法と教育学会 第 6 回学術大会 第 9 分科会-② ロールプレイングを取り入れた民事法教育 ―非法学部における民事手続法教育の一形態― 長屋幸世(北星学園大学) 1. 問題の所在 司法制度改革の一環として 2004 年に法科大学院が創設されたことにより、 法曹輩出の窓口は、 それまでの大学学部教育から法科大学院教育へとシフトした。それに伴い、大学(特に法学部) における法学教育の役割やその辿るべき方向性が議論されており、殊に、民事訴訟法をはじめと する民事手続法は、比較的法律実務との関連が深い科目であることから、大学でのその教育のあ り方について再考するべき側面が存する。この点、法学部以外の学部で法律学教育を展開する学 科・コース等においては、その要請は一層強いものであると言わざるを得ない。 本報告では、法曹等の法律専門職あるいは公務員や企業の法務部等、日常的に法的知識を用い る準法律専門職とでも呼ぶべき職業に従事しない一般企業人になる可能性が高い、非法学部に籍 を置く大学生を対象とした民事法教育の一環として実施している、ロールプレイングを取り入れ た民事手続法教育の展開について紹介し、法律の学習段階毎における手続法への意識的相違等を 分析すると共に、ヨリ有用な民事手続法教育の方向性を検討する。 2. ロールプレイング実施の態様 ロールプレイングの実施においては、契約交渉と紛争処理交渉という二方向からのアプローチ を採用した。以下に、その概要を記す。 ① 初学者教育としての展開 大学 1 年次前期に実施する演習形式での授業において、民事の場面における手続の重要性を理 解させることを目的として、動産・不動産の売買契約交渉を題材としたロールプレイングを行う。 交渉にあたっては、学生を売主と買主のグループに分け、売主のセールス過程から開始し、売主・ 買主双方が納得のゆく条件で契約を締結することを目指す。その中で、手続的正義のあり方やそ の重要性、実体法と手続法の差異を体験的に学習させると共に、手続法学習の素地を涵養する。 ② 専門教育としての展開 大学 3 年次後期の授業及び 4 年次の演習授業において、主に民事紛争解決交渉を中心としたロ ールプレイングを行う。ここでは、合理的解決基準に基づく紛争解決の結果と交渉者のニーズと の関係、問題解決の過程と交渉者の主観的満足の関係、交渉態度が交渉そのものへ及ぼす影響等 を体験的に理解させると共に、要件事実と主要事実の関係、証明責任のあり方等、民事訴訟法上 のトピックを意識した交渉を展開させる。特に 4 年次演習では、民事訴訟法が既習であることを 前提として、ヨリ手続的側面を強調するために、調停あるいは裁判形式での紛争解決に挑ませる。 3. 分析の視点 民事手続法の(1)問題解決促進のツールとしての役割、(2)コミュニケートモデルとしての役割と いう二つの視点から、ロールプレイ教育がどのように機能しているか、法律(特に民事法)未修 者と既修者間での手続法への意識がもたらす相違を交えながら検討する。
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