる肉地域の人材 ターの養成を重視しているという点である。と を育成しながら、地成の資額をつなげていく役 れは受講者!:対して認定者数が少ないという点 割も、今後の地域連携において地方の大学に期 にも関連している。厳しい審査基準があり、コー 待される役割だろう。 ディネーターとしての役割を担って点に地域で 活動できる人材を認定している。 第 2に、松本入学の地域連携教育における、 - 54一 大学の地域実践型教育に|刻する一考察(小J I ( ) ター養成講座への参与観察に際して大変お世話 おわりに になった。文末ながら深くお礼を申し上げたい 。 教育とは 「 人格の発達J を目的にする人間の 営為であるが、それを捨象して考えた場合、教 育は、 生産性向上のための基礎を作り出 し、個 人の所得を高める投資としての側面を持 ってい 【 脚 注】 る。しかし .教育によ って得た能力を生産過程 l 噌 悶 寛也 『地方約混一』I i 京一傾集中が招く人ロ急減』{中 のなかで発揮しなければ、その効果は発鐸され ない 。 問 01 3 £ f )4 7 4 8 頁 公筋書、2 2 例えば. 小回切徳美 ・坂 本 誠 ・岡悶知弘による. l ¥ ! 1f l ] レポート批判.地域拠点都市治批判がある.岩波3店『世 そのため資本の価値糟殖に資する人材育成と いう観点から、地方の大学においては、実業的 界2 0 1 4.1 0 』 3 都道府県別の昼夜間人口比準の第 1位は点京協 018 . 4)‘ m 2位が大阪府( 1 0 4. 7 )、第 3f 立が愛知県 ( I OI .5 )であ ・実務的な技能を教える教育が必要だと いう論 i iも低い県が り、三大都市圏で高くなっている.対してi 者も いる。磯業的教育と高度な研究的教育をお t 奇玉県(8 8 . 6)であり,次いで千葉県 < s 9 . s > . 奈良県 こなう 2つの大学の二元論的機能分担の考え方 ( 8 9 . 9 )であ り.三大都市圏の高い畏間人口は周辺県から である 叱 の涜入人口によるこ とが分かる. しかし、人間の人格にしても、地域に しても、 二元論的機能分担にして分割できる存在ではな 4 |平成2 2年同勢調査』(5年 前 の常住都道府県による現住 地}より 5 岐r . i i 県『岐 r ; i i 県長. W I 椛惣 希 笠 と 誇 り の 待 て る ふ る さ と い。機能分担論は、あたかも大都市は頭脳であ り、中核都市が胴、民村は末端の手や足と して、 有機体の器官を分業する考えに近い。 大都市は グロ ーパル、重 量村はロー カルと いったかたちに 二元論的な後能分担を し、選択と集中によって ) 岐取県を自衛して ∼人口減少時代への挑戦∼』 (2009年 6 江口 忍 I 止まらない大学の都心 周防J共立総合研究所 「 REPOR ' 1 ' 2 0 1 4 Vol.時 4 J4 54 8 頁 7 文部将学省 「平成2 5 年度『地(知)の拠点綴備 ・ 1 1 1 1 』パ ンフレット J 2頁 8 総務省ウェプサイト『域学連機J のページよ り(2 0日年 2月現住) 成長を支えるという考えは現実性を欠いている。 ( h t t p: // w机1・ 油umu. g o .jp/ma i n _:踊i k i / j i c hi _gy 山 昭i / 本稿では、大学の地域貢献 ・地域連携の視点、 から、人口が減少する地方の大学が目指すべき 「g yousci/i kigakurcnkei.html) ¥ l 濱田康行編著『地域再生と大学』(中央公論社、2007年) 大学像について考察を加えてきたが、こうし た 大学 ω地域実践型教台においても機能分担論は 5 5 頁 1 0 中村剛治郎 『 序 章 現 代. I l !破経 済学の基礎と課 題』中 村 0 0 8 剛治郎編『基本ケースで学ぶ地 域経涜学』(有斐隙. 2 菜当し ない自つまり 、経験的学脅と専門的学宵 は概念としては分けて考えることができるが、 学習という点では両者は不可分である。すなわ ち、地域をフ fールとした実践 ・体験型の学習 と 、 大学で取 り組まれる座学の講義をいかに有 機的に結合させていく のかと いう点が重要であ ろう し、単に資本の価値嶋嫡に資する人材育成 という観点持超えて、地域存担う人材手育成し ていくことが社会的存在として、真に大学に求 められる役割であろう。 年 ) 3買 I I ぬ 恭 彦 『 現 代 地方 財政誼』 e r ぬ 主主彦著作集 ? . i ' l 4 Y . l < 地域論』有斐悶‘ 1 9 8 3 年に採録)2 1頁 1 2 島 恭平『財政学概論』(岩波書店、1964年) 2 8 2 2 8 3 頁 1 3 宮本憲一 ・櫛田 茂 ・中村剛治郎編 r t 芭峻経済学』{有斐 倒. 1 9 9 0年 ) 5 9頁 1 4 諸i i ¥ ' 徹『地峻再生の新戦略』(中央公誼新社、 2 0 1l年 再 版 ) 2 5 5 25 6 頁 1 5 鍵 山 洋 ・佐繁田光 ・菊 本 舞 r : 1 t 陣地峻経済学』{日本 0 0 7 年 ) 2 7 9 2 8 0民 経済評論社 、 2 1 6 怯本大学は 、 長野県松本市に位位する私立大学である. 郊を母体として、2 0 0 2 年に設E をされた. ’F 部は 2 怯 商 学i 学 部4学科 ?あり、総合経営学郷とし 7総合経営学科お 最後に、本稿の作成にあた っては大変多くの 方々にお世話になった。 とりわけ松本大学の福 島明美専任講師には、地域づく りコ←デ ィネ← -55一 よび観光ホ スピタリティ学科をもち‘人間健康学協とし 範学科を備えている. て健康栄養学科およびスポーツ飽b また大学院や短期大学郁もあり、学生数は全体でおよそ I .明均名弱(2 0 1 4年4 担任}である. 地 域 経 済 第 34号 20 15.3 1 7 参与観察にあたっては般本大学の信ぬ明1 '専任講師にお 世話になった. 福島講師はコーディネーターを養成する ためのプログラムをアレンジするコーデ ィネーターの役 割を担っていた. 1 8 f 地域づく り考房ゆめ」とは.学生が大学で学んだ知識や 枝衡を.地峻づくりの中で実践的に生かしていくことを 目指して、 2005!Fに怯本大学の学内に開設された機関で ある.専任の殺駿ぬが地域とネットワークを緩み.さま ざまなプロジェク トを展開している. 1 92 吉本憲一『社会資木論』 {布斐| 剖‘ゆ6 7 年 ) 1 3 9 頁 20 例えば「グローパル』 と 『 ローカル』 という 2つの経済 園を設定し.必要とされる人材似の違いから教育のあ り 方もそれに合わせたものにするべきだという今えである. 冨山和彦 『 なぜローカル経済から日本は詮るのか』(株式 会社PHP研 究 所、 2014年} - 56一
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